ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
『オノノクス。あごオノポケモン――』
「それは知ってる」
『最後まで聞くロト!』
「今バトル前だから!」
「フィア」
ニンフィアは、私の横にいるけど、前には出ない。これが、リオルが本当に乗り越えないといけない勝負だって分かっているから。
「リオル」
「……」
リオルはオノノクスではなく、その後ろ___元トレーナーを見ている。
彼はせせら笑っていた。
「おうおう、随分とトレーナーの言うことを聞くようになったじゃねえか」
「リオ……」
「前は違ったの?」
と私。
「ああ。こいつは何にもできなかった。バトルさせても弱い、鍛えても伸びない、いつまで経っても進化しない」
リオルは拳を握っている。
それを見下ろしながら、私と彼の会話は続いた。
「だからダークポケモンにした?」
「ああ。強くなるならな。実際、強くなっただろ?」
彼の当たり前のような態度に腹が立つ。
「あんなのを、強くなったって言わない」
「あ?」
「普通の技も使えなくなって、止まれなくなって。苦しくても戦わされて……それを」
一拍入れて、私は叫んだ。
「強くなったって言わない!」
「そんなの、お前が決めることじゃねえ。トレーナーがそれぞれ決めることだろ」
「違う! それは、
その言葉に、男は少し黙った。だけどすぐに舌打ちして。
「オノノクス! ドラゴンクロー!」
「来る!」
オノノクスの足が、この場所を震わせる。あれを食らったらひとたまりもない。
「リオル、右!」
「リオ!」
爪が地面をかする。
「そのまま懐ではっけい!」
「リオッ!」
拳が、腹にめり込んだ。
「オノ!」
オノノクスが呻いている。効いている証拠だ。
「よし!」
でも。
「甘い! アイアンテール!」
「オノォ!」
「リオル!」
鋼鉄となった尾が直撃して、リオルが吹き飛ぶ。
「リオル!」
地面を転がったリオル。オノノクスは、明らかに今のリオルよりも強い。
「大丈夫!?」
「リ、リオ……」
「オノノクス!」
「え?」
今、リオルは負傷している。審判がいれば、ほぼ間違いなく戦闘不能だ。それなのに、オノノクスが容赦なくその爪を光らせている。
「待って! 今倒れて――」
「潰れろ! ドラゴンクロー!」
「オノ!」
「くっ! ……ニンフィ……!」
「フィア!」
仕方ないと、ニンフィアに止めさせようとした。だけどニンフィアは、その気は全くなかった。
ニンフィアの水色の目が、はっきりと見ていたんだ。リオルがまた、立ち上がるところを。
「リオ!」
リオル!?
「まだやれるの?」
「リオ!」
「……分かった!」
オノノクスがもう目前だ。
「避けて!」
「リオ!」
よし、転がった。あとはこのまま。
「はっけい!」
「リオ!」
今度の狙いは足。重量級のオノノクスは、機動力を奪われて体勢を崩した。
「もう一回!」
「リオ!」
「オノノクス、かわらわりだ!」
「!」
腕が、リオルの脳天に振り下ろされる。
防げない。
「避け――」
「リオ!」
黒い拳、ダーク技がそれに対して放たれる。
黒い拳とオノノクスの腕が衝突。
「リオォォッ!」
「オノォ!」
重い音とともに、リオルが押されていた。でも、オノノクスだって今の反動は無視できるものではないみたい。
「……」
ダーク技。確かに強い。
これなら。
「リオル!」
「リオ!」
「そのまま――」
言いかけたけど、リオルの顔を見て止まった。
「……」
苦しんでいる。
黒いオーラが拳から溢れていくごとに、リオルの目から光が消えて行っている。
これは、違う。
「リオル! やめて!」
「リオ!?」
「は?」
男も、私の言葉にきょとんとしている。
構うものか。もう一度、リオルに指示だ。
「その技やめて!」
「お前何言ってんだ!? オノノクスを押し返せるわざだぞ!」
「だから何!」
「今のお前とリオルが勝つ可能性なんて、ダークわざ以外ねえだろ!」
「そんなのどうでもいい! リオル! 一度離れて!」
まだ、拳には黒いオーラがあるままだ。そのまま、オノノクスへ___
「リオル! 私を見て!」
「……!」
リオルと目が合う。一瞬、目に光が戻ったように見えた。
「離れて!」
「リオ!」
後ろに跳ぶと、ダーク技も一緒に消えた。
「何してんだ! お前、今の技なら勝てただろ!」
「……勝てればいいの?」
「あ?」
「苦しくても! また同じことさせるの!?」
多分、効果としてはリオルのダークわざ……ダークパンチに反動みたいなものはないんだろう。だけど、使うたびに、明らかにリオルの体を、心を蝕んでいる。
「そんなことをしたら、本当にリオルがどうなると思っているの!?」
「戦えるなら戦わせる!」
「リオルは道具じゃない!」
私の叫び声に、誰もが音を失くした。
リオルも、ハルバさんも。オノノクスさえも。
私は静かに、リオルに語り掛けた。
「リオル……ダーク技、使わなくていい。勝てなくてもいいよ。だから……普通の技で」
一拍置いて。
「一緒にやろう」
リオルの拳に、黒いオーラはもうない。
そして。
「リオ」
「うん……! 行くよ!」
このまま、戦おう!
彼も、私たちの闘志を感じたのか、もう余計なことは何も言わない。
「オノノクス! ドラゴンクロー!」
「オノ!」
「リオル! ギリギリまで引き付けて!」
「リオ!」
どしんどしんと、オノノクスが向かってくる。
もう、あのドラゴンクローを受ける余裕はない。次の一撃を、どんなものを食らったとしても、リオルは終わりだ。たとえ戦いたいとリオルが訴えても、私は止める。
だから、これが最後のチャンス。
そして、今。
「懐!」
「リオ!」
ドラゴンクローを掻い潜って、一気に接近して。
「はっけい!」
「リオォ!」
「オノッ!」
オノノクスの悲鳴が上がる。だけど、まだまだ全然足りない。
「もう一発!」
「リオ!」
「オノノクス、掴め!」
「!」
腕が、リオルの首根っこを掴んだ。
「リオ!?」
捕まった。
「リオル!」
「終わりだ! 叩きつけろ、オノノクス!」
「リオル!」
どうする。
はっけいはもう届かない。あとは……
いや、届く。
「リオル! 腕に! はっけい!」
「リオォッ!」
拳の狙いは、オノノクスの腕。
「オノ!?」
ダメージは少ないけど、これで力が緩んだ。
「今だ!」
着地と同時に、リオルは走る。
「もう一回!」
「リオ!」
拳を固める。でもその瞬間、
リオルの動きが変わった。
『リオルに技反応ロト!』
「えっ!?」
リオルの掌に、光が集まる。
黒紫じゃない。白くて、強い光だ。
「これは――」
『きしかいせいロト!』
「……!」
傷ついているほど、力を増す。
今のリオルにとって、この上ない___ダークわざなんかよりも、ずっと強い力だ。
「リオル! きしかいせい!」
「リオォォォッ!」
そして、光る拳が、オノノクスに直撃した。
「オノォォォッ!」
巨体が揺れて。
「なっ……!」
男の顔が凍り付く。
「オノノクス!」
「オノ……!」
倒れない。
でも、とうとう巨体が膝をついた。
「リオル!」
「リオ……!」
リオルも、もう限界だ。
「あと少し!」
「オノノクス! 立て!」
「オノ……!」
「立て! 戦え!」
だけど、オノノクスはもう動かない。急所に当たったんだ。
「何してる! 立てって言って――」
「やめなよ」
「あ?」
「その子も、もう戦いたくないんじゃない?」
その言葉に、男は止まる。
「オノノクス」
「……」
男を見返すオノノクス。もう、その目からは闘争心が完全に失われていた。
だからもう、立とうとしない。
「ほら」
「……戻れ」
モンスターボールの光とともに、オノノクスが戻る。
終わった。
「勝った?」
「リオ……」
「リオル!」
駆け寄る。
今度は抱きしめない。
「大丈夫?」
「リオ」
「勝ったよ。ダーク技じゃなくても、ちゃんと強かったよ……!」
リオルの目が、大きく揺れた。
その言葉をずっと聞きたかったみたいに。
「……なんでだよ」
「?」
一方で、元トレーナーは肩を震わせていた。
「俺の時は、そんな戦い方しなかっただろ」
「……」
「俺の時は……そんな技、覚えなかっただろ……」
怒っているように見えた。
でも声は違った。
「ねえ……もしかして、リオルが進化しなかったことを、ずっと自分のせいかもしれないって思ってたの?」
「……」
男は答えなかった。
その沈黙だけで、もう十分だった。