ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「で、どうやって調べる?」
ジェードタウンに戻ってきて早々、私の口から出てきた言葉だ。
いかんせん、調べるのは野生ポケモンの群れで起こった出来事だ。しかももしかしたら非合法な手段を行っていたかもしれない。
「まずは聞き込みなのです」
「聞き込みか……」
「なのです。捕獲に車両を使ったなら、どこかで見られている可能性があるのです」
「なるほどね」
私はスマホロトムを取り出す。
「じゃあ手分けする?」
「ダメなのです。エルサは聞き込みが下手そうなのです」
「ちょっと、失礼じゃない?」
「では練習するのです。わたしを町の住人だと思ってください」
「また? まあ、いいよ」
「どうぞ」
ちょっとデジャヴを感じるけど、私の名演技をとくとご覧あれ!
「この辺でフライゴン誘拐した人知りません?」
「百点満点中二点なのです」
「早ッ、え、二点!?」
「犯罪者を直接聞いてどうするのです!」
「分かりやすいじゃん」
「聞かれた方が警戒するのです!」
「ええ……じゃあラピスやってよ」
「いいでしょう」
ラピスが咳払い。
「すみません。この辺りで最近、大きな車両を見ませんでしたかなのです?」
「うわ、語尾が全部台無しにしてる」
「うるさいのです!」
「フィア」
「ニンフィア笑わない!」
「フィアー」
「グルッ……」
「ルカリオも今笑った?」
「グル?」
「誤魔化した」
でも、結局他にどうしようもない。
私たちは、それぞれ聞き込みを行うことになった。
そして、ジェードタウンの工業地帯に入ってから一時間後。
「結構いたね」
「なのです」
大型車両を見た人が五人。時期も大体一致している。
三日前、町の外へ向かう大型トラックがあったらしいのだ。
「それも二台か三台」
「証言が曖昧なのです」
「夜だったんでしょ?」
「なのです」
私たちはポケモンセンターの休憩スペースを借りていた。
机には、地図とメモ。そして、ジェードタウンを中心に、起こったことを書きこんでいた。
「砂漠に行くトラック自体は珍しくないよね」
「資材運搬もあるのです」
「じゃあ決め手にならないか」
「ただ」
ラピスが地図を指す。
「夜明け前に戻ってきた車両を見た人がいるのです」
「何か積んでた?」
「荷台は閉じていたそうなのです」
「うーん」
これじゃあまだ何とも言えないなあ。
「他には?」
「一人だけ、音を聞いているのです」
「音?」
「ポケモンの鳴き声。それもかなり大きかったそうなのです」
「フライゴン?」
「そこまでは分からないのです」
でも、砂漠に目撃された大型車両と大きなポケモン。
「偶然にしては」
「出来すぎているのです」
「だよね」
私は椅子にもたれる。
そして、どうしても頭から離れないのは。
「シャドー?」
「可能性は高くなったけど、まだ問題があるのです」
「何?」
「あのフライゴンがダークポケモンなのは確実なのです。群れからあのフライゴンが消えたのも、おそらく同じ時期」
「うん。変なところある?」
ラピスは指を立てた
「たった三日。短すぎるのです」
「何が?」
「捕獲して、運んで、ダークポケモンにして、そのフライゴンが脱走して、昨日にはジェードタウンを襲っている。この一連の流れが、たった三日しかないのです」
「……できないの?」
「昔なら、かなり無理があるのです」
昔か。二十年前なら、無理ってこと。
「今なら?」
「……それを調べるのです」
そう答えたラピスの顔は、少し怖い。
「そっか……うん、分かった」
今は、これ以上は聞かない。
「じゃあ次は……トラックがどこに行ったか?」
「そこなのです」
『証言地点から推定すると北東ロト!』
「また砂漠……」
「オーレでそれを言っていたらどこにも行けないのです」
そういうわけで、折角街に戻ってきたのに、私たちはまた砂漠に逆戻りだ。
暑いから、ニンフィアはボールに戻っている。そのまま少しでも休んでいて。
一方ルカリオは、私たちと歩きながら、時々後ろを見ている。
「どうしたの?」
「グル」
「何かいる? もしかして、……あのナックラー?」
「グル」
「やっぱり?」
「止まるのです」
「え?」
突然ラピスがしゃがみこんだ。
彼女の前には、平坦な砂漠に明らかな人工物による跡が刻まれていた。
「タイヤ跡?」
「なのです」
「まだ残ってる?」
「かろうじて、って感じなのです」
砂や風で消えかかっているけど、それでもわずかな溝がしっかりと刻み込まれている。その後は、より狭い岩場へと続いている。
「すごい狭いけど、大型トラックでよく入ったね」
「私なら、運転したくないのです」
「ラピス運転できるの?」
「……」
「できないんだ」
「チルタリスがいるから必要ないのです! ……あれ?」
ラピスがそこで足を止めた。
「どうかした?」
「何か踏んづけたのです」
ラピスが足を退けると、そこには何か小さな破片が落ちていた。
綺麗に円形に曲がっているパーツ。見た途端になんの部品かは、私みたいなポケモントレーナーだったら誰でも分かると思う。
モンスターボールだ。
「野生ポケモン捕まえようとして失敗したのかな? それとも落としたか、捨てたか。野生のポケモンもいるし、そこまでおかしくはないけどね」
「……」
ラピスは何も言わない。ただ黙ったまま、考え込むように顎に手を当てている。
金属片と壊れたケースが落ちていたのは、そこから数メートル進んだところだった。
「もうこれ、何かあるよね」
「なのです」
それが落ちていた岩陰には、大きな跡が残っている。どう見ても、車両が停車していたと分かる。
「ここで何してたんだろ」
「分から――」
「グルッ!」
ルカリオが突然前へ進みだした。
「ルカリオ!? どうしたの!?」
「グルルル……」
「もしかして、何かいるの?」
ルカリオが睨んでいるのは、岩陰の向こう。確かによく見れば、反対側から映る影が動いているようにも見える。
「ニンフィア、行くよ!」
「フィ!」
モンスターボールからニンフィアを出して、ルカリオと一緒に警戒する。
ラピスのチルタリスも二匹に並ぶ。
そして出てきたのは。
「ポケモン?」
黄色と黒の体色で、尖った身体。人型のように立ち上がり、目を細めてダウナーな雰囲気を感じるそのポケモンは……
「エレズン?」
『違うロト』
私たちの前に、スマホロトムが飛び出る。カメラでポケモンの姿を捉えて、堂々と宣言した。
『ストリンダー! ハイなすがたロト!』
ストリンダ―か。初めてみたかも。
確か、どくタイプだったっけ? だとすれば、ニンフィアは不利だけどルカリオなら有利かも。
無意識に戦術を組み立てていたけど、ストリンダーの様子に、私は首を傾げた。
ふらついていて、身体には傷が刻まれている。それに、呼吸も荒い。
「エルサ」
隣で、ラピスがオーラサーチャーを作動指している。そして、機械からは警報音が鳴り響いていた。
「あのストリンダーは、ダークポケモンなのです」
「……!」
それが判明したのと同時に、ストリンダーの目が私たちをはっきりと捉える。
でもストリンダーは、攻撃しない。
「……? どうして襲って来ないのです? 様子がおかしいのです」
「怪我してるからとか?」
「それだけでは――」
「リンダァァッ!」
突然、黒紫のオーラとともに叫び声が響いた。
ストリンダーが特有の大声を上げる。それはきっと、戦闘の合図だ。
「来る! ニンフィア! ルカリオ!」
「フィア!」
「グルッ!」
相手を見定めたストリンダーが動く。より強い、黒いオーラとともにストリンダーが両手で地面を叩く。すると、その手を起点に黒紫の波が沸き起こった。
「何これ!? これもダーク技!?」
「私は知らないのです! きっと、どくタイプの技をベースにしたものなのです!」
「だったら、ニンフィア! 一度戻って!」
ニンフィアを引っ込めて、ルカリオでバトルを決行する。
「はどうだんで弾き飛ばして!」
「ルオッ!」
青い光とともに、ルカリオの手に光が集まっていく。
ルカリオの代名詞ともいえるはどうだんが、砂漠を染めた毒沼に炸裂した。一気に弾き飛ばす威力で、闇の沼は消えていった。
「よし!」
「……」
だけど、この行為をストリンダーは完全な敵対行為とみなしたみたい。
全身から溢れる闇が、その両腕に集まっていく。
「ダークラッシュ……!」
代表的なダーク技が襲い掛かる。
ストリンダ―が、自らの体が傷つくのもためらわないほどの勢いで襲い掛かって来る。
「ルカリオ! ボーンラッシュで防御して!」」
「グルッ!」
波導を骨状にして、ルカリオは防御する。
苛烈な勢いのストリンダ―だけど、それでもまだルカリオは保っている。
「ガウッ!」
「そのまま止めて! でも攻撃しないで!」
「無茶を言うのです!」
「ルカリオならできる!」
「本人に聞いてから言うのです!」
「グルッ!」
ルカリオのボーンラッシュが、ストリンダ―の足元に突き落される。
すると砂場が大きく弾けて、ストリンダーの動きが歪む。
「落ち着いて! ストリンダー!」
今なら、近づける。
さらに暴れようとするストリンダーへ、私はまっすぐ呼びかけた。
「何もしないから!」
だけど、返事は黒紫のオーラ。
また地面に、毒沼が広がって襲ってくる。
どくタイプなら、と思った私の判断を呪う。それははがねタイプであろうと、ルカリオに触れると大きな悲鳴を上げさせた。
「グルォ!」
「ルカリオ!」
あきらかに、こうかはばつぐんだ。
「ダメなのです! どれだけ効果が無いように見えても、その実ダークわざは普通のポケモンには大ダメージなのです!」
「そうだった……」
ルカリオは飛びのく。
だけど、ストリンダーはそんなルカリオを睨んだまま動かない。
「もしかして……怖がってる?」
「…………」
ココロを閉ざされた、戦闘マシーンとなったポケモン。
だけど、今でも恐怖心が残っているのかな。
「ラピス」
「何なのです?」
「この子も。誰かに何かされたんだよね」
「……」
ストリンダーが後ろへ一歩下がる。このまま行けば、逃げられるかもしれない。
「大丈夫。今は捕まえないから」
「エルサ?」
「逃げたいなら、逃げてもいい……でも君、怪我してるよ」
ルカリオと戦う前から、その腕に傷が残っていた。
私はバッグからきずぐすりを出して、地面に置いた。
「これ、使って」
「……」
「ポケモンはきずぐすりを使えないのです」
あ、そういえばそうか。
その時。
「――おい!」
「え?」
若い男だ。
その姿を見た途端、ストリンダーの身体が固まる。
「いた……! やっと見つけた!」
「知ってるんですか?」
「俺のポケモンだ! ずっと探してたんだぞ!」
息を切らしながら、男がストリンダ―に近づこうとする。
既に黒い光で身構えているストリンダ―に。
「待って! 今は近づかないで!」
「何でだよ!」
「この子――ダークポケモンです」
「……は?」
男が止まった。
「何言ってるんだ? そんなわけないだろ。なあ、ライオット」
「……」
ニックネーム、ライオットっていうんだ。
「俺だぞ? 帰ろう」
一歩、ストリンダーに近づく。
「な? ライオット」
「リンダァァァァッ!!」
「危ない!」
男を突き飛ばした直後、地面を黒い拳がめり込んだ。
ダークラッシュだ。
「げほっ……ライ……オット?」
呆然としているけど、ストリンダーはもう待たない。
そして、自分のトレーナーに向かって。
もう一度腕を振り上げた。