【悲報】錬金術師ロールプレイのつもりでVRMMO始めたのに現実の才能を反映した固有スキルが【魅了】だったんだが。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ? 作:ひきさん
「そろそろ、一度席へ戻ってください。重要なアナウンスがあります」
教授のその声に、俺たちはいったん挨拶を切り上げて席へと戻る。
教授は早速、驚くべき説明に入った。
「最初に、第一回の卒業試験について説明します。卒業試験は通例では1ヵ月に1度行われ、大人数でのオリジナル競技が毎回用意されますが、初回の卒業試験は御覧の通りの極めて少人数で行われることもあり、シンプルに1位となったチームが第一期卒業生となる特例措置としました」
最初に、卒業の話から入るとはな。
意表を突かれた形にはなったが、考えてみれば目標から説明するのはゲームとして当然だろう。
「あなたたちには、第101層≪天空諸島≫を舞台に、3人チームでのPVPトーナメント大会を戦っていただきます」
教授が背後に視線を送ると、教壇の上に巨大な映像が浮かび上がった。
空が広がっていた。
見渡す限り、空一面だ。
その真っ青な空の中に、大きさも高さも違う島が、いくつも浮いている。
島の端から滝が流れ落ち、遥か下の虚空へ消えている。
別の島には、古城のような建物もある。
――あんなところで、戦うのか。
「初回試験で卒業できるのは、最後まで勝ち残った、1チームだけです」
==========
<卒業試験:≪天空諸島の決戦≫>
参加チーム:5チーム
試験形式:3人1組のPVPトーナメント
優勝したチームは、魔法大学を卒業し、本物の魔導師になります!
==========
「1組だけ、ね」
火咲が、不敵に笑った。
俺たち15人のうち、わずか3人だけが世界最速の栄誉に預かれる。
わかりやすい話じゃないか!
「テイムモンスターは使えるんですよね?」
「はい。皆さんが従えている魔物も、皆さんの力の一部ですからね。ただし、1チームにつき連れられるテイムモンスターは2体までとなっています」
これは助かる仕様だ。
モンスター禁止などと言われたら、俺の戦力は大幅に削られてしまう。
というか、錬金術師ロールプレイをするつもりだったのに、明らかに一番強いのがテイムモンスターのミスドラな時点で、なにかがおかしい気はするが。
「主よ。共に初陣を飾ろうぞ」
隣のミスドラが、そういってやる気を見せている。
「頼りにしてるぞ」
「うむ、よい心掛けである」
褒められると、とたんに機嫌が良くなる。竜というのも、わかりやすい種族である。こいつだけかもしれないが。
「全員参加で異存はないですか?」
教授の言葉に、15人が、いっせいに頷いた。
「では、組み合わせを発表します」
その組み合わせは、以下のようなものだった。
最初に戦うのは、先ほどの赤髪の少年たちの3人組と、髭面の大男たち。
俺たちは、その勝者と戦う。
一方、反対側では――
「アンダーラインさんとは、反対側か……」
火咲が、そう呟いた。
アンダーラインのチームと、ミスドラに結婚を申し込んできた黒髪の女のチームが、対戦することになっていた。
つまり、俺たちも向こうも一つ勝てば、決勝で戦うことになる。赤髪の少年と金髪大男のグループだけ一戦多くなっている不運ともとれる。
「要は、2勝すれば、晴れて僕たちが最初の卒業生になれるわけだ」
「簡単に言うなぁ」
「なに、簡単だとは言ってないよ。ただ、勝てない戦いとも思わないというだけさ」
ツキトは、いつも通り微笑んでいた。
頼もしい限りである。
たしかに――
200層で待つ、あの少女、ミナエルに一刻も早くまた会うためにも、できれば最速卒業はしておきたい。
とはいえ、相手はみな、世界に15人しかいない上級魔術師。
しかもその中には、ガチのプロゲーマーまでいるのだ。
なかなかに、厳しい戦いになりそうなのは、間違いなかった。
*****
教授からの説明が終わると、火咲は最初に、アンダーラインの席へ再び向かった。
さきほどと違って、ずんずんと歩いていく感じではなかった。
少しばかり熟考して、それからやっと歩き出したようだった。
「アンダーラインさんっ!」
「どうした、ひさきちゃんねる?」
「さっき、テンパっちゃってちゃんと言えなかったんですけど……実はわたし、
アンダーラインが、火咲を真顔でじっと見る。
「最後に敵を三人とも床ごと落として、そこに飛び込んでいってからワープキャンセルで敵ULTを避けて、再ワープからの味方引き寄せでトリプルキルした試合ですっ! あの、アンダーラインさんがトッププロになるきっかけになった……」
「ああ。
「わたし、あのときまだ中学生でっ。それまで、配信とかたまに見るくらいだったんですけど……あの試合は、本当に、全部すごくてっ!」
火咲は、胸の前で両手を握っていた。
「何度も逆転が起きた試合でした! でも、最後はさすがに、もう負けだなって思ったんですっ。でもアンダーラインさんは、不利盤面でもまったく諦めてなくて……凄まじい早業で、味方と芸術的な連携をして全部倒しちゃってっ……! 最後に生き残ってたの、アンダーラインさんだけでっ……! 腕を突き上げて、全力で雄叫びしてたの、本当に震えましたっ!」
俺は、その試合を知らない。
だが、横で聞いているだけでも、火咲がその試合をどれほど興奮して見ていたのか、どれほど感動したのかは、よく分かった。
というか、いまだに興奮が収まっていないのかもしれない。
何年も前の試合の話で、だ。
こいつは本当に、根っから、プロゲーマーが、eスポーツが、大好きなようだ。
「あれを見て、わたしもVRMMOを本気でやりたいって思って……いつか、こんなプレイで世界を魅せれるプロゲーマーになりたいって、そう思ったんです」
「そうか」
アンダーラインは、そう言って、少しだけ目を細めた。
だが――その横から、突然ツンとした少女の声がした。
「そんなに好きなら、決勝は客席で見てたら?」
先ほど、ミスドラを眺めていたアンダーラインのチームの美少女だった。
綺麗な顔立ちに、いかにも生意気そうな意地悪な笑みを浮かべている。
「師匠は、試合が終わったらサインくらいくれるって」
「は……? なにあなた……? わたしは本気で憧れてるからこそ、ちゃんと本気で戦って、全力で勝ちに行く。それをとやかく言うのは、たとえアンダーラインさんのチームメンバーでも、いや、だからこそ、許さないよ」
「そう? じゃあ、試合で当たったら、わたしが真っ先に潰してあげるよ」
「……ラビット。少し黙れ」
アンダーラインの声を受けて、少女はようやく黙った。
「すまないな、≪ひさきちゃんねる≫。こいつはゲームの実力以外一つもいいところがない未熟者でな。一応俺の弟子なんだが、まったくもってプロゲーマーというものを理解していないんだ」
「わたしは≪シルバーラビット≫。あなたはファンガール、わたしは直弟子。そこんとこよろしくね、≪ひさきちゃんねる≫」
火咲は、いまにもぶち切れそうな様子だが、憧れの人の手前だから、かろうじてこらえていた。偉いな。
しかし、このクソ生意気な美少女はプロゲーマーであるアンダーラインから、直接ゲームを教わっているわけか。
なんだかとんでもなく恵まれた立場のように聞こえる。
「ラビット……次そのゴミみたいな口を開いたら明日付けで契約解除して粗大ごみに突っ込むぞ」
「次もドラゴンが勝手に惚れてくれるといいねっ、ラッキーガールさんっ」
「あそこまで戦ったのは、わたしの頑張りだって多分にあるんだけどねっ! 目が腐っててその程度も分からないかぁ……!」
「はぁ……いますぐその首胴体から放してやろうか可愛い子ぶりっ子ファンガール?」
「ラビット」
二度目の声は、さっきより低かった。
同時――
シルバーラビットの首が、胴体から離れた。
==========
<プレイヤー:≪シルバーラビット≫が死亡しました>
==========
「え?」
「躾だ、気にするな」
アンダーラインは、こともなげに肩をすくめ、火咲に改めて向き直る。
「≪ひさきちゃんねる≫。一つ、詫びとして、俺のちょっとした昔話を語らせてほしいんだ」
「は、はい……昔話?」
「配信でも語っていない話だ。ま、ここだけのファンサービスってやつだな」
「……えっ!? いいんですかっ!?」
火咲の声が、明らかに一段高くなった。
たしかに、とんでもないファンサービスである。
俺が火咲の立場だったら、もう有頂天になることだろう。
アンダーラインは、そんな火咲を見て、にやりと笑った。
「あの試合は、俺にとっても、一番、特別な試合だった」
「俺は、とあるスラムで育った。当時は、さっき死んだクソガキは、まだ本当にガキの孤児だった」
「……スラム……ですか?」
「ああ。そこにはゲームをやる機材が街に一台しかなくて、暴力で奪ってきた連中が仲間同士、十何人で順番に使ってた。動かなくなるたびに、なんとかして直したりして、ポンコツな機材で戦ってたんだ」
俺は、思わずアンダーラインを見た。
さっきまで、俺たちを挑発していた、美しい少女。
そして、その隣の、世界的に有名なプロゲーマー。
そんな二人の今の姿からは、とても想像もつかない話だった。
「そんな環境でも、俺は決してあきらめなかった。強くなり、小金を稼げるようになってからは、仲間たちや子供たちの生活を全て背負って、戦っていた」
「……」
「あの決勝の日も、スラムの連中は全員が集まって見ていた。お前と同じ試合を、同じ時間に」
「……そうなんですね」
「負けられなかった。負けられるはずもなかった。あのクソったれな環境で腐り切ってる仲間たちに、勝って、スラム育ちのドブネズミがどこまで行けるのか、見せつけてやりたかったからな。馬鹿どもには、背中で語るしかねぇんだよ」
そう言って、アンダーラインは自分の手を見た。
「そうして、絶対に諦めず、勝機を練り、逆転し、優勝して、すさまじい賞金が入った。契約の話も来た。それで、まず仲間全員をあのごみ溜めから出した」
「全員……?」
「ああ。一緒に育った連中、全員だ」
さらりと、とんでもないことを言った。
「今も、一緒に近くで暮らしてる。裏方に回った奴もいれば、別の仕事を始めた奴もいるがな。それでもみんな、昔からすれば信じられない、いい暮らしをしてるんだぜ」
それから、少女の死体を示す。
「で、このクソガキにはそいつらの中で一番才能があった。だから、徹底的に鍛えた。横から暴言を吐いてるだけで終わらせるのは、もったいなかったからな」
恵まれた立場。
俺はさっき、確かにそう思った。
だが、この二人は、そこへ来るまでに、どれほどの試練を乗り越えてきたのだろう。
裕福な日本で暮らす俺には、想像もつかなかった。
「だから、ファンにあの試合の話をされるのは、正直一番嬉しいんだぜ」
アンダーラインは、火咲を真正面から見つめ、格好よく笑う。
「勝ってよかった。今でもそう思う」
火咲は、何度も、何度も頷いていた。
「俺にとって、ゲームは遊びじゃない」
アンダーラインは、語り続けた。
「もちろん、ただ金を稼ぐための仕事ってわけでもない。ゲームってのはな、あのクソ共と一緒と育って、ここまで這い上がった俺が、どういう人生を歩んだどういう人間なのか、それを全力で叩きつけるところなんだ」
火咲は、身じろぎもしなかった。
ただ、震えている。
「つまりは、俺の人生を表現する芸術であり、絶対に勝利を掴まないといけない戦争であり、なにより――」
アンダーラインは、そこで、火咲の両肩を掴んだ。
「――観客に最高のゲームを魅せるための、究極のエンタメなんだ……!」
火咲は、驚き、涙すら浮かべていた。
「――見終わったあとも決して忘れられない、頭から離れない、次も絶対また見たいと思わせる、そんなプレイを魅せる。それが真のプロゲーマーだ」
「……はいっ!」
「だが、俺は決して相手に勝利を渡すつもりはない。死力を尽くして、考えられる最善を尽くして、勝つ。ゆえに、お前と当たったとしても、俺は一切容赦しない」
淡々とした声だった。
人を圧倒しようとしているわけでも、こちらを脅しているわけでもない。
ただ、自分がどうやってゲームをしてきたかを、淡々と話している。
なのに、震える。
震えが止まらない。
これが、本物のプロゲーマー……
本物の哲学を持った、本物の男だ、この人は……!
「それが、俺だ」
俺の隣で、ツキトも静かに話を聞いていた。
いつものように、微笑んではおらず、真剣な表情だ。
「……すごい、です」
火咲の声は、涙で震えていた。
「わたし、あの試合を見て……うまく分からなかったけど、何か、とんでもなくすごいものを見てしまったって、たしかに思ったんです」
目元を、指で拭う。
「ただ、強いとか、上手いとか、それだけじゃなくて……わたしも、こんなふうにゲームがしたいってっ……全力で魂を賭けて戦いたいって!」
その指が、もう一度、目元へ戻る。
火咲は、泣いていた。
俺は、こいつがゲームを好きなことは知っていた。
プロゲーマーになりたがっていることも、もちろん知っていた。
だが――その始まりが、どんなものだったのかまでは、知らなかった。
その思いが、どんなに強いものかを知らなかった。
きっかけは、目の前のこの男の、一つの試合だったのだ。
それが今、現実の未来の対戦相手の一人として、ここにいる。
火咲は、一度、ぎゅっと目を閉じた。
それから目元を拭いて、顔を上げる。
「わたしはずっと、あなたみたいになりたかった」
アンダーラインは、黙って聞いていた。
「でも、だからこそ今度は――」
火咲が、泣きながら笑った。
目はまだ赤い。
声も、震えている。
それでも、その先の言葉は、はっきりとしていた。
「あなたに憧れた一人のプレイヤーとして、全力で勝ちます」
アンダーラインの口元が、持ち上がった。
「お前はすでに、プロゲーマーのなんたるかを理解している。全力で来い」
そして――
「その上で、俺が勝利する」
――いい勝負をしよう、ではなかった。
二人ともが、自分が勝つと、そう言いきった。
もはや、語る言葉はなかった。
火咲は静かに振り返り、後ろへと歩き出す。
「キョウスケっ! ツキトっ!」
「なんだ?」
「わたしたち、勝つよっ!」
「……そうだな」
「僕も、そのつもりだ……めずらしく、滾ったよ」
せっかく世界に15人しかいない高いところまで来たのだ。
なのに、他人が格好よく勝つところを眺めて終わるのは、考えてみれば面白くない。
そして――
もし仮に、この火咲が、あの最高に恰好いい男を倒して勝ったら――
――いったい、どれほど喜びに溢れた笑顔を見せてくれるだろう……?
……ちょっと、見てみたいよなっ!
そうして、火咲がずっとずっと憧れていた、最高に恰好いいプロゲーマーに勝つための、俺たちの準備期間が始まったのだった――