ポケットモンスターLEGENDS オーレ   作:カラス レヴィナ

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アゲトビレッジ

 天井、知らない部屋。

 

「……どこだっけここ?」

「フィア」

 

 隣には、ニンフィアが大きな欠伸をしていた。

 あ、そうだ。ここはパイラのトレーナーホテルだ。

 ということは。

 

「……夢じゃなかったんだ」

「フィア」

「だよね」

 

 身体を起こす。

 床には、リオルがいる。

 昨日の夜と同じ場所。

 でも、眠ってはいない。

 起きている。まるで石像のように、その場でずっと静止していた。

 

「おはよう、リオル」

「……」

 

 反応なし。

 

「朝だよ、リオル」

「……」

「フィア」

 

 ニンフィアが近づく。

 すると、リオルは少しだけ顔を向けた。

 

「お」

 

 ほんの少しだけ、変化が起きた。

 

「今、ニンフィア見たよね?」

「フィア!」

「……」

 

 リオルはまたそっぽを向いた。

 

「あれ? もしかして照れてる?」

「フィア」

「違う?」

「フィア」

「そこは分かんないか。うーん、いっそのことニンフィアに触れさせて特性発動……っていうか、この子オス? メス?」

 

 なんて、私は笑った。

 昨日初めて出会って、襲われてスナッチした。

 それなのに、もう、少しだけ昨日とは違う。

 

「アゲトに、今日行くんだよね」

「フィア」

「……」

 

 何を言っても、やっぱりリオルに反応はない。

 

「まあ、行ってみよう」

 

     ◇

 

 ホテルを出る。

 朝のパイラは、昨日よりは少し静かだ。

 

「じゃあ」

「なのです」

 

 パイラタウンの入り口には、バス停がある。これで、オーレ全土を循環できる。

 ここで、ラピスとは別れることになった。

 

「本当に来ないの?」

「わたしには調べることがあるのです」

「シャドーのこと? でも、一人でいいの?」

「危険なことはしないのです」

「昨日、地下研究所にいた人が言っても」

「昨日のは事故なのです!」

「そうかなあ」

「そうなのです!」

「チル」

 

 チルタリスが、ラピスの肩に顔を寄せた。

 

「ほら、チルタリスも心配してる」

「チル?」

「してないのです!」

「本人首傾げてるけどいいの?」

「エルサ!」

「はいはい」

 

 でも、やっぱり心配だ。

 

「ラピス、無茶しないでね」

「……」

 

 その一言に、一瞬ラピスが止まる。

 

「エルサにだけは」

「言われたくない?」

「なのです!」

「ですよね」

「フィア」

「ニンフィアも頷かない!」

「チル」

「チルタリスまで!」

「味方がいないのです!」

 

 そう言い合っているところに、バスが来た。

 

「じゃあ……アゲトに行ってくる」

「リオルを頼むのです」

「うん」

 

 リオルが入ったモンスターボールを見下ろす。しばらく握ってから、よし。

 

「行こう」

 

     ◇

 

 バスが出発した。

 窓の外に広がっているのは、もちろん砂漠。オーレ地方なんだから、そりゃあ砂漠に続く砂漠だ。

 

「広いなあ。111ばんどうろなんて目じゃないよね」

「フィア」

 

 ニンフィアと、その触角にはリオルが入っているボールが握られていた。

 公共のバスだし、まだずっと出しておくには危ない。でも、ボール越しでもニンフィアと触れ合っていれば、少しはいい影響があるかもしれない。

 

「ロトム。アゲトについて調べて」

『検索するロト!』

 

 やっぱり科学の力ってすげー。スマホロトムが、すぐにアゲトビレッジのことを画面に表示してくれる。

 

『アゲトビレッジは、オーレ地方では珍しく自然豊かな集落ロト!』

「へえ……自然豊かか。いいね」

『ポケモンと人との結びつきを大切にしてきた、歴史ある村ロト!』

「最高じゃない。リオルも気に入るかな」

「フィア」

 

 ニンフィアが大きく頷いた。

 フェナスシティのコンテストを終えてからというもの、ここまでにくるとどうだろうか。

 ガブリアスが襲ってきて、ラピスと出会って、研究所にいって、リオルをスナッチして、シャドーの陰謀に気付いて、セトと戦って、アンダーに辿り着いて、パイラタウンから出てきて。

 ここまで本当に流されてばっかりだ。

 でも今回は、少し違う。

 自分でリオルを連れて、アゲトへ行く。

 

「フィア?」

「何でもない」

 

 窓を見詰めていると、だんだんと景色が少しずつ変わっていく。

 砂と岩でできた場所から、遠くに緑が見え始める。

 

「あれ?」

 

 緑が波のように寄せて、やがて砂漠の要素が、少なくなっていった。

 

「すごい、本当に自然豊かだ! ここ、本当にオーレ?」

『オーレロト!』

 

     ◇

 

 アゲトビレッジでバスを降りて、最初に。深呼吸した。

 

「空気が違う」

「フィア!」

 

 水、木、草、風。

 さっきまでの砂漠とは本当に別の地方みたいだ。

 ホウエンみたいでちょっと懐かしいな。

 

「フィア」

「ニンフィアも思った?」

「フィア!」

 

 うん、そうだよね。ホウエン地方って結構海多いから、なんか水が多いとちょっと懐かしさを感じる。

 ここならいいかな。ボールから、リオルを出してみる。

 光とともに、リオルが現れた。だけど、相変わらずほとんど動かない。

 

「リオル。ここがアゲトだって。空気がおいしいね」

「……」

 

 リオルは首を綺麗に横に動かして、周囲を確認している。

 

「気になる?」

「……」

 

 返事はない。でも、目が少しだけ動いている。

 水、木、歩いているポケモン、人間。少しずつ視界に入るごとに、反応しているように見える。

 

「フィア」

 

 ニンフィアが先に歩いた。数歩歩いて、ニンフィアはリオルに振り返る。

 

「ほら、リオルも行っていいよ」

「……」

 

 促されて、リオルが一歩動いた。そのままニンフィアを追っていく。

 それだけでも、昨日よりずっとポケモンらしい。

 

『エルサ!』

 

 うわ、びっくりした。何、スマホロトムが突然飛び出してきた。

 

『写真を撮るロト?』

「写真?……いいね。ニンフィア! リオル! おいで!」

「フィア!」

 

 ニンフィアがすぐに振り返った。それに遅れて、リオルも……来ない。

 

「さすがに無理かな?」

「フィア」

 

 ニンフィアがリオルへ近づいて、触角でちょんと触れている。

 

「……」

「フィア」

 

 リオルがニンフィアを見る。やがて、一歩こっちに向かってきた。

 

「あ」

 

 来た。

 さらに一歩。

 ニンフィアの隣を、ゆっくりと歩いてくる。

 

「よし! そのまま! ロトム、お願い!」

『撮影するロト!』

 

 パシャ。

 

「見せて!」

 

 そうして写された画面には。

 私とニンフィアの笑顔と、その横にリオルの無表情が並んでいる。

 全然笑ってないけど、二匹で一緒に写っている。

 

「……」

「フィア?」

「ううん。これ好き」

『お気に入りに登録するロト?』

「お願い!」

『登録したロト!』

 

 リオルは写真なんて何のことか分からないみたいに、向こうを見ていた。

 

     ◇

 

 さて、ここからが本題だ。本題。

 リライブについては、ここへ来れば何とかなるかもしれないとラピスはそう言った。

 ただ。

 

「でも来たはいいけど……リライブのことなんて、誰に聞けばいいんだろ」

 

 うーん、アゲトビレッジをぐるっと回ってみたけど、大体の人がのんびりと過ごしていて、ダークポケモンだなんて物騒なものとは縁遠い感じがするんだよね。あと老人が多いから、そもそも難しい話とかも出来るか分からない。

 ちょっと困っていると、ニンフィアに袖を引っ張られた。

 

「フィア」

「何?」

「フィア」

 

 ニンフィアが、向こうの老人に顔を向けている。

 木陰で椅子に座っている、白髪のおじいちゃんが、ずっとこちらを見ていた。

 

「知り合い……じゃないよね」

「お嬢ちゃん」

「はい?」

 

 なんか、呼ばれた。

 老人は杖を使って立ち上がるけど、思ったより背筋は伸びていた。

 

「そのリオル、少し見せてくれんか」

「……」

 

 私は反射的にリオルの前へ出た。

 

「……なんでですか?」

「ハハ……その顔悪くない」

「何がですか?」

「知らん爺さんに、はいどうぞとポケモンを渡すトレーナーよりずっといい」

「じゃあ渡しません」

「それでいい」

「……」

 

 な、何なのこの人。

 でも、ずっとリオルを見つめている老人は、やがて真顔になっていく。

 

「その目……感情を殺したような、戦闘マシーンのような目」

「戦闘マシーンって……もしかして、知ってるんですか?」

「少しな」

 

 老人は視線を。リオルから私へ移動させた。

 

「その子を、どこで手に入れた? 普通に捕まえたわけではあるまい」

「どうして?」

「長く生きているとな、見たくないものまで、覚えてしまう」

 

 まさか。

 

「ダークポケモン」

 

 老人が、そうはっきりと言った。

 

「――知ってるんですか?」

「ああ」

「本当に!?」

「近い近い」

「あ、ごめんなさい」

 

 いつの間にかこのおじいさんに詰め寄っていた。慌てて離れて、ニンフィアも少し心配そうな顔をさせてしまった。

 

「随分必死だな」

「だって、この子を元に戻したくて」

「……」

 

 老人がもう一度リオルを見る。

 

「ハルバだ」

「え?」

「わしの名前じゃ」

「あ、名前か。私はエルサです……ハルバさん、リライブについて知ってるんですか?」

「少しな」

「教えてください!」

「だから近い」

「あ、ごめんなさい」

「ハハハ」

 

 ハルバさんが笑って、顎に手を当てている。

 

「数日前コンテストに出ていた娘が、今日はダークポケモンを連れてアゲトにいる。随分忙しい旅だな」

「私のことご存じなんですね。……うん、私もそう思います」

「何があった」

「えっと……どこから説明すればいいのやら?」

「最初からで頼む」

「結構長いですよ?」

「ふん。老人は話を聞く時間だけは余っとる」

「自分で言うんだ」

 

 すっかり毒気を抜かれてしまった。私はそのまま、フェナスのコンテストでダークポケモンのガブリアスと出会ったところから話し始めた。

 研究所から、アンダーに至るまで、全部。

 

「なるほど」

「自分で言って何ですけど……この話、信じます?」

「ダークポケモンを目の前にして、何を疑う」

「それもそうか」

「それより。スナッチしたのはお前さんか」

「はい」

「スナッチャーなのか?」

「違います」

「ではなぜ?」

「追い詰められて」

 

 右腕には、今は何もない。

 

「落ちてたスナッチマシンを、自分でつけました」

「ほう。昔の連中とはずいぶん違うスナッチャーだな」

「スナッチャーじゃないですって!」

「ハハハ」

「楽しんでますよね?」

「少しな」

「もう」

 

 でも、今少し気になることを言っていた。

 

「昔って? もしかして、ダークポケモンがここに来たことを知っているんですか?」

「……」

 

 ハルバさんが、少し遠くを見つめた。

 そして、何かを決めたように私の顔を見つめた。

 

「リライブは薬を飲ませるようなもんじゃない」

「……!」

 

 リライブ。その言葉を知っているということは、この人は本当に手がかりになるかもしれない。

 生唾を呑んで、彼の言葉を待つ。

 

「聖なるほこらへ連れていけば、全部終わりという話でもない」

「聖なるほこら……セレビィが関係するっていう……」

「左様。その前に、必要なことがある」

 

 ハルバさんは、私とリオルを交互に見比べた。

 

「お前さんと、その子、もう少し互いを知らんとな」

 

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