ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「グル……」
「動かない」
「グル」
「だから、絶対動かないの」
「グルル」
「分かったから睨まないで」
ポケモンセンターのベッドの上で、ルカリオが横になっている。
さっき、私を庇ってフライゴンの攻撃をまともに受けんだ。
大きな怪我はなくてよかったけど。
「今日は休んで。フライゴンが出ても追いかけない」
「ガウ」
「出ても!」
「フィア」
ニンフィアがルカリオの前脚を触角で押さえた。
「フィア」
「……グル」
「ほら。ニンフィアもそう言ってる」
「フィア!」
「たぶん」
「フィア?」
「たぶんって言ったら怒られた」
「誰になのです?」
「別の話」
ラピスが近くの椅子に座っている。
机の上にはスマホロトムと地図、さっき撮影した現場の写真が並んでいた。
「それで、何か分かった?」
「まだ調査開始から十五分なのです。そう簡単に何か分かったら苦労しないのです」
「おい天才博士」
「その呼び方を便利に使うななのです!」
私はラピスのつっこみを流して、机を覗き込む。給水設備や倉庫など、破壊された設備の写真が印刷されていた。
「フライゴンが壊したところ?」
「確認できた限りではそうなのです」
「ふーん……共通点は?」
「ないのです。給水設備やら倉庫やら、会社も目的も違うところなのです。これだけで共通点を見つけろという方が無茶なのです」
「じゃあ、もっと襲われないと分からない?」
「そうなるのです」
ラピスが画面を閉じる。被害が出るのを待たないといけないのは嫌だなあ。
「それより気になるのは、あのナックラーなのです」
「うん。フライゴン見た途端、追ってきたよね。知り合いなのかな?」
「野生ポケモン同士ならあり得るのです」
「聞けば分かるかな」
「誰に?」
「ナックラー」
「……エルサ、ポケモンの言葉を話せるのです?」
「無理」
「ではどうやって聞くのです」
「えっとそれは……ルカリオ」
「グル?」
呼ばれて、ルカリオが顔を上げる。
「お願いできる?」
「グル」
「通訳できる保証はないのです」
「でも私よりは分かるでしょ」
「それはそうなのです」
「フィア!」
「ニンフィアも?」
「フィア」
「じゃあお願い!」
「グル」
「フィア!」
「……わたしたち、いらないのでは?」
「そこは頑張ろう」
◇
「いない」
「いないのです」
「フィア」
「グル……」
結局私たちは、砂漠のど真ん中で途方に暮れていた。
場所は、最初にナックラーが現れた場所。ジェードタウンとバス停の間のその場所で、私とラピスはただ風に吹かれていた。
「巣穴はこのあたりにあったはずなんだけど……留守かな?」
「相手は野生ポケモンなのです。ずっと同じ場所にいるとは限らないのです」
「でも巣穴なんでしょ?」
「ナックラーは獲物を待つために穴を掘るのです。そして、獲物がいないと判断すれば当然移動するのです」
「じゃあ……探すしかないか」
「この広大な砂漠でナックラー一匹を?」
「……やっぱり無理かな?」
「無理とは言ってないのです。ただし、ひたすらに、死ぬほど、暑いのです!」
チルタリスの日陰に隠れながら言われてもなあ。
「む。ずるいと言いたそうな顔なのです。科学者は環境を利用するのです」
「チルタリスを日傘にしてるだけじゃん」
「チル」
チルタリスは嫌では無さそうだけど。
「ニンフィア、リボンで日傘とかできない?」
「フィア」
「だよね。うん、無理だよね」
◇
「フィア……」
「暑い……」
「さっきも聞いたのです」
「暑いものは暑いのです!」
もう何分探し回っているんだろう。
水筒の水もとっくに空っぽだ。本当にあのナックラー一匹を求めて、私とラピスはポケモンたちと一緒に当てもなく砂漠を彷徨っていた。
「グル」
突然、ルカリオが止まった。
「ルカリオ?」
どうしたんだろう、と思っている間に、ルカリオは方向転換、速足で近くの岩場へ向かっていく。
「どうしたの?」
「もしかして、見つけたのです?」
「……本当、ルカリオの探知能力高いね。ここまでとは知らなかったよ」
「ルカリオはもともと、波導の勇者と言われるほどのポケモンなのです。気配察知に関しては右に出るものはいないのです」
「そうなんだ……そういえば、カントーのどっかの城で戦争を終わらせたとかそういう伝説があったような……」
そんな話をしていたら、ルカリオに追いついた。ルカリオに続いて、岩場の合間に目を入れる。
「……いた」
ナックラーだ。それも沢山。岩陰や砂穴に、大小問わず密集していた。それだけじゃない。ナックラーの進化系であるビブラーバ、そして当然最終進化系のフライゴンもいる。
「群れだったんだ」
「同系列のポケモンがこうして一定の範囲に複数いること自体は、おかしくないのです」
「……あ、ねえラピス」
あれ、きっと昨日の子だ。何しろこっち見た瞬間に「ナァック!」って怒ったから。
「やっぱり君か」
「ナック!」
他のナックラーたちも私たちを見る。
「……ラピス。もしかして、すごく嫌われてない?」
「気のせいではないのです」
「だよね」
一匹だけじゃない。
群れ全体で、人間を警戒している。特に戦闘能力が高いビブラーバやフライゴンたちは、ナックラー達の前に立って私たちに牙を剥けている。
「だ、大丈夫。私たちは、何もしないよ」
「ナック!」
「通じないか……わ、分かった、分かった」
ビブラーバの何匹かが、何かしらの音技を使おうと羽根を揺らしている。その上フライゴンが___何を使おうとしているかは、考えたくない。
「フィア?」
ニンフィアが前へ出る。
「ニンフィア?」
「フィア」
ゆっくりと歩いて、砂漠の主たちの中に入っていく。
「……」
彼らに、ニンフィアを襲う気配はない。
「やっぱり」
「人間に反応しているのです」
ルカリオも一歩進む。
「グル」
フライゴンたちはその姿をじっと見つめているけど、威嚇しない。
「私たちだけ?」
「そのようなのです」
「……ルカリオ。あの子と話せる?」
無茶振りなのは分かってる。
「言葉じゃなくていいから」
ルカリオは少しの間私を見て、昨日のナックラーに近づいた。
「グル」
「ナック」
「……分かるのかな?」
「エルサは少し黙るのです」
「はい」
「グル……」
「ナック」
「ルォ」
「ナック!」
何か、やり取りしている。
「会話になっているかは不明なのです」
「まあまあ、今いいところなんだから」
「現実的な話なのです」
やがてナックラーが動きだした。群れの奥の方に向かっていき、その後ろ姿をすべてのポケモンたちが見守っていた。
そして、何かを持って来て、ルカリオの前に置いた。
「何あれ?」
ルカリオが拾って、それを私へ渡す。
「……見ていいの?」
「グル」
一言でいえば、それは布だ。だけど、ただの布じゃない。
丈夫な素材でできていて、引っ張っても破れない。端には金属部品も取り付けられていて、その辺の市販品とは思えない重々しさを感じた。
「何コレ? ベルト?」
「これは……ポケモン用の拘束具なのです」
「え?」
見ただけでそう判断したラピスに、一瞬言葉を失った。
「拘束具って」
「なのです。それも、首か胴体に固定するタイプ」
「……そんなものが、ここで使われた?」
「可能性は高いのです」
「野生ポケモンを捕まえるために? でもそれって」
「……密猟の部類なのです。自由を奪った上での行動なのです」
「ラピス」
「まだ決めつけられないのです」
「でも」
「ナック!」
昨日の子が突然走り出した。
「ナック!」
「ちょっと、どこ行くの?」
少し先の岩壁で、ナックラーが止まる。
追いついた途端、私たちの目線は地面に吸い込まれた。
「これって……」
砂に、巨大な何か知らの跡が遺されていた。見える砂漠のあちこちが、不自然に大きく不特定に抉れている。
「ここで何か暴れた?」
「それだけではないのです」
ラピスがしゃがむ。
「タイヤ跡……車、それも大型なのです」
さらに、地面や岩肌には爪痕が。
かなり大きい。
「ナックラーじゃない、よね?」
「当然なのです」
「ビブラーバやフライゴン?」
「これほど大きくないのです。あそこのフライゴンと比べるのです。とても大きさが合わないのです」
「じゃあ……昨日のフライゴン?」
その返答は、ラピスではなくナックラー。地面を噛んで、「ナック……!」と怒っている。
もしかして。
「この群れ、あのフライゴンがいた群れ?」
「……」
ラピスは答えない。
代わりに拘束具とタイヤ痕、大きな爪痕を順番に見る。
「シナリオは分かりますが、決めつけはよくないのです。一度、しっかりと調べる必要があるのです」
もし本当に、人間がフライゴンを連れていったなら。
そして、あのフライゴンがこのナックラーにとって友達とかだったら。
「そりゃ、人間を嫌いになるか」
「ナック!」
「私も一緒にするなって言いたいけど」
ナックラーからすれば、そんなの知ったことじゃない。
「調べるなら、別のところから調べよう」
「なのです」
そうして私たちは、岩場から離れる。ポケモンたちの目線は、私たちが彼らの縄張りを出るまで、決して離れることはなかった。
「ナック……」
もう離れているのに、まだ小さな声が聞こえた。
昨日のナックラーが、岩の上でまだ私たちを見ていたんだ。