【アリスルール・オンライン】18歳童貞だけど現実の才能で決まるスキルが【魅了】だった件。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ? 作:ひきさん
「んぅ……ここは……?」
目を覚ました俺は、まず天井を見た。
知らない天井である。
学生寮の白い天井ではない。黒ずんだ木の梁が走り、薬草の束がいくつも吊るされていて、鼻の奥がすうっとする匂いがする。
デスペナルティなら、寮のベッドで目覚めるはずだ。ということは――
「……勝ったんだよな?」
「勝ったよ! 勝ったあとに死にかける人、初めて見たけどねっ!」
視界の上から、ぬっと火咲の顔が入ってきた。
ちょっと怒っている。
「ここはイーシュ村の治療所! わたしがホースカーで、ここまで運んだんだからねっ!」
「……おお。助かった」
「治療してもらったから傷は塞がってるけど、無理は禁物だってさ。あと治療費はキョウスケの取り分から引くからっ」
ソウデスヨネー。
言われて胸元を見ると、服の代わりに包帯が巻かれていた。そっと触る。痛みはほとんどない。が、あの鮮血の量を思い出すと、それだけでもう一度気が遠くなりそうだ。
HPがないゲームとは、こういうことか。勝利のログが流れても、傷は勝手に消えてくれない。
「てか、生命魔術専攻なんだから自分で治せないの?」
「【生命強化】は今のところ強化であって治療じゃないんだよ……」
俺の生命魔術は、今のところ木の根を育てることにしか役立っていない。錬金術師の前途と同じくらい、生命魔術師の前途も多難である。
「ご主人様っ♡ 美少女が七人もいて、興奮しすぎちゃったんですねっ♡」
「黙れ」
枕元の馬鹿妖精は、一体に戻っていた。七体は戦闘中だけの現象らしい。
とはいえ、あの七体がいなければ、勝てていなかった可能性は高い。感謝はしておくべきだろう。
「……ま、今回はお前も助かった。よくやった」
「きゃっ♡ ご主人様に褒められちゃいましたっ♡ 幸せの鐘を鳴らしますねっ♡」
「絶対に鳴らすな」
ゲームとはいえ、治療所であの騒音を鳴らすのはさすがに終わっている。
それに――あの鐘は、何が起こるか分かったものではない。
「そういえば、ツキトは?」
「いるよ」
窓際に、ツキトが立っていた。相変わらず微笑んでいるままだ。
「起きてよかった。大丈夫そうだね」
「おかげさまでな……いや、それよりお前! あんなこと出来たのかよ! 先に言えよ!」
あの時点で俺は、あくまで藁にすがったつもりだったのだ。
蓋を開けてみたら、出てきたのは大量破壊兵器だったが。
「あれ、準備してる間は他に何もできないからね。キミが引き受けてくれなかったら、撃つ前に死んでたよ」
「先に教えてくれれば、こっちもそれ前提で動けたんだけどな!」
「まったくだよ! 秘密にする理由なくないぃ?」
俺と火咲のもっともな指摘に、ツキトは「ふむ」と頷いた。そして、なぜかちょっとだけ胸を張り――
「まあ、英雄ってのは遅れてやってくるものだからね」
――急にくだらないことを言いだした。なんだこいつ。
しかし、そうして笑っているツキトの顔を見て、もう一つ気になっていたことを思い出した。
あの【王威咆哮】のログだ。≪ツキト≫は【恐慌】+100%に陥った。あの時、確かにそう出ていたはずだ。
「お前、あの時恐慌状態だったよな。よくあんなに落ち着いてたな」
「落ち着いてはなかったよ。怖かったし」
「ずっと笑ってたけどな」
「僕が一番慌ててたら、30秒任せようとは思ってくれなかっただろう?」
……なるほど。
余裕があったわけでも、恐慌が効かなかったわけでもない。あの笑顔も、戦うための行動だったのか。
「【一人芝居】で平気なフリをしてたのさ」
そう付け足して、ツキトはまた微笑んだ。謎のスキルだと思っていたが、そういう使い道のできるスキルなのか。
「どちらにせよ、僕一人じゃ倒せなかった。守ってくれてありがとう」
「……こっちこそ。マジで助かった」
今回のMVPは間違いなくツキトだ。
悔しいが、英雄というのも、あながち完全なホラではなさそうである。
「でさ! あの魔術、結局どうなってるの!?」
火咲が待ちきれないといった様子で身を乗り出した。俺もそれは聞きたい。
「一度数学魔術で速度を2倍にして、それをもう一度複製の数学魔術で2倍にする。それをどこかに飛んでいかないように回転軌道に位相変換して、最後に相手の方への直線軌道にもう一度位相変換する」
「……すごいな」
言葉にしてしまえば、比較的シンプルな戦術である。
しかしそれだけで、あのとんでもない破壊が起こった。
数学と卜占は弱い、なんて掲示板の書き込みをちょっとでも参考にした俺が馬鹿だった。少なくとも、エピックモンスターを爆破できる魔術が弱いはずがない。
「くぅっ……! 配信切ってたのが悔やまれる……! あの後光、絶対バズったのにっ……!」
火咲は火咲で、変なところを悔しがっていた。
*****
「それで、報酬ってどうなった?」
「そうそう、待ってましたっ! 見てこれっ!」
火咲が、窓際の机に分厚い一冊の本を置いた。擦り切れた革の表紙には、銀色の線で、いくつもの渦が描かれている。
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≪【暗殺風刃】の理論書≫
【暗殺風刃】の構築に必要な≪式≫≪媒介≫≪代償≫および≪魔術意図≫が記されている。
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「……これ、俺がしゃがんで避けたやつだよな?」
「そうそう! 見えない刃! これがあれば、あれを発明できるようになるんだよっ!」
「おおっ!」
さっきまで必死に避けていた敵の必殺技が、今度はこちらの武器になる。
倒した相手の技を自分のものにできるとは、なんてやりがいのあるゲームなんだ。
「流動魔術っぽいし、これはわたしがもらうねっ! 異論は認めないっ!」
「聞く前に決まってるじゃねえか」
「わたしは合理主義だからねっ!」
「僕も賛成しておくよ」
まあ、一番使いこなせそうな奴が持つのが正しいか。
「あ、でも、先にアストレアのことなんだけど……」
火咲が、受け取ったメッセージを見せてくれた。
『あれ倒したの!? すごいね。でもごめん、報酬は三人で分けて。わたしは今日は落ちる』
短いメッセージだった。アストレアは、もうオフラインになっている。
「……まあ、あれはきついよな」
俺など胸を斬られただけであの痛さだったのだ。恐慌状態であの風刃をまともに受けた彼女が、どれほどの苦痛を味わったのか。
恨み言が一つもないだけでも、気さくな彼女らしいと言える。
「ま、話を戻して。残りも分けようか」
ツキトが机に置いたのは、四本の巨大な爪と、拳よりずっと大きな魔石。
そして、一本の剣だった。
≪風王剣≫。
刀身は薄い青みを帯び、鍔は翼を広げたような形をしている。柄から切っ先まで眺めるだけで、思わずにやにやとしてしまう。
厨二心が、疼く。疼いてしまう。
「……かっこいいな」
「キョウスケ、使う?」
「え、いいのか!」
「僕はどちらかというと魔石が欲しい。新しい魔術を作る時に使えそうなんだ」
「で、わたしは理論書だから、キョウスケが剣だとちょうどいいんだよね」
言われて、剣を受け取る。ずしりとした重み。
だが、上がったステータスのおかげか、持ち上げるのに苦労するほどではない。
あの、とんでもない強さのキンググリフォンを倒して手に入れた剣を、俺が振る。
――わくわくする話じゃないかっ!
「なかなか似合うね。魔法剣士みたいだ」
「だろ?」
「ところで、キョウスケって錬金専攻だったよね。爪も欲しい?」
「そうそう、爪はキョウスケに全部預けて、なにか面白いアイテムの材料にしてもらおうかなって話してたんだ」
「なるほど、面白いアイテムね。作れたら二人にも回すわ」
≪キンググリフォンの爪≫が四本。使い道を考える前から貴重そうで、研究机に並べるだけでも楽しそうな代物だ。
ついでにステータスを開く。
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プレイヤーポイント:9
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「プレイヤーポイントがそういえば9まで貯まったんだよな」
「え、まだ使ってないの!?」
「不可逆要素は慎重に使うべきだからな……」
「もったいないよっ! もっと楽に勝ててたかもしれないじゃん!」
「使い道は、そのうち真面目に考える。今日は疲れた」
さすがに色々やりすぎて疲れが出て来たな。
「ご主人様が剣なんて持ったら、ますます格好よくなって興奮してしまいますっ♡」
「せっかくの格好いい剣も、お前にかかれば台無しだな」
平常運転の馬鹿妖精はともかくとして……
報酬を分け終えたところで、俺はツキトに声をかけた。
火咲に確認は取っていないが、これはもう確定でいいだろう。
「なあツキト。3日後の中級試験、もう組む相手は決まってるか?」
「まだだけど」
もともとは、アストレアを誘うつもりだった。俺たちに足りない攻撃魔術が得意そうだから、という、分かりやすい理由。
しかし、実際に一緒に戦ってみた今なら分かる。
プレイヤーとしての≪ツキト≫はとんでもなく有能だ。
それに――
――こいつと一緒に遊んだら、たぶん面白い。
「中級試験、俺たちとパーティを組まないか?」
「わたしも賛成! 三人チームだし、ちょうどいいよっ!」
「……いいの?」
「一緒に激戦を制した仲だろっ!」
ツキトは少し笑ってから、頷いた。
「じゃあ、こちらからもお願いするよ。僕も、君たちは面白そうだと思ってたんだ」
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<≪ツキト≫とフレンドになりました!>
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さて、これで三人目が無事決まった。なかなかに良いメンバー探しになったのではないだろうか。
とんでもないボスが出てきて、途中で一人死んで、俺も死にかけた点を除けば。
「よしっ! じゃあ、さっそく中級試験に向けて準備しよっか!」
「βと同じなら、テイム競争なんだっけ?」
「そう! 第11層の≪魔の森≫で、捕まえたモンスターのポイントを競うのっ!」
「そういう試験なら、僕の占いはなかなか役立ちそうだ」
「じゃあ、発見はいいとして、捕まえる方法を考えるか。錬金で何か作れるかもしれないな」
「いいねっ! 動きを止められれば、あとはわたしが契約魔術でテイムできるよ!」
「僕が探して、キョウスケが捕まえて、火咲がテイムする。うん、いい分担だと思う」
「妖精系なら、キョウスケとその鐘妖精が妖精魔術でテイムできるしねっ」
そうして並べてみると、なかなか立派なパーティらしく聞こえる。
俺にもようやく、錬金術師としてまともな役割が回ってきそうだ。
「逃げられなくしてから、ご主人様のものにしちゃうんですねっ♡ きゃっ♡」
「ヘンタイっ……!」
「誤解だ」
見慣れてきた漫才に、新しい仲間は静かに微笑んだままだった。
――こうして、色々な意味で長い付き合いになる三人組が結成されたのだった。