幽霊屋敷か……ルッツとライラをチラッと見たが、どっちも幽霊は問題なさそうだ。なら、問題はないな。
「失礼、この屋敷に魔女と呼ばれる方が居ると聞いて、訪ねて来たのだが。魔女殿はいらっしゃるかな?」
「――…」
「……隊長。おそらく、話すことは出来ないようです」
みたいだな。どうする?と、思っていると、幽霊がこちらにお辞儀をしてから中へ入っていく。ついてこいってのか?ルッツに視線を向けばこちらに頷いてくれた。よし、行くか。
「…ほう、これは。なかなか趣がある屋敷だな…いいね」
「ん?そうなの?わたし、よく分からない」
まあ、ライラは……まあ。幽霊の後ろをついて歩きながら内装を見る。廊下には蝋燭の灯りが続いているが、それでも少し薄暗い。その中で見える、古びたような壁や天井の飾りなどは、その灯りと合わさり、どこか美しくも見えた。うん、悪くない。
そうやって屋敷の内装を眺めながら幽霊の……メイドか?その後をついていってしばらくすると、メイドは大きな扉が付いた部屋の前で止まり、こちらに振り向く。
「――…」
「…この部屋に、入れば良いのか?」
「―…」
「……なるほど、分かった。案内、感謝する。ご苦労」
「――…」
ふー……何言ってるんだこいつら???全っ然、理解できない。入っていいんだよな?入ったら怒られたりしないよな??……取り敢えず、入ってみるか…ノックするべき?あ、大丈夫?分かった……あれ、今話し通じた?
メイドに急かされるまま、扉を開いて部屋の中に入る。そしてそこには、1人の女性が部屋の奥の椅子に座ってこちらを見ていた。彼女が魔女なのだろうか…だが、それにしては、あまりにその姿は若く、そして美しかった。黒曜石の長い髪と黒真珠のような瞳。魔女と呼ばれ、街の人に怯えられる存在にはとても見えない。
……いや、違うな。ただ美しいだけじゃない。なんだこれは?あの女性からは柔らかくも、しかしながら重い、言葉では説明できない威圧感が感じられる。まるで、お仕事モードの父上を見るようで、妙に懐かしい。ほんとに、この様な島の山の奥に住むような存在なのか?どちらかと言うと城で人々を纏める、そう、これは
部屋の入り口付近で止まっている私を、女性は笑みを浮かべながら見ている。……いかんな、戸惑っている場合じゃない。止まっていた足を動かし、そのまま部屋の中へ入る。まずは、自己紹介だが……頼む者として、嘘偽りはあってはならんな。
「突然の訪問、申し訳ない。貴方が魔女殿かな?私の名はエルツギーサー・J・ユリウス。ジェイドリア王国の王族だった者だが、今はただの海賊に過ぎない。魔女殿の噂を聞き、その知恵をお借りしたく、ここへまいった次第。どうか、貴方の知恵を私に授けていただけるだろうか」
「っ…」
「……」
後ろからライラが一瞬、動揺したようだがすぐに気にしない素振りを見せる。助かるよ。ルッツはただ静かに私の後ろに立っているだけだ。王宮時代から何も変わらないな、こいつは。
「ほう、王族が海賊じゃと?なかなか、意味の分からないことをしておるのう。よいぞ、妾の話し相手くらいならさせてやろう。妾の名はイレーナ。ヴァンス・イレーナじゃ。以後、よしなに頼むぞ」
「許し、感謝する。魔女殿。いや、イレーナ殿と呼んでも?」
「構わん、好きに呼ぶのじゃな。それより、ここに座るが良い。立って話すわけにはいかんじゃろ」
イレーナ殿の許しを得て、彼女が座ってる椅子の近くのソファーに腰をかける。ルッツは座らず、後ろに控えている。ライラは何の迷いもなく私の隣に座った。君、凄いよ。ちなみに、刀はソファーと体の間に置いてる。私の背中にも触れているな。イレーナ殿を見るが、面白そうに笑うだけで特に何も言わない。どうやら、礼儀に厳しい方ではないようだ。
「それで、おぬし。ユリウスと言ったか。なにゆえ、海賊などに身を落としておる。高貴な身分でありながらそれを捨てるとは、気が狂ったとしか思わんぞ?」
「ああ、本来ならば、確かに貴方のおっしゃる通りだ。だが、これ以外の方法が思いつかなかった」
「して、おぬしが海賊になった理由はなんじゃ?」
「単純だ。気に食わないから、それだけだ」
「……ほう」
そうだ。気に食わない。昔から、そう思い続けていた。
「我が国の象徴たる翡翠。それを、ただ上でアホ面かいてる豚どもに吸い取られるこの状況が、あまりにも気に食わない」
なぜ、それを見ているだけで、抗うことが許されない。
「分かっている。奴らは巨大だ。そして、長い。抗ったところで捻り潰されるだけで、勝ったところで意味はない。あのようなものが突然消えたら、他だけじゃない。我が国もまた混乱に陥るだろう」
世界政府とは即ち、世界そのもの。世界に生きるものが世界と戦ったところで、何の意味もない。その果ては自滅か、あるいは世界ごと滅びるだけだろう。
「だが、それはただの理屈だ。感情ではない。私のこの不満はその様な理屈で抑えることは出来ない」
だからこそ、海賊だ。世界との戦争ではなく、世界に対する略奪。戦うのではない、奪うのだ。
「王国の誇りを、民の誇りを、そして何より、私の誇りを!」
奪い返す、世界から!例え、二度と愛する国に戻ることが叶わなくても、私は取り戻したい!
「ほう…国よりも、民よりも、自分の誇りが先か?」
「『我を思う心。それ即ち国を思う心。』王室に伝わる言葉だ。真に国を思う者は、たとえ己の心だけで動いても、それは結果として国のためになる。という意味だよ」
「ふふふ、なるほど。確かに、その通りじゃな。今、妾の眼の前にいるおぬしからは、国を思う気持ち以外、何も見えんのう」
だろーう?それには、自信がある。っと、いかん。素が出るとこだった。
「それで、おぬし。妾の知恵が欲しいと言ったな。言うてみよ、少し興味が湧いた」
「私が欲しいのは、グランドラインに対する情報。聞くに、イレーナ殿はグランドラインにも詳しいとか」
「ほう…グランドラインか、久しいな。確かに、妾は昔、グランドラインを見て回ったことがある」
「っ、それは真か!」
「ああ、真とも。ふむ、そうじゃのう。そちに興味が湧いた。妾の知恵、そちに授けよう。とくと聞くがいい、グランドラインとはどういう場所なのかを」
「忝ない、感謝する。イレーナ殿」
それから始まるイレーナ殿の話はとても信じられない話の連続だった。冬だけの島、春だけの島、毎日が雷な島、はてには空にある島。今までの常識では考えられない話だった。そもそも、グランドラインでは天気が非常に不安定で、昼に太陽が眩しいほど晴れていても、夕方にはそれが嘘のように嵐が吹き出す異常な海域。それがグランドラインだという。そして、何より…。
「羅針盤が効かないとは……致命的すぎるな」
情報屋共、こんな基本的な情報を隠していたのか。どうせ、私達が何も知らずグランドライン行って困っている時、さっと現れて情報を売りつけるつもりだったんだろう。合理的だぜ、クソ!
「お話感謝する、イレーナ殿。とても、ためになった」
「なに。これしき、妾の知識のほんの一部にすぎぬ。礼などいらぬ」
凄いな、この方は。これほどの知識を持ちながら、それをひけらかすことなく、こう言えるとは。改めて思う、この方に会いに来て良かったって。だが、それと同じく、惜しい。この様な山の奥に引きこもっているなど、あまりにも勿体ない。昔はグランドラインを旅していたようだが、なぜ今は、この様な場所にいるのだろう。グランドラインに心が折れて引きこもった、ようにはとても見えない。……どうする?少し話しただけでも分かる。この方の知識はこの先、必ず役に立つ。
「イレーナ殿、これはただの提案だが。私とともに来てはくれないだろうか?私には貴方が必要だ。どうか、願う」
悩むより先に、言葉が出た。おそらく、いや、確実に断られるだろう願いがつい、口から出てしまった。ダメだな。既にこれほど貰ったのに……と思っていたが。
「良かろう。そちの往く先、妾が共に往こう。その生き様、妾にとくと魅せるのじゃな」
「――な、良いのか!?なぜ、どうして!?」
「なんじゃ、そちが頼もうたくせに何をそう驚く?それに、妾は最初に言ったはずじゃ。妾の知恵、そちに授けよう。と」
「いや、確かに言ったが…良いのか?ここに居たのは、何か理由があったのでは?」
「ないのう。ただ、旅に飽きて少し休んでいただけじゃ」
休んでいただけって……。本当にそれだけか?そもそも、それは私と共に行く理由にはならないんじゃ……いや、気にすることじゃないな。この方がどういうつもりで私と来るのかは、今は重要じゃない。今重要なのはこの方がこれから先、必ず私の助けになるということ。それだけでいい。他は今考える必要はない。
「歓迎するよ。イレーナ殿」
「イレーナでよい。そちは王族ではなくても船長じゃろ?なら、下の者に過度な礼儀は必要あるまいに」
「しかし…いや、そうだな。では、改めて。歓迎するよ、イレーナ。これからよろしく頼むよ」
「うむ。妾こそ、よろしく頼むぞ。そちには期待しておるのじゃ、ユリウス」
おおー、名前で呼ばれるのチョー久しぶり。ルッツはルッツだし、ライラはなぜか名字縛りだし。良いね、名前呼び。お互い改めての挨拶を済ました後、イレーナは荷物を纏めると部屋から出ていった。
「ん?終わった?お話」
「ああ、終わったよ、ライラ。ちゃんと、お話聞いてたー?」
「うーん、なんとなく?エルツが頑張ってるのは伝わったよ?偉いね、よしよし」
はは、何だそりゃおっかしー。
「隊長、よろしかったのですか?正体の解らない者を…」
「良いんだよ。もう、イレーナは大事な仲間だ。無闇な詮索や、要らぬ疑いはよせ」
「…はい、隊長。分かりました、余計なことはしません」
その後しばらくして、荷物をまとめたイレーナが部屋に戻って来たんだが……
「おー、たくさんいるねー」
「…彼らも一緒に来るのか?」
「当然じゃろう。こやつらは妾の下僕。妾が行くなら、こやつらもまた行く。当たり前じゃろうて」
「――…」
「…そうだな。いや、その通りだ。歓迎するよ、あー…幽霊諸君」
「―…」
なんか、イレーナだけじゃなく幽霊たちも一緒に来るらしい。部下達は…まあ、慣れるだろう。
「それでは、船へ案内しよう。ついてきてくれ」
「うむ。そちの船、噂ではなかなかに素晴らしいことじゃったな。期待しておるぞ」
「お?いいよ、期待しても。それ以上の素晴らしさを見せてあげよう。ルッツ、先に戻り部下達に伝えておいてくれ。説明無しだと、流石に混乱する」
「はっ承知しました」
そうして、予想外の収穫を手にして今回の旅は終わった。あとは、本格的にグランドラインへ向かう準備をするだけ。そして、そこで待ち受けるであろう海軍との戦いを覚悟しながら、船へ帰るのだが……これは…。
「うああああ!助けて!幽霊が!!!」
「いやあああああ!来ないで!」
「ああああ!怖い!やめて!あああ!!!」
おおう、凄まじいな。色々と……何なんだ、これは?
「イレーナ、これは一体?」
「なぁに、少しの遊びじゃ。昔からあやつらは妾の屋敷を肝試しの場所か何かだと思ってるようでのう。ちと、驚かせてやったのじゃが…情けないのう。皆、腰を抜かして怯えるばかりじゃ。つまらん」
つまらんって…なるほど、つまりこの人達は肝試しの場所としてイレーナの屋敷を選んで、イレーナはそれに乗って驚かしていたと。そして、あまりの怖さにビビり散らかしていると。なっさけなっ!
ふう、しょうもない理由だったな。この情けない者達はほっといて船に向かおう。ライラ、彼らは無視していいよ。あまり突かないでやってやれ。可哀想過ぎる。
「さあ!ここが私達の船――」
「うわああっ幽霊だ!怖い!ああああ!」
「やばっ、に、逃げろ!おおおお!」
お前らもかよ……なっっさけなっ!コイツラぁ…仮にも王国から選び抜かれた者達が、なっっっさけなっ!はあ、慣れるまで時間かかりそうだな……はあ、お願いだからグランドラインに入るまでには慣れてくれよ…
何はともあれ、こうして始まった魔女探しの旅は終わり、次の旅が始まる。さあ、往こう。グランドラインへ!
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魔女の屋敷。今はもう主の去った屋敷は、静けさに飲まれ、暗闇に染まっていた。
先程までユリウスがイレーナと話していた部屋の奥に置いてある、小さな本棚。そこから古い紙切れが落ちてくる。その古く色褪せている紙には、とある人物の写真と文字が書かれていた。
その内容は――
『嘆きの魔女』イレーナ 懸賞金60,000,000
このことを彼らが知るまでは、まだ時間が必要だった。
後書き。イレーナの軽い設定。
ヴァンス・イレーナ(Vance Irena )
異名:『嘆きの魔女』イレーナ
役職:相談役
年齢:謎
体格:167cm・51kg
外見:黒曜石の髪・黒真珠の眼・白肌
イメージカラー:オニクス・ディープティール
出身海:不明
三人目の仲間
顔
髪はロング。ハーフアップの縦ロールで、ディープティールのリボンを使用。前髪はポンパドール。リップは真紅。
服装
ディープティールのヴィクトリアンドレス。黒いレースアップショートブーツに、黒いシアータイツ。
愛用する西洋扇子はオニクス色を基調とし、金の装飾が施されている。
※ワンピースに西洋扇子あるの?描写困るよねぇ