Ce n'est pas encore fini‼︎ 作:6つ目
「鬼怒川カスミに会わせてくれ」
「……鬼怒川カスミって、温泉開発部の?」
「ああ、」
さて、どう出るか。
部下の反応は悪くなかった。
額面で動くなら簡単だが。
理由をしつこく聞くようならちと面倒だ。
「……いいわ。探してきてあげる。」
「その代わり報酬はこちらが提示させてもらう。どう?いくらまで払える?」
「そうだな。」
急いできたからあまり手持ちがないな。
そうだな…ハッタリでもいい。後でセミナーに請求すりゃどうにかなる。
なるべく大きく、太客であることを知らしめればそれで良い。
スマートに魅せるようにだ。余裕の態度はそれだけで存在を大きくする。
「……そうだな、これは前金代わりだ。小切手、好きな数を書けば良い」
「今のトレンドは小切手を持ち歩くことなのか」
「C&Cの仕事は良くも悪くも金が動く。」
「これぐらいの準備はしておくもんだ」
今回持ってたのは
こんな早く使う機会が来るとはな。
さて、こいつらはいくら願う。いくらでもばっちこいだが。
数十億とまで行かれるとちと嫌だな。
「……そうね、前金は要らないわ。小切手はお返しする。」
…思っていたのとは違う回答だ。
いくらでもいい、という言葉だ。誰もが幾らも欲しがって金額を狂ったように書く。
それなのにこいつは前金は要らない…か。
なるほどな、これがこいつの器か。
「依頼は引き受けるわ。見つけ次第連絡する。」
「OK、金は用意しておく。番号はこれだ。見つけた以外で掛けてくるなよ?」
「もちろんよ。便利屋68に失敗、なんて言葉はないわ」
「えー?アルちゃんこの前失敗したばっかなのにー?」
「あ、あれは失敗じゃなくて戦略的撤退よ!」
……なるほどな、これがこいつの器か。
社員に好かれ、人望もあるが。揶揄われる愛嬌がある。
ある意味…家族か。
「それじゃぁ失礼する。それと…3日以内に頼む」
席から立ち、扉を開く。そのまま外へ出てオフィスを後にする。
やること一つ目は完了だ。3日以内。
この間に他のことを進めよう。
「他のことってなんかあるのか?」
「まさか寝て英気を養うとか言ったりはしねえよな?」
「残念ながらそんな余裕はない。」
「頭の中の違法滞在者を出て行かせる方法を探すんだよ」
「へぇ?」
C&Cの派遣任務の時、ミレニアムには帰れない時。
怪我を負った際、見てもらうドクターも一般の表の病院にいるやつじゃなダメだ。
だから各自地区の至る所に学園の手が及ばない違法な、実力のある裏の奴らを使うようにしている。
ゲヘナにもそういう奴はいる。ちょうど良い。会いに行こう。
「お前もこれを機に俺みたいに機械仕掛けにでもなるか?」
「左腕を入れ替え、次は両目、最後にゃ脳まで入れ替えれば俺ともおさらばできる」
「脳も腕も目も論外だ。死ぬような経験をしたら考えてやるよ」
脳を検査して、この作戦中に問題が起きないよう万全にしなくちゃならねぇ。
こいつが居なきゃ他にもっとやれたというのに、なんともツいていない。
それにしても、体をサイボーグに…か。
考えたくないな。生身が一番だ。冷たい金属の体なんかごめんだな。
かっこいいとは思うが、それは見ている分の話だ。
体は鈍るだろう。うまく動かすのも難しいだろう。
する機会はなくていい。いつまでもな。
───ゲヘナ貧困街裏通り───
確かここの通り…ここを奥に進めば。
ドクターに会えるはず。
貧困街に入ったあたりから頭痛が治らねえ。
ついさっきまで仲良しこよししてた頭ん中のやつが牙を剥き始めたか?
足が覚束ねえ。まっすぐ歩くのすら厳しい。
くそくそくそ、もう少しだけ…耐えてくれよ。
「っ…!!すまん、ぶつかっちまった。」
ふらふらと歩いていたせいで…頭痛の朦朧とした意識のせいで。
前からきた奴にぶつかってしまう。
なるべく穏便に…何も起きずに終わってくれ。
「こちらこそすいません」
…スケバンじゃなかったか。どこか聞いた声だった気がするが。
確認する余裕もない。
重い覚束ない脚に鞭を打って、一歩一歩前に進む。
何十分かけただろうか。
ドクターの診療所の扉を自分の体重で開く。
「ドクター…今すぐ見て……く、れ。」
あたしはその言葉を最後に意識を落とした。
脳内に住んでるあいつが、私の体に不調をもたらしてるのか。
この貧民街の空気があたしに絶望的なほど合っていないのか。
その答えがわかるのはそう遠くなかった。
───数時間後───
「ん…んぁ?あー…」
意識が覚め、体を起こす。
診察台の上だろうか?診療自体は終わっているだろうが、何故まだここに?
「お目覚めか?ここにベッドはないんだ。そこで我慢しててくれ」
「あー…ドクター。押し入って悪かった。」
「随分深刻な状態だった。正直助からないと思っていたが…強いな」
ドクターが助からないと思うほど深刻な状態か。
そりゃそうだ。体につき魂はひとつだ。2つも入れたら拒否反応も出る。
「今のお前の状況だが…安定はしている。だが頭に刺さったもう一つの人格は健在だ。」
「診察でわかるものなのか?そういうの」
「脳が壊復を繰り返しながら形を作り変えていた。頭痛を感じてたならそれが原因だろう」
「ままま、まってくれ!脳が形を作り変えていた?どういうことだよ!」
「言ってしまえば…お前の体は脳みそに住んでる存在に適応しようとしてる。」
あたしの体があいつに適応しようとしてる?
最終的にはあたしがあいつになるのか?
意味がわからねぇよ…どういうことだ。
「どうやらお前の体は俺の方が好きらしい。」
「これがNTRってやつか。」
「うるせえ、黙ってろ。」
形が変わるとしてだ、それが作戦中に起こったら地獄だ。
それに形が変わるということはこいつが体に馴染むってことだ。
つまり前みたいに体の主導権の争奪戦が始まる。
戦闘中に腕が…脚が奪われたらあたしゃ負けるか。
あたしが色々と考えていると。
ドクターが口を開く。
「だが、良いニュースがある。」
「変化した体は機械との親和性が高い。」
「サイボーグデビューにうってつけだ。」
ははっ、ついさっき話してたことが現実になったのか。
最悪だな。機械仕掛けのニセモノなんかごめんだな。
「とりあえずありがとうな。金はセミナーに請求しておけ」
「もう一つ、これは抑制剤だ。一錠で8時間は耐えれるが……24時間以内に1錠しか飲んじゃいけない。1日一錠だ。厳守しろ。」
「とりあえず20錠は出す。足りなくなったら補給しに来い」
「ああ、ありがとう。それじゃぁな。」
診療所を後にして、外に出る。
ゴミの悪臭。人の悪意。奪われた者の絶望。
全てが入り混じった最悪な匂いがする。
外に出ないようなドクターを除き貧民街の人間は電子機器一つ持てない。
スマホすらだ。そもそもスマホを持つようなやつは外に出て行く。
だから電子の近代的な匂いはない。昔ながらの悪意と人間の感情だけが渦巻いてる。
「なぁ、タバコはないのか?」
「あたしゃ学生だ」
「今は学籍ないじゃねぇか。一本でいい。ニコチンを摂取させてくれよ。」
「この最悪な悪臭はニコチンで隠さなきゃ鼻が曲がっちまう。」
「後でな、後で。」
さて、これからどうするか。
抑制剤はもらえたが。1日一錠厳守…1錠8時間しか効果がない。
便利屋68との協働の時には飲む…それまでは飲まない。
症状が出ないことを祈るしかないな。
「おい、聞こえるか。この音」
「あ゛?てめぇの声は聞こえない方がよかったわ」
音?音だって?
こいつの声以外何も聞こえない。
聞こえないよな?…耳をすましてみる。どこか一つに注意を傾けるのではなく。
全体を満遍なく聞いてみる。……モスキート音?
…地面に耳を当てる。
機械音。…何かを生産してる工場か?
プレス機に…なんだ?溶接か?アームの音……何かを作ってるのは理解した。
だが何か気になることがあるとは思えないな。
「ただの工場の音だな。」
「いいや、ただの工場なんかじゃない」
どういうことだ?
音はあたしの知ってる工場の範囲内だ。
それに、たとえどんな違法なものを生産してる工場だとしても。
貧民街の法は貧民街にある。
そもそもここはゲヘナだ。ゲヘナが容認してるならあたしが介入する余地はない。
……いや、こいつの口ぶり。
こいつは工場のことを知ってるのか?
「道案内してやる。この街の形は全くもって別物だが。入り口は変わってないはずだ。」
「なんでここの…ゲヘナのことなのに知ってんだ?お前はミレニアムだろ」
「ゲヘナの違法銃器メーカー。スメラギの本拠地のはずだ」
「すめらぎだ?聞いたことねぇな。」
「ターゲット層はスケバンやヘルメット団みたいなならず者だ。」
「そのならず者ターゲットの銃器メーカーになにがあるんだよ。」
「サイドアームM3190F・リボルバー。俺が特注して手に入れられなかった銃だ」
「何年前の話だよ。どうせ残ってねぇよ。」
「それならそれでいい。どうせ暇だろ。付き合えよ。」
サイドアーム・リボルバーか。
うちにはツインドラゴンっていう圧倒的な主役がいるわけだが。
名の通り、
そも、残ってるか…いや遺ってるかどうかだな。
「全然上手くないからな。」
───スメラギ工房入り口───
「ビンゴ、やっぱりな。」
あれから20分ないし、10分程度歩いたところにあった廃ビル。
そこの一角から地下通路に入り。一つの扉まで辿り着いた。
鉄製で上の方に格子がついてる…が。内側に弁が何かあるのか。見ることはできない。
「工房に入る方法は簡単だ。4回、俺の言うリズムでノックしろ。」
「そしたら番号を聞かれる。
「ずいぶん簡単だな。」
コン、ココン、コン…と。脳のやつの真似をして扉をノックする。
3秒か8秒か待っていると、扉から甲高い。幼い声が聞こえてきた。
「番号は?」
「
「入って」
重厚な扉が、地面に…天井に擦られながら開く。
扉の先、先ほどの声の主は…私よりも一回りも二回りも小さい、ガキだった。
…ボサボサに伸びた髪。布切れみたいな古くさい服。
それとは対照的に綺麗さが残ってる肌と瞳…。
「なに?ジッと見つめて私のことバカにしてる?」
「んなわけないだろ。」
「工房はこの階段を降りて上がった先にあるから。」
「わかった。ありがとな。」
階段を降りて、上がった先か。
コツ、コツ、コツと石造の階段を降りて行く。
木の端材でも燃やしてるのか、心細い光と壁の凹みを頼りに一歩一歩慎重にゆっくり降りる。
「前よりも困窮してるのか?光が弱いな。」
「踏み外しそうで嫌だな。」
そうこうしているうちに降り終わる。
そこは、ほんの数十センチの踊り場でまたすぐ上りの階段があった。
「なんでわざわざこんなめんどくさい構造を…」
「違法銃器メーカーだからな。こうやってちょっとでも面倒にすることで撤退の時間稼ぎにする。」
コツ、コツ、コツ…ただ足音だけが鳴り響いている。
上りの階段は下りよりも明るい。
足元がしっかりと照らされているからか。下の半分ぐらいの時間で上り切り…今扉の前に立っている。
「3回ノックしろ。」
扉を3度ノックする。入り口と同じよう、鉄の固く閉ざされた扉が古い錆びた音を立てながら開いた。
中はガンスミスの工房として万全な設備と人間がいるを見て取れる。
煤汚れた銃一筋の職人たちだ。
「誰の紹介だ?」
「…太陽。」
「太陽だ?そんな客うちにはいねえぞ。」
「いいやいるさ。古株に聞いてみたらどうだ?」
私がそう言うと、一際若そうな門番らしきやつが工房の最奥に鎮座する…他とは一線を風靡する老いた1人を呼んできた。
この道を何十年と続けた…ホンモノの職人だ。
「太陽…の紹介と言ったか?」
「あぁ、それだけじゃ足りないか?」
「いいや…その名は覚えてる。ミレニアムの太陽王…
「…随分昔に捨てた名だ。」
日天子ソルか。覚えておこう。
なんやかんや一度として聞こうとしなかったな。
こいつの名前…こんなふうに聞くことになるとはな。
「銃の要望か…?随分良い武器を持っているようだが」
「そうだな、稀代の寝坊をした王の代わりにサイドアームM3190F・リボルバーを取りに来た」
「…サイドアームなら奥の保管庫にある……メンテナンスも、毎日…欠かしたことはない」
「…その、なんだ。お前…あいつのファンか?」
「ファンか…記録もデータも都市伝説でさえも、存在を否定されてる存在…それが日天子ソルだ。」
「存在を証明できるのは…俺の記憶とこのサイドアームだ。」
「あいつは王の資質なんだよ。」
…
そして…こいつの心酔していた。信者。
自分の信じたいものが世界に否定されて、それでも居ると信じ何年も何十年も、生きてる証を磨き続けたのか。
きっとあたしが来なかったら…これを何年か続けた後、耄碌の末にぶっ倒れてたんだろうな。
「サイドアームは買おう。いくらだ?」
「…いいや、これは…スメラギが王に贈る朝貢。金は受け取れん。」
「そうか、じゃぁありがたく貰っていく。」
あたしがそういうと、老人はどこかほんの少しだけ嬉しそうな様子で保管庫からサイドアームを持ってきた。
「このリボルバーは特殊な構造を、してる。射撃…場で教えてやる」
それだけ言うと背を向けて入り口とは真反対にある扉の方へと歩いていく。
ついてこいということだろう。
特殊な構造か。
デザイナーの夢はエンジニアの悪夢…こいつの注文に全て応えた変態的な銃なんだろうな。
「合理的と言って欲しいな。」
「それは性能次第だ。」
針金でできた安っぽい扉を開けて、中に入る。
的を前後できる典型的な普通の射撃場…そこだけ見れば外の射撃場とそう変わらない設備だ。
「サイドアーム、握ってみろ」
渡されたサイドアームを握る。グリップは手にフィットするちょうど良いサイズ。
銃身がでかいからか、グリップに少しの重さを感じる。
構えてみると案外バランスは良く。予想外のブレはそこまでない。
そして、シリンダー…9発入る仕様らしい。
スイングアウト式のシンプルな構造。
「引き金をただ引く分にはただの9連装リボルバーだ。」
「だがな、引き金の上の方にあるスイッチを押すと…3発の特殊弾を発射できる。リロードはマガジン方式だ。グリップ側面にリリースボタンもある。」
弾を4発装填し、構える。
引き金に指を置き、30m先に設定した的に照準を合わせる。
バンッ!と重厚な音を立てて弾が飛ぶ。
真ん中から少し左上に着弾してる。結構跳ねるな。
続けて3発。少し下を意識して撃つ。
ど真ん中を撃ち抜く…とは行かないが。実戦に耐えうるどころか、これだけでも一級品のブレ制御のしやすさだ。
「特殊弾の方も使ってみろ。」
引き金の上…銃底部のスイッチを押す。カチッと音を立て、1発弾が装填されたのが見えた。
弾が発射されるようシリンダーを回し、もう一度構える。
ゆっくりと腕の揺れを抑え、引き金を引く……。
「うわっ!?」
あまりの反動に腕が跳ねる。1発だけで良かった。
…腕が跳ねてほんの1秒もしない一瞬で的に巨大な穴を開ける。
「なんだこりゃ…」
「スメラギ特製の
「へーリオス……気に入った。このえげつない反動を加味してもスナイパーライフル以上の火力があるんじゃないか?」
「ここで…しか生産できない。後で買って、おけ」
「それと…まだもう一つ、機能がある。撃鉄の横にあるレバーを下げて撃ってみろ。」
横にあるレバー……これか。
レバーを下げてポッカリと穴の空いた的向けて…引き金を引く。
…銃口から放たれたのは──
「ドラゴンブレス弾か…?」
「ドラゴンブレスの射程をさらに削り、近距離に全振りした一撃だ。射程は3mあるかないか。1発限り…弾はマガジンに入れる。」
「ソル、からのロマン溢れる要望だった」
「作るのにはだいぶ、苦労しただろうな。」
拳銃としては確かに重い。
だが、今撃てみた3つの弾丸。
シリンダーに入ってる9発は普段使いの
マガジンの3発は、そこら辺のスケバンや一般生徒なら一撃でぶっ飛ばせるレベルの火力だ。
そして、近接のドラゴンブレス弾。威力はわからないが炎ってのはそれだけで嫌なもんだ。
効果は期待できる。
「…これは、-副兵装《サイドアーム》の域を出てる。
「そもそも、それは、サイドアーム的運用を想定していない。」
「王の主役を飾る
「そもそも、俺がそういうふうに頼んだからな」
名前じゃサイドアームを名乗ってるが。実際は……ってことか。
こりゃ良い。気に入った。気に入ったぜ。
特殊弾薬はここでしか補給できないのが難点だが…それも些事だ。
リオのAMASをあたし用に改良して弾薬を定期補充できるようにでもすれば良い。
ツインドラゴンとの併用となると燃費が悪いし嵩張るが…それでも有り余った良さが詰まってる。
「…気に入った、ようだな。」
「ああ、最高の逸品だ」
「さっき言った通りそれはお前にやる。HELIOS弾と…改造ドラゴンブレス弾も買っていくか?」
「いくらか頼む」
射撃場から出て、工房の一角…弾薬売り場に移動する。
HELIOS弾を二百ちょい改造ドラゴンブレス弾を何十発か。
それと、サイドアーム専用ホルスターも購入することにした。
会計も済ませて、工房から出ようというとき。
あの老人に呼び止められた。
「…ところで、一つ……あんたにお願い事があるんだが」