【悲報】18歳童貞だけど現実の才能で決まるスキルが【魅了】だった件。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ?【アリスルール・オンライン】 作:ひきさん
あのあと、いったんパーティは別行動ということになった。
火咲は【暗殺風刃】の発明、ツキトは新しい魔術に使う式探しをするらしい。
そして俺は、錬金に使えそうな素材探しである。
せっかく使えるようになった【錬金精錬】だ。罠を二つ作って終わりというのも、貴重なプレイヤーポイントに対して失礼だろう。
というわけで、俺は第6層≪硝子の湖≫へやってきた。
掲示板に、6層の湖の周囲で薬草や鉱石が採れると書いてあったからだ。
いったんベルは召喚を解いた。一人でぶらぶらするのも、こういうゲームの楽しみ方の一つだろう。単純にうるさすぎるしな、あいつは……
到着した湖は、とんでもなく広かった。
向こう岸は霞んで見えず、遠くにはガラスの帆船まで浮かんでいる。これでまだ、初級資格で入れる階層の一つに過ぎないのだから恐ろしい。
街道沿いの道具屋を覗き、その脇の細道を湖へ向かって歩く。
水際で光っている石は、錬金素材だったりしないだろうか。
そんなことを考えていた、その時だった。
「――あなたに、触れたいのです」
突然、声がした。
思わず足を止める。
美しい、透き通るような少女の声だった。
近くに誰かいるのかと思って振り向いたが、その道には俺しかいない。
「わたしの目も、耳も、唇も。あなたを愛するために、お使いください」
また、聞こえた。
今度は、どこから聞こえたのか分かった。
――俺の、内側から、声が響いている。
「……は?」
胸に手を当てる。
じんわりと、熱い。
聞こえた声に合わせて、身体の奥から、何かが満たされていく。
おかしい。
俺は今、声を聞いただけだ。
それなのに、誰かに大切に抱きしめられたような、信じられないほど優しい感覚が、胸いっぱいに広がっていた。
この感覚を、俺は知っている。
昨日、あの泉で味わった、あの――
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【■■■■■■の大灯】が、祈りに共鳴しています。
あなたの精神に致命的な変質が発生しています!
【浸蝕度】:7%!
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表示を見た瞬間、心臓が跳ねた。
「ああ、あなたに全てを捧げることは、かくも幸せなのですね……」
少女の声は、まだずっと続いている。
いったい何が起こっているのか。
分からない中、俺はその声だけを頼りに、細道の先へと進んだ。
*****
湖畔に、小さな礼拝堂があった。
白い石でできた建物で、入口には≪灯の聖教≫という文字が刻まれている。扉は開いていた。
なんだ、これは……?
この世界にも宗教があるのか?
入ってみると、中に一人の少女がいた。
祭壇の前に膝をついている。
床に広がった純白の衣。長いヴェール。その下から零れた髪もまた、雪のように白い。
俺より、少し年上だろうか。
華奢な背中が、静かに呼吸していた。
「たとえあなたがわたしをお忘れになっても――わたしは、あなたを愛しています」
女は、首に下げた金色の指輪を両手で包んでいた。
そっと、それに唇を寄せ、キスをする。
その瞬間――
――俺の唇が、熱くなった。
「っ……!?」
思わず、口元を押さえた。
触れられていない。
誰にも、触れられていないはずなのに。
女は指輪から唇を離すと、それを大切そうに胸へ抱いた。
同時に、途方もない幸福が、俺の胸に押し寄せる。
愛されている。
どうしようもないくらい、愛されている。
そんな霊感のような感覚が、全身を刺激する。
この少女は、全身全霊で、誰かを愛している。
その愛が、その恋が、俺の中に、流れ込んできている。
なんだ、これ……?
女が、ゆっくりと振り向いた。
純白のヴェールが、肩から滑り落ちる。
その下にあった顔を見て――
――俺は、息をすることを忘れた。
あの、少女だった。
忘れられるはずもない。
何度も、何度も思い出した。思い出すだけで、おかしくなりそうだった。二度と考えない方がいいと分かっていて、それでも、どうしても忘れられなかった。
あの泉で、俺に口づけをした少女。
――アリスルール。
その顔が、目の前にあった。
美しかった。
眩暈がするほどに、美しかった。
頬を伝っている一筋の涙さえ、この人を美しくするために流れているのではないかと思った。
「……どなた、ですか?」
問いかけられて、ようやく、
瞳だ。
あの少女、アリスルールの瞳には、全てを焼き尽くさんばかりの虹が宿っていた。
今、こちらを見つめる少女の瞳は、透き通った薄紫色をしている。
髪にも、虹色の彩りはない。
そして何より、あの女神は、こんなふうに――誰かに恋し、泣いてはいなかった。
「すまない。声が、聞こえて……」
それだけ言うので、精一杯だった。
女は、はっとしたように俺を見た。
「……聞こえたのですか?」
「ああ。外を歩いてたら……」
俺は、自分の胸に触れた。
「ここから、聞こえた」
「……なるほど」
女が立ち上がる。
白い衣の裾が、音もなく床を滑った。
まっすぐに俺のところへ歩いてきた女は、目の前で足を止めると、俺が胸に当てていた手へ、自分の手を重ねた。
祈りの声が、途切れた。
代わりに、女の身体が、びくりと震える。
「……あ」
薄紫色の瞳が、大きく見開かれた。
俺の手を包む指に、力が籠る。
「あたたかい……」
囁くような声だった。
その頬に、また、涙が零れた。
「本当に、聞いてくださったのですね……」
女は、俺の手を見つめていた。
まるで、そこに、自分が捧げてきた祈りの行方を見つけたかのように。
俺には何のことなのか、さっぱり分からなかった。
けれど、その手を離すことだけは、絶対にしてはいけない気がした。
「ミナエルと、申します」
女は、涙を指で拭いながら、そう名乗った。
「≪灯の聖教≫で、巫女を務めております」
巫女。
そういうNPC、ということなのだろうか。
あまりに現実離れした美しさに、彼女が仮想の存在であることを、俺は完全に忘れていた。
夢中になっていた。
だって――
だって、この少女は――
俺が狂おしいほどに恋したあの少女、アリスルールと、まったくもって瓜二つだったのだから――
「俺は、キョウスケだ」
「キョウスケ、さま……」
名前を呼ばれただけで、胸の奥が、どうしようもなく疼いた。
近い。
こんなに近くで、その顔を見ていられない。
だが、目を逸らすことは、もっとできなかった。
「……その格好は?」
なんとか別のことを考えようとして、訊いた。
白いヴェール。純白の衣。首から下げた指輪。
どう見ても、花嫁の衣装だった。
「聖婚の祈りのための、衣です。わたしたちは、神に祈るとき、神の花嫁となるのです」
ミナエルは、指輪に触れた。
「わたしは神に会いたい。触れたい。抱きしめられたい。……そして、わたしを、愛してほしい」
最後の一言に、俺の胸が締め付けられた。
祈りだと聞かなければ、恋人にねだっているようにしか聞こえなかった。
いや――きっと、同じなのだ。
この少女にとっては――
「そんなふうに、思っていいものなのか。神様に」
「はい」
迷いのない返事だった。
「わたしたちは、大灯に恋をしておりますから」
大灯。
その言葉に、また心臓が跳ねた。
さっき見たばかりのスキル名を、思い出す。
まさか。
この人が、恋をしているのは――
「でも、神が、わたしの願いを叶えてくださるとは限りません」
ミナエルは、静かに続けた。
「お会いできないまま、一生を終えるかもしれません。……それは、とても寂しいです」
指輪を包んでいた手が、胸元で、きゅっと握られる。
「でも、それでも、わたしは神に祈り、神を愛します」
女神と同じ顔で、ミナエルは微笑んだ。
「わたしがどれほど寂しくても、あの方には、愛されていてほしいから」
何も言えなかった。
触れたい。抱きしめたい。口づけが欲しい。
そんな、俺が昨日のあの時から持て余し続けているものを、この人も抱えている。
それなのに、この人は、誰もいない祭壇の前で、自分の恋を差し出していた。
あの指輪に、唇を寄せて。
「……あなたの唇にも、灯が宿っております」
ミナエルが、そっと言った。
俺は、びくりとした。
「そこに、神がいらっしゃるのですね」
否定できない。
女神に似た女が、俺の唇を見ている。
昨日その唇に触れたのは、彼女が一生をかけて恋い慕っている相手かもしれない。
俺は、何も知らないまま、その唇を貰ってしまった。
そして今、その女神と同じ顔の女に――
「……触れたいです」
ミナエルの声が、思考を遮った。
もう一度、手を取られる。
「神様に?」
馬鹿みたいな問いが、口から出た。
ミナエルは、俺を見上げた。
吸い込まれそうな宝石のような紫色の輝きが、俺を、捉えて――
「いえ、あなたに」
――そして、囚われる。
何も、考えられなくなった。
どくん、どくん、と到底ゲームとは信じられない興奮と恋情が全身を満たす。
「あなたがどなたなのかは、存じません。でも、あなたはわたしの祈りを聞いてくださった。この手に、触れてくださった……」
ミナエルは俺の手を、そっと、自分の頬に当てた。
「――もっと、お傍にいたいです」
訊き返そうとした俺を、ミナエルが抱きしめた。
柔らかな身体が、触れ合う。
白いヴェールが肩にかかり、視界の端で、湖の光を透かした。
甘い桃のような香りがした。
すぐ傍で聞こえる呼吸が、思ったよりも、ずっと速かった。
まるで少女が俺に興奮しているように……
「え……?」
「わたしの祈りを、あなたにも」
背中に回された手が、俺を包む。
さきほど神へ差し出されていた身体の温かさが、今は、俺を包んでいる。
自分の全てで、全身をもって、俺を愛そうとしている。
それが分かることが、恐ろしかった。
俺は、もっと強く抱きしめてほしかった。
こんなにも大切にされているのに、まだ足りない――
――俺の欲望は、こんなにも果てがなかったのか。
「あなたにも、どうか、愛を」
ミナエルが顔を上げた。
涙の残った瞳が、俺を映す。
唇が、重なった。
――その瞬間、少女の祈りそのものが、俺の中へ入ってきた。
言葉ではなかった。
少女が、ずっと、ずっとずっと、会えない誰かを想ってきた時間。
触れられなくても、愛されなくても、それでも消えなかった恋。
それが今、目の前にいる俺へと差し出されている。
暖かな口づけとして。
それらの暖かさが、一気に、俺の胸の奥で溢れかえる。
視界が、白く染まる。
あの泉のような、すべてを焼き尽くす光ではない。
ミナエルの身体を通って、ある光が、俺の中で灯る。
その光の名は――
……唇が、離れた。
俺は、そっとその頬に手を添えた。
女神と同じ顔をした女が、涙の残った瞳で、俺を見ていた。
この人は、何度、あの指輪に口づけてきたのだろう。
何度、誰もいない場所へ手を伸ばしたのだろう。
気付くと、ミナエルは、泣いていた。
幸せそうに、本当に幸せそうに、声を殺して泣いていた。
「……返って、きた」
小さな声がした。
「わたしが差し上げたものが……返って、きた……」
少女の顔が、くしゃりと歪んだ。
あの女神と同じ顔なのに、こんな表情は、知らなかった。
俺は思わず、彼女を強く抱きしめた。
神の花嫁が、今、俺の腕の中にいる。
神を愛して、神に恋をして、それでも、俺にこんなに優しくしてくれた少女が――
少女の涙が、神から返事を貰えたと思ったからなのか、俺に触れられたからなのかは、分からない。
分からないが、今の俺は、無性に、無性にこの少女を大切にしたかった――
「キョウスケ、さま……」
少女が、顔を上げた。
神様の名前ではなかった。
俺の、名前を、少女は呼んでいた。
「もう一度、お会いしたいです」
祈るような声で、そう言われて――
俺は、ようやく思い知った。
――たとえこの少女が誰を愛していても、もう、手遅れなのだと。
そして、俺は――
神に恋しながら、神の花嫁にも、恋をしてしまった――
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<警告!>
【■■■■■■の大灯】があなたを浸蝕しています!
あなたの精神に致命的な変質が発生しています!
【浸蝕度】:12%!
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「わたしの普段の住処は、200層、女神の愛宿る神聖都市グランセリア――いつか、いつか、来てくださいね……」
それは、俺にとって、初めて、このゲームにおける絶対の目標ができた瞬間だった……!