心が読めるスキルを持って貞操逆転世界に転生したので、エッチな妄想が可愛い聖女様を徹底的に堕として曇らせようと思う   作:ひきさん

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第5話 聖女様、神に至る

 聖女様のご自宅は、貴族の屋敷のような広さと大きさを持ちつつも、どこか質素さと神聖さを併せ持つような雰囲気を持った、シンプルに無駄を廃したお屋敷というものの原型のような屋敷だった。

 

「ここが聖女様のお屋敷なんですね。とても素敵なお家ですね」

 

 ぼくは、意識を取り戻して今は正気を保ったような風を装いながら庭を歩いている聖女様の横に寄り添いながら、ちょっと戯れにスキンシップでもとっておくか、という軽い気持ちで聖女様の左手に両手を添える。

 

(うにゃにゃにゃにゃにゃーーーーーーっ!? な、なんで……!? 必死に平気なフリしてるのに……! わたし、頑張ってるのに! なんでわたしの努力を嘲笑うように当たり前のように手を繋いでくるのぉおおおおおおおおおおおお! おかしい! 美少年という生き物は根本的に女が理解できない思考をしている! わたしみたいな処女じゃ一生かかっても理解できない神秘にして至高、それが美少年だったんだぁあああああああああっっ! わたしは、齢16歳にして真理に到達してしまった……命と引き換えに……)

 

 たかが左手を掴まれただけで真理に到達してしまう聖女様に思わず笑みが漏れてしまうのを抑えられなかった。

 

「くすっ」

 

 ただ、くすりと、微笑んだだけ。

 

 だがそれを見た聖女様のパニクりようは、到底ぼくのちょっとした仕草と釣り合うものではなかった――

 

(わ、笑った……! 微笑んでくれている……! 美少年が! わたしと手を繋ぎながら! 微笑んでくれている……! なんだ……? これはいったいだれが仕掛けた罠なんだ? こんな素敵過ぎる現実がわたしなんかに訪れるはずがない! 訪れて良いはずがない! 落ち着け! 順番に可能性を潰していこう。これが高度な国家的戦略に基づく罠である可能性! いや、この少年はたまたまわたしが街で見つけて、たまたまパンを与えただけの少年……! さすがにいくら敵国といえども、ここに罠を貼ることはあまりにも困難! ゆえに現実的な可能性は2つに絞られる! もっとも可能性が高いのは、この少年が、実は天使さまの化身であり、ずっとずっと苦しんできたわたしに天が遣わした、まごうことなき祝福と慰撫である可能性! やはりもう一つの可能性の非現実性を考えると、この可能性が最も高くはある。だが、わたしは、それでも夢見てしまう……この少年が、全処女が夢見る、まさにこの世の理想郷、神が与えうる最高にして至高の幸福である、好意を私に対して抱いているというシチューエーションをもたらしている可能性! 甘い! その誘惑はあまりにも甘い! 到底わたしごときでは抵抗できない誘惑! まるで大悪魔の如き誘惑の渦に、わたしはもはや、飲み込まれることしかできない……! うう……そんなわけないとわかっているのに……! 信じてしまうことを、やめられないっっ……!!)

 

 ぶほぉ、と吹き出しそうになるのをすんでのところで抑え、慌てて口元に左手を当ててニヤニヤ笑いを隠す。

 

 果たして、異性に手を繋がれただけで、ここまでの深遠にして馬鹿馬鹿しい思考の渦を長々と繰り広げる生き物が、聖女を名乗っていて本当にいいのだろうか?

 

 ぼくもまたその哲学的問いに気を取られて、深い思考のモードに至ってしまう。

 

 このモモという名らしい少女がいう処女という存在は、ここがいわゆる貞操逆転世界というやつであることを考えると、変換して考えれば前世でいう童貞にあたる、この世でもっとも哀れな存在であることに間違いはないだろう。

 

 前世、ぼくはたしかにこの童貞という生き物のまま一生を終えた。みじめで、哀れで、悲惨な生涯であった。ぼくが最後に覚えている異性との思い出は、消しゴムを拾ってくれた女子と手が触れ合った時に勃起してしまったのを見られ、ゴミムシを見るような目で「き、きもっ……!」と呟かれたことだ。あまりにも惨め。救いようがないのは、ぼくがそのシチュエーションにすら興奮を覚える度し難い変態であったことだ。まさしくキモさの権化。キモいにも限度というものがある。童貞とはかくも耐え難いキモさを発揮できるものなのか。いったいどうなっているんだこの世界は。だれもがかかる死病、厨二病を発症した頃に通らせていただいたニーチェも言っているように、すでに神は死んだのか――

 

 しかし、この少女の特異性、類稀なる才能の前では、そんなぼくの耐え難いほどの童貞性ですら、表面をなぞっているだけの浅い言葉遊び、本物のリアルの前ではただ消え去ることしかできないフェイクでしかない。

 

 この少女は――本物だ。

 

 本物の、まごうことなき、純粋なる童貞性の化身――

 

 童貞神、モモさま――!

 

 ぼくは、自分を圧倒する、あまりにも至高の上位童貞に、ただ恐れおののき、ひれ伏すことしかできないという結論に至った。

 

 この少女の前では、すべてが霞む。

 

 ぼくはこの少女のおかげで、この世でもっとも貴重な、あまりにも高すぎる価値を持つがゆえに誰にも理解できない、ある救いを得た。

 

「聖女様を見ていると、神って、いるんだなって思いました」

 

 ぼくのその言葉は、もはや無意識レベルで刻まれた彼女への崇敬の念が、自然と口を動かし発させていた。

 

 そこにぼくの意思は介在しない。

 

 ただ童貞神の御心のままに――

 

(まさかこのぼくが、あそこまでの領域に行き着いたぼくですら――彼女の前では"マシな方(ベイビー)"だったなんて……)

 

 そんなぼくの言葉を受けた聖女様は、それがこの世の理であるかのような自然さで、その神の恩寵(童貞力)をいかんなく発揮した。

 

(や、ヤれる……! こ、この美少年は、ヤれる……! ヤれてしまう……! このわたしがついに処女を卒業する日がきてしまううううううううう! 神は、いたっ――)

 

 想像を遥か上回る(下回る)頂点、童貞という生き物が行き着くシンプルにして唯一のレーゾンテートル(答え)にたどり着いたモモという少女に、ぼくは敬意を表して、こう思った。

 

(き、きもっ……!)

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