ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
アゲトの奥。洞窟みたいになっているところの奥に、聖なるほこらはあるらしい。
その洞窟入り口に早速連れてこられて、私はハルバさんの顔と洞窟を見比べていた。
「えっと……」
「ここから先だ」
ハルバさんはゆっくりと、歩き続ける。私もそれに続いて、ゆっくりと進んでいく。
せせらぎの音が、心を落ち着かせてくれる。一緒に歩いているリオルも、この音で少しは和んでくれるかな。
やがて、目の前にはトレーナーの姿が現れた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは?」
見たところ、エリートトレーナーって感じだ。今しがたこの場所に来たばかりなのか、少し息が上がっているみたいだ。
「ハルバさん、この子が?」
「ああ」
「? 何の話ですか?」
「昔から、この道を通るにはポケモンバトルの試練が必要なのだ」
「……」
嫌な予感。
「五人の試練がな」
「フィア!」
「ニンフィア、なんで嬉しそうなの? あ、バトルできるから?」
「フィア!」
「やっぱり……五人ということは、五連戦?」
「否。先代の守り人、ローガンが、この道を守る連中を定めてな。今も、人は入れ替わったが、ほこらへ向かうトレーナーとポケモンを見守る役目は残っている」
「それで、戦わないと通れない?」
「そういう決まりではない。戦いたくないなら、別にこのまま進んでも構わんが……」
ハルバさんは、リオルを見つめた。
「今のお前さんたちには、戦うことにも意味がある」
「……どういうことですか?」
「ダークポケモンは、戦うためにココロを閉ざされた。なら」
一拍置いて。
「今度は戦うことで、人とポケモンが通じ合えることも教えてやればいい」
「……なるほど……リオル、どうする? 嫌ならニンフィアだけでも――」
そこまで言いかけたところで、リオルは前にでていた。
そして、構えた。
「出るの?」
「リオ」
「……!」
初めて、返事らしい返事が聞こえた。
「そっか……じゃあ、私もやるよ!」
そうして。
聖なるほこらに向けての試練が始まった。
◇
「キノココ、しびれごな!」
「キノ!」
黄色い粉がばら撒かれる。
「リオル、右!」
「……」
だめだ、動かない。
「右に避けて!」
リオルは避けるどころか前へ出ていく。
「そっちじゃない!」
その間にも、拳に黒紫色の光が集まっていく。
「リオッ!」
そしてそれを、地面へ叩きつける。
黒い衝撃がしびれごなを吹き飛ばした。
「あれは……ダーク技……!」
「キノココ、離れて!」
「キノ!」
でもリオルは、追う。
「リオル! 止まって!」
あっさりと、リオルの拳がキノココの顔にめり込んだ。
「キノッ!」
そのままキノココがゴロゴロと転がって、戦闘不能になる。
「そこまで!」
ハルバさんの号令で、決着は付いた。
だけどリオルは、止まらない。
「リオル!」
キノココにトドメを刺そうと、黒い拳を振りかざしている。
「もう終わり!」
拳が、もう迫って___
「ニンフィア!」
「フィア!」
触角が、リオルの腕を拘束した。
「リオ!?」
「フィア!」
「リオル! もう戦わなくていい!」
「……」
だけど、リオルの黒い目は何も見ていない。ただ、目の前のもの……さっきまではキノココ、今は___多分私を破壊しようと暴れている。
「聞いて! 勝ったから!」
「……」
「もう、誰も攻撃しなくていいから……!」
「……」
震える拳から、黒いオーラがゆっくりと消えていく。
「リオ……」
「……」
戻ったみたい。
「ありがとう。止まってくれて」
ようやく一息つけた。
尻餅をついたところに、ハルバさんが声をかけてきた。
「どうだった? リオルとのバトルは」
「全然駄目でした。指示聞かないし」
「だが、最後は聞いた」
「それは、ニンフィアが止めてくれたからで……」
「それでもだ。さっきまでなら、その子は止まったか?」
「……」
研究所での戦いを思い出す。あのトレーナーの元にいたリオルなら。
「多分」
「多分?」
「止まらなかった」
「なら、一つ進んだな。リライブってのは、そういうもんだ」
ハルバさんはそう言って、欠けた歯を見せつけてにいっと笑った。
◇
二人目の勝負が始まった。
「マリル、みずでっぽう!」
「マリ!」
「リオル! 右!」
「……」
「右に避けて!」
「リオ!」
やった! 今度は避けた!
「いいよ! リオル! その調子!」
「マリル、もう一度みずてっぽう!」
「リオル! 今度は左に避けて!」
「リオ!」
避ける。
「そのまま!」
拳に黒紫のオーラが宿る。
「……」
リオルはそのまま、攻撃へ移ろうとしている。
「待って!」
「……!」
私の声に、リオルの体はぴたりと止まった。
「攻撃は、私が言ってから」
「……」
「よし。行って!」
「リオ!」
リオルのダークわざ、ダークパンチが炸裂する。
「マリ!」
そして、マリルに直撃して吹き飛ばした。
リオルは殴った体勢を解除して、その場で直立していた。
「戻って!」
「……」
一歩進んで、止まる。
「戻って!」
「……」
振り返って戻ってきた。
「……!」
「フィア!」
「見た!?」
「フィア!」
「聞いた! これ、大進歩だよ!」
◇
三人目の試練。
「ヨーギラス!」
「ヨー!」
ヨーギラスか。本来のリオルならタイプ相性は有利だけど、ポケモンとしてはキノココやマリルよりは強そうだよなあ。
「リオル、行ける?」
「リオ」
「うん」
今度はちゃんと返事してくれた。よし。
「ヨーギラス、いわおとし!」
「リオル、左!」
「リオ!」
よし、ちゃんと避けてくれた。
「次、右!」
「リオ!」
「そのまま近づいて、えっと……ダークパンチ!」
リオルの腕から、黒い拳が放たれる。
「リオ――」
そのとき。
「?」
黒紫色の光が、消えた。
「リオル?」
リオル自身も驚いたみたいに拳を見る。
「……」
「今、何があったの?」
だけど、驚いている間にもヨーギラスは迫って来る。
「リオル!」
「……!」
咄嗟にリオルは拳を前へ突き出した。
そして。
「ヨー!?」
ヨーギラスが大きく後ろへ吹き飛んだ。
「今のって……」
『技を確認したロト!』
スマホロトムが、元気に飛び出してきた。
「ロトム、今のってもしかして……」
『はっけいロト!』
はっけい。かくとうタイプの、普通の技。ダークわざじゃない……!
「リオル」
「……」
本人も驚いている。
これ、いけているんじゃない?
「技が、戻った……! ははッ! 一個戻った!」
「リオ……」
「もう一回できる?」
「……」
リオルは拳を何回か握って開いて構える。
よし。
「ヨーギラス、いわおとし!」
「リオル! はっけい!」
「リオッ!」
今度は迷わない。
普通の技をヨーギラスへ放って。
「ヨーッ!」
ヨーギラスは、倒れた。
「そこまで!」
勝った。普通の技で、ポケモンバトルに勝った。
「やった! やったよ、リオル!」
「リオ!?」
思わずリオルに駆け寄って、抱き上げる。
「普通の技!」
「リ、リオ!」
「戻ってきてる! 戻ってきてるよ!」
「リオー!」
「お嬢ちゃん」
ハルバさん。
「何?」
「嫌がっとるぞ」
「……」
リオルがじたばたと暴れている。そして、リオルの足が私の頬に炸裂して、体が吹き飛んだ。
「ぶほっ!」
乙女としてしてはいけない声だった気がする。回転しながら、私の体はせせらぎにドボンしてしまった。
「ご、ごめんリオル……」
「リオ!」
怒っているリオルが、ぷいっとそっぽを向いた。
そんな私たちを、ニンフィアは楽しそうに笑ってみていた。
「ハルバさん……今のでココロのトビラ、どれくらい行きました?」
せせらぎから這い出ながら、私は老人を見上げた。
ハルバさんはリオルを見て、鼻を鳴らす。
「わしには機械みたいに数字では測れんが」
少し笑う。
「ほこらへ連れていくのも、そう遠くはないだろうな」