ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「一匹や二匹ではないって……」
ラピスの言葉からしばらく、誰も何も言わなかった。
私がようやく言葉を発するまで、何分かかったか分からない。
「……何匹くらい?」
「分からないのです」
「またそれ?」
「だから分からないものは分からないのです!」
「そんなに怒らなくても」
「エルサが毎回言うからなのです!」
「フィア」
「ニンフィアまで呆れないで」
一方カイルは、手の中のボールを見る。
「ライオットも、その中の一匹ってことか」
「可能性は高いのです」
「連れ去った奴らは、野生も、トレーナー持ちも関係なく捕まえてるってことだろ」
「……なのです」
「それも、ダークポケモンを作るためってのか?」
カイルの真剣な眼差しに、私は肯定を示すことしかできなかった。
「そんな簡単に?」
「簡単ではないのです」
ラピスは捕獲装置の部品をバッグへ入れながら答えた。
「……少なくとも、昔は」
「昔は?」
「ダークポケモンを作り出すには、設備も時間も必要だったのです」
「じゃあ今は?」
「……分からないのです」
「また?」
「今回は本当にそこが問題なのです!」
ラピスが少し早口になった。
「もしストリンダーが四日前に捕獲されて、すでにダーク化されていたのなら、処置そのものがかなり速くなっている可能性があるのです」
「それって、当時よりも技術が進んだってこと?」
「それだけならまだいいのです」
「よくないだろ」
とカイル。
「全然よくない」
「これはあくまで例えなのです! それに、もっと問題なのは……大量に処理できる可能性なのです。ダークポケモンを作るのに、従来の一匹ずつ時間をかける方式ではなくなっているかもしれないのです」
つまり、工場で何かを大量生産するみたいに、ポケモンたちが無情にもダークポケモンになっていくということか。ベルトコンベヤーみたいなものに並べられたポケモンたちが、機械にプレスされるたびに戦闘マシーンに作り替えられていく……
「……嫌だな、それ」
「なのです」
「何匹も一気に?」
「まだ仮説なのです」
「でもあり得るんだよな」
「否定できないのです」
カイルの言葉に、ラピスは頷いた。
「グル……」
「ん? どうしたのルカリオ?」
ルカリオが地面の痕跡を見ている。やがて、砂をかき分け始めた。
「また何かあったの?」
私の言葉にも、ルカリオは一切耳を傾けない。
ただ、一心不乱に地面をかき分けていく。
そして、その中から新しい部品が姿を現した。
「……っ!」
今息を呑んだのは、誰だったのだろうか。
今度は金属だけじゃない。
黒い布やコード、それに折れた留め具なんかが散乱している。
「これって、全部同じ装置?」
そのなかのパーツのうち一部をルカリオから受け取りながら、私はラピスに尋ねた。
ラピスもそれを覗き込みながら「たぶん」と同意した。
「でもこれ……どうやら、内側から力がかかっているみたいなのです」
「内側?」
「捕獲されていたポケモンが暴れて壊したってことだろ」
ああ、なるほど。カイル、結構頭いいね。
じゃあ、この近くに脱出したポケモンの痕跡が……
「あ、あった!」
もうほとんどが見えなくなっていて、一つ二つくらいの足跡が点になってある。
「これじゃないかな? 何のポケモンだろ……?」
『識別困難ロト!』
「珍しく役に立たない」
『砂で崩れているロト!』
「ごめん」
『素直ロト!?』
「そこ驚かないで」
「こっちにもあるぜ」
カイルが別の足跡を見つけている。私とは全く別の方向で、足跡なのかもはっきりしないくらい曖昧な跡だ。当然、こっちも特定はできない。
「これ、一体何種類いるんだろ」
「少なくとも一種類ではないのです。そのうえ、バラバラに散っているのです」
「最悪じゃん」
「なのです」
◇
ジェードタウンのポケモンセンターで、カイルを入れて私たち三人は机を囲んでいた。
「まず確認できているのは最低三匹いるのです」
地図に書かれている工場地帯に、ラピスは大きく丸を付けた。
「まず、ここに現れたフライゴン」
次に、砂漠の一か所を指す。
「ストリンダー」
岩場があったあたりにもう一つの丸。
「そして、まだ正体不明の脱走個体」
ストリンダーを捕まえた付近に、さらにもう一つの丸。
「もっとも、確認できたのは痕跡だけなのです」
「じゃあ二匹確定、一匹以上不明」
「なのです」
カイルが頭を掻いた。
「他にもいる可能性は?」
「高いのです」
「んで、そいつらは町に来るのか?」
「分からないのです」
「人を襲う?」
「そのはずなのですが、今回に限っては分からないのです。フライゴンも破壊活動はしていたけど、人というよりも施設が主だったのです」
「結局全部分からないじゃねえか」
「だから調べてるのです!」
「ラピス怒りやすいね」
「誰のせいなのです!」
「フィア」
私は地図を見る。あのジェードタウンがここで、あの岩場がここだから、えっと……方角は……。
「あの足跡、街の方には向かってなかったよね?」
「ん? ああ、そうだな」
カイルが頷いた。
「だとするとさ、フライゴンだけ動き違うよね」
「どういう意味なのです?」
「ライオットはこっち見たら警戒してた」
「なのです」
「でもフライゴンは、わざわざ壊しに来てる」
「……確かに」
つまり、フライゴンに限っては何か目的があって動いているのかな。
「可能性はあるのです」
「でも、戦闘マシーンに改造されたフライゴンが目的意識をもって動くのかな?」
「そもそも、襲われたこの二か所、共通点もないのです。今のところは」
「所有者は?」
「え?」
「ここ、誰の施設なの?」
「……ちょっと待つのです」
ラピスはスマホロトムにを触れた。
「給水設備は町の共同管理で、倉庫はジェード物流なのです」
「……何それ」
「会社名なのです」
その時、ポケモンセンターの入り口が開いた。
「すみません!」
切羽詰まった男の人が、センター内に呼びかけている。
」
「町の外でポケモンが暴れてる!」
「また!?」
「トレーナーの方、どなたか助けてくれませんか!?」
何人かのトレーナーが振り返っている。でも、それがダークポケモンだったら、救い出すためにも私が行かないと。
「どこですか?」
「東の採掘場!」
「何のポケモン?」
「分からない! 見たことない技使ってる!」
私とラピスはすぐに顔を合わせた。
そして。
「行くのです」
「うん」
「俺も行くぜ!」
とカイル。ありがたいけど、分かっているよね。
「大丈夫だ。ライオットは出さないし、まだ戦わせない」
「よし。なら分かった!」
私たちは三人で、施設を飛び出した。
◇
私たちの目に飛び込んできたのは、すでに再起不能になっている重機たちと、気を失っている作業員たちだ。
「みなさん! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……」
助け起こすけど、それぞれ苦しそうな呻き声を上げてくる。
他の人たちも、同じみたいだ。
場所を見渡してみると、その姿を見つけた。
灰色の体と大きな牙が特徴の、固そうな体つき。
「ドンファン?」
『ドンファンロト!』
「ダークポケモンなのです!」
すさかずラピスがオーラサーチャーを確認している。これまで何度も聞いてきた警報が鳴り響いて、その危険性を訴えている。
「ドォォン!」
体を丸めて、ドンファンが突進してくる。
私たち三人はそれぞれバラバラになって回避、背後で大きな土煙が舞い上がる。
「ぐっ……! ニンフィア!」
「フィア!」
モンスターボールから飛び出すニンフィアが、ドンファンの前に立つ。
戦うべき相手を見つけたドンファンは、すぐさま咆哮を上げた。
闇色のオーラが、その全身を包み込む。ドンファン特有の体の回転が、今から行う攻撃を予兆させた。
「かわして!」
ニンフィアが転がると、すぐにその場を灰色の体が削り取っていった。ドンファンの勢いは止まらない。そのまま突き進んで、奥の重機を木端微塵に破壊した。
「今のは!?」
「ダークブレイクなのです!」
「フライゴンも使ってたやつか……! ニンフィア、ムーンフォース!」
「フィ!」
ドンファンがまたダークブレイクで迫って来る。それに対して、ニンフィアは目前で光を放ってカウンター。
ドンファンは大きく吹き飛び、一度地面に伏した。だけど。
「……」
すぐさま立ち上がり、こちらを睨んでくる。そして、まるで効いていないかのように体を回転させた。
「やっぱり硬いっ!」
「ドンファンは防御が高いのです!」
「特殊方面はそこまで高くなかった気がするけど!?」
「だったら改造されているからなのです!」
「やっぱり!」
「無駄話してねえで来るぞ!」
カイルの言う通り、もうドンファンが黒紫色の光を放っている。
黒い軌跡が一直線に迫って来る。
「ムーンフォース!」
ニンフィアの光が、向かってくるドンファンへ直撃して、吹き飛ばした。
いくら戦闘マシーンにされているとはいえ、反射的な痛みに対しては体が緩むみたい。ドンファンの体が回転から解除された。
「今!」
スナッチマシンを起動。すぐにモンスターボールをセットして、スナッチボールに変換させた。
「使うのです?」
「放っておけない! お願い、スナッチボール!」
私は叫んで、光となったモンスターボールを投げた。
ボールは手を離れるとすぐに光となって、ドンファンを捕縛。
地面に落ちて、一回、二回、三回と揺れる。
そして。
「……」
かちっ。
「入った!」
「成功なのです!」
「やった!」
すぐに走って、ボールを拾い上げる。
「これで……確定三匹なのです」
ラピスも、ボールを覗き込んでいる。
「ライオットにフライゴン、そしてこのドンファンの三匹ね」
「なのです」
一方、カイルはドンファンが暴れまわった採掘場を見返していた。少しずつ人々も私たちのバトルから目を離して、現実の復興へ手を出し始めている。
「なあ、ライオットみたいになったポケモン、まだいるのか?」
「……」
これで終わりというのは、少し楽観的過ぎる気がする。
その時。
「今の、スナッチマシンだな?」
知らない声が聞こえてきた。
「え?」
今のは、どこから?
左右を見渡して、上にも目をやって。
そして、いた。
崩れた岩の上に、若い男が。
この場所の作業員たちとは一風を画す、砂色のコートが特徴の男性。ガタイの良さとともに、見るだけで筋肉がすごいと印象付けた。
「……エルサ」
ラピスが息を呑む音が聞こえた。見れば彼女は、滝のような汗を流しながらその男を凝視していた。
「ボールをしまうのです」
「え?」
「早く!」
男が岩から降りてきた。壊れた周囲を一度見渡して、鼻を鳴らす。
「本当に使ってる奴がいたとは驚きだ」
「あんた、誰?」
「ははッ! 俺の名前よりも、重要な要件があるんだよ!」
話を聞く気はないな。この男は、腰に付けているモンスターボールに触れた。
「そのダークポケモンを返してもらいに来た!」
「返す? この子、あなたのなの?」
「いいや。だが、管理しているものだ。だから、俺が連れて帰る! ハイ完璧!」
「……」
なんか、色々見えてきたかも。
ラピスも前に出た。
「エルサ。この人、シャドーなのです」
だろうな、とは思った。
ラピスはそのまま、その名を口にした。
「ヴァイス……あなたまで現れるなんて」
「ならば二択を与えよう! 素直に返すか、それとも……痛い目を見るか?」
ラピスと知り合い……元シャドーのラピスと。当然、このヴァイスという男は、かなり若い。
なんでか、以前研究所で会ったセトを思い出した。