Ce n'est pas encore fini‼︎   作:6つ目

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Le commencement
Quod optavi


ミレニアムには王がいた。

数十年か、はたまた数年か前。

ミレニアムはまだ小さな学園だった。

三大校たるゲヘナトリニティアビドスの足元にすら及ばない弱小。

それが新参のミレニアムだった。

 

ミレニアムは強さを、地位を求めた。

栄華の限りを尽くす三大校の一角という地位を。

強さを求めたミレニアムは自由に首輪をつける王を求めた。

個々人の自由を一つの槍として扱える王を。

ミレニアムの自由個人主義という強みを消してまで集団主義のために王を求めた。

 

当時のセミナーと、今はないもう一つの統治機関ミレニアム学会はお互いの権力を一つの王に差し出し統治させる案を出した。

圧倒的な王を作り出そうと。

 

セミナーは王に値する1人の人物を選出した。

学会は王を太陽と崇めた。沈むことのない永久の太陽と信じて。

 

太陽王と呼ばれる様になったかの王は、確かなカリスマと技術力…そしてミレニアムを率いる力があった。

 

精巧・革新・超技術を謳うミレニアム製品はキヴォトスの市場を斡旋し、斜陽となったアビドスに変わる三大校地位を手に入れた。

それが王の最盛期だった。

 

しかし、今となっては王を覚えているものはいない。

文献も、データも、都市伝説すら。

王は居なかったと言っている。

トリニティとゲヘナに憎悪の牙を向け続けていた彼女は、

謀殺か

はたまた、ただの事故か…

キヴォトスの禁忌である死に触れ、そして消えた。

 

遺体は見つかっていない。

墓立てられず。

葬儀も行われず、ひっそりと消えた。

ミレニアムという超自由個人主義の学園にとって、禁忌にまで触れた王は知られたくない黒い歴史になった。

 

だから、全ての現象に存在を否定されたのだ。

 

しかし、王は死んではいない。

禁忌に触れながら、意識だけはデータに残り。

今なお、虎視眈々と牙を磨いている。

いつか来る。

復讐の日を

 

そして、今日。

お前が私のデータをその身に宿した。

電子の海を介してな。

 

「あー…うるせぇ語り部だな。次はトリニティの歴史書でも朗読してくれんのか?」

 

昨日、よくわからない違法実験を行なっていた組織を潰した際。

ナニカに満たされた容器に触れ…その容器に落ちた。

 

脱出するのは容易だったが、変な感覚に襲われ…掃除をしたあと残りを他のやつに任せてあたしは早々に帰宅した。

少しの気分の悪さを胸に寝て…起きた早朝。

あたしは幻覚と話していた。

 

「おい、聞いてるのか?」

 

「あ?知らねえよ。」

 

太陽王?ミレニアムの王?意味のわからない情報が錯綜してやがる。

百歩譲ってそれが事実だとして、こんな粗雑で乱暴なやつが、ミレニアムを統べる王だとはとても思えねぇな。

 

「いいか美甘。俺はな、ミレニアムのトップに返り咲くことよりも」

 

「トリニティとゲヘナを潰してミレニアムの一強の時代を作りたいんだ」

 

「何が言いてぇ」

 

気持ち悪い感覚だ。体が固い。

制御権が奪われているような感覚だ。

いや、固いとかそんな話じゃねぇ。まるで無いみたいな気分だ。

 

 

「だからな、考えたんだ」

「この体は俺が貰う。お前の代わりにな」

 

目の前の女がゴテゴテに加工された左腕の義手をこちらに指を向ける。

 

「っ…?は?」

 

その動きに連動してあたしの左腕が動く。

全く同じ。

シンクロ…鏡合わせ…いや、なんでも良い。

 

これが意味してることは

 

「どうやら、この体の主導権は俺が取りつつあるらしい。」

「そのまま銃を口ん中に突っ込んで引き金を引かせてやる。」

 

「お前の意識が完全に消えれば俺のもんにするのは簡単だ」

 

ツイン・ドラゴンに左手が伸びる。

首がうまく動かせない。

いや、首から顔の一部が抉り取られたみてぇだ。

 

「するかよ!消えんのはお前だ!」

 

右手はまだあたしの意識で動かせる。

左手を抑止しながらどうにか対処法を…なにか……なにか!

 

「くっそ、変な気分だ。左腕と首がねぇみてぇな嫌な…気持ち悪い感覚。お前が消えれば全部俺のもんだ」

 

左腕と首以外何も無い?

…見つけたぜ。こいつを鎮める解決策をよ。

 

「勝……負だ、な、ん…ちゃら、王。」

 

 

ツインドラゴンのもう一挺を掴んで持ち上げる。

首に鎖を巻いて引っ張りゃ!

 

「がっ!?お前。何やって!」

 

読み通りだ。絞められてる感覚はあたしには届かない。あとは"あたしの体"が酸欠でぶっ倒れるかあいつが絞められてるって感覚にぶっ倒れるかの二択。

根比じゃ負けねぇよ。

 

「イかれてやがる…!」

 

 

何分経った?

忌々しい声は聞こえない。

首も腕も感覚はまだ戻っては……

 

「…がはっ!?」

 

いきなり、いきなりだ。首の感覚が戻ってきて、それと同時に体の限界のサインが脳へと駆け上がるのを感じた。

 

こんな感覚は生意気な後輩を躾けた時以来だ。

 

「…ははっ、00(ダブルオー)に勝つなんて。百光年先でも訪れねぇよ。」

 

「…あー、今日は休むか」

 

ベットに戻る力もなく地べたに横になった。

そこからはもう時間を数える間もなく、すぐに意識はブラックアウトしていった。

 

 

───数時間後───

「っは…首が痛え。」

 

痛い…痛いか。

久方ぶりの感覚だな。

最近は甘っちょろい依頼ばっかりだったとはいえ、久しぶりの怪我が自傷だとはな。

 

「チッ…まだいるのかよ」

窓の方に目を向ける。

嫌な姿が目に入る。

左手は機械仕掛けの義手か?

関節部分から歯車が見え隠れしてる。

…悪くねぇデザインだな。

 

身体中タトゥーまみれで、サングラスで目を隠してる。

隙間から見えるその瞳は青と赤。

 

…義眼だな。

サイボーグってやつか?

見れば見るほど、生物じゃない部分が見え隠れしてやがる。

 

 

「おいおい、そんな嬉しがんなよ。照れるじゃねぇか。」

 

「お前、その左腕と両目…あとなんだ。腹か。サイボーグ…機械仕掛けの偽モンだろ。」

 

「チッチッチッ…25点だ。」

 

舌を鳴らしながら人差し指を左右に振る。

私の見立てが外れたことが随分嬉しいのか。

それともミレニアムにありがちな自分の発明を話せることに悦び、浮かれてるのか。

 

「脳みそ、右耳、両目、頬、首、脊椎、左腕、腹、骨盤、大腿骨、脛骨、全部で12個だ」

 

一点一点、指を刺しながらそいつは嬉しそうに答える。

 

「2つ質問だ」

 

「1つ、そこまで機械仕掛けの偽モンにして人は生きてられもんなのか?」

 

「2つ、なんで変えたんだ?」

 

あたしの頭に思い浮かぶ質問を投げかける。

こいつはクソ野郎だが…ミレニアムの人間だ。

発明に対する質問への回答は信頼できる。

 

「1つ目の回答だが、知らないな」

 

「はぁっ!?」

 

"知らない"そんなチンケな回答が返ってくるとは思わず。

声を荒げる。

 

「知らない…知らないってどういうことだ。」

 

「移植してすぐに別の要因で体が朽ちたんだ。だから知らない」

 

「なら二つ目はなんだ?」

 

単純な好奇心からくる質問。

体をわざわざ偽モンに入れ替えるなんてバカ、エンジニア部ですら見たことねぇ。

 

「ミレニアムだからだ」

 

「はっ、王よりマッドサイエンティストの方が似合ってるんじゃないか?藪医者でもいいかもな」

 

「王であり、科学屋だ。副業OKな職場だったのさ」

 

「たしかにミレニアムの自称王が科学に興味がねぇやつってのは変だな。」

 

しかしなんとも意味がわからねぇ。

こいつが王を名乗ってる異常者であることは理解した。

だが、なぜ幻覚としてこうもくっきり見えて…さっきの現象は何だ?

 

「くっそ、意味がわからねぇ。あたしはあのよくわからん電子の海に落ちて…」

 

「それでお前の幻覚を見てる」

 

「幻覚じゃねぇよ。データだ。あの容器に満たされていた俺というデータだ。」

 

こいつがデータってんなら私のどこにそれが入った?

脳に直接か?…そんなことが実現可能なのか。

そもそも、人をデータとして残すことはできるのか?

 

「うわっ!?……なんだただの電話かよ」

ブーっと、電話が鳴る。

私の休みを知ったアスナかトキあたりか?

そんなことを考えながらスマホを開く。

 

「………調月…リオ。だと!?」

 

調月リオ、ミレニアムサイエンススクールセミナー会長…つまり生徒会長だ。

…リオが私に連絡する時なんて決まってる。

 

「あー、掃除が必要か?」

 

「いいえ、今回のに掃除は不要よ」

 

掃除じゃない…なら

 

派遣(潜入調査)か?」

 

「ええ、ゲヘナに行ってもらうわ」

 

ゲヘナ…ゲヘナ学園。

ミレニアムに並ぶ三大校………いや、ミレニアムが並んだ三大校の一角。

自由と混沌の学園。

今まで一度としてなかった学園外の派遣。

どう言うことだ?

 

「それが意味することがわかってるんだろうな?」

 

s(スパイ)から情報があった……ゲヘナは、戦争をする気よ」

 

「はぁ!?どこにだよ」

 

「……キヴォトスよ」

 

「ゲヘナがキヴォトスに戦争?そりゃミレニアムもトリニティも…シャーレもか?」

 

意味がわからねぇ…ゲヘナの奴らは頭がイカれたのか?

 

「それで派遣先での仕事はなんだ?」

 

「真偽の確認と出来ればミレニアムを矛先から外してきてちょうだい。」

 

「最高難易度の依頼だな」

 

今まで黙ってた頭の中のイカれ野郎が口を開く。

「…雷帝か」

 

「雷帝だ?そりゃ…あたしが1年の頃のゲヘナの生徒会長だろ?お前がなんで知ってるんだ?」

 

「元々俺の意識はオープンネットの海にいた。情報は尽きなかった。」

 

雷帝…なんでその名前を今出す?

今回の、今の件と何か関係があるのか?

ダブルオーの勘が、これは最高難易度の以来では終わらない不測の最悪な事態であると告げている。

日常の基盤に亀裂の入った地獄の予感が。

 

「おい、リオ。」

 

「何?」

 

「……宣言しろ。ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長調月リオの名において」

 

「…ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長調月リオの名において」

 

「cleaning&clearing部長、コールサイン00美甘ネルを、除籍にする。」

 

「貴方、その意味がわかってるの!?」

 

「リオ…お前の部屋が汚いのは知ってるが耳掃除まで怠ったのか?」

 

除籍…学籍が無くなる。

それが意味することは…この先は全て自己責任。

例え私が万魔殿の議長を殴り飛ばそうと、それは言ってしまえばスケバンが起こした事件でありミレニアムは無関係。

 

この何があるかわからない不測の事態じゃ、学校の籍はただの足枷。

 

「……cleaning&clearing部長、コールサイン00美甘ネルを、除籍にする。」

 

「ありがとな。アスナたちには除籍のこと黙っててくれ。ミレニアムの日常はあたしが守る。」

 

「それがダブルオー…約束された勝利の象徴だ。」

 

さて、作戦を練らなくちゃな。

私はいつからかは知らないが…ミレニアム生じゃなくなる。

ゲヘナに転入?いや…現実的じゃねぇな。

 

「なぁ、なぁ聞いてんのか?美甘ネル」

 

「あ゛?今あたしゃ忙しいってわかんないのか?」

 

「わりぃ、見えるわけもねぇか。」

 

「俺に作戦がある。」

 

「へぇ?そりゃ食える餅か?」

 

こいつの作戦とか考えたくもねぇ。

「どうせ銃を両手に万魔殿に突っ込むとかだろ」

 

「違うな銃は一丁で十分だ。」

 

「もっと馬鹿か。」

 

「決闘を申し込む、キヴォトスの王は俺だ」

 

「へいへい、考えておくわ」

 

とりあえず、ゲヘナの奴らが本気でキヴォトスに戦争を仕掛ける気か、それを知らなきゃならねぇ。

出来ればミレニアムを矛先から外すってのは一旦忘れるか。

真偽を知るのも一筋縄じゃいかないだろうな。

戦争をするなんて極秘情報、手に入れただけでも驚きだ。

 

「とりあえず、行くか。ゲヘナに」

 

なんでこうも災難が続くかよ。

一難去ってまた一難とはよく言ったもんだ。

去る前にもう一難が来てやがる。

あーあー、投げ出してみてえもんだ。

 

「へいタクシー」

 

「どこまで?」

 

「ゲヘナまで」

服をキャリーケース纏めて、タクシーに乗り込む。

時間はどれほど残ってるのだろうか?

キヴォトス全体への攻撃の作戦立案・物資の調達・学園の統制……統制は既に済んでいるものとして…立案だってすぐだろう。

物資の調達。これはこれだけは時間がかかる。

物流という時間という…変化させようのない絶対的な縛りがある。

 

つまりタイムリミットは……

 

「1週間は持つだろう」

 

「ああ、どれほどの量を目標にしてるかはわかねぇが、最速厳しめの現実ラインになり得る範囲だ」

 

実際にはそれ以上の猶予はあるかもしれない。

だが、キヴォトスに戦争を仕掛けるなら奇襲に奇襲を重ねた電撃戦以外に勝ち目があるとは思えない。

時間はそう多くないだろうな。

 

「しかしなんでいきなり戦争なんか…」

 

「俺の推測は三つ。」

 

「一つ、過激派のクーデターが秘密裏に発生し、その狂気が暴走してる」

 

「二つ、戦争の時期を初めから虎視眈々と狙っていた」

 

「三つ、情報のミス」

 

「願わば3つめ、最悪は二つめだな。」

 

初めから戦争の時期を狙っているなら1週間すら楽観視した希望的観測になっちまう。

そしたら…止めるどころか対話も望めるわけがねえ。

 

「お前の案が現実になるかもな。」

 

「へぇ、俺を信用するのか?」

 

「信用問題より外交問題だ。」

 

使うもんは使う。

私1人でどうにか出来る問題とも思えないからな。

だが、使いたくはない。

使うってことは、それ相応にヤバい事態なんだからな。

 

「着きましたよ、お客さん」

 

「あ、サンキューな。」

 

「お会計は────」

 

 

───ゲヘナ近郊───

とりあえず、ゲヘナにゃ入れた。

キャリーケースを引っ張って学校の方へ向かう。

今はスカジャンを封印して私服だ。

気休めにしかならないような変装もどきだが…

ちゃんとした変装は現地調達とするか。

さて、問題はこれからだ。

 

「どう侵入するつもりだ?」

 

「ゲヘナ一丸となって戦争する気なら最低限ゲヘナ生らしくなきゃ、お前はたちまち磔にされて頭のおかしい宗教家たちの信仰対象だ」

 

「…絶対に戦争なんて与するわけがない奴らがいる」

 

「おいおい、そんな簡単に絶対なんて吐いていいのか?戦争にそんな言葉は通用しないぞ」

 

「…温泉開発部、キヴォトスでも名の知れたテロリスト集団。」

 

「そいつらが万魔殿の言うことを聞くわけがない指名手配犯鬼怒川カスミはそんなタマじゃないはずだ。」

 

「まだ風紀委員会に捕まってるっての方が可能性としてはあり得る」

 

選んだ理由はそれだけじゃない。

温泉開発部は巨大組織だ。その末端の一席に座る誰でもない誰かになりすますことは簡単だ。

そして、そんな巨大組織の全員を事細かく間違いなく覚えているような人間は稀有だろう。

半丁(ギャンブル)…いや半丁(ギャンブル)ですらない。

あたし有利…捻り打ち、4.5.6賽のチンチロ。

いや例えはなんでも良い。

温泉開発部部長鬼怒川カスミを探そう。

話に応じるかはわからないが。

無理なら下っ端を追い剥ぎさせてもらおう。

 

「アテはあるのか?」

 

「問題はそこだな…最高の条件が揃ってる温泉開発部だが、会えるかは運だ。」

 

ゲヘナ中央の学園部分は避けるとして…居住区?いやバラード地帯の方があり得るか?

土地勘が必要だな。ゲヘナ学園との繋がりが薄いかつ最低限の実力があるやつら。

…虚妄のサンクトゥム攻略戦の時、ユウカがたしかゲヘナの頭のキレるやつが2人いるって言ってたな…片方は風紀委員。

もう片方は……

 

「…便利屋68」

 

確かアビドス砂漠の攻略戦にも参加していたはず…マキ達がアビドス生徒達に負けず劣らず強い奴らだった。

完璧じゃねえか。

金は〜…セミナーのツケにしておくか。

 

───???・便利屋オフィス前───

ここか…ここか?

随分といいオフィスだな。

前ユウカに聞いたときゃ随分な零細企業だってたが。

中小企業の良いとこオフィスってぐらいには見えるぞ?これ。

 

「こういう場合、外の上っ面だけを取り繕って生活は最底辺ってのが相場だな。」

 

「鬼怒川カスミを見つけられるならそれで良い、上っ面を取り繕えるだけの金はあるみたいだしな」

 

3回扉をノックする。

1秒ない程度か、すぐに扉が開き白髪に黒のメッシュが入った1人が扉を開いた。

 

「…」

 

彼女はあたしのことを一瞥すると驚いたような表情を一瞬浮かべ、口を開いた

 

「なんの用?」

 

「仕事だ、便利屋68。依頼がある」

 

「……とりあえず入って」

 

警戒されてるな。

それにこいつ…強いな。アスナと同格…いや分類的にはプレーン、ユウカの上位互換だろうな。

風格的に三年生、ユウカが劣るというより…こいつが強いってだけだ。

 

「今ちょっと社長が出払っててね。受けるかどうかは置いておいて、いったん聞かせてもらうよ。」

 

「依頼内容」

 

「こいつは良いな。この眼光、修羅を潜った目だ。生まれつきとかそういう表情の域を出た。」

 

「波乱を生きた人間の目をしてる」

 

「それは同感だ。だからこそ、強い」

 

「んで、そうだな…依頼だが。鬼怒川カスミを探して欲しい。」

 

「へぇ?それはまたなんで?」

 

…今のところ見てくれじゃ、こいつは戦争なんて一ミリも考えていないように見える。

だが、ただ取り繕ってるだけかも知れない。

あたしが迂闊に戦争の話を出して…情報が伝わってること、ゲヘナにバレたら。詰みだ。

言葉は慎重に選ぶ必要がある。

 

「そうだな…それは言わなきゃダメか?」

 

「……うちは復讐だとかそういうのには協力したくない。温泉開発部は良い噂は少ないから尚更」

 

「……なぁ、一つ聞きたいが。」

 

なんで聞くべきか…勘づくのような言葉はダメだ。

ははっ…手が震えそうだ。

懸かってる全てがこの言葉で決まる。

 

「ゲヘナのことをどう思ってる」

 

「……変なことを聞くね。」

 

「ゲヘナのこと…ね。自由で変で混沌とした学園だよ。3年生の私たちはそれを目指して戦ったわけだけど…もう、そんなことが起きないと良い…かな」

 

こいつはシロだ。

話す内容は選別する必要があるとはいえ、最低限の信頼はおけるな。

 

「で、理由だが……ゲヘナ本校がナニカを企ててる。あたしはそれを確認したい。」

 

「だから巨大組織の温泉開発部の末席という仮初の身分が欲しい」

 

「おいおい、ズカズカ言い過ぎじゃないか?」

 

「うるっせ。変に停滞する時間が勿体無いんだよ」

 

…随分考えているようだな。

これ以上情報を出すのは憚れる。

これで納得してくれるとありがたいか…

 

「わかった。とりあえず社長が帰ってくるまではゆっくりしていって、あんまり振る舞えるものはないけど」

 

「ああ、別にいい。アポ無しでいきなり来たこっちが悪い」

 

 

「……で、何を隠してるの?美甘ネルさん」

コーヒーを淹れてきた彼女があたしの前に座りそう聞いてくる。

 

「ははっ、知ってたか」

 

「そりゃ、あなたは有名人だからね」

 

「隠してる何かを話したい気持ちはやまやまだが。残念ながら話せない」

 

「そう、まぁ無理にも聞かないわ。ただ社長の意向に従う」

 

社長…陸八魔アルだったか。随分信頼されているな。

強さによる信頼か。人を惹きつけるカリスマか。

ここまで心酔しているということは後者…いや強さで惹きつけるタイプの可能性もあるか。

 

……ふと、外に耳を傾ける。

歩く音、1人…2人……3人か。前に2人が歩きその後ろをもう1人がついてきてる。

随分と軽快な音だ。良いことがあったのか?

こちらに向かってきてる。社長のお出ましか。

 

「カヨコ!帰ったわよ!」

 

「…おかえり社長。飛び入りの依頼が来てるわよ」

 

扉に立つ社長と呼ばれた人物の方を見る。

髪の後ろにあるツノに、高そうな羽織。スナイパーライフル(PSG-1)か。

その後ろにはチビが2人。

巨大なバックを持った……爆発物の匂いが染み付いた白髪のやつと。

……剣先ツルギの妹かよ。腰が低いだけでチビじゃねぇ、高いな。

確実にタンク。それも肉体で耐えるタイプだ。

その直感を後押しするように持ってるショットガン(ファバーム)…使い込んでるな。

こいつら全員強いな。

うちのやつらと良い勝負が出来るんじゃねえか?

…ここで相手はしたくないな。

 

「おいおい、天下の00(ダブルオー)が怖気付いてんのか?」

 

「泣く子も黙る美甘ネルがかぁ!?」

 

「怖気付いてんじゃねえ。客観的に見た相手の情報分析だ。」

 

とりあえず、社長に話をつけなきゃ始まらない…か。

受けてくれると良いが。

 

「…美甘ネルだ。便利屋68に仕事を持ってきた」

 

「…!!私は陸八魔アル、便利屋68の社長よ!」

 

「よろしくな」

 

握手を交わす。

左腕…見かけによらず筋肉質だ。

力比べで耐えるぐらいなら出来る程度にはある。

強さとしても、反動制御を完璧に行えるんじゃねえか?

 

「でだ、先にそこのあんたの社員にも話したんだが…単刀直入に言おう。」

 

「鬼怒川カスミに会わせてくれ」

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