ポケットモンスターLEGENDS オーレ   作:カラス レヴィナ

20 / 22
黒い翼

「どこ!?」

「フィア!」

「ガウッ!」

 

 先行するルカリオの後を追って、私たちは道路を曲がる。

 その先に、ようやく道路脇に設置された、大きな給水設備が見えてくる。

 そして、その一部がめちゃくちゃに壊れていた。

 

「何これ……」

 

 金属製の配管が潰れている。水が地面にびたびたと垂れ流しになっていて、周囲では作業員もポケモンたちも騒いでいる。

 

「ラピスは?」

 

 いない。煙は、さらに向こうから昇っている。

 

「ルカリオ、分かる?」

「……グルッ」

 

 ルカリオが目を閉じる。ルカリオの一番の特徴は、波導を感知すること。つまるところ、すごい感知能力を持っているんだ。

 すぐに目を開けて。

 

「ガウッ!」

 

 走り出した。

 

     ◇

 

 町を抜けて、砂地と風の世界に出てきた。

 そして、いた。

 

「ラピス!」

「エルサ!?」

 

 チルタリスと、その後ろで指示を出しているラピスがいた。

 

「来るなって言ったのです!」

「爆発音聞こえたら来るでしょ!」

「だからって――」

 

 その時。

 上から巨大な影が落ちてきた。

 

「え」

 

 大きい緑と翼。それを見た途端、反射的に口が動いた。

 

「フライゴン……! いや、ダークポケモン!」

「なのです!」

 

 大きい。フライゴンとは何回か戦ったことがあるけど、ここまで大きかった記憶はない。多分、最近稀に噂になる、オヤブンポケモンだと思う。

 そして、あの目。陽の光で少し見えずらいけど、赤いゴーグルの中にある目は、機械みたいに何の光もない。戦闘マシーンという言葉が浮かんだ。

 頭上のフライゴンが旋回して、町の方へと進路を定めた。

 

「まずい!」

「チルタリス!」

「チル!」

 

 ラピスが白い翼に飛び乗る。

 

「エルサ!」

「私も行く!」

「飛べないのです!」

「分かってる! ルカリオ、追える?」

「ガウッ!」

 

 頷いたルカリオが先行して走る。

 私とニンフィアは、その後を追いかけていった。

 

     ◇

 

 フライゴンの速度が速い。当たり前だけど。

 

「無理!」

 

 全然追いつけない。

 

「ルカリオ待って!」

 

 ルカリオはもうかなり先にいる。

 その頭上には、チルタリス。

 そしてさらにその上には、デカいフライゴン。

 突然フライゴンが急降下。その先には、倉庫がある。このままだと爆発だ。

 

「ニンフィア! ムーンフォース!」

「フィ!」

 

 ニンフィアの前に、月のような輝きが宿っていく。

 そしてそれを放つけど、フライゴンまでの距離が遠い。途中で、月の光は消えていった。

 

「くっ!」

 

 一方、フライゴンの翼が黒紫色のエネルギーを纏う。そのまま炸裂すれば、大変なことになる。

 そして、緑色の槍は大地に強く突き刺さった。

 黒い衝撃が地面を走って、砂や破片が宙を舞う。

 

「本当に壊してる……!」

 

 フライゴンがもう一度上昇。

 

「待つのです!」

「ラピス!」

 

 もう、ラピスにも声は届かない。

 

「もう!」

 

 私、完全に置いていかれてる。

 

     ◇

 

 ようやく追いついた。

 

「はぁ……はぁ……」

「フィア……!」

 

 ニンフィアも息切れだ。倉庫の向こうの荒れ地で、私たちは完全に疲弊しきっていた。

 ルカリオは少し先でフライゴンと向かい合っている。

 改めて、本当に大きい。

 

「ルカリオ!」

「グルル……」

 

 フライゴンが、地面に降りてくる。その緑の翼が、より砂をまき散らしていった。

 そして改めて、その赤い特徴的なゴーグルの中にある目を見つめる。

 空っぽだ。ルカリオがリオルだった頃と同じ、あの目だ。

 

「フリャァァ!」

「来る!」

 

 黒紫色の爪が振り下ろされた。

 

「避けて!」

「ガウッ!」

 

 ルカリオが横へ逸れたのと同時に、地面が大きく抉られる。

 

「ダーク技……! しかもこれって、ガブリアスと同じ……!」

 

 同時に、ラピスが着地。

 

「エルサ! オーラサーチャーは反応してるのです!」

「見れば分かる!」

「念のためなのです!」

「今!?」

「今なのです!」

 

 フライゴンが再び上昇。

 

「え、何? もしかして逃げるの!?」

「違うのです!」

 

 フライゴンは旋回して、またそのかぎ爪を黒く伸ばしてくる。

 

「ニンフィア! ムーンフォース!」

「フィアー!」

 

 生成された光が命中、フライゴンの身体が大きく揺れた。

 

「よし!」

「まだなのです!」

 

 そう、まだ落ちない。

 これもさっきと同じ。ガブリアスと同じく、弱点のフェアリー技を受けてもまだ立ち上がってくる。

 

「フリャァァァァ!」

 

 次は、全身を黒紫のオーラに包んだ突進。

 一度ニンフィアとルカリオは、それぞれ飛びのいて避けたけど、その風圧にその力を推し量る。

 

「何、これ……!?」

「ダークブレイクなのです! 命中したらただではすまないのです!」

「もう名前から物騒! ルカリオ、はどうだん!」

「ガウッ!」

 

 ルカリオの手に、波導が集まっていく。そして渦巻く丸い光が、フライゴンへ放たれた。

 だけど、フライゴンの機動力は高い。最低限の動きでそれを避けて、今度は黒い鉤爪で攻めてくる。

 

「ルカリオ!」

「グルルル!」

 

 ルカリオはフライゴンの腕を受け止めた。地面を引きずりながら、だんだん追い詰められていく。

 

「無理しないで!」

「フィア!」

 

 ニンフィアが触角をルカリオの身体に巻きつけた。そして背中に体を支えて、二匹で一緒に耐える。

 

「…………」

 

 ねえ、あのフライゴン……目には何も映していないけど、もしかして。

 

「怒ってる?」

「エルサ!」

 

 ラピスが私のところに駆けつけてきた。

 彼女が大きく抱えている鞄を見て、その中を理解した。

 

「スナッチマシン! もう一回貸して!」

「使うのです!?」

「このまま逃がす方が危ない!」

「……!」

 

 ラピスは一瞬迷って、頷いた。

 

「分かったのです!」

 

 そして現れた機械を腕に装着する。

 ずっしりと、その重さが右腕に圧し掛かる。

 

「久しぶり……でもないか」

「そんな感想いいのです!」

 

 ボールを取り出して、機械音とともに光が集まっていく。

 これで、モンスターボールがスナッチボールに変化していく。

 よし。

 

「ニンフィア! ルカリオ! 離れて!」

「フィア!」

「グルッ!」

 

 二匹が同時に飛いた。

 今、フライゴンへの道が完全に開かれた。

 

「いけっ!」

 

 ボールがフライゴンへ投影された。

 ボールが光になって、フライゴンを吸い込んだ。

 

「……!」

 

 ボールが砂の上に落ちた。

 そして、揺れる。

 一回。

 二回。

 

「…………」

 

 三回――

 ばんっ!

 

「うそ!」

「失敗なのです!」

「見れば分かる!」

 

 自由を取り戻したフライゴンが、砂漠の上で怒鳴る。

 

「フリャァァァ!」

「来る!」

 

 黒紫色の爪が、今度は私を狙っていた。

 

「ガウッ!」

 

 ルカリオが割り込んできた。

 そのまま、ルカリオが私を放り投げた。

 

「ルカリオ!?」

 

 ルカリオが吹き飛んだ。

 地面にどさっと音を立てて、その青い体がうつ伏せになった。

 

「ルカリオ! 大丈夫!?」

「フィア!」

「……グル」

 

 傷だらけだ。だけど、ルカリオは無理矢理でも立とうとしていた。

 

「無理しない!」

 

 その間に、フライゴンが空へ上昇していく。

 

「待って!」

 

 だめだ、追えない。

 そのまま緑色のダークポケモンは、砂漠の向こうへ小さくなっていった。

 

「……」

「逃げたのです」

「分かってる」

 

 悔しい。

 でも。

 

「ルカリオ」

「……グル」

「ごめん。私を守ってくれたんだよね」

「………」

「ありがとう」

 

 ルカリオは目を逸らした。

 

「フィア」

 

 ニンフィアが横から顔を出す。

 

「フィアー」

「……グル」

「喧嘩しない」

 

 いや、これはしてないか。

 

「回復させるのです」

「うん。傷は?」

「……どうやら、そこまで深くないのです」

「よかった……」

 

 受け取ったきずぐすりでルカリオを回復させていく。嫌そうだけど、我慢してね。

 

「グル……」

「ほら、ニンフィアも見てるよ」

「フィア」

「そこで偉そうにしない」

 

 一方、ラピスは黙ってフライゴンが消えた方を見つめていた。

 

「……変なのです」

「何が?」

「あのフライゴン」

「変って、そりゃあダークだからでしょ?」

「それもあるのです。でも、妙な行動なのです」

「なにが?」

「町を壊しているけど、人を狙っていないのです」

「……確かに」

 

 あのフライゴンが襲っているのは、あくまで給水設備や倉庫に建物。

 私に攻撃したのは捕まえようとした後。

 

「でも、たまたまじゃない?」

「かもしれないのです」

 

 ラピスは地面に残っている足跡を調べている。

 

「ただ暴れているだけなら、もっと無茶苦茶でもおかしくないのです」

「じゃあ何?」

「まだ分からないのです」

「またそれ」

「分からないものは分からないのです!」

「はいはい。でも……次も来るよね」

 

 フライゴンが飛び去って行った方。今はただ、純粋な砂漠がどこまでも広がっていた。

 

「可能性は高いのです」

「じゃあ、次は捕まえる」

「……」

 

 ラピスが私を見る。

 

「何?」

「エルサ……普通の旅は?」

「……」

「コンテストは?」

「……」

「観光は?」

「……」

「フィア」

「分かってるよ!」

 

 まだ半日。

 

「なんでこうなるの!?」

「エルサだからなのです」

「それどういう意味!?」

 

 その時。

 

「ナック」

「……え?」

 

 この声に振り返ると、そこにはオレンジ色の顔があった。

 

「あれって、前会ったナックラー」

「ナック……」

「もしかして、ついてきたの?」

「フィア?」

 

 一歩近づいてみる。

 

「ナァック!」

「わっ!」

 

 いきなり私に飛び出してきた。びっくりして、砂を蹴り上げる。

 

「また!?」

 

 一方でナックラーは、私ではなくフライゴンが飛び去った方向を見つめていた。

 

「ねえ、もしかして……あのフライゴン知ってるの?」

「ナック!」

「わっ! だから何で私に怒るの!?」

 

 ナックラーが私の顔に噛みつきかけて、そのまま砂漠へ走り去っていった。

 

「……ラピス。あの子」

「何か知ってそうなのです」

「だよね……追う?」

「む。エルサ」

「何?」

「今度こそ少し休むのです」

「……」

「ルカリオもなのです」

「グル」

「……はい」

 

 反論できなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。