管理局長室への廊下を進むアクセルたちの前に、数人のアルファ隊員がロープに絡まり、宙吊りになっていた。
既に息絶えた者もいれば、瀕死の状態で痙攣している者もいる。
アクセルたちは、宙吊りのアルファ隊員の頭部に弾丸を撃ち込みながら進んで行く…。
例えそれが自らの命を狙った敵であっても、悪戯に「地獄のような生」を長引かせるのは、アクセルの本分からは外れていた…。
管理局長室の中では、「砂嵐」を映し出すモニターの前でセルゲイが沈黙していた。
傍らで、CIAの金庫を足蹴にした「モスクワから来た将校」が喚いている。
『セルゲイ・イワノヴィチ! コイツを何とかしろ! 中のファイルを取り出し、「取引の材料」にするのだ!!』
セルゲイは物憂げな表情で立ち上がる…。
『そうだな…。 私に任せろ……』
「最後の砦」となる2名のアルファ隊員が、入口のドアに銃口を向ける中、セルゲイが金庫の前に立った…。
アクセルたちは、管理局長室に20ヤードの距離まで接近していた。
ブレットプルーフ(防弾仕様)が施された管理局長室のドアには無数の鋼球が食い込んでいたが、貫通はしていない。
セルゲイの生存を確信したアクセルたちは、ライフルのエイミングを保ちながら、慎重に接近する。
その時……。
管理局長室の両脇の死角から、大きな「ロッカー」が横倒しにされ、バリケードを形成した。
本や資料といった「紙媒体」がぎっしりと詰め込まれたロッカーは、至近距離からのライフル弾の直撃にも耐え得る、強固なバリケードである。
ロッカーの後ろに躍り出たアルファ隊員が、ロケットランチャーを構える。
この距離でロケットランチャーを使用するという事は、彼らも「玉砕覚悟」だった。
『RPG!!』
アクセルは絶叫し、扉が吹き飛んだ部屋に飛び込む。
タラスの横の部屋は…ドアが残っていた……。
ケヴィンがタラスに体当たりし、その身体ごとドアを打ち破る。
タラスが無人の部屋に転がり込んだのと、すぐ横の壁でロケット弾が炸裂したのは…同時だった……。
『やったか!?』
勝利を確信しかけたアルファ隊員が見たものは、硝煙の向こうから放物線を描いて飛んでくる「M111攻撃用手榴弾」だった…。
バリケードであるロッカーと壁の間に転がった「それ」は、3月に米軍が採用したばかりの「最新式手榴弾」だ。
「破片」を撒き散らす従来型手榴弾とは違い、急激に「気化」する事により周囲の「気圧」を瞬間的に上昇させ、敵の鼓膜や肺、その他の内臓に致命的な損傷を与える。
至近距離でM111の炸裂に見舞われたアルファ隊員は白目を剥き、その場に倒れた。
ケヴィンからの最後の「贈り物」は、起死回生の「切り札」となった……。
『ケヴィン!? ケヴィン、死ぬな!!』
部屋から飛び出したアクセルが、微動だにしないケヴィンに縋り付く。
薄っすらと目を開けたケヴィンが、震える唇を必死に動かした。
『隊長……貴方の下で働けて……幸せでした……』
アクセルの手を握っていたケヴィンの右手から力が抜け、床に落ちた…。
『うあーーーっ』
アクセルの咆哮が廊下にこだまし、また1人「兄弟」が神の元に還って行った……。
タラスがケヴィンの横に跪き、自らのプレートキャリアの中から「勲章」を取り出した。
タラスが初めて受け取った、大切な勲章である。
タラスはそれをケヴィンの胸に置き、炎が宿る眼を見開いた。
『ケヴィン……俺は先に進むよ。 「あっち」で待っててくれ…ありがとう』
アクセルとタラス……多くの「兄弟」に救われてきた。
目の前には、管理局長室のドアが立ちはだかる。
遂に、ここまで来たのだ。
リヴィウから639マイル……そして、11年の歳月を超え辿り着いた。
「答え合わせ」の時が、やって来る。
アクセルとタラスはドアの両脇に立ち、視線を交わした。
タラスが頷き、アクセルはセムテックスを分厚いドアに仕込む。
『Fu※k you, Russia!!』
管理局長室のドアが爆音と共に、開かれた……。
硝煙が消える前に室内に突入したアクセルとタラスは、瞬時に2名のアルファ隊員を排除する。
目の前の大きなデスクの向こう…。
セルゲイが静かに2人を見つめていた。
「モスクワから来た将校」に銃を突きつけられたまま……。