ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
四人目を越えたところで、リオルは完全に足を止めた。
「リオ……」
「疲れた?」
「……」
返事はない。でも、肩が上下している。
「いいよ。ちょっと休もうか」
「リオ」
「うん、今のは素直。別に急ぐ必要もないからね」
「フィア」
ニンフィアもリオルの隣に座った。
「その通りだ」
ハルバさんが杖をつきながら近づいてくる。
「五人と戦うことが目的じゃない」
「分かってます」
「本当に?」
「……半分くらい」
「正直でよろしい」
「フィア」
ニンフィアまで頷く。
「何でみんな私を信用してないの」
「リオ」
「リオルまで!?」
今、絶対こっち見て鳴いた。
「フィア!」
「ニンフィア笑ってるでしょ!」
ニンフィアは明らかに楽しそうだ。
リオルもほんの少しだけ、口元が動いたような。
「……今笑った?」
「リオ」
ぷい。
「ええ? 絶対笑った!」
「フィア!」
「二匹で誤魔化さないで!」
ハルバさんが声を上げて笑った。
「何ですか」
「いや、いい顔をするようになったと思ってな」
「え? 私?」
「違うわい。リオルだ」
確かに。この少しの間で、リオルは確かに表情豊かになった気がする。
「はい。最初とは、もう全然違います」
「そうだな」
まだダークポケモンのままで、普通には戻っていない。
でも研究所で会ったとき、あの何も映していなかった目とは少し違う。
「はっけいも使えたし」
「それは大きいな」
「やっぱり?」
「うむ。ダークポケモンが通常の技を取り戻すのは、ココロが戻りつつある証拠だ」
「聞いた? リオル」
その言葉がどう響いたのかは分からないけど、リオルは自分の拳を見下ろしている。
「すごいんだよ、リオル。もっと喜んでいいんだよ」
「リオ」
「フィア」
「なんでニンフィアが代わりに喜ぶの」
でも、こういう時間も悪くない。
「さあ、あと一人だ」
ハルバさんは杖を叩いた。
そう。次で、最後の試練。突破すれば、リライブだって出来るかもしれない。
「リオル」
「リオ」
「行こう」
洞窟を抜けて、細い道を進む。
木々の間から差し込む光と水の音が、私たちを迎えてくれる。
そして。
「……?」
人影が見えた。最後の場所。
五人目のトレーナーが待っているはずだった。
でも、私は足を止めた。
「なんで……」
私は知っている。そこに立っている男を。
「あんたが……ここにいるの?」
研究所で、リオルをダークポケモンに改造する依頼をした、リオルの元トレーナー。
隣で、リオルも止まった。
「リオ……」
目が、一瞬元の虚空の目に戻りかけていた。
「ねえ、どうしてここにいるの?」
私の質問に、彼は答えない。
「返してもらいに来たの? シャドーだったら、ここの情報があってもおかしくないか……だったら――」
「違う」
彼は怒りの形相のまま首を振った。
「今日はそれだけじゃねえ」
男がリオルを見る。
そのとき、ハルバさんが動いた。
「何者じゃ。ここには、別の若造を待機させていたはずじゃ」
そうだ。この人が五人目なわけがない。依頼して自分のポケモンをダークポケモンにするような人が、この平和な村にいるはずがないんだ。
「お前」
ハルバさんが男を睨む。
「ここにいたトレーナーをどうした」
「……へッ。邪魔だったからどかした」
「……何したの?」
返事はない。
彼は少しだけ笑って、祠の奥へ顎をしゃくった。
そして、彼が指し示した先へ、私は走った。
道の脇にある木。その奥に、人が倒れている。
「だっ、大丈夫ですか!」
「うっ……」
これまでの試練を与えてくれた人たちと同じ雰囲気の男性だ。まだ、意識はある。
「ハルバさん!」
「分かっとる!」
ハルバさんも来る。
この人のその傍らには、モンスターボール。
そして。少し離れた場所には、倒れているバネブーがいる。
「……闇討ちじゃな?」
「え?」
「この者は、準備する前に襲われた」
それを証明するように、倒れていたトレーナーが苦しそうに訴えた。
「後ろから……急に……」
「あんた」
「勝負なんてしてる時間がなかったんだよ。だから先に片づけた」
「……」
胸の奥が熱くなる。
「最低。何のつもり? この人は関係ないでしょ!」
「どうでもいい。俺は確認したいんだよ」
男は、リオルから目を離さない。
「こいつが本当に変わったのか。お前に奪われて、どうなったのかをな!」
「だから人を襲ったっていうの?」
「ああ。ここを通らないと、お前らは来ないだろ? だったら、待つにはここが一番いい」
「ふざけるな」
ハルバさんが立つ。
「ここは、お前の身勝手に使う場所じゃない。ここは……」
ハルバさんは、倒れているトレーナーを一瞥した。
「ポケモンと人間が向き合うための道だ」
「綺麗事だな」
「そうかもしれんが。その綺麗事すら守れん奴が、リオルの何を確かめる?」
「……」
男の表情が初めて変わった。
「ハルバさん」
「何だ」
「この人は、私が相手します」
リオル。
この子は、元トレーナーを見た瞬間からずっと身体が硬い。
「リオル。無理に戦わなくていいよ。これは……」
一拍。
「試練じゃない」
本来の五人目じゃない。
「だから」
逃げてもいい。ニンフィアに任せてもいい。
「……リオ」
リオルはじっと元トレーナーを見る。自分を改造させた相手を。
そして一歩、私より前へ出た。
「リオル?」
「リオ」
そして、構えた。
「戦うの?」
「リオ」
今度ははっきりと、私に頷いた。
「……そっか。じゃあ……やろう!」
「やっとか」
男がボールを構える。
「ただし、このバトルでこいつが俺が勝ったら、そいつは返してもらうぜ」
「嫌。だって、それを決めるのは、私でもアンタでもない。それを決めるのは、リオルだから」
「……ケッ。いいぜ。なら、確かめようじゃねえか」
男はボールを投げる。モンスターボールじゃない。より強力なポケモンを捕まえた証である、ハイパーボールを。
「確かめようじゃねえか」
光が溢れ出て、ポケモンが現れる。
「ダーク化を否定しておいて、ルカリオにもなれねえそいつがどこまで強くなったのかをよ!」
巨大な肉体を誇る、強力なポケモン___オノノクスが。
「行くよ、リオル!」
「リオ!」
これは五つ目の試練じゃない。
その先へ進む前に。
リオル自身が過去と向き合うための戦いだった。