ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「フィア!」
ぱんっ、と乾いた音とともに、顔に慣れた感触が。
「フィア」
「……起きてる」
「フィア!」
「起きる。起きるから」
知らない天井を数秒見て、頭に手を乗せる。うーん、頭が働かない。えっと、ここは……。
「あ、ジェードか」
ジェードタウンのポケモンセンター。
昨日は疲れて、そのまま宿泊したんだ。
「ロトム。何時?」
『午前八時十二分ロト!』
「ええ……じゃあ、まだ早い」
『一般的にはそれほど早くないロト!』
「私には早いの」
ああ、もう一度寝込みたい。
一方横では、ルカリオが座っていた。
「おはよう、ルカリオ」
「グル」
「ニンフィアは?」
「フィア!」
「あ、目の前だった」
そういえば、私の今日の目覚ましはニンフィアのビンタだったな。これが本当の目覚ましビンタ。
今日は何もない、はず……。
ナックラーにフライゴン。ヴァイスと、彼が捕獲しようとしている脱走したダークポケモンたち。
「……何もなくないか」
「フィア」
ニンフィアが私の上でちょこんと座っている。
その頭を撫でながら、なんとなく口が動いた。
「……コンテスト」
『明日開催ロト!』
そう。ジェードポケモンフェスタ。当初、この町に来た目的。当面の目標であるコンテストも併せて開催される。色々ありすぎて、すっかり忘れていたけど。
「……ニンフィア」
「フィア?」
「どうする?」
「フィア!」
ニンフィアは即答。
体の上でジャンプして、お腹に重さがまた圧し掛かってきた。
「うっ……コンテスト、出たい?」
「フィア!」
「そっか。じゃあ……出よっか」
「フィアー!」
ニンフィアが顔面に飛びついてきた。
「うわ! ちょ、ちょっと! 重いって!」
「フィア!?」
「わ、ごめん! 重くない!」
「フィア」
「言い直したからから許して!」
「グル」
「ルカリオ笑った?」
「……」
顔を逸らした。恥ずかしそうだけど、今絶対笑ったって。
◇
「昨日あれだけあって、結局出るのです?」
「うん。……その……ずっとダークポケモン追いかけてるのも違うかなって」
ラピスがパンを食べる手が止まった。
「別にいいと思うのです」
「あれ? ちょっと意外……もっと変なこと言うかと」
「失礼なのです!」
その隣では、カイルも私たちと同じく食事をとっていた。
「俺も出るぞ。もともと、大会に参加するつもりでここに来たしな」
「バトルって……ライオットは?」
「あいつが戻るまで、出さないよ」
カイルは腰のボールに触れた。あのボールが、きっとダーク・ストリンダーのライオットなのだろう。
「じゃあカイル、手持ち他にいるの?」
「ああ。明日見れば分かる」
「へえ。どんな子たち? 教えてよ」
「嫌だ。対戦するかもしれないだろ」
「対戦って……私が参加するの、コンテストだよ」
「じゃあ余計に明日でいい」
「ケチ」
「うるさい」
「仲良くなったのです」
「なってない」
「なってねえ」
「やっぱり似てるのです」
「似てない!」
「似てねえ!」
「フィア」
「グル」
ポケモンたちまで納得してる。
私たち、そんなに似ているかな?
◇
「昨日よりすごいなあ」
もう、人とポケモンがこの上なくひしめき合っている。
まだ開催前日だっていうのに、かなり賑やかという言葉が真っ先に出てきた。これもう開催日本当は今日なんじゃないの?
「フィア!」
「分かった、見に行こう」
大はしゃぎのニンフィアが、屋台へ突撃していく。
「食べ物?」
「フィア!」
「朝ごはん食べたばっかりだよ?」
「フィア!」
「見るだけね」
そう言いながら、私も屋台に並んでいるものを見てみる。売ってるのは、ポケモン用のお菓子やポフィン、きのみ。
「あ、ポロックも売ってる」
流石にコンテストを併設しているだけあって、関連グッズもあるんだ。あ、私は使わないけどそういえばポフィンもそうか。
「フィア……」
「だめだよ、ニンフィア。見るだけだからね?」
「フィア」
「そんな顔してもダメ」
「フィアァ……」
「……」
一個だけ、仕方ないかなあ。前日にこの量じゃ、明日の本開催の日とかどうなっちゃうんだろう。
「フィア!」
「一個だけだからね!」
さすがにここでポロックはちょっと味気ないか。普通のお菓子を買って、ニンフィアと半分こ。
「甘いね」
「フィア!」
ニンフィアが嬉しそうに飛び跳ねている。調子いいんだから。
「ルカリオもいる?」
「グル」
「いらない?」
「グル」
「そっか」
まだこういうところが、ちょっと分からないなあ。
ニンフィアなら見れば大体分かるんだけど。
「……いや」
そのうち分かるかな。
◇
広場の人だかりでは、大きな声があちこちから聞こえてきていた。
「バトル?」
どうやら、ポケモンバトルが行われているらしい。フィールドには、二匹のポケモンたちがいた。
「アリゲイツと……」
『グルトンロト!』
へえ、結構珍しい組み合わせじゃないかな。
トレーナーは両方とも子供だ。
「グルトン、どろかけ!」
「ブヒッ!」
「アリゲイツ、みずでっぽう!」
「アリッ!」
土と水がぶつかって、泥水になって飛び散っていく。
「明日のジュニア部門かな」
『公開練習のようロト!』
「へえ」
さらに別の場所では、ゴーリキーとドテッコツが協力して荷物を運んでいる。
その上をエモンガが飾りつけをして、その先の花壇をキュワワーが飾り付けをしている。
「本当に色々いるね」
ポケモンがほとんどいなかったといわれるオーレ地方。でも今は、こんなに豊かな土地になっている。
「変わるもんだね」
「グル」
◇
「コンテスト部門ですね」
「はい」
そうして、私たちはフェスタの総合受付窓口にやってきていた。
受付のお姉さんへ、トレーナーカードを提示する。
「はい。エルサさんですね。では、明日午前十時から予選です」
「ありがとうございます」
「フィアー!」
「決まったね」
ニンフィアがくるくると回っている。
「久しぶりでもないけどね」
フェナスで優勝してから、まだそんなに経ってない。
「今度は何しよっか? 前と同じじゃつまらないよね」
「フィア」
「それじゃあ、少し考えよっか」
でも何しようかな。そもそも私、オーレの前にホウエンやカントーでもそこそこやってたから、少しネタ切れになりつつあるかもしれないかも。
「ルカリオも、練習見る?」
「グル」
ルカリオも頷いた。
じゃあ、決まり。
◇
私たちが練習場として選んだのは、町外れの空き地だ。
今は誰もいない。ここでライバルになる人とか来るのかなって考えていたけど、前夜祭で誰も来る気配がない。
「まずはニンフィア、ムーンフォース!」
「フィア!」
見慣れた月の光が、ニンフィアの目前に現れた。それを攻撃じゃなくて、魅せるように活用する。
「上に!」
「フィア!」
「次、マジカルシャイン!」
「フィアー!」
今度は、薄い光が放たれた。二つの光は上空で重なって、散っていく。
「うん、綺麗だね!」
「フィア!」
「でも、やっぱり前と似てる」
「フィア……」
「何か足したいなあ……じゃあ、でんこうせっかとかどう?」
「フィア?」
「例えばさ……」
木の棒を拾って、砂場に今の光の動きを書き込んでいく。
「光の中走って、最後にこう。伝わった?」
「フィア!」
「さすが」
一方、ルカリオはじっと私たちの練習風景を見ている。ずっと動かないで、何を考えているんだろう。
「ルカリオもやってみる? コンテスト」
「……グル」
うーん、首を傾げているなあ。
よし。
「じゃあ、コンテストはニンフィアに任せるから、今は純粋にやってみよう。色々できるかもしれないし」
「グル……」
「うーん、イメージついてないかな。そうだな……。はどうだん、上に撃てる?」
「グル」
頷いたルカリオが両手に青い球を生成して、上空へ飛ばした。
うん、青空にあの高度はいいんじゃないかな。
「ニンフィア!」
「フィア!」
「ムーンフォース!」
はどうだんへ、月の光がぶつかった。
するとどうだろう。カラッとした青空に、青と白の光が霧散して、この場に小さな空と太陽と月が生まれたみたいだ。もしこれが屋内だったら、これが本当に夜空みたいに見えていたんじゃないかな。
「ガウ」
ルカリオがもう一度はどうだんを作り出した。
「え?」
そのままはどうだんが上へ打ち出される。
「フィア!」
それに対して、ニンフィアがムーンフォースをぶつけて、ばんって光が飛び散った。
「……ルカリオ、もしかして気に入ったの?」
「グル」
「そっか……そっか! じゃあもう一回!」
「フィア!」
「ガウッ!」
ルカリオ、なんだかようやく仲間になったって感じがしてきたかも。