【悲報】錬金術師ロールプレイのつもりでVRMMO始めたのに現実の才能を反映した固有スキルが【魅了】だったんだが。しかもこのスキルなんかリアルの女友達にも効いてるけどバグ?   作:ひきさん

25 / 26
第25話 ≪古代宝宮≫の冒険

 大扉を開けると、俺たちの目の前を、金色の魚が泳いでいった。

 

 長い尾をゆらゆらと揺らし、鼻先を通り過ぎ、広間の奥へとそのまま泳いでいく。

 

「……魚?」

 

「水もないのにねっ」

 

 火咲は、また泳いできた魚を指でつつこうとするが、魚はするりと避ける。

 そのまま指先の周りを一周してから、ふわふわと上へ逃げていった。

 

「これ、かわいいっ! テイムできないかな?」

 

「それもいいけど、早く中を見てみようよ」

 

 ツキトの声で、俺たちはダンジョンの奥へと視線を戻す。

 

 そこには、庭園が広がっていた。

 

 吹き抜けになって開かれた、巨大な庭園。

 白い石でできた細い通路が何本も空に架かり、その間を、大小さまざまな茶色の球体が漂っている。

 

 その球体からは、木が生えていた。

 

 上側だけではない。横からも、下からも生えている。

 まるで、小さな惑星に庭を作ってみた、とでも言わんばかりの光景だった。

 

 その丸い庭の表面を、金色の魚が泳いでいる。

 ときどき木の枝へ集まっては、茂った果物を食らい、また空中へと泳ぎ出す。

 

 ――すごいな。

 

 砂漠の真ん中に、こんな場所があるとは。

 

 上を見れば、外でも見た巨大な金輪が、庭園を囲むようにぐるぐると回転していた。

 金輪から垂れた紫色の光は、球体の根元へと繋がり、なにかエネルギーを与えているようだ。

 

「これ、全部、魔術なのかな……」

 

 火咲が、ぽかんと口を開けてその光景に見惚れていた。

 

「この変わった木も素材になるかもね。実もなってるし」

 

 ツキトの言葉に、俺は近くを漂っている一つの庭に目をつけた。

 

 人間が何人か乗れそうな大きさの、球形の土の塊。

 その表面に、青く光る実が生った果樹が生えていた。

 

 石の通路を移動し、腕を伸ばしてみる。

 指先が、枝へ触れた。

 

 あと、少し――

 

「あれっ……?」

 

 ――途端、足が、ひとりでに床から離れた。

 

 次の瞬間、俺は横向きに、木の根元へまっすぐに落ちていた。

 

「うおおおっ!?」

 

 地面に向けて上向きに手をつき、なんとか転倒を免れる。

 慌てて顔を上げると――火咲が、横向きに立っていた。

 

 いや、違う――

 

 俺が、横向きに立っているんだっ!

 

「あははっ! キョウスケが横に落ちたねっ!」

 

「笑ってる暇があったら、戻し方でも考えてくれ!」

 

「こっちに飛べばいいんじゃない?」

 

 飛べと言われても、俺には【流動空気】もなにもないのだが。

 

 そんな俺の様子を見て、火咲は早速【流動空気】で宙へ浮いた。

 そのまま俺の立つ小さな庭へと飛び乗ってくる。

 

「おっ! すごいっ! こっちが下になったよっ!」

 

 火咲は、そのまま木の周りを歩き始めた。

 球体の側面を下り、その裏側へと回っていく。

 

 ――それでも、落ちない。

 

 さっきまで頭の下にあったはずの地面を、普通に反対向きに歩いていく。

 

「キョウスケっ! 下まで来てみてよっ! こっちにも道があるみたい!」

 

「おーマジか」

 

 おそるおそる、火咲の後を追う。

 

 一歩進むたびに、周囲の風景が傾いて向きを変える。

 だが足の裏自体は、確かに地面を踏んでいる。

 この球体の上では、俺にとっての真下というのが、ずっとこの丸い地面の中心の方にあるらしい。

 

 球体の真下へ回ったところで、俺は顔を上げた。

 

 頭の上に、別の通路があった。

 正面玄関からは見えなかった、庭園の奥へと続く細い橋。

 

 ――あの通路から見ると、俺たちは頭を下にして立っているのか。

 

「……酔いそうだな」

 

「でも、面白いねっ!」

 

 火咲は木の幹を掴みながら身体を乗り出し、次の庭までのルートを測っている。

 完全に新しい遊具を見つけた子供のようだった。

 

 俺は、そこで気になるものに気付いた。

 

 土の中へ、金色の輪が埋まっている。

 木の根元で、土を削ることなく、ゆっくり回っている。

 

 ――こいつが、この庭を浮かせているのでは?

 

 そう思った時に、閃いたことがあった。

 

 ――この輪っかを持って帰ったら、面白いんじゃないか?

 

 たぶん新しい≪式≫が手に入る気がするし、素材としても有用そうだ。

 

「……火咲。この輪っか、持って帰らないか?」

 

 金輪を指で示すと、火咲はにやりと笑った。

 

「いいこと考えるね?」

 

 それから全員で奥にあった通路の側に移動してから、火咲の【流動地面】で金輪を取り出し、そのままキャッチした。

 

 ≪重力の金輪≫なるアイテムとして、金輪はいったん火咲のアイテムボックスに入った。

 

 それから俺たちは庭園の奥へ進むことにした。

 

 ちなみに、その前後で果実も採れた。

 

 ≪浮遊桃≫というらしい。

 

 ふわふわと浮き上がろうとする桃である。

 

「これ、食べたら、浮けたりしないかなっ」

 

「ご主人様っ♡ 特別にベルが調べてあげますよっ♡」

 

「お前は元から浮いてるし食べたいだけだろ」

 

 とりあえず、これは錬金料理の材料として持ち帰ろう。

 

 そんな調子で探索するうちに、橋の先に、鎧の魔物らしき存在が立っているのを見つけた。

 

 金鎧の魔物。

 手に長い槍を持ち、背中には、あの庭のものとよく似た金輪を背負っている。

 

「主よ。敵だ」

 

「分かるよ。倒すか」

 

 俺は、風王剣を抜いた。

 

 鎧の兜の中に、紫色の光が灯った。

 

==========

 アンコモンモンスター:≪金輪の騎士≫が現れた!

==========

 

 鎧が、槍を構え、次の瞬間――

 

 ――橋の横へ、跳んだ。

 

「はっ?」

 

 自分から落ちた?

 

 いや――違う!

 

 横へ飛び出した鎧は、途中で急に向きを変え、そのまま橋の下へ潜り込んだ。

 金属の足が、石を蹴る音が足元からする。

 

「下だねっ!」

 

 ツキトの声と同時、橋の真下から槍の穂先が突き出した。

 足元の石が割れる。

 

「うおおっ!?」

 

 俺は横へ跳んで回避する。

 

 あと一歩で、股の下から真っ二つにされるところだった。

 

「【流動空気】!」

 

 火咲の突風が、鎧を橋の下から吹き飛ばす。

 

 だが、鎧はそこで背中の金輪を再び回転させた。

 そのまま落ちるはずだった軌道が、不自然な角度で曲がった。

 別の橋の側面へと着地し、もう一度、こちらへ跳んでくる!

 

「ふん」

 

 ミスドラが、容易げに片手で槍を掴んだ。

 

 金属の歪む、嫌な音がする。

 槍の柄が、ぐにゃりと曲がっていた。

 

「鬱陶しい虫のような奴である」

 

「ミスドラ、背中の輪は壊さないでくれよ」

 

「注文の多い主だ」

 

 言いつつ、ミスドラは掴んだ槍ごと鎧を引き寄せ、反対側の手を兜へ伸ばし――そのまま、首をねじ切る。

 

 金色の兜が、俺の足元へ転がってきた。

 

「……いやぁ、強いなぁ、お前」

 

「当然である」

 

 圧倒的ステータスの暴力を感じる戦闘だった。

 

 一応、動きの止まった鎧へ剣を突き入れた。

 兜から伸びていた紫色の光が、鎧の内側でも輝いていることに気付いたからだ。

 そこに風王剣の刃が届くと――

 

 ばちっ、と音がして光が消えた。

 

==========

 <≪金輪の騎士≫を討伐しました!>

 

 ≪古代の手甲≫がドロップしました!

 ≪雷晶≫がドロップしました!

 ≪転向の金輪≫がドロップしました!

==========

 

「よしっ! 輪、出たぞ!」

 

「それ、僕にくれないかな。数学魔術系だと思うんだけど」

 

 珍しく、ツキトの反応が早い。

 アイテムボックスから輪を取り出し、渡してやる。

 

「あの曲がり方、ベクトル系の魔術じゃないかなって気になってたんだ」

 

「回転軌道にする魔術は、お前も使ってたもんな」

 

「そうだね。あれは位相系なんだけど、これがあると、また違う戦い方ができそうだと思ってね」

 

 ツキトは金輪を回し、内側に刻まれている古代文字を眺める。

 

「……本当に面白いゲームだね」

 

 いつもの微笑みとは違う、もっと単純な、子供のように嬉しそうな表情だった。

 分かる、分かるぞ。

 新しいおもちゃを何に使えるのか考え始めるだけで、本当に楽しいよな。

 

「同じやつがもう何体かいれば、全員分ゲットできるねっ!」

 

 火咲が、先ほどまで敵が立っていた橋の向こうを覗き込む。

 

 ……いた。

 

 通路の先で、同じ金色の鎧が二体、こちらを向いていた。

 

「おっ、ちょうど二体だなっ!」

 

 俺の目にはもう、二体の敵が魔術素材に見えていた。

 

 ――ミスドラには、もう少し頑張ってもらおう。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 庭を渡って、橋をくぐったり、時には裏側を通って、現れた鎧を倒して素材を集める。

 高低差や厄介な地形効果はあるが、火咲とベルが楽々と俺たちを運んでくれる。

 

 徒歩なら苦労する迷宮も、便利な魔術が使える仲間がいると、だいぶ話が変わってくるようだ。

 

「いいねぇっ! やっぱり、魔術がいろいろあると、探索も楽しいねぇっ!」

 

「だな」

 

 アイテムボックスには、金色の鎧と、輪と、不思議な果物たちが増えていた。

 

 ――いやぁ、来てよかったな! 上級魔術師、最高!

 

 そう思った直後、俺たちはいったん足を止めた。

 

 道が、なくなっていたのだ。

 

 目の前には、巨大な吹き抜け。

 その向こうの壁に、大きな扉がある。

 

 距離は、数十メートルといったところだろうか。

 

「……飛ぶ感じの地形か?」

 

「たぶんそうだけど、ちょっと待ってっ!」

 

 火咲は恐れも知らず身を乗り出し、下を覗き込んだ。

 

「うわぁ、深いなぁ……」

 

 俺も横から見てみる。

 

 はるか下に、金色の何かが見えた。

 ぐるぐると回っている、大きな輪。

 その周りで、紫色の光が時折跳ねている。

 

 ――その瞬間。

 

 対岸の扉の上の、彫刻の口ががばりと開いた。

 

「【流動空気】!」

 

 火咲が俺を引っ張りながら、後ろへと勢いよく跳んだ。

 

 目の前を、白い稲妻が通り過ぎる。

 

 空気が弾け、耳が痛くなるような音が、あたりに響いた。

 

「雷魔術!」

 

 光は反対側の壁にあった金色の輪へ吸い込まれ、輪郭を紫に光らせた。

 

 輪の中心で一瞬だけ留まった光が、また別の輪へ飛ぶ。

 さらに、その隣へ光が走る。

 

 広間のあちこちを、雷が跳ね回るようにダンスする。

 

 何もなかったはずの空間が、気付けば巨大な雷たちの檻と化していた。

 

「……これ、どうする?」

 

「あれを避けながらキョウスケ運ぶのは、さすがに無理かもねっ!」

 

「我も、あれを浴びるのは好かぬ」

 

 炎に強いからといって、雷までオッケーというわけでもないようだ。

 

 俺たちはいったん通路の曲がり角まで下がった。

 ここには雷は飛んでこない。

 

「あの顔を壊せば、止まるんじゃないか?」

 

「壊していいなら、ツキトのあれをここからぶちかませばいいんじゃない?」

 

「扉まで崩れると面倒だね。もう少し考えてみない?」

 

 ツキトの言葉に、俺も改めて広間を覗いて思考を巡らせる。

 

 彫刻の口から、断続的に雷が放たれている。

 

 対岸の輪。

 上の輪。

 下の輪。

 

 ……全部、輪を通っている。

 

 輪から輪へ、決まった順番で雷を流しているように見える。

 そして、ぐるりと一周した雷は、最終的に下の巨大な輪へと流れ込んで終わる。

 

「これ……雷を撃ってるというよりは、電流を流してる感じだよな」

 

「そうだね」

 

 火咲も、気付いたようだ。

 

「……流動魔術だ」

 

 空気。地面。音。

 

 火咲は今まで、色々なものに流動魔術を使ってきた。

 それなら、もしかすると雷だって操れるかもしれない。

 

 仮にできたら、だいぶ面白そうだ。

 

 だが、今はまず、この状況をなんとかしなければ。

 

 俺は、最初に雷を受ける輪を見た。

 通路のすぐ横の壁に、金色の留め具で固定されている。

 

 輪そのものは、俺が両手で抱えられそうな大きさだった。

 

「……ミスドラ。あれ、壁から抜いてみよう」

 

「よいぞ」

 

「雷が通ってる間に触ったら、ミスドラでも危ないんじゃない?」

 

「止まってる間があるからな。ツキト、次に雷が来るまでの間隔、占ってもらえるか?」

 

「いいね。【卜占未来】」

 

 ツキトがオーブを構える。

 

==========

 <占いの結果が出ました!>

 次の雷撃の後、7秒間、この金輪を雷は通らないでしょう。

==========

 

「7秒か」

 

「十分な猶予である」

 

「引っこ抜いたら、持ったままこっちに戻ってこないようにね。次の雷がどうなるか分かんないから」

 

 火咲のまともな正論に、頷く。

 

「輪は、こっちの通路じゃなくて、広間の方へ置いてくれ」

 

「承知した」

 

 俺たちは曲がり角の向こうへ一度下がる。

 

 次の雷が、ターゲットとしている金輪を通過した。

 

 ――直後、ミスドラがジャンプし、壁へと手を伸ばす。

 

 金色の留め具を掴み、ぐいっと引っぱる。

 

 めきめきめきっ、と音を立てて、壁から剥がれる音がした。

 

 輪を外したミスドラは、元の位置から大きく動かさないまま、輪の向きを斜め下へ傾け置いた。

 

 彫刻の口が、光り、雷が飛んでくる。

 

 ――そして、ミスドラの置いた輪の中へ吸い寄せられ、そこで、真下へと折れ曲がった。

 

 吹き抜けの底へ、白い雷が落ちていく。

 今までいくつもの輪を渡っていた光が、途中の過程を飛ばして、底の巨輪に吸い込まれた形だ。

 

「おおおっ!」

 

「いいねっ!」

 

「ついでに、ちょっと試すか」

 

 雷が途切れたその隙に、俺も通路の端へ出た。

 輪から伸びている留め具へ手を当てる。

 

「【錬金精錬】!」

 

 金属の形が変わる。

 壁へ食い込んでいた留め具が、三本の脚となって通路の外側へ下ろされた。

 

 次の雷は、その脚を通って真下へ流れていった。

 

「……おっ!」

 

 こういうこともできるんだな。

 

「なんにせよ、これで渡れるようになったね!」

 

「だなっ!」

 

 火咲とベルに運んでもらって、俺たちは無事扉側へと渡り終えた。

 

 顔を見合わせ、扉を開ける。

 扉の先には、赤い絨毯の敷かれた、長い通路が伸びていた。

 

 いよいよ宮殿らしくなってきた。

 

 俺たちは、意気揚々と赤い絨毯を踏みしめ、何者かが待っているだろう奥へと、進んでいく――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。