アリスルール・オンライン~現実の才能がスキルになる魔導師特化型VRMMOで、俺の固有スキルは【魅了】だったんですが?~ 作:ひきさん
初日二千万人。
後から知った、アリスルール・オンラインの初日世界同時接続数である。
全世界で巧みにプロモーションされた謎のVRMMOゲームは、魔導師特化型VRMMOという売り文句に、「自分の才能が固有スキルになる」世界初のシステムが話題を呼び、空前のヒットとなっていたらしい。
日本だけでも100万人以上の人間が、初日からこのゲームを遊んでいるという異常事態が起きているのだ。
そして今、それだけの人数が、『アリスルールの巨塔』第1層【学園都市・ガーデン】に集おうとしていた。
果たして、塔のたかが一層に二千万人などという人数が収まるのか。
そんな疑問を抱く人もいるだろう。
だが、この巨塔は、あらゆる意味で規格外だった。
ゲームの舞台となる『アリスルールの巨塔』は、各層ごとにおよそ東京都くらいの面積を誇る。
これは果たして塔なのか。素直に俺はそう思った。
だが、真に恐るべきは、その高さだ。
アリスルールの巨塔は、少なくとも100層では終わらないらしい。
なぜなら、最初にプレイヤーが体験する【ガーデン魔法大学】という舞台を卒業すると、100層より上に行けるようになるとチュートリアルで説明されるからだ。
最初に説明されるチュートリアルの時点で分かっているのが、東京都100個分のマップが少なくとも存在しているという恐ろしすぎる規模感。
なんというゲームを初めてのVRMMOに選んでしまったんだろう、俺は……
キャラメイクを終え、目覚めた学園都市ガーデンの学生寮の一室で、そんなチュートリアルの内容、ネットでの評判などなどを振り返っていた。
キャラメイクと言っても、このゲームではベースの容姿はリアルのものがそのまま用いられる。
変えられるのは、髪型、髪の色、瞳の色、ボディペイントなどなど、リアルでも弄ろうと思えば弄れる内容だけだ。
これは、高度にシンクロが求められるVRMMOゲームで、現実と異なる肉体を操ってしまうと色々健康などに支障が出やすいという研究結果から、こういう通例が出ているらしい。
一応、人間、エルフ、獣人、魔族の4種類が基本種族として存在していて、それぞれで人種など区分けがある感じになっているが、どれも現実の人間に近い容姿をしている。
俺は、【魅了】という固有スキルを貰ってしまっていたので、少しでもイケメンに見えたほうがスキル負けしないかなと思い、エルフを選ぶことにし、髪色は金髪、瞳の色は桃色にした。桃色なのは、魅了の魔眼って感じでいいかなという厨二心が働いた。
逆に、驚くほど手が込んでいたのは、ゲームの看板でもある魔術体系だ。
感応魔術、契約魔術、式理魔術、物質魔術、流動魔術、生命魔術、妖精魔術、錬金魔術、数学魔術、卜占魔術、禁忌魔術――
基本となる魔法大学で学べる魔術だけで、ちょっと覚えきれないくらいの驚くほど多彩な魔術系統があり、それぞれに超長大なスキルツリーが存在しているらしい。
最初のキャラメイクでは、これらの魔術系統から初期専攻魔術を3つ決められる。このうち1つを主専攻として選ぶことになるらしい。
ただし禁忌魔術だけは初期選択できないようで、ゲーム内で特定のイベントを行わないとアンロックできない特殊な系統だと書いてあった。
俺は、それぞれの魔術系統の説明を一通り読んでから、この専攻魔術はゲーム内で特定条件を満たせば変更・追加可能だと書いてあったので、いったん悩みすぎず決めることにした。
錬金術師って、厨二心をくすぐるよなぁって理由で錬金魔術。
錬金術師が生命の禁忌とか犯すの興奮するよなぁという理由で生命魔術。
もう一つは禁忌魔術にしたかったが、前述の通り選べないらしいので少し悩んだ。
最終的に、妖精って可愛くね? という理由で妖精魔術にした。
主専攻は、中心コンセプトである錬金術師キャラ、というロールプレイに従い錬金魔術へ決定。
それから、スキルとステータスの決定に移った。
このゲームには、現実での才能から決定される【固有スキル】とゲーム内で条件を満たせば取得できる【通常スキル】が存在する。またスキルには、【コモンスキル】、【アンコモンスキル】、【レアスキル】、【エピックスキル】、【レジェンダリースキル】という5段階のレアリティが存在するらしい。俺の【魅了】はエピックスキルらしく、地味に序盤としてはかなりレアなようだ。複雑である。
ステータスについては、こちらは現実での才能をベースにした数値に対し、初期専攻とかでボーナスが入る仕組みになっているようだ。
また、初期専攻によってステータスにボーナスが入ったり初期スキルを覚えたりする。
その結果決定された俺のステータスとスキルは以下の通りだ。
===========
プレイヤー名:キョウスケ
主専攻:錬金魔術
副専攻1:生命魔術
副専攻2:妖精魔術
ステータス:
力:7
頑丈:2
素早さ:8
器用:22
精神:41
魔力:32
運:77
耐性・抵抗:
毒抵抗
精神抵抗
固有スキル:
エピックスキル【魅了】
スキル:
レアスキル【生命錬金術】
アンコモンスキル【妖精の理】
アンコモンスキル【生命強化】
コモンスキル【調合術】
コモンスキル【料理】
コモンスキル【妖精の光】
===========
ステータスは、現実での俺の才能をもとにしているというのは伊達ではないらしく、極めて体力の欠如したダメ人間に仕上がっている。
だが、このゲームは魔導師特化型VRMMO『アリスルール・オンライン』である。通常のVRMMOゲームであれば極めて大きな短所になる体力の欠如も、魔導師同士の戦闘であれば、リカバーできる可能性は十分にある。
そして、俺の魔法系ステータスは、かなり高そうだ。なぜなら、チュートリアルに平均的人間のステータスは10程度になると書いてあるからである。伊達にリアルでも魔法使いまっしぐらの非リア人生を歩んでいない。
運が一番高いのは納得がいかないが、思えば人生において結構ラッキーなことというのは多かった気もする。たとえば、このゲームにたまたま初日に出会ったこともそうかもしれないし、火咲とかいう美少女の女友達がいるのも、認めたくないがラッキーのうちには入るだろう。そういうところから来た数値かな、といったん考えておく。
スキルは、固有スキルと選んだ専攻から来たスキルが順当に入っているようだ。
さらに、プレイヤーポイントというポイントが3ポイント貰え、この1ポイントごとに、1つボーナスを選んで受け取ることができる。プレイヤーポイントは、ゲーム内でもイベントなどで貰う事ができ、そのたびにボーナスを1つ選択する方式らしい。これが、世間的なMMORPGにおけるレベルに相当する概念らしく、つまりこのゲームには分かりやすいレベル1などといった概念は無いらしい。
プレイヤーポイントのボーナスは様々な種類が存在したが、俺は熟慮の末、あとで選ぶことにした。一度決定したら変えられない不可逆要素は、慎重に選びたい。どんなゲームになっているのか見てからでも遅くはないだろう。
かくして、俺は始まりの場所として自室である学生寮の一室に送られ、ベッドの上で情報を整理していたというわけだ。
さて、招待コードを使ったためなのか、メニューのフレンドリストには【ひさきちゃんねる】なるプレイヤーネームが存在している。
120パーセント、火咲だろう。
俺はとりあえず【ひさきちゃんねる】に向かってメッセージを送った。
「キャラメイク終わったぞ。何すればいいんだ?」
返信は通話で帰ってきた。UIは分かりやすかったので、すぐに通話に出られる。
「あーキョウスケ? 今から初日配信で忙しいから、適当に遊んどいて! とりあえず学園都市探検しつつ、クエストとか探してやるといいと思うよ! 戦闘はイベントとかでちょっと強化してからでもいいと思う! んじゃ!」
こいつっ……! 自分で誘った友達より、配信《チャンネル》が大事らしいっ……!
招待報酬もらったら用済みかぁ!? なんて奴だっ!
腹いせに、動画サイトで【ひさきちゃんねる】を探して荒らしコメントでもしてやろうかと本気で実行しかけたが、さすがに大人気ないのでやめた。なんて大人なんだ、俺は……大人向けゲームを遊んでいるだけはある。
大人向けゲーム、といえば……
今気になっているのは、俺の固有スキル【魅了】の効果がいかほどのものか、というものだ。
魅了。
当然、可愛らしい異性とかを魅了しちゃう力なんだろう。
今まで彼女もできたことがない人生を歩んできた純情な18歳にとっては、いささか刺激が強すぎるスキルだ。
扱いは慎重にしたほうがいいだろう。場合によっては、とんでもない事態を引き起こすことも考えられる。
「とりあえず、学園都市を探検するか……」
と思って学生寮の部屋を出ると、隣の部屋から出てくる【ひさきちゃんねる】を見つけた。
「スキル【魅了】」
思わず怒りのあまり魅了スキルを行使してしまった。
果たしてその効果は……
「キョウスケっ♡ 会いたかったぁ! 今日はずっと一緒にデートしてくれるよねっ!♡ わたしのこと好きだもんねぇ!?♡ あーちゅきちゅき、だいちゅきー♡ もうこれ、運命の出会いだよねー♡」
招待コードで出た人同士は隣同士になる仕様にでもなっていたのだろうが、それが彼女の脳内では運命の出会いに変換されている。
これは……間違いないだろう。
禁術。
禁忌魔法を超える禁忌魔法。
明らかにゲームの中に存在していてはいけない魔法である。
「【魅了】解除」
俺は魅了を解除した。
「はっ! わたしはなにをっ! なんか強烈にキョウスケのことが好きになっていた気がする! これは何? 悪夢? 白昼夢の幻想郷?」
「正気に戻ったか」
「あ、キョウスケ、ちょっと待って、今実は配信つけてて……うわー! コメント欄がとんでもないことになってるぅ!!」
先ほどの火咲の醜態は、図らずも全世界に向けて配信されていたらしい。
「待って待って、今のは違う! なにかの心の迷い、圧倒的放送事故だから! キョウスケはただの友達なんだよぉみんなぁ! ちゅきちゅき、だいちゅきーとか連打しないで! うわぁあああああっ!!」
俺はむしゃくしゃした気分をすっきりさせることにしつつも、スキル【魅了】の圧倒的破壊力に恐れ戦く結果となった。
これどうなってるの? プレイヤーの脳に干渉してね? 違法じゃね?
いろいろと浮かぶ疑問はあったが、ひとまず、放っておくと冷静になった火咲に殺されそうなので、火咲が混乱しているうちに静かにその場を後にした。