ポケットモンスターLEGENDS オーレ 作:カラス レヴィナ
「まず状況整理なのです」
ポケモンセンターの机に地図を広げて、私たち三人はまた話し合いとなっていた。
「レールの先へ行くのは明日以降」
「うん」
「そして明日はフェスタ」
……あ。そうじゃん。
「エルサ。今、忘れてた顔なのです」
「忘れてない!」
「フィア!」
「ニンフィアは覚えてるよね!」
「フィア!」
当然みたいな顔だ。さすがニンフィア。もう私のマネジメント全部お願いしちゃおうかな。
「お前、コンテスト出るんだろ? 遺跡だか廃線だか調べるのは?」
やるよ。そもそもカイルだって、バトル大会出るんでしょ。
でも、一日に二つかあ。……無理。キャパオーバーだ。
「フェスタを優先するのです」
「いいの?」
「申し込んだのでしょう? なら出るのです」
「……でも」
どうしても、頭にあのレールの先のことが残ってしまう。
まだポケモンがいるかもしれない。
「一日で何か変わったら?」
「エルサが一日早く行けば全部解決する、という話でもないのです。準備が必要と言ったのはエルサなのです」
「まあ、言ったけど……」
「なら準備するのです。それに、明日はわたしが調べるのです」
「調べるって……一人で?」
「別に戦いに行くわけではないのです。廃線について調べるだけ。それに、心強いチルタリスもいるのです」
「チル!」
チルタリスが元気に翼を広げた。
まあ、確かに……この前のセトとの闘いを見る限りだと、ラピスのチルタリスも結構強かったし……。
「じゃあ、俺も行く」
カイルが立ち上がった。
「え? ラピスと? フェスタは?」
「バトル部門は午後だ」
「そうなの?」
「そうなのって、お前な……、参加者なら日程くらい見ろよ」
「コンテストのところしか見てなかった」
「本当にそれしか見てねえな!」
「出たいのはそっちだし」
「フィア!」
「ね?」
「フィア!」
「おいおい……っつーわけだ。俺は午前中だけ手伝う」
「ライオットは?」
「センターに預ける」
カイルはボールを見下ろした。
「今は俺が連れ回すよりいい」
「……そっか」
少し寂しそう。
「それでは次の議題……ドンファンなのです」
「あ」
「忘れてたのです!?」
「忘れてない!」
「今のは忘れてた顔なのです!」
「今日色々ありすぎたの!」
「それでもシャドー幹部とやり合った中心を忘れるのです!?」
スナッチしたダーク・ドンファン。もちろん、今も私の手にある。
私はドンファンが入っているボールを取り出した。
「えっと……どうしよう?」
「当然、リライブを始めるのです」
「じゃあ、またアゲトに連れてくの?」
「毎回アゲトへ行けばいいというものでもないのです。まずはココロを開かせることからなのです」
「……」
視線が、自然とルカリオに向かってしまう。そして同時に、ダーク・リオルだった時を思い出した。
あの時。歩いて戦って、少しずつココロを開いていった。
「また一緒に旅する?」
「方法の一つではあるのです」
「でも……この子、そもそも野生? ライオットみたいにトレーナーがいるかも?」
「可能性はあるのです」
可能性かあ。でも、それなら勝手に私のポケモンみたいに扱うのも違う気がするなあ。
「ラピス。この子のトレーナー、探せる?」
「照会はするのです。ただ、登録情報が残っていなければ難しいのです」
「その時は?」
「元いた場所を探す。どちらにしても、まず元に戻さないことには始まらないのです」
◇
さっき、ニンフィアとの特訓でいい場所見つけられてよかったよ。
町外れの広場には、今も人がほとんどいない。
「ここならいいかな?」
「なのです」
もう一度周囲の安全を確認。うん、誰もいない。
少し緊張するな。
「よし……それじゃあ、出すよ」
「フィア」
「グル」
私の左右を挟むように、ニンフィアとルカリオが並んでいる。
そして私は、モンスターボールを投げた。
「出てきて!」
光とともに、ドンファンの姿が現れる。
私には、普通のドンファンと変わらないように見える。だけど、ラピスのオーラサーチャーが反応しているように___そして何より、その目が何も見ていないことが示す様に、ダークポケモンに改造されているんだ。
「ドンファン」
「……」
ドンファンは、まさに戦闘マシーン。機械みたいに、ぴたりとも動かない。
「ねえ……」
その耳に触れてみる。
すると。
「ドオオッ!」
私の手を拒絶するように、ドンファンが吠えた。その周囲によりつかせないように体を横に回転させて、ドンファンは睨みつけてきた。
「警戒しているのです」
ラピスの言う通りだね。
だけど、その警戒を解かないことにはどうしようもない。
「大丈夫。戦わないよ……と言っても、分かんないよね」
「エルサ。無理に近づかないのです」
「分かってる」
リオルの時とは違う。同じダークポケモンでも、接し方が全部同じなわけない。
だから、この子にはこの子なりのリライブをしないといけない。
ドンファンは、私、ニンフィア、ルカリオを順番に見る。
そうしていたら、ルカリオが一歩踏み出した。
「ルカリオ?」
「グル」
ゆっくりと、ドンファンに近づいていく。
「ドン!」
ドンファンの威嚇に、ルカリオは足を止めた。
それ以上は行かない。ただずっとその場に踏みとどまっていた。
ルカリオ、もしかして何か分かるのかな。
つい最近まで、同じダークポケモンだったから。
「任せていい?」
「グル」
そのまま五分。
何も起きない。
「……フィア」
「暇?」
「フィア」
「私も」
「静かにするのです」
「はい」
ラピスに怒られた。
だけど、ルカリオとドンファンは本当に動かない。
さらに少し経って、ドンファンはその場にへたりと座り込んだ。
「お」
「静かに!」
「はい」
ルカリオも、距離を保ったまま座る。
「……」
彼らを眺めていたニンフィアが、私を見上げた。
「フィ」
「どうしたの? もしかして、行きたい? ルカリオのところ」
「フィア」
ニンフィアは頷いて、ドンファンへ歩いていく。
ドンファンの顔がニンフィアに向けられると、ピンクの足が止まった。
「フィア」
ニンフィアの触角が、手のように振られた。挨拶かな。
もう少し近づいても、ドンファンは怒らない。
そのままニンフィアも、ルカリオの横に腰を落とした
「これ、いい感じなの?」
「焦らないのです」
「分かってる」
「ナック」
「え?」
この声は……
振り向くと、地面からまた同じ顔がひょっこりと現れていた。
ナックラーだ。
「フィア!」
「グル」
「ナック」
ニンフィアとルカリオには普通に接しているけど、ナックラーはしばらく私を見上げていた。さっきまでは一緒に冒険していたのに、また警戒されているのかな。
「何もしないよ」
「ナック」
ナックラーは地面から出て、ドンファンを見つめていた。
「ナック?」
「……」
ドンファンの目が、若干動く。ニンフィアやルカリオとの交流を経ても、まだココロは開いていないみたい。
ナックラーはさらにドンファンの周りを歩いて、匂いを確認。
次に、私に近づいてくる。少し警戒するみたいに、私___特に、右腕の方の臭いをかいでいる。
「…………」
スナッチマシンは、今は外していてラピスのバッグの中だ。
ナックラーはそっちを見つめた。
「まだ気になる?」
「ナック……」
「外しておいて正解だったのです」
「うん」
あのスナッチマシンをかなり使っている。もう、体にもしっくりくるほど慣れてしまっている。
ダークポケモンを助けるためには、かなり役立つ機械だけど。
「嫌な機械だね」
「……使う人次第。モンスターボールだって同じなのです。そもそも捕まえることそのものが悪いなら、トレーナーは成立しないのです」
「それはそうだけど」
「大事なのは……」
ラピスはナックラーを見下ろした。
「その後。捕まえた後なのです」