ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
意識が戻った頃、トロッコは、別の廃墟に止まっていた。
結局私たちは、地下から出られていない。
「でも風が来ているのです」
「まあね」
ただ、目の前にあるのはただのデカい壁だ。結果だけを見れば、結局地下に生き埋め状態。
穴は……開いている。人一人なら通れそう。
「どうする?」
「行くのです」
「即決だ。じゃあ……ニンフィア、先行ける?」
「フィア」
身を低くして入る。コンテストや修行で培った柔軟性で、ニンフィアはするりと奥まで入っていった。
「大丈夫そう?」
「フィア!」
「じゃあ私も」
身体を横にする。だけど、すぐさまこの感想を抱いた。
「うっ、狭いっ……」
壁、土、錆びた鉄骨が、視覚と嗅覚を埋め尽くす。
「服引っかかった!」
「早くするのです! 後ろから押すのです?」
「絶対やめて!」
「冗談なのです」
「今のラピスだと本当にやりそうなんだって!」
「失礼なのです!」
なんとか抜けると、その先の足元が急になくなった。
「うわっ!」
「フィア!」
ニンフィアの触角が腕に巻きつく。
「ありがと……!」
これ、研究所でも同じことがあったような。
私の足がぶら下がっている下は、真っ暗だ。
「深いのです」
ラピスも抜けてくる。
スマホロトムで周囲を照らすと、ようやくそこに何があるのかが分かった。
「建物?」
下には、屋根と錆びた鉄骨に加え、看板らしきものが並んでいる。さらに目を凝らせば、通路まで見えてくる。
「ここ地下だよね? なんで街があるの?」
「…………」
ラピスは何も言わない。
「ラピス? もしかして、知ってる場所?」
「……降りるのです」
ラピスがチルタリスへ乗った。そのまま滑空して、街まで降りていく
「え、ちょっと! 安全なの?」
「分からないのです。でも確かめる必要があるのです」
そう言って、チルタリスの姿はどんどん小さくなっていく。
私とニンフィアは顔を合わせて、足場から下を見つめる。
「ニンフィア、行けそう?」
「フィア」
「え、また?」
ニンフィアがまた跳ぶ。
触角を鉄骨に巻きつけて、またぶらさがっていく。
「本当にそれ好きなのです?」
「好きでやってるんじゃない!」
「フィア!」
「ニンフィアは楽しそうなのです」
「あとで話し合う」
私もニンフィアの触角を借りて降りる。
「うわっ……!」
そうしてようやく着地した途端、埃が舞う。
「げほっ」
「フィア」
「大丈夫」
ラピスもチルタリスと一緒に降りてくる。
広い。
本当に街だったんだ。
道も建物も看板も街灯もある
でも全部……半分以上は、土砂に埋まっている。
「何ここ……場所分かる?」
『現在地情報が不安定ロト! 地下深くで通信も弱いロト!』
「そっか」
スマホロトムにも分からないか。この地下の町、何なんだろう。
近くに看板があるし、何か分からないかな。
へばりついている砂を払って、文字が露になっていく。
「U……」
さらに。
「N……D……E……R。アンダー」
ラピスが止まった。
「これって、さっき言ってた地下街だよね?」
「……なのです」
長い沈黙を経て、ラピスは口を開いた
「昔、オーレ地方にあった地下都市なのです」
「地下都市? そんなのあったの?」
「当時はもっと大きかったのです」
「え? でも……」
周囲はもう、完全に埋まっており。都市どころか、町だとすら思えない。
「なんでこんなことになってるの?」
「閉鎖されて、埋められたのです」
「……埋められた?」
「二十五年前、シャドー事件の後」
「ここもシャドーと関係ある?」
「かなり」
ラピスが頷く。
「アンダーは、かつてシャドーの影響が非常に強かった街なのです」
「じゃあ、事件のあと潰したの?」
「潰したというより、封鎖して、埋めたのです」
「全部?」
「そのはずだったのです」
じゃあ、今はもう。
いや、こういう廃墟って大抵……。
「人が住んでる可能性は?」
「ほとんどないと思うのです」
「ほとんど」
「絶対とは言ってないのです」
「怖い言い方しないでよ」
ニンフィアが前へ出る。
「フィア……」
「どうしたの?」
ニンフィアの耳が動いている。もしかして、何か聞こえる?
「フィア」
「チル?」
チルタリスも。何かに気付いたみたい。
やがて、私の耳にもかんかんと金属を叩くような音が聞こえてきた。
「人? それとも」
ラピスがオーラサーチャーを見る。
「ダークオーラはないのです」
「じゃあ普通?」
「少なくともダークポケモンではないのです」
「じゃあ、行く?」
「先にリオルなのです」
ラピスが私のバッグを見る
「ここなら、シャドーの追手もすぐには来ないはずなのです。一度状態を見るのです」
「……出していい?」
「なのです」
言われて、私はバッグの中のボールを手に取った。
「ニンフィア、少し離れてて」
「フィア?」
「念のため」
だけど、ニンフィアが離れない。私とモンスターボールを交互に、心配そうに見つめている。
「……分かった。でも無茶しないでね」
「フィア」
ラピスとチルタリスも構える。
「いつでも戻せるようにするのです」
「うん。……出すよ」
ボールを投げて、光とともに小さな体___リオルが現れた。
「……」
立っている。まるで石像のように。
「リオル。聞こえてる?」
反応なし。その目はまだ冷たくて、空っぽのままだ。
「エルサ。無理に近づくななのです」
「分かってる」
一歩、動いた。リオルが。
こっちに向けて。
黒紫色の拳を放って。
「下がるのです!」
「フィア!」
ニンフィアとラピスが声を上げた。
でも。
「待って! 攻撃しないで」
リオルは拳を構えたまま、震えている。
傷も、さっきのままだ。
「もう戦わなくていいよ」
「……」
一歩、近づく。
「来なくていい」
さらに近づく。
「私は、何もしないから」
「……」
リオルの拳が上がって。
「エルサ!」
「戻って……普通のリオルに」
「……」
拳が、もう目の前に迫って。
止まった。
「え」
ほんの一瞬、リオルの目が、揺れた。
「ラピス」
「見えてるのです」
そして。
「リオル」
私は呼ぶ。
「もう」
少し、笑う。
「ルカリオにならなくていいよ。リオルのままでいいから」
拳がゆっくりと下がった。
「エルサ」
ラピスがオーラサーチャーを見ている。
「今、ほんの少しだけ……ココロのトビラが開いたのです」
「……」
ニンフィアがゆっくりとリオルへ近づく。
「フィ」
ニンフィアが触角をゆっくり伸ばす。
それに対して、リオルは___
拳を上げた。
「ニンフィア!」
でも、振り降ろさない。
「……」
触角と手が触れ合った。
「フィア」
「……」
数秒、そのまま。それだけでリオルは触角を振り払った。
「フィア……」
「まあ、最初はそんなもんだよ」
「……なのです」
ラピスもほんの少し笑った。