ポケットモンスターLEGENDS オーレ   作:カラス レヴィナ

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裏口

 ニンフィアとチルタリスが同時に飛び出した。

 

「グラエナ、止めろ!」

「ゴルバット、上を取れ!」

「ノクタス!」

 

 目の前には三方向。

 その向こうにも人影が増えている。

 

「……ねえラピス!」

「なんなのです!?」

「これ、本当に突破できる!?」

「やってみないと分からないのです!」

「さっき最適解って言ったよね!?」

「最適と成功は別問題なのです!」

「先に言って!」

 

 グラエナが飛び込んでくるけど、もうニンフィアは止まらない。

 

「ムーンフォース!」

 

 光が膨らんで、正面にいる、フェアリーが弱点のグラエナへ――。

 

「上!」

「フィア!」

 

 直前で軌道を変えた。

 ムーンフォースが天井へ炸裂して、爆発。

 

「何して――」

 

 シャドーの男が言い終わる前に、結果は崩落として現れた。

 

「うわっ!?」

 

 天井そのものじゃない。

 二十年分の埃や砂、小さな瓦礫、その他諸々がまとめて降り注ぐ。

 

「チルタリス!」

「チルーッ!」

 

 すさかず、白い翼が大きく羽ばたいた。

 すると、舞い上がった砂埃が、廊下一面を覆う。

 

「目が!」

「見えねえ!」

「くそ、追いかけろゴルバット!」

 

 そうだった、なんでゴルバットがいるのよ……! 肉眼でだめなら、超音波ってこと?

 だったら。

 

「ニンフィア! ゴルバットにサイコショック!」

「フィ!」

 

 命中の結果は確認していられない。音からして、多分倒した。

 

「ニンフィア! 行くよ!」

「フィ!」

 

 ニンフィアが戻ってくる。

 私は出口に向かって走___

 

「こっちなのです!」

「出口そっち!?」

「違うのです! 正面はもう無理なのです!」

「突破するって言ったじゃん!」

「状況は常に変化するのです!」

「便利な言葉よねそれ!」

 

 ラピスが横の通路へ飛び込む。

 チルタリスに続いて、私とニンフィアが続く。

 

「待て!」

「追ってくる!」

「当然なのです!」

「何かないの!? 元シャドーなら秘密の抜け道とか!」

「……」

「あるの?」

「あるのです。でも二十年前の話なのです!」

「二十年前?」

 

 その言葉に、走りながら引っかかった。

 

「ラピス……」

「後なのです!」

「いや、でも――」

 

 ラピスって、どう見ても。

 

「あなた何歳――」

「後なのです!」

 

 ものすごい声で遮られた。

 

「もう、絶対後で聞くからね!」

「生きて出られたら答えてやるのです!」

「縁起悪い!」

 

 曲がってさらに奥へ突き進む。

 そこは、さっきまでの廊下より、さらに荒れている。

 壁が崩れている上に、床にも亀裂が走っている。

 

「本当にこっちなの!?」

「多分なのです!」

「多分!?」

「昔はこっちだったのです!」

「昔っていつ!?」

「だから後なのです!」

 

 走るけど、背後の足音はかなり近づいている。

 

「チル!」

 

 チルタリスが振り返った。

 

「チルタリス、りゅうのいぶき!」

「チルーッ!」

 

 青い息吹が廊下へ放たれる。

 

「うわっ!」

 

 すると、追手が散り、一部は痺れで動けなくなっていた。

 

「今のうちなのです!」

「うん!……いい加減これ邪魔!」

 

 このスナッチマシン、さっきまでは気にしなかったけど、実は結構重たい!

 

「邪魔と言うななのです!」

「でも重いんだけど!」

「これでも精密機械なのです!」

「走ること考えて作ってよ!」

「スナッチマシンを装着して全力疾走する状況を想定する方がおかしいのです!」

「あなたさっきつけて走ってたよね!?」

「わたしは慣れてるのです!」

「じゃあ返す!」

「走りながら外すななのです! それに!緊急モードが作動したままなのです!」

「何それ? 緊急?」

「分からないのです!」

「作った人でしょ!」

「スナッチシステムそのものはわたしが一から作ったわけではないのです!」

「じゃあ誰が――」

「止まるのです!」

「え? ___うわっ!」

 

 ニンフィアの触角が腰へ巻きついて引っ張られる。

 

「フィア!」

「ありがと……」

 

 危なかった。今一歩私が踏み出そうとしていた場所には、床がなかったんだ。巨大な穴で、廊下が途中から崩落している。そして下は真っ暗だ。

 

「これ、落ちたら?」

「痛いでは済まないのです」

「先に言って!」

「今言ったのです!」

 

 向こう側に廊下は続いている。距離は――。

 

「飛べる?」

「チルタリスなら余裕なのです」

「じゃあ乗せてもらおう」

「さすがに二人は厳しいのです」

「さっきラピス乗ってたじゃん」

「一人ならなのです!」

「ニンフィアは?」

「フィア」

 

 ニンフィアが穴を見る。

 少し下がって、助走をつけて。

 

「フィア!」

「待っ――」

 

 跳んだ。

 

「ニンフィア!」

 

 長い触角が伸びる。

 そのまま、向こう側の鉄骨へ巻きついた。身体が振り子みたいに回って、難なく向こう側へ着地した。

 

「チル」

 

 チルタリスが感心したように鳴く。

 

「……あの子、昔からたまに無茶するんだよね」

「トレーナーに似たのではないのです?」

「誰が」

「さっき知らない機械を勝手に装着した人なのです」

 

 うっ、否定できない。

 

「それで私たちは?」

「チルタリスで一人ずつ――」

「いたぞ!」

「!」

 

 もう来た!

 

「時間がないのです! エルサ!」

「何!?」

「先に行くのです!」

「どうやって!?」

「チルタリス!」

「チル!」

 

 白い翼が、視界を埋め尽くす。

「乗るのです!」

「乗るって、ラピスは!?」

「後から行くのです! 時間がないのです!」

「だったらラピスが先!」

「どうしてなのです!?」

「追われてるのラピスでしょ!」

「……」

 

 ラピスが止まった。

 

「何?」

「どうしてそう思うのです」

「え?」

「シャドーにとって、あなたはただの侵入者なのです」

「そうだね」

「わたしは」

 

 一瞬、ラピスの顔から表情が消える。

 

「裏切り者なのです。捕まったとき、どちらが酷い目に遭うかくらい分かるのです」

「だったらなおさら先に行って!」

「だから――」

「ラピス!」

 

 また、声が聞こえた。

 だけど今度は、後ろじゃない。

 

「……!」

 

 前。穴の向こう。ニンフィアの前に、新しい人が来ていた。

 

「フィア!」

 

 警戒するニンフィア。だけど、あの人___ラピスと同じ白衣を着た男の人は、ゆっくりと拍手をしていた。

 

「いやあ、感動したよ。裏切り者にも、心配してくれる友達ができたんだ」

「……」

 

 ラピスの顔色が変わった。

 

「知ってる人?」

「エルサ。下がるのです」

「でも穴――」

「下がれるだけ下がるのです」

 

 チルタリスがラピスの前へ出る。

 

「チル……!」

 

 チルタリスも威嚇している。

 明らかに、今までとは違う相手だ。

 

「久しぶりだね。ラピス。二十年ぶりかな?」

「セト……まだシャドーにいたのです?」

「いた、っていうか、戻ってきた、が正しいかな? 君と同じだ」

 

 セトと呼ばれた男は、肩を窄めた。

 

「わたしは戻ったわけではないのです!」

「でもここにいるじゃん。懐かしいでしょ? 僕たちの研究所」

「……」

 

 ラピスの拳が握られる。

 

「ここはそんな場所ではないのです。ポケモンを苦しめた場所なのです」

「へえ」

 

 若い。二十代くらいにしか見えない。

 けど、二十年ぶり?

 

「……」

 

 ラピスも、このセトって人も。二人とも、年齢がおかしい。

 

「あなた誰?」

 

 私が聞いた。

 

「エルサ!」

「いいじゃん」

 

 彼の視線が、ゆっくりとすぐ近くのニンフィアへ。そして、私の腕へ注がれる。

 

「それ、スナッチマシン? 面白いものつけてるね」

「借り物です」

「へえ。ラピス、君が渡したの?」

 

 男性の眼鏡が妖しく光る。

 ラピスは警戒しながら答えた。

 

「違うのです。勝手につけたのです」

「ちょっと!」

「事実なのです!」

「ははっ!」

 

 突然相手が吹き出した。

 

「ラピスの機械を勝手に?」

「追い詰められて仕方なかったの!」

「へえ、最高だな、君」

「褒められてる気がしない」

「いやいや、褒めてるよ」

 

 そして腰からボールを取る。

 

「なら――少し遊ぼうか」

 

 光が弾けて、それは現れた。

 銀色の巨体と、着地した途端に重量を感じさせる轟音。

 

「ハガネール……!」

 

 ニンフィアが身構えて、大きな穴をもう一度飛び越える。私の元に戻って、相手を警戒している。

 

「フィア……!」

「ラピス」

「なのです」

 

 ラピスがオーラサーチャーを向ける。

 直後、ピピピピピッ! と、フェナスで聞いたものと同じ警告音が鳴り響く。そう、フェナスのときと同じ。つまり、リオルのときよりもよっぽど深い。

 

「ダークオーラ……反応ありなのです」

「じゃあ」

「なのです」

 

 ラピスがハガネールを睨む。

 

「あの子もダークポケモンなのです」

「……」

 

 ハガネールは、ガブリアスとは違う。暴れ回ってはいない。

 命令を待っている。

 でもよく見ると、目がリオルと同じだった。

 

「この子も……」

「そうだよ。僕のダークポケモン。結構いい出来だろ?」

 

 いい出来。その言い方に、胸の奥がざらついた。

 

「何、その言い方。ポケモンでしょ?」

「だから?」

 

 男には本当に分からないらしい。

 

「戦えるように調整してやった。それだけだよ」

「それだけって……」

「エルサ」

 

 ラピスの低い声が止めた。

 

「この人に言っても無駄なのです」

「ラピスは僕のこと分かってるなあ」

「分かりたくもなかったのです」

「酷いなあ」

 

 セトがにやりと笑う。

 そして。

 

「ハガネール」

「ガネーッ!」

 

 黒紫色のオーラが滲み出した。

 

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