異界の邪竜は静かに暮らしたい 作:邪竜の棲家
ヴェルダナーヴァにヤルダと〝名付け〟られた私に幾つか変化が起きていた。
一つ───芽生えたばかりの自我が、確かなものとなったこと。
二つ───感情が芽生えたこと。
三つ───能力が大幅に向上したこと。
一つ目は、最初の私は自我が芽生えたばかりの未熟な存在だったが、〝名付け〟によってはっきりとした〝私〟となったのだ。
二つ目は、模倣による
正確には、感情も希薄だがあった。ヴェルダナーヴァに『リアクションが薄い』と言われた程度には。
ヴェルダナーヴァを『万物模倣』で模倣し再現することで、
そして最後の能力が大幅に向上したというのも、〝名付け〟の効果らしい。恐るべし創造神!といったところか。
そう思っていると、私の身体にも変化が生じた。
幼かった見た目は、成長して愛らしい少女となる。
身長も伸びてヴェルダナーヴァとの身長差も少しばかり縮んでいた。
胸にも膨らみが───ん?膨らみ?
どういうことだ?と疑問に思っていた私に、ヴェルダナーヴァが驚きの発言をした。
「フフッ。どうやら君は〝女の子〟になったようだね」
「───⋯⋯⋯は?」
素っ頓狂な声を上げる私。
おんな、のこ?何がどうしてそうなった!?私に性別という概念は存在しなかったはずだが!?
「そうだね。たしかに君の性別はどちらでもない無性だったけど、今の君は紛れもなく女の子さ」
「いやだからどうして私は女になっているのだ!?」
「そんなのボクが知るわけないだろう?君自身がそうなりたいと思ったんじゃないかな?」
「私自身が?」
「うん。君が女の子になった原因がなんなのか、よく思い出してごらん?」
ふーむ、と思い出してみる。
何もない亜空間───次元の狭間で生まれ、それからすぐにヴェルダナーヴァと出逢った。
そんなヴェルダナーヴァを一目見て、美しいと私は思った。
だからだろう。私がヴェルダナーヴァを模倣したいと思ったのは。
⋯⋯⋯あれ?おかしいな、私がヴェルダナーヴァを模倣したのは攻撃手段を得るためではなかったのか?
しかしそうではなかったのだと、私の感情が訴えかけている。
そもそも私はヴェルダナーヴァに見蕩れていた。それはつまり一目惚れというやつで───
「~~~~~ッ!!?」
そう意識した瞬間、私の顔が真っ赤に染った。
は、はあ!?この私が、ヴェルダナーヴァに恋をしている⋯⋯⋯だと!?
そんな馬鹿な話があってたまるか!と内心で叫んでいると、ヴェルダナーヴァが不思議そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。
「⋯⋯⋯?どうしたんだいヤルダ?顔が真っ赤じゃないか」
ち、近い!相変わらずコイツの距離感おかしいだろ!?
そ、それに今の私には強烈すぎるからやめてくれ!?
「⋯⋯⋯い、いや、別に⋯⋯⋯?気のせいでは、ないか?」
「⋯⋯⋯ふーん?まあいいや。ボクとしては君のそんな顔を見られただけでも満足だからね」
そう言って私の真っ赤に染った頬に触れて微笑んでくるヴェルダナーヴァ。
───ッ!!?あー、駄目だ。おかしくなりそう⋯⋯⋯穴があったら入りたいなんてレベルじゃない。もういっそ私を殺してくれ!
感情というものは困ったものだ、能力と違ってまるで制御できそうにない。
一方、ヴェルダナーヴァは初めて見せたヤルダの表情に嬉しく思っていた。
「(最初は自我はあるけど感情が薄くてつまらない相手だと思っていたけど、ボクを───〝竜種〟を模倣しようとする未知の存在だと知って興味を持った。だから拾って育ててみようと思ったんだけど、まさか〝名付け〟でここまで変化するなんて思わなんだ)」
ヴェルダナーヴァが顔を近づけても「近いな」という程度にしか思わなかったヤルダが、〝名付け〟したあと自分が女になった原因を知って赤面するほど感情がはっきりとしていた。
これはヴェルダナーヴァにとっても嬉しい誤算である。
その原因がなんなのか知りたくもあるが、流石にプライベートにまで踏み込むのは失礼だと思いやめた。
「(模倣じゃない自分の感情に振り回されないか心配だけど、ボクが責任を持って育てれば大丈夫だろう。ヤルダの〝名付け〟親としてね)」
などとヴェルダナーヴァは内心で呟いているが、本当の理由は別にあった。
世界を生み出した際に『万能』ではなくなったヴェルダナーヴァにとって、この世界は未熟すぎた。
孤独ではなくなっても、満足はできなかったのだ。
そんな時───ヤルダという世界の外側で生まれた未知の存在と出逢った。
彼女は不完全ながらも〝竜種〟を模倣してみせた異質な少女であり、ヴェルダナーヴァに逆らおうとする反乱分子。
危険を孕む存在だが、この退屈な世界には丁度いい刺激物であるため、あえて殺さずに手元に置いて育てる選択をした。
そんな彼女は〝名付け〟によって更なる成長をみせた。ただ模倣するだけの存在が、一つの確かな存在へと進化したのだ。
ヴェルダナーヴァは彼女の成長を見るだけで退屈が紛れた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯お前はいつまで私の顔に触れてるつもりだ?」
「───!あ、ごめんごめん。考えごとしてた」
「⋯⋯⋯ふん。まあいい」
本当はよくないがな!さっきから私の胸のときめきが収まらなくて敵わん!
無自覚⋯⋯⋯ではないな、明らかに私の反応を楽しんでるな⋯⋯⋯許せん!が、コイツに触れられるのは嫌というよりもむしろ嬉し───いわけないだろ馬鹿!
むう⋯⋯⋯本当に厄介だな、この感情とやらは。
だが一つだけ、ヴェルダナーヴァに確認しておきたいことがある。
「⋯⋯⋯なあ、ヴェルダナーヴァ」
「ん?なんだいヤルダ?」
「お前にとって、私はなんだ?」
そうストレートに聞いた。
ヴェルダナーヴァは私のことをどう思っているのか、知りたかったのだ。
その私の問いに、ヴェルダナーヴァはこう答えた。
「ボクにとって君がなんなのかだって?うーん、そうだな⋯⋯⋯君はボクを模倣して不完全ながらも〝竜種〟のような存在に至ってるから───
「そ、そうか⋯⋯⋯
⋯⋯⋯なんだろうこの気持ち。家族のような扱いを嬉しいと思う反面───恋愛対象にすらならないことを知って、悲しくなった。
ははは、なるほど。これが失恋というものなのだな。
別にフラれたわけではないのだが、対象外な時点でフラれたも同然なのだ。
こうして私の恋は、始まる前から終わりを告げたのだった。
オリ主設定
名前:ヤルダ
性別:無性→女性
能力:『万物模倣』
ヴェルダナーヴァにとっては義妹のような存在