夜明けの貴公子は行き遅れの太陽に恋焦がれる(旧題:引きこもり令息は行き遅れ令嬢を追いかけたい)の二次創作ファン小説です。 作:春村
原作:夜明けの貴公子は行き遅れの太陽に恋焦がれる(旧題:引きこもり令息は行き遅れ令嬢を追いかけたい)
タグ:二次創作 アンブラー家 夜明けの貴公子は行き遅れの太陽に恋焦がれる(旧題:引きこもり令息は行き遅れ令嬢を追いかけたい)
「私ね、やっぱりルクシオ様とは違ったカッコイイ王子様を待とうと思うの」
レモンイエローの髪を二つにまとめ、フィッシュテールのドレスをなびかせながら笑顔で話す彼女はユーミア・ゴールディング伯爵令嬢の従姉妹、ロレッタ・ロックハート子爵令嬢である。
「でも、ロレッタに悪いことを」
「またそうやってユーミア姉様は自分を責めて!私はお2人には幸せになって欲しいんですのっ」
ブティックの並ぶ明るい表通り、
ウィンドウショッピングを楽しむため2人は歩いている
「それに、そんなに心配するほど私はもう子供じゃなくってよ!これから素敵な殿方の1人や2人が声をかけてきますわっ」
フンっと胸をはりながら、彼女はユーミア・ゴールディング伯爵令嬢……もといユーミア姉様に宣言した。
「まぁ、そうね。貴方はとっても素敵なレディだったわ。ごめんなさい」
可愛い従姉妹の優しさと成長を見ながら、
貴族向けドレスの代名詞であるアリベル商会というブティックへ入っていく。
「今日はうんっっと素敵なドレスを選ぶんです!未来の王子様のために」
ロレッタはそう言いながら店内の商品へ目を向ける
色とりどりのドレス
溢れんばかりの煌めきを放つ装飾品
細い腰とボリュームを持たせたプリンセスドレスや、
優雅でS字ラインを特徴とした流行りのドレスの数々に目を輝かせるロレッタ
「わぁ〜!綺麗!ほら!あれなんてユーミア姉様にとっても似合いそう!」
指を指した先にはオレンジから赤色へと綺麗なグラデーションをしている夕焼けのようなデイドレスがあった。
「そうね。綺麗だわ。
あら?でも、隣のドレスも……とっても」
ユーミアは夕焼けのようなドレスの隣にあるくすんだグレーから深い藍色へと変化しているまるで夜明けのようなドレスに目がいってしまった。
「とっても、ルクシオ様みたいで素敵ね!」
「えっ、?」
無邪気にユーミアから指摘され、ハッとする。
あのドレスを見て私も彼のようだと思ってた。
これじゃあまるで、彼をとっても意識しているみたいじゃない。まだ婚約者未満と自分で言っておきながら、キスをした日から余計にずっと意識してばかりで恥ずかしい
そんなことを思いながらユーミアはロレッタに自分のドレスを見るよう促す。
「や、やだ違うわ。とっても素敵だわって言おうとしたのよ。ほら!!そんな事より貴方のドレスを見ましょう」
ドレスだけではなく装飾品の靴やバックにアクセサリー
それらを支配人が一つ一つ丁寧に紹介していく
「いかがでしょうか。ここのシリーズは若いお客様に人気のデザインとなっております」
「とっっても綺麗だわっ!どれにしようかしら」
仲睦まじく二人で買い物をしている光景は
微笑ましく、店員も他の買い物客も暖かく見守っている。
「それを買うの?」
突然かけられたソプラノの弾けるような声にユーミアは顔をあげた。
いつのまにか目の前に立っていたその子は、
羽のようにふわふわとした白い巻き毛と、くりりとした青紫色の瞳。白いシャツに淡い紫色のハーフパンツと揃いの色のリボンタイをつけている。年はおそらく10歳くらいだろうか。
「えぇ、そうよ!とっても素敵でしょう」
ふふんっと得意げに、ロレッタもその子に反応する
周りを見渡すが、保護者らしき人は見当たらない
1人なのかと心配になり、ユーミアは声をかけた。
「貴方迷子?親御さんは?」
「大丈夫だよっ
お姉さん心配してくれてありがとうね」
フワリと笑うその姿は店内中の視線を独り占めしている。
(本当に可愛らしいわ。)
持ち前の母性をくすぐられたのか「ロレッタも昔はショートパンツも履いてたのよ、懐かしいわぁ」とユーミア
「ふふふ!ありがとうございますっ!あ、あのね、声をかけたのはね
黄色だけじゃなくってさ!きっともっと似合うとっっておきのドレスがあるから見て欲しいなぁと思ったからなんだ」
まぁそうなの!とユーミアは言葉を返している横でロレッタがポツリと呟いた
「え、でも私は黄色のこのドレスが気に入ってるわ」
ロレッタが控えめな声量だったからか、そっと囁くようにロレッタへ返答する。
「黄色も素敵だけど…お姉さんたちにドレスを見て欲しいだけなんだぁ、少しだけだから…ダメぇ?」
くりくりしたおめ目を上目遣いに、まるで子犬が具現化したようなお願いの仕方にロレッタも折れる。ロレッタは出来るお姉さんなのである。決してお姉さんという言葉に絆されたせいではない、決して。
「ま、まぁ少しならお姉さんが見てあげてもよくってよ?」
ありがとう、と顔を綻ばせながら
その子はくるりと店長に振り向き指示を出しはじめた。
「ねぇ?二番目の棚の一番左に置いてあるドレスを持ってきて」
人を使うことに慣れていて、このお店のことにも詳しい子供。かなり見た目の雰囲気とチグハグな印象を受ける。
店長は言われた通り棚からドレスを取り出してきたので、もしかしたらここの店の関係者なのかもしれないと、ユーミアは考えた。
その後もあれこれ店員に指示を出し、あっという間に品々が並べられていく
店員達が持ってきた若草色のドレスは、品よく袖にフリルが付いていて、ウエストからドレスの裾に向かって蔦の刺繍が入っているデザインであった。
鞄や靴も緑を基調としていて、日傘だけが少し明るい水色と白のマーブル模様が青空のようで眩しい。
こちらを見てしまうと、
先ほどのドレスが霞むのも納得である。
しかもこのスタイリングでロレッタが着ればきっと可愛い。まるで花のように可愛いに違いないとユーミアは思った。
「ほぅら!向日葵みたいでしょう?鏡の前に立ってみて」
言われたロレッタは気を良くし
いくつかポーズをとって鏡を覗いている
「本当に向日葵みたいに綺麗よ。貴方の髪や瞳がよく映えているわね。」
2人や店員さんに褒められて、
上機嫌になっているロレッタだったが、
ふと鏡越しに姉さまが先程の子に手を引かれ、他の商品を紹介されているのが目に入った。
しまった!姉様の母性本能を侮っていたわ!
このままでは姉様をとられちゃうわ!
「姉様!私、さっきの黄色のドレスにするわ!!」
「あら?どうしてこっちのドレスもきっとロレッタに似合うわよ?」
「いいの!こっちより姉様が選んでくれたドレスがいいの!買ったら早く出てガレットでもケーキでも食べに行きましょう?ね??」
はやくはやくとねだるロレッタの、髪に結んだリボンがぽんぽんと揺れている。
もう大人びたと思っていたロレッタの久しぶりのわがままにあらあら困った子ねぇと、満更でもない様子でユーミアがこたえる。
「ごめんなさいね。せっかく選んでくれたけど、今回は黄色のドレスを購入させていただくわ」
可愛い天使は少し考える様子をみせると
「勿論ですぅ ちょっと押し付けがましかったですよね…?ごめんなさい…」
上目遣いでお目々をうるうるさせて言うものだから、ユーミアは違うのよ、とっても素敵だったわ!と目を細めながら伝えていた。
このままでは姉が虜にされるのも時間の問題であると感じたロレッタが早く出ましょうと急かし、ユーミアと会計をすすめ、支配人やスタッフに見送られながら、店を出ようと扉へ進む
ユーミアは、今も見送りをしてくれている子を見てふふふと微笑んでいる
「いいドレスが買えてよかったわ!それにしても、本当にかわいい女の子だったわね。」
それを聞いたロレッタはドアのところで立ち止まりユーミアへ驚いた顔をむけている。
「え?なにを言っているのよ姉さま。どう見たって男の子じゃない。ただレディの扱いに慣れてないお子ちゃまだけどねっ」
「え?」
ユーミアはロレッタに言われて、ハッとして振り返る。
その子も、え?という顔をしてロレッタを見ていた。
「ど、どうして、わた、ボクが男だって…わかったの…?」
ロレッタは首を傾げながら言う
「どうしてって…どこからどう見たって男の子じゃない。あなたはどうしたって男の子よ。」
まったく距離が近すぎるのよ。ルクシオ様ならまだしもぽっと出の男の子が姉様と手を繋ぐなんてはしたないわっ!とプリプリ怒っている。
まぁ、ルクシオが年下の男の子にユーミアが手を引かれているのをみたら、この世の終わりのような顔で、戻ってきて欲しいと土下座でもしたことだろうが……
女の子…に見える男の子がハッとしたように口を開く
「な、名前は?あ、お、お名前を、教えてほしいです」
「え?いやよ。失礼なお子ちゃまには教えたくないわ」
プイッとそっぽを向くロレッタに
「ンンッ!失礼しました。
お名前を教えていただけないでしょうか?レディ。先ほどの非礼をお詫びしたいのです。大変申し訳ございませんでした。貴方様に似合うお花と共にお詫びをさせてくださいませ。」
咳払いを一つし、声色をかえ胸に手を当てお辞儀をする姿をみて
「…まぁ、そこまでいうならいいわよ。」
「ロレッタ・ロックハートよ。
あと、謝るならユーミア姉様とその婚約者のルクシオ様ね。」
ユーミア姉様が、悪いことをしたわ。男の子に女の子といってしまうなんてごめんなさいね。と言っているのを彼は聞いているんだかいないんだかわからなかったが、とにかくまぁその後の帰り道の馬車まで彼はボーッとロレッタを見送っていた。
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「で、俺の家にもゴールディング家にも大輪の向日葵が届いたと。そういうわけだな?」
「はい……」
溢れるばかりの向日葵の花束が、部屋にも廊下にも玄関にも飾られているこの場所は、ロックハート家である。
勿論ユーミア嬢もいるし、ちゃっかりというか、しっかりルクシオはぴったり寄り添うように隣に座っている。
ブティックから帰宅した翌日にロレッタ宛に
アリベル商会の名前が入った花束とユーミア様に近すぎた態度の謝罪が共に届けられ、
あら律儀に謝れるのね。なんて思っていたら、先程の花束を受け取ってくださったお礼です。と次の花束とメッセージカードが届けられ、その次はサイズが些か小さすぎたので気持ちが伝わらないかと思って……とサイズアップした花束が届き、次はアンブラー家とゴールディング家にも無事に謝罪をさせていただきました。という報告とこれまた立派な花束が届き、是非とも直接謝罪の機会をいただけないでしょうかと追いメッセージと花束が届き…………
ロレッタがユーミアに急いで連絡をとり今に至るというわけだ。
「なるほど。全て理解した。アイツはユーミア嬢と手を繋いだわけだし金輪際会わなくていいだろう。無視だ無視。」
「あら?ルクシオは会ったことあるの?」
「お知り合いなんですか!」
2人が食い気味にルクシオへと問いかけた
「まぁ……会ったことがあるというか、知り合いというか、なんというか。ただ、別にそこが問題でもないというか……」
確実にめんどくさい事になるんだよなぁ……しかしユーミア嬢と手を繋ぐなんて、なんと羨ましい……
ルクシオがごにょごにょと呟く。
「お願いルクシオ、どうすればいいかしら?ロレッタも許しますとメッセージを書いたんだけど、それでも『こんなことでは伝わりません』という内容の手紙がまたもや届いてちょっと困っているのよ」
「勿論です。俺にお任せ下さい」
切り替えの速い男、それがルクシオである。
ユーミアからのお願いとあって、ルンルンの男、それがルクシオである。
「まぁとりあえず会ってやるとでも書いて送ってあげてください。でないと永遠にメッセージと花束は届き続けますよ。」
「はい!分かりました!ルクシオ様流石ですっ!ありがとうございます。」
「ありがとうルクシオ。助かるわ。でもなんでかしらね?……なんとなく…既視感がある気がするのだけれど……」
ユーミアはものすごく最近同じことがあった気がすると、
ルクシオを見ながら思ったのだが、まぁ気のせいかしらとモヤモヤを胸に仕舞い込んだ。
そして、
『その気持ちを存分に伝えてもらうべく機会を与えます』という趣旨のメッセージカードを送ってからようやく怒涛の届け物が止み、
貴族家に商家が謝罪というのは、
商売人として今後の体裁に関わる上に、ロレッタがおおごとにしたくなかったこともあり、
ドレスが気に入ったのでお抱え商家として我が家に出向いてはどうかと打診し、ロックハート家夫人にどうにか子供同士の懇親会を開いていただくようユーミアが手を回した形で開催された。
というわけで、ユーミアやロレッタが先日の天使を出迎えることとなったのであった。
「この度は、気持ちを直接伝える機会をくださりありがとうございます。」
ふわふわの白い巻き毛を撫で付け、
ピシッとした黒のスーツに身を包んだあの子がロックハート家にやってきた。
「えぇ、いいのよ。どうぞお掛けになって、えぇーと、なんとお呼びすればいいかしら」
ユーミアが給仕にお茶の指示をしながら、
座席へ即す。
「あぁ、失礼。
メッセージカードも全て商会名義でしかお送りできておりませんでした。名乗り遅れましたが、ルミール・アンブラーと申します」
「「アンブラー!?」」
ユーミアとロレッタの声が重なる、
「あ、アンブラーってあのベストセラーのアン」
「土下座事件のアンブラーです。」
だから既視感があったのだ。あの止まらないメッセージカードは、ルクシオから終わらない手紙が届いたのを彷彿とさせたのだ。
いや、しかしまさか謝罪のためにここまで律儀に手紙を送ってくるのもさすが商売人というべきか……いや、本当に謝罪なのよね?
よぎる予感を打ち消すように
とりあえず、ロレッタへと仲直りを即すユーミア
「ロレッタ、ほら言うことがあるんじゃなかったかしら?ねぇ??」
「まぁ、そうよね。
あの時はあんな風に帰ってしまったけど私はお姉さんだから許してあげるわ!だからもうあんなに贈り物はしなくて大丈夫よ」
「はい!ありがとうございます!
更に今回は気持ちを伝える機会をくださり重ねて感謝申し上げます!ありがとうございます。」
「えぇいいのよ。しっかり気持ちは伝わったから、もう大丈夫よ」
「え!本当ですか?
では、僕の気持ちを受け取ってもらえますか?」
ん?ちょっと待って、やっぱりなんだかおかしい気がする。ユーミアの勘がなにかおかしいと告げてくる。
「ロレッタ待ってこれもしかしたら」
「えぇ!もちろんよ!受け入れるわ」
「ロレッタ!?」
「やったぁ!嬉しいです!ありがとうございます!貴方に見合う立派な男になれるようこれからも頑張ります!ありがとうございます!」
「?えぇよくってよ??精進なさい」
「ロレッタ、まってなにか物凄い勘違いがおこってる気がするわ。ねぇ、あの」
コンコン 扉のノック音がする
「お茶のご用意が出来ましたので、入らせていただきます。」
ユーミアの勘が警報を鳴らす中、
タイミング悪く侍女が入室しその後は穏やかなお茶会へとなった。
お茶会では最近の王都での流行りの服装やアクセサリーの話でもっぱら盛り上がり、先程の嫌な予感は勘違いだったのだと、ユーミアは胸を撫で下ろした。
ルミール君が、
アリベル商会の長男で次期商会長であることや
意外にも13歳でロレッタと2歳しか違わないこと、ドレスのデザイナーも兼任していて先日入ったお店がルミール君のデザインを取り扱っていることを知った。
ユーミアは楽しそうに話す2人の会話に耳を傾けながら紅茶をゆっくりと楽しんでいる。
「まぁすごいわ!今度はルミール君のデザインしたドレスを着させてくださいまし」
「勿論です。次のデザインはロレッタ様専用のシリーズを作る予定です!」
「もぉ〜大袈裟なんだから笑」
ルミールは正真正銘本気で言っているがここではそれを知るものはいない。
そしてお茶会はお開きとなり、帰り際にユーミアがルミールへ質問した
「ねぇ、ルミールくん?貴方は、ロレッタに伝えたかったことってなんだったのかしら?やっぱり謝罪の気持ちよね?」
「え?あ、はい。もちろん謝罪の気持ちもありますが好きです、結婚してください。とお伝えさせていただきたくて参りました!」
「はい!?」
やっぱり…
アンブラー家の血筋だと考えれば早かったものをなんとなく結びつかなかったのはこの子の容姿故だろうか
ロレッタが動揺しながらも謝罪を口にする。
「え、あ、受け入れたのは謝罪だと思ったからなの…ごめんなさい。あなたとは、結婚できないわ…」
「あ、、そう…ですか。そうですよね。ごめんなさい…」
あからさまに落ち込んだルミールを見て、ロレッタも所在無さげに顔を背ける
「じゃあ、まず婚約からでも…」
「まず友達からよね!?」
思わず突っ込んでしまったユーミアは、
(全然落ち込んでいないかもしれない…)
と思ったのだった。
「まぁでは…友達からゆくゆくは別の関係ということで…」
「えぇ、まずはお友達としてですわね!」
ロレッタが首を傾げながら言う。ゆくゆくの関係性については絶対理解していないだろう顔で。
「はい!もちろんです!」
ルミールはぱっと顔を上げた。
「では、今日から僕とロレッタ様はお友達ですね!」
「えぇ。そうですわ」
「嬉しいです!」
本当に嬉しそうに笑うものだから、ロレッタもつられて微笑む。
「そんなに喜んでいただけるなら、私も嬉しいです」
「はい!……あ」
ふと何かを思い出したように、ルミールが声を上げた。
「どうしたの?」
「そういえば、ロレッタ様」
「なぁに?」
「先ほど、僕のデザインしたドレスを着てみたいと仰ってくださいましたよね?」
「えぇ!とっても楽しみにしておりますわ」
「でしたら……」
ルミールが少しだけ身を乗り出す。
「ちょうど今度、アリベル商会で新作の展示会があるんです」
ルミールがロレッタへ
「ロレッタ様にも見ていただきたくて……」
と誘いロレッタも
「まぁ!ぜひ見たいわ!展示会、何を着ていこうかしら……」
早くも当日の服装を考え始めているロレッタと、
「ロレッタ様なら何を着ても素敵です!」
と嬉しそうに答えているルミールがいた。
それから数週間後。
王都では、アリベル商会主催の新作展示会が開かれていた。
普段から貴族向けのドレスを多く扱うアリベル商会だが、今回の展示会は少し趣向が違う。
若手デザイナーたちの新作を一堂に集め、次の流行をいち早く披露する場。
そのため、会場にはいつも以上に多くの貴族や商人が集まっていた。
「まぁ……!すごいわ!」
会場へ入ったロレッタが、目を輝かせる。
色とりどりのドレスが並び、壁際にはアクセサリーや帽子、靴までもが美しく飾られている。
「ロレッタ、あまり離れてはいけないわよ」
「分かっていますわ、ユーミア姉様!」
そう返事をしながらも、ロレッタの視線はすでにあちらこちらへ飛んでいる。
その少し後ろを歩いていたルクシオは、隣のユーミアへ小声で尋ねた。
「……本当に俺たちも来てよかったんですか?」
「えぇ。ルミール君から招待状をいただいたもの」
「そうですけど」
ルクシオは前方を見る。
ロレッタ。
そのすぐ隣には、今日ばかりはいつものふわふわした服ではなく、少し大人びた白いジャケットを着たルミールがいる。
そして。
「ロレッタ様、こちらです!僕の1番とっておきのデザインなんです。」
「まぁ、素敵!この刺繍とっても可愛いわ」
「っ!はいっ!こちらロレッタ様を意識して50種類の黄色を使用したんです。 」
「もぉ〜ルミール君ったら〜笑」
「いやいや!?ほんとですよ!?実は――」
ルミールが楽しそうに説明を始める。
その姿を見ながら、ルクシオは小さく息を吐いた。
「……分かりやすいな」
「え?何がですの?」
「いやいやユーミア嬢。なんでもありませんよ。ハハハ」
たぶん、ロレッタだけを誘いたかっただろうに、可哀想な従兄弟だな、と哀れみを向けるに済ませていた。
目の前のロレッタは初めての展示会に心踊らせ、色々なドレスに目移りしている。
「あ!あれも素敵だわ」
少し離れたブランドへ駆け出そうとして
「あっロレッタ様!」
すぐにルミールが呼び止める。
「こちらも見てください!僕の最新作なんです!!」
「あら?そうなの?こちらも素敵な黄色ね。今年の流行りなの?」
ロレッタがそっと戻っていく。
ユーミアはその背中を見送った。
「……やっぱり…どうなのかしら。そうよね、きっと」
「どうしました?」
「いえ」
ルミールの視線があまりにも自然に
ロレッタが歩けば、その姿を目で追い、
ロレッタが何かを手に取れば、すぐに反応する。
まるで、彼女の一挙一動をずっと見ているような――
「……振られたのにめげないのかしら」
「何がです?」
「なんでもないわ」
ユーミアは笑って首を振った。
まだ、若い2人なのだ。どんな関係性にもなっていくだろう
そう思いながら、2人の後をゆっくりと着いていく
ロレッタは一着のドレスの前で足を止めていた。
「まぁ……これも素敵」
淡い青色のドレス裾には銀糸の刺繍が施され、光を受けるたびに星のようにきらめいている。
「こちらは今年注目されているデザイナーの作品なんですよ」
近くにいた店員が説明する。
「まぁ!そうなのね」
「最近とても人気が出ている方でして」
「素敵だわ。ルミール君、こういうのはどう思う?」
振り返る。
「…………」
ルミールが黙っている。
「ルミール君?」
「……素敵、ですね」
「でしょう?」
「はい」
それだけ言って、ルミールは少しだけ視線を逸らした。
「……?」
ロレッタは首を傾げる。
その様子を遠くから見ていたルクシオが、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「……分かりやすいな」
「ルクシオ?」
「いや、なんでもない」
「もうっさっきからそればかりね」
「いやいや、気のせいですよ」
ルクシオはそう言いながら、何も言わない。
しばらくして展示会場の奥から、一人の青年がルミールの元へ歩いてきた。
年はルクシオと同じくらいだろうか。16か17といったところだ。ただ更に若く幼いルミールと並ぶとぐっと大人びて見える。それこそルクシオよりも大人びて見える。
仕立ての良い服に身を包み、胸元にはデザイナーを示す小さな徽章がついている青年だ。
「おやおや!これはアリベル商会のアンブラー様」
「……はい」
「お久しぶりです」
「お久しぶりですね…」
青年はルミールを見て、少しだけ笑った。
「今回も随分と可愛らしい作品を出されていますね」
「…はい」
「いや、褒めているんですよ」
そう言いながら、青年は展示されているドレスへ目を向ける。
「ただ……」
「?」
「アンブラー商会の次期商会長ともあろう方が、いつまでもこういうものを作っていていいのかなと思いまして」
空気が、ほんの少しだけ変わった。
「こういうもの?」
ロレッタが聞き返す。
「女性向けの、可愛らしいドレスですよ」
青年は笑った。
「もちろん需要はあります。でも、男のデザイナーなら、もう少し男らしく堂々とした作品を作ってもいいんじゃないですか?」
「…………」
ルミールは黙っている。
「それに、アンブラー様はまだお若いでしょう?」
青年は悪びれることなく続けた。
「失礼ながら、見た目も随分と……可愛らしい」
青年が笑う。
「そんな方が女性のドレスを作っていると、どうにも説得力や威厳がないというか」
「…………」
ルミールの指先が、ほんの少し震えた。
ロレッタはその横顔を見る。
先ほどまで、あんなに楽しそうにしていたのに。
「……そうですか」
ルミールは笑った。
「ご意見ありがとうございます」
「いえいえ。まあ、まだ若いですからね。これから頑張ればいい」
「――あの」
ユーミアが静かに口を開いた。
「それは、少し――」
「ユーミア嬢」
隣から、ルクシオの声がした。
「……?」
見ると、ルクシオがほんの少しだけ首を横に振っている。
「僕らより適任がいますので」
小さな声で制され、ユーミアは言葉を飲み込んだ。
気付くとロレッタが1歩前にでていた。
「でも…私は、そうは思いませんわ」
青年が振り返る。
「……はい?」
「何がいけないの?」
ロレッタは、まっすぐ青年を見ていた。
「女性向けの可愛らしいドレスを作ることの、何がいけないんですの?」
「いや、いけないとは言っていませんよ」
「言っているじゃない。さっきからずっと『男らしく』とか『説得力がない』とか」
ロレッタは首を傾げる。
「どうして、男の人が可愛いものを作ってはいけないの?」
「それは……」
青年が言葉に詰まる。
「それに」
ロレッタは、先ほどから並んでいる沢山の黄色いドレスへ目を向けた。
「このドレス、とっても素敵ですの。見てくださいまし」
「ははは、そうですね。可愛らしいお客様のお眼鏡にはさぞ適うでしょう」
「色も、刺繍も、細かいところまで全部見てください。伝統の織り方を取り入れたり、刺繍で光沢を出すために色味を変えて工夫をしております。」
そしてルミールを見る。
「彼が作ったドレスをただ可愛いという言葉だけで消費しないでくださいまし」
こんなに堂々と作品を褒められたことに、言い返せなかった相手に反論してくれたことに、
ルミールは嬉しいやら情けないやらで胸がいっぱいいっぱいだった。
「作った人が男か女かなんて、ドレスを着る私たちには関係ありませんもの」
「…………」
「それとも、男性が作ったというだけで、このドレスが急に素敵じゃなくなるんですの?」
「い、いえ……そういう意味では」
「なら、何の問題があるの?」
青年は完全に言葉を失っていた。
ロレッタはさらに続ける。
「それに、ルミール君はこのドレスのどこが綺麗に見えるか、私なんかよりずっとよく分かっているわ」
ね?というようにロレッタはルミールへ振り返る
「さっき私がこの刺繍を褒めた時も、どこを工夫したのか嬉しそうに説明してくださったもの」
ロレッタは笑った。
「私は、そういうところが素敵だと思いますわ」
ルミールの瞳が揺れる。
「だから」
ロレッタは青年へ向き直った。
「ルミール君が可愛いものを作ることを、恥ずかしいことみたいに言わないでくださいまし」
「ロレッタ……様」
感極まったルミールが女神のようにルミールを崇めている
ふと思い出したように、ロレッタが付け加える。
「私は、ルミール君のドレスが好きなの」
「…………!」
「だから、これからもいっぱい作ってくださいな」
にこり。
あまりにも屈託のない笑顔だった。
「……はい」
ルミールは俯いた。
「もちろんです」
その声は、少しだけ震えていた。
でも今度は、指先は震えていない。
様子を見ていたユーミアはそっとロレッタへ近寄った。
「……ロレッタ」
「はい?」
「あなた、本当に立派なレディになったわね」
「もうっ、私はずっと立派なレディでしてよ??」
「そうね。そうだったわ。ごめんなさいね」
ユーミアは微笑んだ。
その隣で、ルクシオも静かに笑っている。
「……やはり呪いかもしれないな」
ルクシオはルミールを見た。
ルミールの視線はロレッタからじっと離れない。
それはたぶん、ルクシオがユーミアを見る時の眼差しと同じなのだろうな、と思った。