ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「ムーンフォース!」
白い光が上空に浮かび上がる。
そこに向かって。
「マジカルシャイン!」
薄く広い光が、月の光を大きく広げていく。元々厚かった光が天幕になったところへ、ニンフィアがその中心へ走っていく。
「でんこうせっか!」
「フィア!」
ニンフィアがすさまじい速度で光の天幕の中を駆け巡る。あたかもニンフィアが、オーロラの中を走り回っているみたいだ。
やがて、数周していくと、光が飛び散っていく。ニンフィアが着地すると、その周りに光の粒子が静かに落ちていった。
「できた!」
「フィアー!」
「やったね! よし、これなら明日――」
「ナック!」
「え?」
岩陰から声が聞こえてきた。
「ナック!」
この声って……。
「やっぱり! ナックラーだ!」
近くの地面から、あのナックラーがその姿を現していた。
ナックラーはじっと私を見ている。
「何?」
「フィア?」
私とニンフィアが一緒に首を傾げていると、ナックラーが突然走り出した
「ナックラー!」
私の声に、ナックラーが止まる。振り返って、また「ナック!」と返事をしてきた。
「何? ついてこいってこと?」
「ナック!」
また走り出している。
その背中を見ながら、私はニンフィア、ルカリオと顔を見合わせた。
「……行く?」
「フィア!」
「ガウ!」
「だよね」
◇
「待って!」
「ナック!」
「速くはないのに!」
距離が全然縮まらない。
「なんで!?」
「フィア!」
「私が遅いの!? 結構あちこち旅してきてるのに!?」
「フィア!」
「即答しないで!」
ルカリオなんて、まだ全然余裕だ。
「グル」
「もう、先行っていいよ!」
「ガウ!」
ルカリオがスピードを上げた。私たちを置いて、あっという間にナックラーに追いついた。
「……あの二匹、仲良くなってない?」
「フィア」
「私より先に?」
ちょっと悔しいなあ。
ナックラーが連れてきたのは、町の北東側。
路地を抜けた先で、人が。集まっている。
「何だろ……? すみません!」
人だかりを抜けて、その中心に目を落とす
「……え?」
そこにいたのは、小さいポケモンだった。灰色で、青い目をしているポケモン。故郷のホウエンではよくムロタウンで見かけた記憶がある。
『ココドラロト!』
でも、その身体が傷だらけだ。
「また……?」
ダークポケモンかどうかを判別する手段はない。オーラサーチャーはラピスが持っているし、スナッチマシンも返却している。
「ルカリオ」
「グル」
ルカリオはココドラを見ても、身構えない。
「あの子、ダークポケモンじゃない?」
「……」
しばらく見つめていたけど、ルカリオは首を少し傾げた。
「やっぱり分かんないか」
ポケモンに分からない場合は人に聞こう。
私は隣にいる作業員を捕まえて、尋ねてみることにした。
「すみません。あの子、どうしたんですか?」
「ん? ああ。町の外から急に出てきたんだ」
「出てきたって……暴れたんですか?」
「いや、ずっとあの調子だ」
「……」
ココドラが地面に落ちた何かを食べている。そりゃあ、ココドラといったら鉄を食べることで有名だけど。
でも、野生のポケモンがわざわざ町に来て食べている。ココドラなんて、特に町に現れるイメージないけど……。
「ねえ、君お腹空いてるの?」
「ココ……」
あ、一心不乱って言葉はこの子に使うものだね。
もう一歩近づくと、ココドラは体を震わせて下がっちゃった。
「ああ、ごめんね」
「ナック」
戸惑っていたら、ナックラーがココドラの隣に並んだ。
もしかして、友達なのかな。
「グル」
一方、ルカリオが地面の匂いを嗅いでいる。
いや、ココドラの周りで何かを感じているみたい。
そうして、ルカリオが拾い上げたもの。このまま放っておけば、ココドラの食糧になるところだったかもしれないそれは。
「また部品……」
黒い留め具だ。見覚えがある。
「捕獲装置と同じ感じ……」
◇
「反応なし。ダークポケモンではないのです」
よかった。
急な呼び出しでも、ラピスはきちんと来てくれた。
ココドラにオーラサーチャーを当てて、しっかりと普通のポケモンだと確定させてくれた。
でも。
「この傷、何か巻かれてたのかな?」
最初はナックラーもいたから分からなかったけど、落ち着いてこの子の体を見てみると、結構痛々しい。首元には何かが締め付けてあった跡が残っていて、全体的にも傷だらけだ。
「捕獲装置と考えていいのです」
「じゃあこの子も? でもダークポケモンにはされてないよ?」
「輸送中に逃げた可能性は高いのです」
ラピスは距離を保ったまま、しゃがみこんだ。
「ココドラ」
「ココ……」
「大丈夫なのです。捕まえないのです。見るだけなのです」
「ラピス、それ伝わる?」
「気持ちなのです!」
「科学者なのにスピリチュアル」
「うるさいのです!」
ココドラは、またボルトを食べ始めた。
「お腹空いてるんだね」
「鋼タイプのポケモンには金属を食べる種もいるのです」
「分かってる。ココドラと言ったら鉄だからね。けど、もっと何かちゃんとしたのあげられないかな?」
「なら、ポケモンセンターに連れていくべきなのです」
「うーん、今のこの子は嫌がりそう」
「なのです」
どうしようかな。
「ナック」
悩んでいると、ナックラーがココドラへ近づいた。
「ナック」
「ココ……」
「大丈夫?」
「フィア」
ニンフィアもゆっくりと寄り添っている。触角をココドラに当てて、和ませていく。
「フィア」
「ココ」
ポケモンなら平気か。だけど、人間は無理。
やっぱり。
あの
人間を警戒している。
「私たちは離れてようか」
「なのです」
◇
少しして、ポケモンセンターの人がポケモンフーズを持ってきた。
「置いておきますね」
「お願いします」
ジョーイさんが器一杯の食べ物を置いてくれた。
私たちは一度さがって、ココドラの様子を見る。
「……」
ココドラは周りを見て、匂いも確認した。
しばらく警戒していたけど、ようやく。
「ココ」
食べ始めた。
「……よかった」
「フィア」
ナックラーも、ココドラを見守っている。
「君も食べる?」
「ナック!」
あ、あれ? 睨まれた。
「いらない?」
「ナック」
「そ、そう……」
でも、逃げない。
初めてかも。こんな近くにいて、砂飛ばされないのは。
◇
「元気になった?」
「ココ」
食べ終わって、ココドラはもうすっかり元気になったみたい。
「ココ」
ココドラは元気に吠えて、街の外へ向かっていく。
しばらく進んだココドラは、振り返って私たちを見やる。
「ココ」
「これって……追っていいのかな?」
「分からないのです」
「でも」
ナックラーはすでについていってる。
「ナック」
「行くみたい。じゃあ、私たちも」
「なのです」
ポケモンたちとは少し距離を空けて、その後ろを追っていった。
◇
「ここ……」
町から少し外れたところで、ココドラは止まった。
「ココ」
ココドラは、小さい草むらで何回か跳ねている。
「何かあるの?」
「ココ!」
草むらに入ると、そこには大きめな黒い人工物があった。
「これは……檻?」
本当はもっと大きな物体だったんだろうけど、今は完璧に破壊されてこのパーツだけが残っている感じだ。
触ってみると、冷たい感触が帰ってくる。
「の、一部なのです」
ラピスは近づいて、目を凝らし始めた。
「正確に言えば、運搬用のものみたいなのです」
「運搬用……」
だけど、中は空だ。ここまで壊れていたら、脱走だって簡単だろう。
だけど、小さな羽がいくつか残っている。
「なにこれ?」
「おーい!」
この声はカイルだ。
見れば、走りながらこっちにやってきている。
「カイル。どうしてここに?」
「念のため呼んでおいたのです」
とラピス。
「万一戦闘になった場合、事情を知っているトレーナーは一人でもいた方がいいのです」
「それより、何か見つかったか?」
「これ」
私は檻の残骸を指差す。それを見た途端、カイルも押し黙った。
「これにライオットも入れられてたのかな?」
「可能性はあるのです」
カイルは黙って、檻を睨んでいた。拳を握って、震わせているけど何も言わない。
しばらくそっとしておこう。
それよりも。
「ラピス。この羽、何のポケモン?」
私の手にある羽根。全体的には黄色いけど、先端は少し黒い。
「流石にそれだけでは、断定はできないのです」
『形状候補を検索するロト!』
お、こういうときスマホロトムって便利。さすが、ポケモン図鑑を入れておいてよかった。
『検索中――検索中――候補一致!』
そうして画面には、この羽根と同じくらい黄色のポケモンが姿を現した。
『タイカイデンの羽と高い類似性があるロト!』
「タイカイデンって……確か、パルデアのポケモンだっけ?」
「なのです」
「じゃあ、かなり遠くから来たポケモンまで捕まえてる?」
「あるいはオーレに定着した個体の可能性もあるのです。どちらにしろ、オーレではかなり珍しい部類のポケモンなのです」
「とにかく、手当たり次第でやっているのかな?」
「それは違うと思うのです」
「なんで?」
「ダークポケモンを作るにも、シャドー側には色々とコストがかかるはずなのです」
ラピスは檻の内側を調べている。
「強さを含めて、捕獲対象には何らかの基準があるはずなのです。しかし、ココドラがここに心当たりがあるということは……」
「捕まえたけど、ダーク化する前にここで脱出したんだね。多分、そのタイカイデンと一緒に」
「おそらく」
「じゃあ……他にもいるよね」
ダークポケモンになったポケモンも、脱出できたポケモンも。
そして、前回話した通り、ダークポケモンになった上で脱走したポケモンも。
「ナック!」
ナックラーが檻に噛みついた。
「怒ってる?……って、そりゃそうか」
ナックラーはそのまま、何本かを引きちぎる。だけど、怒りはまだ収まらない。土台を踏みつけて、大きく息を吐いた。
「フライゴンも、こうやって連れていかれたのかな?」
「……」
ナックラーは止まった。
そして。
「ナック」
小さく鳴いた。