最終章「独白」
FSBドネツク管理局の表玄関から、調査隊がヤシヌヴァタに向け出発した同時刻……。
4つの影が音も無く管理局の裏口に肉薄した。
ドアにセムテックスを仕込もうとしたブラッキーが、動きを止める…。
『隊長…。 開いてます……』
『ブラッキー、ドアから離れろ…』
アクセルが慎重に裏口のドアを確かめる…。
トラップの痕跡はなかった…。
『どういう事だ? ノックして入って来い…ってか?』
タラスはアクセルの肩に手を置き、頷いた。
『ハリウッド映画なら…こうだろ?』
アクセルが思い切りドアを蹴破り、4人の猛者は管理局に突入した。
管理局1階の廊下は静まりかえり、人の気配が無い。
手前の部屋からクリアリングしていくのがセオリーだが、アクセルは嫌な予感がした。
(アルファ部隊は閉所での近接戦闘に特化した対テロ部隊だ。 奴等の土俵に上がったら、分が悪い)
挟み撃ちになる危険を冒しても、突き当たりまで一気に進む戦術を取った。
4人はアサルトライフルを「ハイレディ」に保ち、廊下を進む…。
セルゲイは4人の動きを監視カメラで追っていた。
『やるな。 ドアに仕掛けた「指向性爆薬」が無駄になってしまった』
そう言いながらも、何処か嬉しそうな表情を浮かべる。
『私は2階にいる。 早く上がって来い……早く、あの時の「答え合わせ」をしよう』
セルゲイはホルスターに収まったGlock17に触れた。
11年前、タラスの右手を撃ち抜いた、あのGlock17だった…。
4人が廊下の突き当たりに到達し、階段を昇ろうとした刹那、廊下の中腹の天板が踏み抜かれ、2人のアルファ隊員が舞い降りた。
ロープで宙吊りのまま、PP−19−01ヴィチアズ・サブマシンガンでバースト射撃する。
『グアッ』
最後尾のブラッキーが被弾し、もんどり打って倒れた。
ケヴィンが急いでブラッキーのプレートキャリアを掴み、階段に引っ張り込む。
タラスはライフルだけを廊下に突き出し、ブラインド掃射で応戦する。
『クソッ! 下手打った!!』
ブラッキーが血糊を吐き出しながら、叫んだ時…
ゴツっ…
4人の目前に手榴弾が転がった…。
『グレネード!!』
アクセルが絶叫するのと、ブラッキーが手榴弾に覆い被さるのは同時だった。
ドンッッ!
轟音と共にブラッキーの巨躯が跳ね上がり、床に叩きつけられた。
『クソったれ!!』
タラスがなりふり構わず廊下に躍り出て、AKS−74Uでアルファを掃討する。
『ブラッキー!? ブラッキー!! 返事をしろ!』
ケヴィンの呼び掛けに、ブラッキーの反応はなかった……。
ガツッ…ゴンッ…
更に2階から2つの手榴弾が踊り場に投げ込まれる。
アクセルとタラスが素早く反応し、手榴弾を掴むと、アクセルは2階に、タラスは廊下に向け、投げ返した。
ドォン!
爆音が、管理局を震わせる…。
2階から血塗れのアルファ隊員が落ちてきて、アクセルの前に転がった。
『くたばれ!』
アクセルは、すぐさまアルファの顔面に.300BLK弾を撃ち込み、トドメを刺す。
タラスがそっと廊下を見ると、硝煙が漂う中、2人のアルファ隊員が倒れていた……。
『ブラッキー!?』
アクセルとケヴィンがブラッキーを起こしたが……即死だった。
『クソーーッ』
また1人、チームの「兄弟」が逝った……。
ブラッキーの頸動脈に指を当て、首を横に振ったケヴィンが言う。
『アイツらは、いざとなったら味方や人質ごと毒殺するような「狂人」揃いだ。 こっちも「リミッター」を外すしかない……』
ケヴィンはバックパックから「FRONT TOWARD ENEMY(この面を敵側に)」と書かれた緑色のプラスチック塊を取り出した。
M18A1 クレイモア指向性対人地雷…である。
700個の鋼球を指向性を持って発射し、50ヤード以内の敵を肉片に変える…。
『隊長たちが言うようにセルゲイが「人の盾」を使うような輩じゃないなら……試す価値はある』
ケヴィンは常に冷静で、誰よりも「命の尊さ」を知る「医療のスペシャリスト」だ。
そのケヴィンが、目を血走らせて冷徹に言ったのだ。
アクセルは「戦争の残酷さ」を改めて痛感した。
しかし、この状況では、ケヴィンの提案は理に叶ってる気がした。
『よし。 2階の廊下を一斉清掃する!』
アクセルが先頭、クレイモアを握るケヴィンが続き、タラスが後方を警戒……その隊列で階段を昇る。
2階の廊下も、静まりかえっていた。
先ほどの手榴弾で死亡したアルファ隊員が1人、倒れている。
そっと廊下を窺ったアクセルがケヴィンに向き直り、頷いた。
アクセルが援護態勢を取る傍らで、ケヴィンがクレイモアの「FRONT TOWARD ENEMY」と書かれた面を廊下の突き当たりに向け設置する。
3人は階段の中頃まで退避し、ケヴィンが起爆スイッチを押した……。
ダァーーン!!
凄まじい爆音が轟き、廊下に潜む全ての物を一掃する。
天井、床、壁…あらゆる面に鋼球が穴を穿ち、部屋のドアに仕掛けられたトラップ爆弾を誘爆させる…。
2階部分が崩壊するのではないか…と思わせる破壊力だった。
硝煙が少しずつ収まり、廊下の向こうがおぼろげに見え始めた時、3人はライフルを構え、廊下の突き当たり……管理局長室に突進した…。