異界の邪竜は静かに暮らしたい 作:邪竜の棲家
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ヴェルダナーヴァにそっくりな見た目をした
輝く光を表すような白銀の長髪に、蒼い星の如く輝く瞳を持つ性別が男にも女にも見えるその者は、なんの前触れもなく現れた少女に驚きつつも、冷静に見定めていた。
「(⋯⋯⋯ヴェルダナーヴァ様から御話は伺っていたが、『瞬間移動』を模倣するとは生意気な小娘だな)」
不愉快そうな顔で小娘───ヤルダを見上げるフェルドウェイ。
ちなみにフェルドウェイ達〝始原の七天使〟の
後で残りの
「(フン、我らの神になんて馴れ馴れしい小娘だ。ヴェルダナーヴァ様に抱きつくなどなんて羨ま───コホン!不敬であろう!)」
思わず羨ましいと内心で言いかけるフェルドウェイ。
あの少女を見かけたのは、ヴェルダナーヴァが次元の狭間から連れ帰って来たあの時が最初だったが、何やら変化が見受けられた。
「(最初に見た時はもっと幼かった気がしたのだがな。いつの間にか成長している。一体何が───いや、ヴェルダナーヴァ様の〝名付け〟による効果か?)」
ヴェルダナーヴァの〝名付け〟により、生み出された当初は意思なき
ヤルダという少女もまた、ヴェルダナーヴァの〝名付け〟によって変わったのだろうと。
よく見たら耳まで真っ赤に染め上げているのが、フェルドウェイの目に映った。
「(フッ、自分から抱きつきに行っておきながら恥ずかしがるとは⋯⋯⋯あの小娘はひょっとして馬鹿なのか?)」
などとヤルダのことを小馬鹿にしていたフェルドウェイだったが、その彼女と不意に目が合った。
その刹那───フェルドウェイの眼前に『瞬間移動』してきた彼女がしゃがみ込んだ。
そしてそのままジーッとフェルドウェイの顔を見つめてくる。
「な、なんだ貴様」
「いや、な。お前はヴェルダお
などと意味不明なことを言ってくるヤルダ。
それにしても顔が近い。これほど近くで見つめられたのは、ヴェルダナーヴァに生み出された時以来である。
耐性とは一体何の話だ?とフェルドウェイは疑問に思った。
そんなフェルドウェイをジーッと見つめること数秒間。妙案を思いついたのかポンと手を叩いて彼女はこう言ってきた。
「よし。お前、私を抱っこしてみろ」
「は?」
唐突な提案をしてくるヤルダに、呆れた声を洩らすフェルドウェイ。
というより意味が分からない。何故私がこんな小娘を抱っこしてやらねばならぬのだ、と不愉快そうに顔を顰めるフェルドウェイ。
するとヴェルダナーヴァが苦笑いを浮かべながら言ってきた。
「何やら試してみたいことがあるみたいだから、その子を抱っこしてあげて欲しいかな」
「はい!ヴェルダナーヴァ様の御命令とあらば、喜んで致します!」
不愉快そうな顔とは打って変わって、笑顔で二つ返事をしたフェルドウェイは立ち上がると、ヤルダを軽々と抱っこしてみせた。
キョトンとした顔でフェルドウェイを見つめる彼女。
「⋯⋯⋯ヴェルダお
「フッ、我らが神に異を唱える者などいるわけがなかろう。そんな奴がいるのならば、この私が誅してやるだけだ」
「ふむふむ、成程な。
そんなことをボソッと呟いたヤルダが悪そうな笑みを浮かべた。
それを見たフェルドウェイは溜息を吐き、釘を刺してやる。
「おい、貴様。ヴェルダナーヴァ様を利用して何か悪いことでも企んではおるまいな?」
「ギクッ!な、ななな何のことだ?私にはさっぱりだな」
挙動不審になり明らかに怪しさ満載のヤルダ。
やはりこの小娘は危険だ、何故ヴェルダナーヴァ様は滅ぼそうとお考えにならないのか不思議でならない。
一体どのような恐ろしい企てをしているというのか。
とそこまで考えてハッと我に返るフェルドウェイ。
「(私は一体何を考えているのだ?ヴェルダナーヴァ様の御言葉は絶対!だというのにこの小娘を滅ぼすべきだと私は思ってしまっている。これでは我らの神に異を唱えている愚か者ではないか!)」
たった今、神に異を唱える者などいるわけがないと否定したばかりだというのに、そんな愚か者の思考をしてしまっている自分自身に困惑するフェルドウェイ。
そんなフェルドウェイの顔をペタペタと遠慮無用に触っていたヤルダが、ふむと何やら考える素振りを見せた後、こう言ってきた。
「ふーむ。ヴェルダお
「何?」
ヤルダの言葉を聞いてイラッとするフェルドウェイ。
ドキドキ云々はどうでもいいが、利用されたことが気に入らなかった。
何よりも、こんなくだらないことでヴェルダナーヴァ様を煩わさせてしまった己自身が許せないと思ったのだ。
私が素直に応じていれば⋯⋯⋯とフェルドウェイが後悔していると、不思議そうな顔でヤルダが覗き込んできた。
「⋯⋯⋯どうかしたのか、お前?」
「フッ、どうもしてないさ。それよりも貴様、顔が近すぎるのだがわざとやっているのか?」
「ん?ああ、そうだな。この距離感はヴェルダお
「そう理解しているのならさっさと離れたまえ」
そう言ってやると、ヤルダは頷いてフェルドウェイの腕の中から跳び降りた。
やれやれ、やっと解放されたかとフェルドウェイが思っていると、急にヴェルダナーヴァがパチンッ!と指を鳴らした。
すると目の前にいたヤルダの姿が掻き消えて、一瞬でヴェルダナーヴァの膝上に移動していた。
『瞬間移動』と似ているが違う。これは『空間転移』というスキルだった。
ヴェルダナーヴァが退屈しのぎでスキルというものを開発し始めたらしく、『思念伝達』は試運転という形でフェルドウェイ達〝始原の七天使〟や自分の妹弟達に与えたそうだ。
そのスキルはヤルダも模倣済みのようで、恐らく『空間転移』も今この瞬間に模倣を完了していることだろう。
そんな彼女はというと───
「~~~~~ッ!!?」
ヴェルダナーヴァの腕の中に収まったからか、顔を真っ赤に染め上げ、目を回して今にも気絶しそうだった。
ヴェルダナーヴァにそっくりな見た目だけでなく、名前まで似ているこの少女は、フェルドウェイにとっては気に入らない存在ではあるのだが、
「(⋯⋯⋯どうやら私の思い過ごしのようだな。少なくとも、今のあの小娘ではヴェルダナーヴァ様の障害にはなり得ない。それどころかあの様子ではヴェルダナーヴァ様にいい様に利用されるような気がする。『万物模倣』はたしかに脅威のスキルだが、模倣することを許可する代わりに、スキルの実験台になさるおつもりなのだろう。そうでなければ、自らに刃を立てるやもしれぬ危険分子を受け入れたりするわけがないのだから)」
そう考えを改めたフェルドウェイは、一人頷くのだった。
オリ主習得(もとい模倣済み)スキル
『思念伝達』
『瞬間移動』
『空間転移』