そこかしこに穴が開く路面を掻きむしり、タラスは咆哮した。
『お前らアメリカ人は、いつもそうだ! 助けて欲しい時は顔を背けるクセに、余計な時に邪魔をするんだ!!』
アクセルは言葉が出なかった。
『ウクライナが核を捨てた時、アメリカは何て言った? ウクライナの安全を保障する…そう言っただろう!? 俺たちは…それを信じたんだ!!』
タラスは血が滴る右手を地面に叩きつけ、慟哭の言葉を紡ぐ……。
『クリミアに「緑の兵隊」が来た時、お前らは何処にいた? ドネツクとルハンシクに勝手に国を作られた時も!? 「武器をくれ」と言った俺たちに、お前らが最初に送りつけてきたのは……ヘルメットと止血帯だ! ふざけるな!!!』
タラスは肩を震わせ、内臓から毟り取るように声を出した。
『どうして死なせてくれなかった…? 「誇り」を持つ事も許されないのかよ……? こんなの、あんまりだ……』
『「誇り」を失っても…生きてさえいれば、部下や友の仇は取れる…』
アクセルは、そう言うのが精一杯だった…。
タラスはプレートキャリアを外し、アクセルに放り投げると、ランドクルーザーに乗り込んだ。
その時、ヴィントレスを構えたマクシムが向かいの路地から現れ、アクセルに銃口を向けたままランドクルーザーの助手席に滑り込む。
ウインドウを開けたタラスは、
『絶対に許さない…アメリカもロシアも……』
そう言い残して車を走らせた……。
ランドクルーザーが視界から消えると、アクセルはプレートキャリアに目をやり、天を仰いだ。
『マジでヤバかった…』
フラットバー状に加工されたセムテックスが、プレートキャリアの内側にびっしりと貼り付けられていた…。
アクセルは電子雷管を慎重に抜き、割れ落ちたUAZ Patoriotのリアウインドウから、プレートキャリアを投げ入れると、深く息を吐いた……。
アクセルがアネックスに戻ると、CIAの工作員たちが口々に怒声を浴びせた。
『何て事をしてくれたんだ!? ここも含め、周囲のセーフハウスをみんな休眠させなきゃならんのだぞ!』
アクセルは無視して椅子に腰を下ろし、大慌てで撤収を始めた工作員たちを見つめた。
(コイツら、皆んなクソだな…)
ウクライナ人が何人死のうと、コイツらは何も感じない。
いや…感情を押し殺しているんだ…。
情報要員として、やるべき事をやっているだけだ…。
だけど…俺は……
軍人だから「誇り」を持ってしまう…。
軍人だから心に傷を負ってしまう…。
軍人だから自分を嫌悪してしまう…。
軍人だから……。
アクセルは、シンプルな結論に達した。
(俺も…クソになれば良いのだ)
『辞めた! 軍人を辞めた!!』
アクセルは帰国し、陸軍を除隊した。
そして、自らCIAという「肥溜め」に飛び込んだのだった……。