ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「ライオット!」
男がストリンダーの腕へ飛びつく。だけど、黒紫色の腕はそれを拒絶して振り払う。
「ルカリオ!」
「ガウッ!」
危ない。
ルカリオが割り込んで、すぐさま防御態勢を組む。
黒い腕が炸裂して、ルカリオは吹き飛んで、男性と一緒に倒れ込んだ。
「グルッ……!」
「下がって!」
「ちょ、何す――」
「いいから! ニンフィア! マジカルシャイン!」
「フィ!」
光が広がり、ストリンダーが顔を庇った。
だけど、すぐに視界を取り戻して、ニンフィアと距離を取る。
「な、なんなんだよ……」
男がまだ信じられないみたいに、ストリンダーを見つめている。
「ライオットが、俺を? そんなわけ……」
「あるのです」
ラピスがオーラサーチャーを通している。私は分からないけど、きっとそこには明確に示されているんだろう。
「あのストリンダーは、間違いなくダークポケモンなのです」
「ダーク……?」
「ココロを閉ざされたポケモンなのです」
「……は? ココロを、閉ざされた? なんで? 俺のライオットに、誰がそんなことしたんだよ!」
「今はそれより!」
ストリンダーがまた動きだす。
「ルカリオ!」
「グルッ!」
「ボーンラッシュ!」
両手にまた骨状のエネルギーが握られて、ストリンダーの腕を受け止める。
そのまま接近戦に持ち込むけど、すぐさま黒いオーラの拳が、ボーンラッシュに弾かれた。
「ニンフィア、でんこうせっか!」
「フィア!」
ニンフィアが高速で動き出す。
「強すぎないように! 倒したらダメだからね!」
その指示に従ってくれたニンフィアは、確かにストリンダーを奥の岩場まで叩きつける威力が抑えめになっている。
ストリンダーがまだ立ち上がってくるけど、さっきより呼吸が荒い。
「ライオット……!」
「……!」
また黒紫色のオーラだ。
あの動きは、ダークラッシュ……いや。
「来るのです!」
ストリンダーの両腕が地面を叩く。
すると、衝撃が走り出す。大地が揺れて、黒いオーラが地面を突き破って襲い掛かって来る。
「ダーククエイクなのです!」
この前のセトって人のハガネールが使った技だ。
ルカリオとニンフィアはそれぞれ体を翻して避けるけど、そのオーラたちの先には、私たちもいる。
「ライオット!」
「危ない!」
また前に出ようとする男を突き飛ばして、ダーククエイクの攻撃から守る。
「今のあの子、あなたが分かってない!」
「分かってる!」
「分かってないから攻撃したんでしょ!」
「……!」
「今近づいたら、もっと傷つけるかもしれない!」
「誰をだよ」
「両方!」
この言葉に、男は歯を食いしばった。
「じゃあどうするんだよ」
「捕まえる」
「……は?」
私は、右腕に付けたままのスナッチマシンに目を落とす。すると、彼の目もまたスナッチマシンに向けられた。
「何だよ、それ」
「説明は後!」
「いや待て! 捕まえるって、俺のポケモンだぞ!」
「分かってる!」
「分かってて取るのかよ!」
「今だけ!」
「今だけって――」
「ストリンダーを……ライオットをこのままにしておく方がいいの!?」
「……」
その一言で、男は黙った。
「元に戻す方法がある」
「本当か?」
「あるのです」
ラピスが答えた。
「ダークポケモンは、元に戻せるのです」
「……絶対?」
「絶対とは言えないのです」
「ラピス!」
「嘘は言えないのです」
「……」
でも。
「確かに、戻せる可能性はある。だから……」
私は空のボールを取り出した。そのまま、男が見守る中でスナッチマシンにセットする。
「一回だけ、預からせて」
彼の握った拳が震えてる。
そして。
「ライオットを」
「うん」
「取らない?」
「取らない」
「返す?」
「返す」
「……絶対?」
「絶対。それだけは言える」
「……」
男は目を閉じて。
「分かった……頼む」
「うん」
その声は、彼が発したもののなかで一番小さかった。
そして、機械音とともに、普通のモンスターボールがスナッチボールに代わっていく。
「ニンフィア! でんこうせっか!」
「フィ!」
ニンフィアが目にも止まらない勢いでストリンダーを攪乱、さらに一撃を入れてよろめいた。
「ルカリオ! しんくうは!」
「グルッ!」
さらに、ルカリオの手から放たれた空気がぶつかる。
それにより、ストリンダーの膝が少し沈んだ。
「今だ!」
伸ばした右腕に集まった光。そして、投げられたスナッチボールが五つの光になって、ストリンダーを捕まえた。
「お願い!」
落ちたボールが、まず一回揺れる。
「頼む……」
二回。
「ライオット……」
三回。
かちっ。
「……」
「止まった」
「成功なのです!」
「やった……!」
拾い上げたボールは重くない。
普通のボールなのに、妙に重く感じる。
「ライオット……」
男も、じっと私の手を見つめていた。
「……はい」
「え?」
「持ってて」
「いいのか?」
「何で渡すのです!?」
「だって元々この人のポケモンだし、スナッチした状態で、すぐ普通に扱えるのか分からないから」
「さっきの自分の発言をもう忘れたのです!? ポッポ頭なのです!?」
ラピスを見る。
「今のところ、管理はエルサ側で行った方が安全なのです。一応、リオルをリライブした実績もあるのです」
「気持ちの問題」
「科学的ではないのです!」
「いいじゃん」
ラピスとそんなやり取りを繰り返している間に、男が両手でボールを受け取っていた。
「ライオット……」
親指が優しく、ボールを撫でる。
「やっと見つけた」
声が少し震えている。
必死に探したんだろうな。
「あ、そうだ。名前」
「え?」
「あなたの名前、まだ聞いてなかった」
今更だけど、自己紹介できるタイミングでもなかったし。
彼の方も「ああ、そうだな」って納得している。
「カイルだ。そっちは?」
「私はエルサ」
「ラピスなのです」
「落ち着いて見ると、驚いたな……女の子二人旅かよ」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「エルサと一緒に旅をするとか、命がいくつあっても足りないのです」
「それはこっちのセリフだって。……それよりも、このストリンダーだけど、いついなくなったの?」
私の質問に、カイルは口を閉じる。一度深呼吸をしてから答えた。
「……四日前」
そう言ってから、カイルは水を飲む。
ふう、と息を吐いてから、さらに言葉を続けた。
「ジェードの大会に出るつもりで、この辺りでキャンプしてたんだ」
「コンテスト?」
「いや、バトルの方」
「あ、フェスタって色々あるんだ」
「知らないで来たのかよ」
「コンテストしか見てなかった」
「偏ってんな」
「うるさい」
カイルは少しだけ笑う。
「夜だった」
「ライオットがいなくなったの?」
「ああ。最初はそう思った」
「逃げた?」
「それは絶対ない」
即答だ。
「こいつ、勝手にどっか行くことはあるけど、朝には絶対に戻ってくるからな」
「チョロネコみたい」
「でも、あの日は戻らなかった」
「四日前……それから、探したの?」
「ああ。朝からずっと。ジュンサーさんにも通報したし、ポケモンセンターにも何度も通い詰めた」
「そっか……何か手がかりみたいなの、どこかに残ってた?」
「手がかりと言われてもな……あ、そういえばキャンプの近くにタイヤ跡があったぜ」
タイヤ跡。それを聞いた途端、ラピスと目が合った。
「それって、大型?」
「たぶんな」
「何台?」
「分からないけど、一台じゃないな」
「音は?」
「夜中に一回起きた。ライオットが鳴いた気がしたんだ。でも眠くて、そのまま寝たんだ……起きればよかった。あの時起きてたら」
「それは……」
結果論だと言いかけて、止めた。
「四日前、ストリンダーがいなくなった」
ラピスは真面目な口調で発言する。
「そしてフライゴンが消えたのは、おそらく三日前なのです」
カイルのストリンダー。
ナックラーの群れのフライゴン。
どっちの現場にも、タイヤ跡がある。そして一日違いってことは、同じ相手が行った可能性も十分ある。
「待て」
と呼び止めたのは、カイル。
「フライゴンって何だ?」
「ああ、そっか。野生の群れから大きいのが一匹いなくなってるんだ」
「もしかして、それも?」
「うん。ダークポケモンになってた。しかも、他にもいるかもしれないのです」
「他にもって……ライオットみたいなポケモンが、何匹もいるってのかよ?」
「分からないのです」
「またそれか」
「分からないものは分からないのです!」
「ラピス怒らない」
でも確かに、一匹じゃない。
「ライオットが脱走してたなら……」
「フライゴンも脱走した可能性が高いのです」
「じゃあ」
「他にも逃げている可能性があるのです」
「……」
カイルはボールを握った。
「だったら、俺も行く」
「え?」
「犯人探すんだろ」
「まだ決めてないよ?」
「決めてないのかよ!」
「調べるのは決めてるけど……」
「それはもうほぼ一緒だろ!」
「違う!」
「どこが!?」
「目的が!」
「細かい!」
「二人とも」
ラピスが私たちを止める。
「似てるのです」
「似てない!」
「似てねえ!」
「ほらなのです」
「フィア」
「ニンフィアまで!」
少し離れたところで、ポケモンたちがこっちを見ている。
やがて、ルカリオが耳を立てた。もう、その目は私たちに向いていない。
「ルカリオ?」
「グル」
「もしかして、また何か感じる?」
「……ガウ」
ルカリオが立って、歩き出す。
目的地は、岩場の少し先。
「ねえ、何かある?」
「グル」
「! ……これ」
ルカリオが指し示したのは、細長い黒い部品だ。
ラピスが拾って、目を凝らす。
「これは……」
「何なの? ラピス?」
ラピスの顔が一気に強張る。そして。
「捕獲装置の部品なのです」
「ポケモン用?」
「それも、大型の」
「じゃあ」
カイルは顔を上げた。
「ここ通ったんだな」
「おそらく。……そして、これは壊されているのです」
「壊されている?」
「切断面が新しいのです」
「つまり」
私は砂漠を見る。
どこまでも広大な砂漠。オーレ地方の大半を占める砂漠が、その真実を覆い隠しているようにも見えてきた。
「捕まえたポケモンが途中で暴れた可能性があるのです」
カイルのボールにいる、ダーク・ストリンダー。
そして昨日見た、ダーク・フライゴン。
「逃げたのは、一匹や二匹ではないかもしれないのです」