ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
リオルをボールへ戻した。
「とりあえず……ちょっと安心かな」
「安心するには百年くらい早いのです」
「百年?」
「比喩なのです!」
「ラピスが言うと本当に百年研究しそうだから怖いんだよ」
「失礼なのです」
でも、さっきよりはいい。
ほんの少しだけだったけど、リオルは止まった。
私にもニンフィアにも襲って来なかった。
「フィア」
ニンフィアが私のバッグを見上げている。
「気になる?」
「フィア」
「また出すのはもう少し待とう」
「フィ」
ニンフィアが、ちょっと残念そうに顔を落とした。
「友達になりたいの?」
「フィア!」
「早いなあ」
ニンフィアらしいけど。
「そのくらいでいいのです」
「え?」
ラピスが歩き出した。
「ダークポケモンのココロを開くのに、特別なことばかり必要なわけではないのです」
「さっき言ってた、普通に接する?」
「なのです」
そこでラピスの足が止まった。
「……」
「どうしたの?」
「音なのです」
確かに、さっきから聞こえていた、金属を叩くような音が響いている。
カンカンと、何かを叩くような音。
「やっぱり誰かいる?」
「……むむ」
ラピスがオーラサーチャーを見るけど、反応はなさそうだ。
「行ってみる?」
「慎重に、なのです」
「了解」
ニンフィアが前、チルタリスが後ろ。その間を、私とラピスが続く。
完全に廃墟になった地下都市を歩いていく。改めて見ると、不思議な場所だ。
こんなに大きな街が、そのまま地面の下に埋まっている。
店だったらしい建物や階段、街灯、大きな看板、広場。
でも人はいない。本当に、一人も。
「……静かだね」
「なのです」
「昔は人がいたんでしょ?」
「たくさんいた……はずなのです」
「はず?」
「資料でしか知らないのです」
あ、今さらっと誤魔化した。
「ラピス」
「なんなのです?」
「二十年前……じゃなかった、二十五年前――」
「音の正体を調べるのが先なのです!」
「あっ逃げた!」
「逃げてないのです!」
絶対逃げた。
でも、今は確かにそっちが先だ。
さらに進むと、この連続しているカンカンって音が近くなった。
「この辺?」
「チル……」
チルタリスが上を見る。
「え? 上?」
天井。いや、崩れた建物の向こうで何か動いている。
「なんなのです?」
「あれ、機械じゃない?」
古びたアームが一定の間隔で鉄板を叩いている。
「……自動設備なのです」
「人じゃなかったか。めちゃくちゃ身構えたのに」
「安全ならそれでいいのです」
ラピスが機械を見る。
「ただ……動いているのはおかしいのです」
「二十年経ってるから?」
「それもあるのです」
機械の側面には、比較的新しいケーブルが一本だけ伸びている。
「これ、誰かが電力を通しているのです」
「シャドー?」
「可能性はあるのです」
「さっきのトロッコも動いてたしね」
つまり、アンダーそのものは捨てられていても、その一部をシャドーが使ってるかもしれないってこと?
「早く出た方がよさそうだね。問題は、出口がどこかってことだけど……ラピス?」
「……」
「まさか」
「昔の地図なら頭に入っているのです」
「二十年前の?」
「なのです」
「またそれ!」
「でも街の大半が埋まっているから、今も同じとは限らないのです!」
「じゃあ結局?」
「探すのです」
「天才博士!」
「天才にも無理なものはあるのです!」
結局、この地下街を歩き回ることになる。うう、土のにおいを感じなくなってきた。
「……これ、同じところじゃない?」
「違うのです」
「あの看板、さっき見た」
「似ているだけなのです」
「その横の壊れた自販機も見たんだけど……もしかして、迷った?」
「探索中なのです」
「迷ったんだ」
「探索中なのです!」
さらに十分。
「……」
「……」
「ラピス」
「分かってるのです!」
突然ニンフィアが止まった。
「フィア?」
「どうしたの?」
鼻を動かしている。
「何か臭う?」
「フィア」
「ニンフィア?」
ニンフィアが、少し先に進んでいくから、私たちもついていく。
瓦礫と、崩れた通路や傾いた階段を抜けると。
「……風?」
僅かだけど、乾いた風が吹いている。
「外の空気なのです!」
「ニンフィア! お手柄だよ!」
「フィア!」
「ニンフィア天才!」
「フィア!」
「わたしの立場!」
ニンフィアが得意そうに胸を張った。
出口と言っていいのか分からないけど、上へ続いている崩れかけた階段があった。
「これ登るの?」
「他にないのです」
「そればっかりだね」
そうして昇って、途中から階段がなくなった。
「……」
「チルタリスの出番なのです」
「よろしくお願いします」
「チル!」
今度は素直に頼る。
チルタリスがラピスを乗せて先に上へ。
続いて、私も。
「え、私も乗れる?」
「一人ずつなら大丈夫なのです」
地上からラピスがそう言ってくれた。
「さっきもそうしてくれれば楽だったのに」
「逃げていたのです!」
「はいはい」
「チルー!」
ニンフィアをボールに戻して、チルタリスに掴まって、ふわっと身体が浮いた。
「うわ」
さっきまで走り回っていたせいか、ただ浮いてるだけなのにすごく楽。
「チルタリスっていいなあ」
「チル?」
「移動が楽」
「そこなのです!?」
「重要じゃん」
どんどん明るくなる。そして。
「出口だあああああああああああああああ!」
ああ、光、太陽、青い空、砂、乾いた風。
「外だああああああああああああああああ!」
「チルー!」
地面へ降りて、ニンフィアも出す。
「フィア!」
「外だよニンフィア!」
「フィアー!」
思わず二人で喜んだ。
「地下長かったぁ……もう、時間感覚もないよ」
「本当なのです」
ラピスも座り込んでいる。
「……」
でも、私はそこでようやく周りを見た。
「……あれ?」
砂漠なのは分かる。オーレ地方なんだから。
でも、近くに建物がある。
それもたくさん。
「近くに街があるの?」
「なのです?」
ラピスも立ち上がる。
岩と砂埃に囲まれた街。フェナスとは全然違う。
向こうは水と白い建物に囲まれた綺麗な街だったけど、こっちは乾いている。
古い建物や剥き出しの鉄骨。
人も多い。トレーナーらしい人やポケモン、バイク。
何だかものすごく荒っぽい。
「どこ、ここ?」
こういうときはスマホロトムだ。
目の前に飛び出してきたロトムは、しばらく読み込んで答えた。
『通信復帰ロト! 位置情報を確認するロト!』
「やっと使える!」
画面が切り替わる。
地図、現在位置。
そして。
『ここはパイラタウン周辺ロト!』
「……パイラタウン?」
『そうロト!』
「……え? 待って。私たち、フェナスの近くの……ていうか、あれは位置的にラルガタワーのが近いか……とにかく、オーレ全体でいうと結構南の研究所にいたよね?」
「なのです」
「地下に逃げて」
「なのです」
「アンダーを通った」
「なのです」
「で、ここパイラ? オーレでいうと南西の?」
「……なのです」
「移動しすぎじゃない!?」
「地下鉄道なのです!」
「地下鉄道すごっ! というかアンダーって……」
「パイラタウンの地下に造られていた街なのです」
「……」
私は固まった。
「有名なパイラタウンの下に街が!?」
「正確には、あった、なのです」
「いやいやいや!」
足元を指差す。
「今歩いてたじゃん!」
「残骸なのです!」
「こんな規模の!?」
「オーレでは有名な話なのです」
「知らない! 私ホウエン出身だから!」
そのとき。
「嬢ちゃんたち」
声をかけられた。振り返ると、ゴーリキー……と、それを連れた三十代くらいの男性がいた。
「今、そこから出てきたのか?」
彼は私たちが出てきた穴を指差す。
「そこ、立入禁止だぞ」
「……」
私とラピス。
顔を合わせた。
「知ってた?」
「知らないのです」
「だと思った」
男は頭のヘルメットに手を当てながら説明してくれた。
「最近、あの辺で地面が変に振動するってんで、近づかないよう言われてるんだ」
「振動……」
セトとハガネールがやってたダーククエイク。
たぶん……いや、絶対あれを地下で実験してたんだ。
「何かあったのか?」
「えっと」
何て言う?
地下で悪の組織に追いかけられました。
ダークポケモンのハガネールに殺されかけました。
ついでに昔埋められた地下都市を通ってきました。
「……」
信用される?
「道に迷いました!」
「迷ってそこから出るか?」
それはもうごもっとも。
◇
結局、パイラタウンに入った。
「うわ」
まず思った。
フェナスとは全然違うって。
「すごいね」
「何がなのです?」
「雰囲気が」
建物が密集している。
通りも狭いし、店や屋台が何ていうか、少しアウトロー感がある。
バトルしてる人や大声で何か言い争っている人、その横を普通に歩いていくポケモンがなんだか皆柄悪そうで。
「……治安も悪そう」
「昔よりはかなり良くなっているはずなのです」
「これで?」
「昔はもっと酷かったのです」
「想像したくないなあ」
でも、怖いだけではない。
活気はある。
何だか、妙に生き生きしている街だ。