異界の邪竜は静かに暮らしたい 作:邪竜の棲家
「───⋯⋯⋯ん」
目が覚めたら見知らぬ天井───ではなくヴェルダナーヴァの顔があった。なんて美しい⋯⋯⋯じゃなくてめちゃくちゃ近い。
ヴェルダナーヴァは私が起きたのを確認すると、微笑んできた。
「おはよう。ぐっすり寝てたけど夢でも見ていたのかな?」
「眠らされたの間違いだろ!」
ヴェルダナーヴァから逃げるようにベッドの上を転がり、起き上がる私。
⋯⋯⋯ん?ベッド?どういうことだ?私はたしか次元の狭間にいたはず。
そんな私の疑問に、ヴェルダナーヴァが答えた。
「此処は先ほどボクが言った故郷───〝天星宮〟だよ」
「は?」
思考がフリーズする。
つまり、なんだ?私は奴に誘拐されたというのか!?
「そうなるね!」
「そうなるね!じゃないわッ!何してくれるんだお前!?私を攫ってどうする気だ!?」
「どうもする気はないよ?ボクはただ君に興味を持ったから、傍に置いて観察しようと思っただけさ」
「そ、そうか」
ならいい⋯⋯⋯か?と一瞬思いかけて、小首を横にブンブン振って否定する。
いやいやいやよくないよくない!たしかに此処は静かな場所でとても好ましく思えるが、奴に見られながら生活するくらいなら次元の狭間を選ぶな。
うむ。そうと決まればこんな場所からはさっさとおさらばするか。
「『瞬間移動』で逃げたって無駄だからね?」
「なに?」
「逃げたところでボクが捕まえにいくからだよ」
え?それじゃあ私は奴からずっと逃げ続けることになるってこと!?そんなの平穏とはかけ離れた生活になるではないか!
「ぐっ、ならば大人しくする他ないか」
「賢明な判断だね」
うんうんと満足気に頷くヴェルダナーヴァ。
対照的に為す術無しと項垂れる私。
無限鬼ごっこするくらいなら、嫌々ながらも奴に付き合うしかあるまい。
そんな私を可哀想に思ったのか、ヴェルダナーヴァがある提案をしてきた。
「とはいえボクの我儘で君の自由を縛るのは忍びない。だから⋯⋯⋯そうだな。ボクに勝てたら好きにしていいよ」
「⋯⋯⋯!それは本当か!?」
ヴェルダナーヴァの思わぬ提案に、私は目を輝かせる。
奴に勝てれば自由が手に入るとか最高か!?
それならば私、頑張っちゃうぞ!
「本当だとも。ボクだって君みたいな、ボクに逆らうような存在は貴重だからね。腐らせたくはないのさ」
「ふん。そういうことなら初めからそう言えばいいではないか」
「初めからそう言えばボクに付いてきてくれてたの?」
「そんなわけなかろう!私はただ静かに暮らしたいだけだ。誰であろうと私の平穏を脅かそうとするものは許さん!世界を創ったお前であろうとな」
ヴェルダナーヴァを睨み付けて私がそう言ってやる。
だが私には生まれながらに有する能力───『万物模倣』があるのだから、これがあれば何れは奴に勝てる可能性が出てくるというもの。
⋯⋯⋯まあ、奴そのものの模倣には失敗しているからあくまでも可能性の話でしかないが。
「ボクにワンパンされた癖に、まだそんなことが言えるなんて大した子だね君」
「ふふん、まあな!私の平穏のためならば、世界だって滅ぼしてやるぞ!」
「───⋯⋯⋯は?」
優しく微笑んでいたヴェルダナーヴァは、私の言葉を聞いて雰囲気がガラリと変わった。
私の隣に『瞬間移動』してくると、とても強い力で肩を掴んでくる。
「ごめん、よく聞こえなかった。誰が何を滅ぼすって?」
「ん?だから私の平穏のためならば世界を───」
滅ぼす、と最後まで言えなかった。
何故ならば、ヴェルダナーヴァの容赦無いパンチが私の鳩尾に突き刺さったからだ。
「う、ぐ⋯⋯⋯!!?」
あの時の比ではない速さと強烈な一撃を喰らって意識が飛びそうになる。
最初の一撃を喰らったことで、その一撃に耐えられるほどの耐性を獲得していたことにより気絶こそ免れたが、痛いものは痛かった。
「アハハ!死にたいのかな君?冗談でもそれは言っちゃ駄目だよ?」
「⋯⋯⋯あ、ああ。すまなかった」
「よしよし。次それを口にしたら───殺すよ?」
「ひっ!?」
ヴェルダナーヴァの本気の殺意が籠った声音と視線に、私は生まれて初めて恐怖というものを感じた。
ありとあらゆるものを模倣できる力があろうと死んだらそれまでだ。
これを教訓にして言葉には気を付けようと私は思ったのだった。
一方、ヴェルダナーヴァは内心では楽しんでいた。
「(本当に面白いなこの子。自分の平穏の為なら、ボクの世界すら滅ぼそうと考えるなんてね。まあそんなことはさせないけど)」
世界を生み出し、法則を定めてこれからというところで滅ぼされては堪ったものではない。
しかしだからといってこのモノを殺そうとは思っていなかった。
そもそも、ヴェルダナーヴァがこのモノの自由を奪ってしまったのだから、自分の世界を滅ぼされても文句は言えないのだ。
だからといって創ったばかりの世界を滅ぼされるわけにはいかないが。
「(幸いこの子には知恵と感情がある。ならばボクが導いてあげれば、間違いを犯すようなことはないはず)」
仮に間違いを犯してしまったとしても、自分が叱ってやればいいのだとヴェルダナーヴァは思った。
ヴェルダナーヴァが私に向けて手を伸ばしてくる。
また殴られるのではないかとビクついてしまったが、その手は私の頭を優しく撫でるだけだった。
「⋯⋯⋯?」
「殴ってごめんね。暴力じゃ何も解決しないのに」
「⋯⋯⋯え?あ、いや、私の方こそあんなこと言ってしまってすまない」
「フフッ。お詫びといってもなんだけど、君に〝名付け〟をしてもいいかな?」
「⋯⋯⋯〝名付け〟?」
キョトンとした顔でヴェルダナーヴァを見つめる私。
名前か⋯⋯⋯たしかにあった方が便利ではあるな。
それに奴───ヴェルダナーヴァは悪いひとには見えない。
攫われたことは許せないが、私のことを考えてくれてるみたいだし。
「⋯⋯⋯ふん。いいだろう⋯⋯⋯名付けるがいい」
「相変わらず偉そうな態度だね君」
「う、分かったよ⋯⋯⋯お願い、ヴェルダナーヴァ」
「───!!うん、分かった。ちょっと待っててね」
私に初めて名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、ヴェルダナーヴァが満面の笑みを浮かべる。
私の顔をまじまじと見つめながら何やらブツブツ言っていた。
「うーん。君はボクとそっくりだし、名前も似ているものがいいよね」
二回三回と首を捻りながら考えていたヴェルダナーヴァは、ピンときたのかポンと手を叩き、私に言った。
「君の名前は───ヤルダ!ボクのヴェルダに近い名前にしてみたけど、どうかな?」
「ヤルダ⋯⋯⋯ふふ、お前に───ヴェルダナーヴァに似ていい名ではないか。ありがとう、とても嬉しい」
「気に入ってくれてよかった。改めてよろしくね、ヤルダ」
「ああ、こちらこそよろしく。ヴェルダナーヴァ」
こうして私とヴェルダナーヴァは握手を交わしたのだった。
オリ主設定
名前:ヤルダ
性別:
能力:『万物模倣』
ありとあらゆるものを模倣する能力だが『万能』ではない。