「アルス・ユリアナ――
移動しながら集めた風を使い最大威力の過舞立を放つ。普段の数倍の大きさの過舞立は一瞬で敵艦隊の中央の船を破壊する。その衝撃波で乗っていた海軍が周りに吹き飛び、海面に激しい波を起こすほどだ。
「ルッツ、作戦は分かるな。君は右翼の艦隊を頼む」
「はい、おまかせを。ライラ嬢、行きますよ」
「うん。じゃあ、また後でね」
右翼艦隊に向かうルッツの背中の上で、ライラがこちらに手を振ってくれた。緊張という単語は存在しないようだ。頼もしい。
「じゃあ、私も行くとするか!」
私は左翼だな。ライラに手を振ってあげた後、左翼艦隊に向けて移動する。どの船に手強い敵がいるのかな?確かめてみるか。
――
彼遂。周囲一帯の空気の動きから相手の動きを感知する技だ。本来なら範囲はそう広くないが、ここは周りが開けた海のど真ん中。こういう場所だと自然に動きが伝わってくるから、より広範囲を感知できる。
「ふむ、端の船に強そうなのがいるな。あと、右翼艦隊にもいる。ライラ、はしゃいでいるな」
周囲の空気の動きを読むと、明らかに強そうなのが2人いる。1人は左翼の端の船。砲弾と思われる物を女王号に向けて投げている。投げられる砲弾もかなり速い。危険だな。もう1人は右翼の底寄りの船。おそらく能力と思うが、そいつの周りで砲弾らしき物が勝手に浮いて飛ばされている。どういう能力かは判断できないな。同じく厄介な相手だ。
でも、ライラなら大丈夫だろう。一度だけだが、戦ってみて感じた強さ。短い間だが、一緒に過ごして感じた強さ。そのどちらもライラを信じて任せても大丈夫だと感じさせる。それにルッツもいるしね。いざとなれば船を燃やして逃げれるはずだ。
「なら、私は私の仕事をするだけ」
ちょうど、左翼艦隊の一番近い船に着いたな。見ると海兵がこちらに銃口を向けている。ふむ、飛べるやつはいないようだな。なら、遠慮なく。
「アルス・ユリアナ――
ヴィリディスの先に風を集め、刃に変えて圧縮する。そこそこ大きな風の球体が作られ、それを船に向けて放つ。狙いはあの砲弾が集められている場所。
放たれた風の球体は狙った場所の近くまで飛んでいき、命中すると同時に圧縮された風の刃が周囲に飛び散る。砲弾が爆ぜる音、船が斬られる音、そして海軍が倒れる音。周囲に流れる騒音を聞き流しながら、今度は帆に向けて刃矢天を放つ。小さく素早い風の刃をいくつか飛ばし、船の帆をズタズタにした。これでもう動けないだろう。次の船だな。
数名の海軍が私に向けて銃を撃ってきたが、これくらいだと他津間帰を使う必要すらない。適当に風を吹かせて軌道を逸らすだけで充分だ。流石にただの銃でやられたりはしないよ。
さっさと移動して左翼中央の船に近づいた瞬間、さっきまで集めておいた風を再び放つ。
「
再び飛ばされた過舞立は船のメインマストを斬り飛ばしながら、船に大きな傷を作る。こっちも完了だな。うーん、地味だな。見える光景は派手だけど、やってるのはただの作業だしな。さ、最後の船。厄介な相手がいるな。
「む?」
最後の船に向けて移動している時だった。突然、右翼艦隊にデッカイ斬撃が走っているのが見えた。
「…ライラか?あの時の斬撃の何倍だ?あれ」
全力ではなかったのは分かっていたが、これ程とは。
「っと、今度は何だ?」
右翼艦隊を見ながら少し考えていたら、私に向けて斬撃が飛んできた。誰だ?飛んできた方向は…左翼端の船。なるほど、待てが出来ないようだな。
「よおぉ!来いよ、海賊!オレがマトメてブッ潰してやらぁ!!!」
私、1人なんだけど…。
「なるほど、さては脳筋だな」
あと、バカだな。…だが、脳筋は伊達ではないらしく、私に向けて飛ばし続ける斬撃はどれもが凄まじい威力だ。でも、足で斬撃?どうやって?足に刀でも刺したのか?暇なヤツだな。
「オラァ、どうした海賊!!来いよ!ビビってんのか!!!あ゛あ゛!?」
おお、ガン飛ばしがプロのそれだな。さては元海賊だな。
「どうした!!!来てみろよ!!海賊!!!」
彼奴、ずっと叫んでいるな。喉大丈夫か?だが…ふむ、吠えるだけか……なら、少し試してみるか。
「ほら、
雑に振るった剣から無数の風の刃が放たれ、元海賊の海軍に向かって飛んでいく。
「はっ!効くかよ、そんな攻撃!!!」
「え?」
刃矢天に対する元海賊の対応はなんと、変身だった。能力者かよ!元海賊はどんどん体から毛が生え、元からキツかった筋肉がさらにキツくなっていく。変身を終えた元海賊は刃矢天をそのまま体で受け止めるが、刃矢天は元海賊に何の傷を与えることが出来ない。頑丈だな。そして、変身したその姿は…犬?
「はっ、痒くもねぇ!そんなヤワな攻撃でオレに通じるものかよ!!!!」
「なかなか頑丈な体だね。どんな動物だい?」
まあ、聞いて教えてくれるバカがいるわけないか。
「いいぜ!聞いて驚け、オレの能力はイヌイヌの実の古代種、ダイアウルフ!!」
教えてくれるのかよ。そうか、こいつバカだった。自分の能力を相手に教えるなんて、バカ以外ありえない。
「テメェ如きの攻撃じゃ、オレに傷一つ出来やしねぇ!!」
そう叫んだ元海賊は一瞬でメインマストの上まで登り、私に向かって飛びつく。うわっ、油断した。動き速すぎだろ!
「行くゼ!!
「くっ、当たるかよ!!
こちらに向けて飛びかかる元海賊から離れながら、今度は刃矢天を近距離から放つ。
「きかねぇ!!ダイアウルフの毛皮はダイアの如き強度!!だから、ダイアウルフなんだよ!!!」
な、なんだと!?そうだったのかっ!なんてことだ。いくらなんでもダイアを斬ることは出来ない。くっ、どうすれば良いのだ…!
「要するに君と戦わなきゃ良いってことだね」
「あ゛あ゛あ゛!?」
「ほらよ、アルス・ユリアナ――
「はっ!どこを狙って…!しまっ!」
今更気づいたって無駄だよ。先程まで集めていた風を使い、再び最大威力の過舞立を放つ。元海賊に向けてではなく、元海賊が先程までいた船に向けて。
「テメェ…!」
「悪いね。君と戦う理由は私にはないんだ」
船に向けて放たれた巨大な風の斬撃はそのまま船を真っ二つに破壊し、海面に激しい波を起こしながら消えていく。じゃあな、元海賊。君が飛べないのは既に把握済みさ。海で毛皮の洗いでもすることだね。
「てめぇ、待ちやがれ!!!」
「待たない。君だって待たずに攻撃してきただろ?お相子さ」
君、強いからね。悪いけど勝ち目が見えない戦いをする趣味はないんだ。恨むなら君の強さを恨むことだね。私に飛びつくため高い位置までジャンプしていた元海賊が、海面に向かって落ちてゆく。
「グル゛ル゛、カイゾク!!!!!!!あばばばばばば」
巨大な犬が海に溺れる姿は少し同情を誘うが、済まないね。私はどちらかと猫派なんだ。
後ろで溺れながら叫ぶ元海賊を放置して船に帰還する。
ルッツとライラはどうだったかな?
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「では、ライラ嬢。私達も向かいましょう」
「うん、おねがい」
敵艦隊中央でユリウスと分かれたルッツはライラを背中に乗せて右翼艦隊に向かう。その姿はとても巨大で、普通の烏ではないのが一目で分かる。全高は約3メートル、翼を広げた幅は約8メートル。そしてなにより、本来の2つの足とは別にもう1つ生えている足。三本足の烏。八咫烏にほかならなかった。
「うーん、大きいね―」
「ええ、まあ。昔はここまで大きくなかったと思いますが、いつの間にか大きくなっていて」
「昔から?でも、なれないって言ってなかった?」
「それは……いずれ、機会があればお話しましょう。それより、今は戦いに――」
「っ!ギール避けて!攻撃が来る!」
「――っ!はい!」
右翼艦隊に向けて飛行中のルッツ目掛けて、突然下からすごい速度で砲弾が飛んでくる。ルッツはそれを、ライラの警告のおかげでなんとか回避することに成功する。
「敵は…どうやらあの船からのようですね」
「うん、そうみたい。わたしが行く」
「任せてもよろし――」
「じゃ、あと任せるね」
「――って、ライラ嬢!?」
ライラを下ろすために高度を下げようとしたルッツだが、ライラは待たずそのまま飛び降りる。待てが出来ないようだ。
「……行ってしまいましたか。仕方ありません。ここはライラ嬢にまかせて私は他の船を無力化させるのを優先するべきですね」
そう判断したルッツはライラを放置して、そのまま右翼端の船に向かって飛ぶ。途中、右翼中奥の船から強烈な視線が彼に刺さったが、彼は気づかず進む。どうやら、初めて獣型で戦うので緊張してるようだ。
そのまま端の船に到着したルッツは船を無力化させるために八咫烏としての技を使おうとする。
「えっと、何が良いんでしょう。困りましたね…取り敢えず火を…おおわ、強すぎました!くっ、危うく羽に火が付くところでした」
ちなみにだがこの男、能力者になったのは20年前だったりする。20年間、お前は一体何をしていたんだ!という強い言葉は控えて下さい。彼が傷つきます。きっと、色々あったのでしょう。
「…よし、大体これくらいでしょう」
なんとか船のあちこちに火を付け、無力化させることに成功する烏。体当たりで帆を破るだけで充分とかは言ってはいけない。あと、せっかく装備着けたくせに、使わないのはなんだ?
「では、続けてあの船にも行きましょう」
右翼端の船を無力化したルッツは中央の船に移動する。しかしこいつ、めっちゃ独り言言うな……。寂しいのか?まるで、一人暮らしの独身男性のようだ。
「取り敢えず、この船も火を使い無力化を…って、な、なんですかあれは!?」
船を燃やそうと企んでいた巨大烏が突然取り乱した。その視線の先にはこちらに向かって飛んでくる巨大な斬撃。その射線には間違いなくルッツも含まれていた。
「くっ、と、取り敢えず回避を!!」
力いっぱいに羽ばたいてなんとか斬撃の射線から逃れるのに成功するルッツ。斬撃はルッツが先程までいた場所を通っていった。
「い、一体何が……」
ルッツが斬撃の飛んできた方向を見ると、そこには……
「これは……」
右翼艦隊の残り2隻が、真っ二つに斬られている姿があった。
ルッツ、真面目だから一人称視点も真面目になるよね。
なのでやめました。地味な作業を真面目な視点でやるのは……。
ユリウスの技とヒューズの基本プロフィール。
防御技。ユリウスの周囲に風で出来ている膜を作り敵の遠距離攻撃を防ぐ技。
膜は強い回旋をする風により形成出来ていて敵の攻撃を弾いて防ぐ。
膜の回旋の速さは能力の熟練度による。回旋が強くなるほどさらに強い攻撃を弾くことが可能。
ただし展開に少し時間が必要なので近接戦では展開出来ない
補助技。相手の動きで起きる空気の流れを読み取る技。
空気の流れを読み取り回避と攻撃両方共対応可能。
熟練度が上がれば読み取る精密度や範囲が広がる。
アルス・ユリアナ――球封
投擲技。風の刃を球体に圧縮して相手に投げる技。投げた球体は相手に当たる瞬間に解放され、周囲に風の刃を撒き散らす。地面に当てての解放も可能。投げる速さはそこそこ速い。圧縮に必要な溜めは風の量による。基本、剣の先に圧縮するため予測可能。
『灰狼』ヒューズ
コードネーム:『灰狼』
階級:少将
年齢:29歳
体格:194cm・98kg
外見:剃り上げた灰色の髪・金眼/上はインナーで下は動きやすいズボン。コートは羽織らず、片方の肩に巻き付けている。
イメージカラー:灰色
出身海:ノースブルー
武装:基本素手
能力:動物系 イヌイヌの実 古代種 モデル:ダイアウルフ、覇気はまだ使えない
六式:鉄塊・嵐脚・剃
海軍本部の少将。本部の若手で実力派。まだ30に届かない歳で少将に任命された、まさしく天才と言える男だ。だが本人の性格はかなりガサツで大雑把で短気。おまけに柄も頭も悪い。これでどうやって少将になったのかと思うが、理由は唯一つ。実力がある。それだけだ。
動物系イヌイヌの実 古代種 モデル ダイアウルフ
ダイアウルフの毛皮はダイアの如き強度!だからダイアウルフナンだよ!
これがヒューズが言ったことだ。本人はそう言ってるのでそういう事だろう。
人獣型・獣型の技。強靭な爪で相手を切る技。