ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「どこ!?」
「フィア!」
「ガウッ!」
先行するルカリオの後を追って、私たちは道路を曲がる。
その先に、ようやく道路脇に設置された、大きな給水設備が見えてくる。
そして、その一部がめちゃくちゃに壊れていた。
「何これ……」
金属製の配管が潰れている。水が地面にびたびたと垂れ流しになっていて、周囲では作業員もポケモンたちも騒いでいる。
「ラピスは?」
いない。煙は、さらに向こうから昇っている。
「ルカリオ、分かる?」
「……グルッ」
ルカリオが目を閉じる。ルカリオの一番の特徴は、波導を感知すること。つまるところ、すごい感知能力を持っているんだ。
すぐに目を開けて。
「ガウッ!」
走り出した。
◇
町を抜けて、砂地と風の世界に出てきた。
そして、いた。
「ラピス!」
「エルサ!?」
チルタリスと、その後ろで指示を出しているラピスがいた。
「来るなって言ったのです!」
「爆発音聞こえたら来るでしょ!」
「だからって――」
その時。
上から巨大な影が落ちてきた。
「え」
大きい緑と翼。それを見た途端、反射的に口が動いた。
「フライゴン……! いや、ダークポケモン!」
「なのです!」
大きい。フライゴンとは何回か戦ったことがあるけど、ここまで大きかった記憶はない。多分、最近稀に噂になる、オヤブンポケモンだと思う。
そして、あの目。陽の光で少し見えずらいけど、赤いゴーグルの中にある目は、機械みたいに何の光もない。戦闘マシーンという言葉が浮かんだ。
頭上のフライゴンが旋回して、町の方へと進路を定めた。
「まずい!」
「チルタリス!」
「チル!」
ラピスが白い翼に飛び乗る。
「エルサ!」
「私も行く!」
「飛べないのです!」
「分かってる! ルカリオ、追える?」
「ガウッ!」
頷いたルカリオが先行して走る。
私とニンフィアは、その後を追いかけていった。
◇
フライゴンの速度が速い。当たり前だけど。
「無理!」
全然追いつけない。
「ルカリオ待って!」
ルカリオはもうかなり先にいる。
その頭上には、チルタリス。
そしてさらにその上には、デカいフライゴン。
突然フライゴンが急降下。その先には、倉庫がある。このままだと爆発だ。
「ニンフィア! ムーンフォース!」
「フィ!」
ニンフィアの前に、月のような輝きが宿っていく。
そしてそれを放つけど、フライゴンまでの距離が遠い。途中で、月の光は消えていった。
「くっ!」
一方、フライゴンの翼が黒紫色のエネルギーを纏う。そのまま炸裂すれば、大変なことになる。
そして、緑色の槍は大地に強く突き刺さった。
黒い衝撃が地面を走って、砂や破片が宙を舞う。
「本当に壊してる……!」
フライゴンがもう一度上昇。
「待つのです!」
「ラピス!」
もう、ラピスにも声は届かない。
「もう!」
私、完全に置いていかれてる。
◇
ようやく追いついた。
「はぁ……はぁ……」
「フィア……!」
ニンフィアも息切れだ。倉庫の向こうの荒れ地で、私たちは完全に疲弊しきっていた。
ルカリオは少し先でフライゴンと向かい合っている。
改めて、本当に大きい。
「ルカリオ!」
「グルル……」
フライゴンが、地面に降りてくる。その緑の翼が、より砂をまき散らしていった。
そして改めて、その赤い特徴的なゴーグルの中にある目を見つめる。
空っぽだ。ルカリオがリオルだった頃と同じ、あの目だ。
「フリャァァ!」
「来る!」
黒紫色の爪が振り下ろされた。
「避けて!」
「ガウッ!」
ルカリオが横へ逸れたのと同時に、地面が大きく抉られる。
「ダーク技……! しかもこれって、ガブリアスと同じ……!」
同時に、ラピスが着地。
「エルサ! オーラサーチャーは反応してるのです!」
「見れば分かる!」
「念のためなのです!」
「今!?」
「今なのです!」
フライゴンが再び上昇。
「え、何? もしかして逃げるの!?」
「違うのです!」
フライゴンは旋回して、またそのかぎ爪を黒く伸ばしてくる。
「ニンフィア! ムーンフォース!」
「フィアー!」
生成された光が命中、フライゴンの身体が大きく揺れた。
「よし!」
「まだなのです!」
そう、まだ落ちない。
これもさっきと同じ。ガブリアスと同じく、弱点のフェアリー技を受けてもまだ立ち上がってくる。
「フリャァァァァ!」
次は、全身を黒紫のオーラに包んだ突進。
一度ニンフィアとルカリオは、それぞれ飛びのいて避けたけど、その風圧にその力を推し量る。
「何、これ……!?」
「ダークブレイクなのです! 命中したらただではすまないのです!」
「もう名前から物騒! ルカリオ、はどうだん!」
「ガウッ!」
ルカリオの手に、波導が集まっていく。そして渦巻く丸い光が、フライゴンへ放たれた。
だけど、フライゴンの機動力は高い。最低限の動きでそれを避けて、今度は黒い鉤爪で攻めてくる。
「ルカリオ!」
「グルルル!」
ルカリオはフライゴンの腕を受け止めた。地面を引きずりながら、だんだん追い詰められていく。
「無理しないで!」
「フィア!」
ニンフィアが触角をルカリオの身体に巻きつけた。そして背中に体を支えて、二匹で一緒に耐える。
「…………」
ねえ、あのフライゴン……目には何も映していないけど、もしかして。
「怒ってる?」
「エルサ!」
ラピスが私のところに駆けつけてきた。
彼女が大きく抱えている鞄を見て、その中を理解した。
「スナッチマシン! もう一回貸して!」
「使うのです!?」
「このまま逃がす方が危ない!」
「……!」
ラピスは一瞬迷って、頷いた。
「分かったのです!」
そして現れた機械を腕に装着する。
ずっしりと、その重さが右腕に圧し掛かる。
「久しぶり……でもないか」
「そんな感想いいのです!」
ボールを取り出して、機械音とともに光が集まっていく。
これで、モンスターボールがスナッチボールに変化していく。
よし。
「ニンフィア! ルカリオ! 離れて!」
「フィア!」
「グルッ!」
二匹が同時に飛いた。
今、フライゴンへの道が完全に開かれた。
「いけっ!」
ボールがフライゴンへ投影された。
ボールが光になって、フライゴンを吸い込んだ。
「……!」
ボールが砂の上に落ちた。
そして、揺れる。
一回。
二回。
「…………」
三回――
ばんっ!
「うそ!」
「失敗なのです!」
「見れば分かる!」
自由を取り戻したフライゴンが、砂漠の上で怒鳴る。
「フリャァァァ!」
「来る!」
黒紫色の爪が、今度は私を狙っていた。
「ガウッ!」
ルカリオが割り込んできた。
そのまま、ルカリオが私を放り投げた。
「ルカリオ!?」
ルカリオが吹き飛んだ。
地面にどさっと音を立てて、その青い体がうつ伏せになった。
「ルカリオ! 大丈夫!?」
「フィア!」
「……グル」
傷だらけだ。だけど、ルカリオは無理矢理でも立とうとしていた。
「無理しない!」
その間に、フライゴンが空へ上昇していく。
「待って!」
だめだ、追えない。
そのまま緑色のダークポケモンは、砂漠の向こうへ小さくなっていった。
「……」
「逃げたのです」
「分かってる」
悔しい。
でも。
「ルカリオ」
「……グル」
「ごめん。私を守ってくれたんだよね」
「………」
「ありがとう」
ルカリオは目を逸らした。
「フィア」
ニンフィアが横から顔を出す。
「フィアー」
「……グル」
「喧嘩しない」
いや、これはしてないか。
「回復させるのです」
「うん。傷は?」
「……どうやら、そこまで深くないのです」
「よかった……」
受け取ったきずぐすりでルカリオを回復させていく。嫌そうだけど、我慢してね。
「グル……」
「ほら、ニンフィアも見てるよ」
「フィア」
「そこで偉そうにしない」
一方、ラピスは黙ってフライゴンが消えた方を見つめていた。
「……変なのです」
「何が?」
「あのフライゴン」
「変って、そりゃあダークだからでしょ?」
「それもあるのです。でも、妙な行動なのです」
「なにが?」
「町を壊しているけど、人を狙っていないのです」
「……確かに」
あのフライゴンが襲っているのは、あくまで給水設備や倉庫に建物。
私に攻撃したのは捕まえようとした後。
「でも、たまたまじゃない?」
「かもしれないのです」
ラピスは地面に残っている足跡を調べている。
「ただ暴れているだけなら、もっと無茶苦茶でもおかしくないのです」
「じゃあ何?」
「まだ分からないのです」
「またそれ」
「分からないものは分からないのです!」
「はいはい。でも……次も来るよね」
フライゴンが飛び去って行った方。今はただ、純粋な砂漠がどこまでも広がっていた。
「可能性は高いのです」
「じゃあ、次は捕まえる」
「……」
ラピスが私を見る。
「何?」
「エルサ……普通の旅は?」
「……」
「コンテストは?」
「……」
「観光は?」
「……」
「フィア」
「分かってるよ!」
まだ半日。
「なんでこうなるの!?」
「エルサだからなのです」
「それどういう意味!?」
その時。
「ナック」
「……え?」
この声に振り返ると、そこにはオレンジ色の顔があった。
「あれって、前会ったナックラー」
「ナック……」
「もしかして、ついてきたの?」
「フィア?」
一歩近づいてみる。
「ナァック!」
「わっ!」
いきなり私に飛び出してきた。びっくりして、砂を蹴り上げる。
「また!?」
一方でナックラーは、私ではなくフライゴンが飛び去った方向を見つめていた。
「ねえ、もしかして……あのフライゴン知ってるの?」
「ナック!」
「わっ! だから何で私に怒るの!?」
ナックラーが私の顔に噛みつきかけて、そのまま砂漠へ走り去っていった。
「……ラピス。あの子」
「何か知ってそうなのです」
「だよね……追う?」
「む。エルサ」
「何?」
「今度こそ少し休むのです」
「……」
「ルカリオもなのです」
「グル」
「……はい」
反論できなかった。