【悲報】錬金術師ロールプレイのつもりでVRMMO始めたのに現実の才能を反映した固有スキルが【魅了】だったんだが。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ? 作:ひきさん
「ねぇ、見てよあれ」
「ドラゴンの人だねっ」
「ちゅきちゅきの子だ!」
――全部聞こえているからな、お前ら……!
翌朝、第1層の学園都市を俺たちは歩いていた。
昨日までは普通に歩けた大通りも、今まで通りとはいかないようで、すれ違うプレイヤーが次々とこちらを振り返ってくる。
その視線の先では、当然のように≪ファイアドラゴン≫のミスドラが歩いている。赤く染まった踊り子の姿で、堂々と。
「ミスドラっ! せめて、せめてその格好をなんとかできないのかなっ……」
「我はこの恰好以外を知らぬ」
何回召喚解除しても勝手に出てきて、あげくの果てに目立ちまくっているのだから、もう誰にもどうしようもない。
火咲も諦めて、視線を気にしないよう精神統一する方向で考えているようで、「気にしない、気にしない、気にしない……あれはじゃがいも、あれはにんじん、あれはたまねぎ……」などとカレーの材料を並べていた。可哀そうなので突っ込まないでやる。
さて、俺たちの行き先は、第30層≪魔法都市シャンドラ≫だ。
試験官から案内された通り、上級魔術師の登録手続きをするために向かっている。
そこまで辿り着けば、この騒ぎも無くなって、多少は落ち着けるだろう――
「有名人と歩かせていただくなんて光栄だよ」
「お前も同じくらい有名になってるだろ、キノコ雲の人って」
「あの配信、角度的に僕の顔は、あんまり映ってなかったからね」
ツキトは涼しい顔をしたまま騒ぎを眺めている。
言われてみれば、ツキトの見せ場は、視聴者目線では突然起こった謎の大爆発である。
一方、俺の見せ場は、美女になったドラゴンと向き合いテイムする姿だった。
どちらがより目立ってより印象に残ったかは、明らかであった……
「わたしは顔どころか、チャンネルごと巻き込まれて大騒ぎになっちゃってるんだけどぉ……!」
火咲は朝から疲れた様子をしながらも、時々話しかけてくるプレイヤーには笑顔で応対していた。さすが配信者、ファンサービスは忘れないらしい。
そう思ったが、昨夜も、コメント欄とはずいぶん戦っていたらしい。
「ちなみに、最終的な再生数はどれくらいなんだ?」
「聞かないでっ!」
……ちょっと気になるが、聞かないことにしておいてやるか。
それも友人としての、想定外にバズってしまった少女への慈悲である。
*****
UIに表示された案内に従ってワープポータルを乗り継いでいき、第1層から第10層、第30層へと上がっていく。中級魔術師になると、この第1層から第10層へのワープポータルが解放され、上級魔術師になると第10層から第30層のワープポータルが解放される仕組みのようだ。
着いた俺たちの目の前に広がったのは、いくつもの塔が立ち並ぶ、巨大な魔法都市だった。
見渡す限り存在している尖塔と尖塔の間には、石造りの橋が架かっている。
何本も、何本も存在する、尖塔と橋。
その橋は、地上からよく見えないほど高い場所に存在し、橋脚もないままぷかぷかと浮いている。
その上を歩くNPCの人影は、とても小さく見えた。
その橋の下を、荷物を山ほど積んだ馬車が宙を走って忙しそうに通り過ぎていく。
……すごい世界だ。
この街では、魔術が当たり前に生活の一部となっているらしい。
これが、≪魔法都市シャンドラ≫。
昨日までは、存在すら知らなかった街。
そう思うと、通りを歩いているだけでも、知らず知らず口元が緩んでしまう。
魔法大学の上級キャンパスは、都市の中央にあった。
巨大な門の内側にはいくつもの校舎が並び、ローブ姿のNPCがそこらを行き交っている。
俺たちは案内を追いかけて回廊を抜け、上級キャンパス内の講堂へと入った。
広い――
最初に、その圧倒されそうな広さに驚いた。
そこは、500人くらいは座れそうな、階段状の空間だ。
そのずらりと並んだ椅子のほとんどは空いていた。
そのがらんとした空間の一番前の方に、3人ずつ固まって座っている集団が4つ存在している。
俺たちを入れて15人の、上級魔術師たちが、一堂に会していた。
――本当に、これだけなのか……
昨日の合格発表とその後眺めた掲示板の内容が、ようやく実感を伴って理解できてきた。
――物凄い数の受験者の中から、ここまで来たのは、本当に、今この教室にいる連中だけなのだ……
「今期、上級魔術師となったのは、あなたたち15名のみです」
教壇に立っている老いた魔導師は、白い髭を床まで垂らしていた。いかにも魔法学園モノに出てきそうな感じである。
この人が、この魔法大学の教授らしい。
「出席を取りますよ」
教授が名簿を読み上げて、前の席から順に、手をあげたり返事をしたりといった様子が見える。
聞き慣れない名前が多い。
自動翻訳された音の響きだけでは分かりにくいが、外国の言葉なのだろう。
そもそも、見た目からしていかにも外国人らしいプレイヤーもたくさんいる。
「プレイヤー:≪キョウスケ≫」
「はい」
俺が返事をした途端――
――何人かが振り向く。
まず俺を見て、それからその隣のミスドラを見た。
……ここでも、か。
「贅沢な視線を浴びているね」
ツキトが微笑んだ。
確かに、ここにいる全員が、俺たちと同様、何らかの手段で飛び級合格を勝ち取ってきた連中なわけだ。
そんなすごい連中の注目を浴びているというのは、ツキトの言う通り贅沢なのかもしれない。
「プレイヤー:≪アンダーライン≫」
掲示板で見覚えがあるプロゲーマーの名も、そこにあった。姿はここからだと、良く見えなかったが。
さて、出席確認が終わったところで、火咲が前の列へずんずんと進んでいった。
「アンダーラインさんっ! 本物のアンダーラインさんですよねっ!?」
短い黒髪の男が、火咲の声に振り向いた。
≪アンダーライン≫。
本物のプロゲーマーと、俺たちが肩を並べちまうなんてな。
「お前は≪ひさきちゃんねる≫か。配信、見させてもらった……なかなかいいプレイだったな」
「あ、ありがとう、ございますっ!」
火咲が、火咲らしくない不自由そうな声を出していた。
そうか――
こいつにとっては、自分が目指している場所に、すでに到達している人なんだな。
そして今、自分もそんな憧れの人と同じ教室にいる。
火咲は、これ以上ないほど嬉しそうで、疲れも吹き飛んだ様子だった。
「そっちは、どんなイベントで飛び級合格したんですか?」
気になっていた俺が尋ねると、≪アンダーライン≫はこちらを振り向いた。
「雷を落とす鳥だった……そっちの竜ほど、派手な戦いではなかったがな」
派手な戦いではなかった、わけがなかった。
どうやらこの広い世界には、俺たちの見ていないところでも、とんでもない戦いをしていた奴らが確かにいるらしい。
その隣にいた少女も、俺の横のミスドラを見ていた。
「……それ、あの配信のドラゴン?」
「ああ」
「へぇ」
少女の視線が、ミスドラの頭から足元へ、ゆっくりと観察した。
≪アンダーライン≫と組んでいる、ってことは、この子もプロゲーマーなのかな?
俺は少女の容姿をしばし観察して、その少女が北欧系のような彫りの深い顔つきをしたとんでもない美少女であることを確認した。
残りの三組とも、短く挨拶を交わした。
一組は、髭面の金髪大男三人だった。
どうやって飛び級したのかという話になると、「でかい巨人をぶん殴ってやったぜ!」とだけ答え、笑っていた。古き良きアメリカンな感じの筋肉至上主義っぷりを感じた。
もう一組は、背の高い黒髪の女がまとめ役らしい。
彼女は俺を見て、自動翻訳でこう言った。
「あなたのドラゴン、素敵ね。結婚したいわ」
「馴れ馴れしいぞ、小娘」
「ミスドラ、黙ってろ」
頼むから、初対面の人間に喧嘩を売らないでほしい。少々異常な発言は確かにしていたが。
最後の一組は、赤髪の少年がリーダーをやっている、俺たちと同じくらいの年のグループだった。大学生か高校生か、くらいだろう。
赤髪の少年と、金髪の少年に、銀髪の少女、といった構成だ。
話してみると、やや生意気な感じの印象がある今時の子供といった感じで、自らの実力に自信を持っている印象だった。
そんなに仲良くしたいタイプでもなかったので、適当に社交辞令を交わしておいた。
こうして、5組、15人が顔を合わせた。
これが現時点で、上級魔術師まで辿り着いたプレイヤー、全員である。
果たして、ここからどんな魔術師ライフが始まり――
そして、誰が最初に卒業して、一人前の魔導師となるのか――