死んだ目をしたプロデューサー 作:勇気に満ちし者
今後も本作品をご覧いただけますと幸いです。
今回でついに彼女が登場!!
有翔くんの覚悟が問われる回でもあります。
それでは本編どうぞ!
※明日から忙しくなるためしばらく更新できないかもです※
翌日、今日も今日とて朝から事務所に向かっていた。
昨日、レッスンを終えた佑芽さん、月村さんを寮へ返した後、事務所で秦谷さんと『SyngUp!』再結成について話をした。
話の冒頭は月村さんが合同レッスンで披露したソロ曲についてだ。
秦谷さんは予想通り心配でハラハラしたと語った。その点については同意だと言うことで話を終え、その後は本題の『SyngUp!』についての話となった。
話の内容としては主に賀陽燐羽についてだった。
俺は彼女のことを知らなさすぎるため、秦谷さんから話を聞くことにした。なんせ賀陽燐羽の情報があまりにも無さすぎて、秦谷さんに聞く他なかったのだ。
本人には秦谷さんから詳細な話を聞いたことは謝罪しないといけないが……。許してもらえるだろうか。
昨日の会話の内容を振り返っていたら初星学園へと到着した。
いつものルートを通って事務所に向かう。
すると───
「(……?誰だ……?)」
事務所の前に誰かがいた。
腕を組んで窓際に寄っかかって誰かを待っている様子だ。
その姿には見覚えしか無かった。
『SyngUp!』のライブ映像で何度も見た人だった。
「……おはようございます。事務所に御用でしょうか?」
「……………………………………………………」
ギロリ
鋭い眼光が俺の目と合う。
「───はっ、噂通りの目ね。あんたが圷 有翔?」
「はい、圷 有翔と申します」
名刺を取り出して彼女に渡す。
「
「……ええ、そうね。手毬と美鈴に手を出してるプロデューサーがいるって聞いたからどんなやつか見に来たーってところよ」
元メンバーのことが気になったのだろうか?
とりあえず絶好の機会だ。
「立ち話もなんですので事務所に入りましょう。粗茶ですがもてなしますよ」
間近で見た賀陽燐羽はイメージよりも小さかった。
「へぇー見た目によらず気が利くのねぇ」
下から俺を見上げるように彼女はそう言った。
そんな彼女を事務所の中に入れてもてなした。
「
「まるで何処かの大手プロダクション事務所の内装を知ってるかのような発言ですね」
「ええ、知ってるわ。───961プロダクションだけど」
961プロダクション……。我ら初星学園の運営母体である100プロダクションとはライバル関係の大手アイドルプロダクションだな。悪い噂が絶えないプロダクションであると有名だ。
そんな961プロの事務所の内装を把握しているのか。
「賀陽さん、兼ねてよりあなたとはお話したいと思ってました」
「アイドル活動を一切してない私にかしら?」
「そうです。結論から話しますが───……『SyngUp!』を再結成したいと思ってます」
「……………………………………………………」
その言葉を聞いた彼女は無表情だった。
驚く様も嫌う顔も一切しなかった。
「ハッ!あっそ、そんなところだと思ってた。物好きな馬鹿がいたものねぇ」
鼻で笑った彼女は続くように語った。
「多方、美鈴が相談してきたって感じかしら。どうせ手毬と一緒に活動したい〜とか、そんな魂胆でしょ」
「鋭いですね。さすが元リーダーです」
「うっさい。煽ってんの?」
「はは、どうですかねぇー」
賀陽さんは先程とは売って変わって目尻を釣り上げ怒りを顕にしていた。
「それであんたは『SyngUp!』の過去の功績に目が眩んで手伝うーって切り出したのかしら?」
「それも事実ですが、秦谷さんには『なんでも言うことを聞く』権利を与えてましたからね。その権利を使って頼まれたので協力してます」
「あんた美鈴にその権利は危険でしょ……。命知らずにも程があるわ」
何故か引かれていた。
俺、そんなやばいことしたのかな。
「美鈴はいいとして───あの
「おっしゃる通り月村さんから『解散』を切り出したので、今は彼女を説得させるために動いてる状況です」
「はぁ……だから、その手毬が簡単に折れるとは思えないんだけど?」
溜息をつきながら賀陽さんは答えた。
「では……賀陽さんはどうなんですか?」
「は?私が『SyngUp!』再結成に同意するわけないでしょ」
即答だった。
「……ひとつ教えてあげる。───あんたがどんなに頑張っても『SyngUp!』が再結成することはないわ」
「……と、言いますと?」
俺の問に対して彼女は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「だって私、もうアイドルじゃないもの」
アイドルじゃない。
彼女は淡々とそう告げた。
「重ねて……。と、言いますと?」
「お馬鹿ね、深い意味なんてないわ。正真正銘、アイドルであることを辞めたって意味よ」
どうやら本当にアイドルを辞めている気のようだ。
「アイドルをやめたのに初星に在籍してるのですか?」
「ええ、そうね、進級するつもりなんてなかったわ。───でも、十王社長がどうしてもって言うから仕方がなく進級しただけ」
こんな所、すぐにでも出ていきたいぐらいよ。
と、彼女は続けて語った。
賀陽燐羽は十王社長のお気に入りだって噂は本当だったという訳か。
「黙り込んじゃってどうしたのー?もしかして、『SyngUp!』を再結成できないーって絶望しちゃったのかしら?」
小さい子供を煽るような口調で賀陽さんは俺に言った。
「(絶望、ね───)」
その言葉を聞いたあと───
「はは!あははは!!」
「!?」
俺は笑っていた。
賀陽さんは驚き、小声で「こいつ頭イカレてんじゃないの……?」と言っていた。
「いえ、すみません。───賀陽さんがおかしなこと言ったので」
「は?おかしなことを言った覚えなんてないんだけど」
賀陽さんは呆れと真剣が入り交じった表情で答えた。
「いえ、絶望って。そんな簡単なことで絶望するわけないでしょ。それに───」
目尻に溜まった笑い涙を指で拭う。
「俺が絶望する時はプロデューサーとして活動できなくなった時だけです」
「!」
今度は俺が真面目な顔でそう言った。
あの日、プロデューサーを志すと決めた時から今日まで絶望したことなんてない。
切り捨てたことは山ほどあるが絶望までには至ってない。
「チッ!あっそ!あんたのことなんて心底どうでもいい!」
「失礼、自分語りが過ぎました。───ですが、アイドルでない発言については訂正させてください」
「は?」
腕を組んで賀陽さんは声を低くした。
「初星学園高等部、アイドル科に所属している以上、誰がなんと言おうとあなたは正真正銘のアイドルですよ」
アイドル科に在籍している以上、アイドルであることに間違いはない。
俺はそう伝えた。
「へーそう。───……なら初星からもいなくなるって言えば諦めてくれるかしら?」
「ほう……?」
賀陽さんが言った内容が少し理解できなかった。
「なんにも知らないあんたに教えてあげる───」
そこから賀陽さんは語った。
賀陽燐羽は『SyngUp!』が解散した時、解散ライブを最後にアイドルを辞めるつもりだった。
解散ライブは脅迫状が届いたことでバラシとなり、ファン達と正式な別れができない状態が続き、アイドルを辞めるタイミングを見失っていた。
十王社長に止められる形で進級して初星に籍を置いていたが、961プロ……黒井社長が賀陽燐羽の終わりのライブ……。『終活』を手伝うと提案して、961プロへ転籍となった。
「5月から極月学園へ編入するつもりよ。───だから、どう足掻いても初星で『SyngUp!』が再結成することなんてありえない話よ」
わかった?と言って彼女は話を締めくくった。
「わかりました。では4月中になんとかします」
それに対する俺の回答は単純だった。
「───……はぁ、あんたって救いようがないほど筋金入りの馬鹿ね。手毬と張り合えるレベルじゃないかしら」
鼻で笑い呆れた様子で賀陽さんは答えた。
「とゆうか5月からって。……『N.I.A』の開催時期と被ってることから察せます。───……賀陽さん、あなたは
「ッ!───はぁッ!?」
それを聞いた途端、彼女は激怒した。
NEXT IDOL AUDITION
───通称『N.I.A』。
961プロ、100プロが共同して開催するアイドル育成学校へ通う生徒達がファン投票で優勝を目指して競い合う大会だ。
毎年、961プロ、もとい極月学園側が初星学園の生徒に対して嫌がらせを行い、自分達が有利になるような妨害をしてくる。
今回は賀陽燐羽を引き抜いて何かを企んでるってところか。
「……それがなに?私が良いように利用されようが勝手じゃない。あんたに関係ないわ」
「ええ、関係ありません。───ですが、本当に961プロが『終活』を協力してくれると思ってるんですか?」
「……ええ、そうよ」
賀陽さんは視線を逸らして答える。
何か思う部分はあるようだ。
「賀陽さん、あなたのことは秦谷さんから伺ってます。───あなたのアイドルに対する情熱は月村さんよりも大きいはずです」
「いきなり何?キモイんだけど」
「はい、こんな死んだ目をした俺はキモイです。続きですが───」
キモイことを肯定して話を続けた。
賀陽燐羽がアイドルに対するプロ意識は異常だ。
それは月村手毬のがむしらゃで取り組むこととは相反する「合理性」を求めた物だった。
自分を限界まで追い込む月村手毬のスタイルは、自身が理想とする「効率性」と相違していた。
だから月村手毬と高みを目指す認識とやり方がズレた。
「あなたは月村さんの練習に付き合っていたと秦谷さんから聞いてます。───それは無理のない範囲の努力は『合理的』に必要だと思ったからでは?」
「───……うるさい」
「定期的に邪魔をする振りをして練習量を抑制していたのは『効率性』を求めたからでは?」
「───……黙りなさいッー!」
「そんな月村さんを見て、自滅する彼女を止められないことから『諦めて』『呆れて』、月村さんの解散に賛同した。───違いますか?」
「黙れって言ってるのよッ───!」
賀陽さんは片手で顔を抑え、もう片方の手でテーブルを思いっきり叩く。
湯のみは倒れテーブルにお茶が広がっていく。
この反応からして図星なのだろう。
昨日、秦谷さんから賀陽さんの話を聞いて資料にまとめて、寝ずに分析した甲斐があった。
「それが……私が大人に利用されることとなんの関係があるって言うのよッ───!」
「……賀陽さんは中等部の頃からそこまで考えれた。そんな聡明なあなたが961プロの甘い誘惑を信じきるとは思えません。───いいですか?断言します。
『終活』なんてさせて貰えないと思った方がいいと伝える。
「……じゃあなに?あんただったら私の『終活』を手伝ってくれるって言う……?」
「『終活』には付き合いません。───そもそも『終活』する理由は月村さんのためですよね?」
「ッ!誰がいつそんなこと言ったのよッ───!」
目元を赤くして酷く俺を睨みつけて言った。
「賀陽さんは月村さんが炎上した時、あえてヒール役を演じた。それは月村さんを守るため……彼女の今後のアイドル人生を鑑みての行為だと思ってます」
「私をいい人みたいな言い方はやめてくれないかしら……!」
「いいえ、あなたは優しい方です。───自分を身代わりにして、月村さんを守るぐらい」
「ッ!」
もうあとには引けない……。
ここまで話したのなら思ってることを全部言ってやる。
ここで彼女に全てを伝えなければ『SyngUp!』の再結成なんてできやしないのだから───!
「でも……。あなたが身代わりになる必要なんてないんです。あなたはまだ高校生なのだから、そんなことは俺達、大人に任せればいいんです」
「!!!」
賀陽さんがビクリと反応した。
やはり俺が思っていたことは正解だった。
このまま行けば───!!
「『終活』なんかではなく『再始動』にしましょう。───ファンとのお別れじゃない。再会の機会を設けましょう……。俺が協力しますから……!」
賀陽さんに力強く語った。
本来であれば月村さんのあとに賀陽さんと話をする予定だった。
だが、ここで賀陽さんと遭遇した千載一遇のチャンスを無駄にはできなかった。
自分が抱いていた賀陽さんの思いを勝手に代弁する形となったが、反応的に間違ってないはず……。
「(頼むから……辞めるなんて言わないでくれ)」
心の中でそう願った。
そんな時───
「───お話の途中で失礼する」
事務所のドアが開かれた。
「……十王……社長……?」
賀陽さんが目を見開き、ドアの前に立つ人物の名を呼んだ。
「賀陽燐羽くん、君が時間を忘れて話し込むとは珍しい……。一体、どんな話してたのか興味がそそられるな」
十王龍正。我らが100プロダクションの代表取締役……そんな人が何故ここに。
「!これは十王社長、挨拶が遅れました。───私、プロデューサー科の圷 有翔と申します 」
いつも通り名刺を取り出して、震える手を押し殺して十王社長に名刺を渡す。
「……頂戴する。───ほう、君があの老いぼれが気にかけてた圷 有翔くんか。噂通りの変わった瞳をしているな」
「十王社長にご認知いただいていたとは大変光栄です」
嘘だろ。十王社長、俺のこと知ってんのかよ。
とゆうか老いぼれ……?学園長のことかだろうか。
学園長が気にかけていた……ってなんだろうか。
───いや、今はそれどころではない。
目の前にあの十王社長がいるんだぞ。
そんなの後で考えればいい。
「賀陽燐羽くん、961プロの方々が君の迎えに来ている。約束の時間を既に超過している、正門前に車を止めているから早く迎たまえ」
「───……はい、失礼しました」
賀陽さんはすっと立ち上がってドアへ向かって歩き出した。
「賀陽さん、あなたの心に土足ではいるような行為だったのは自負してます。それでも……あなたの思いを確認したかったんです」
続けて俺は言葉を送る。
「俺は賀陽さんが事務所へ来るのをずっと待ちます。朝でも、昼でも、夜でも、あなたがお好きなタイミングで構いません。───お返事、お待ちしてます」
その言葉を聞いて賀陽さんは足をピタリと止めて短く答えた。
「あっそ───」
そう言い残して彼女は事務所を後にした。
『……………………………………………………』
賀陽さんが立ち去り事務所は静寂に包まれる。
「ところで十王社長、差し出がましい質問で恐縮ですが……何故、賀陽さんがここにいるとわかったのですか?」
静寂に耐えかねた俺は十王社長へ問いかけた。
「昨日の朝方、賀陽燐羽くんが君の後を追ってるところを目撃してな。気になって私も後を追うことにしたのだ」
別件で学園に訪れた時、学園内で見かけない賀陽燐羽が俺を追う姿を目撃して、興味本位で追ったらしい。
「(昨日の尾行者は賀陽さんと十王社長だったのか)」
正確に言うと賀陽さんが俺を尾行して、俺を尾行する賀陽さんを十王社長が尾行したという、尾行の尾行ってところか。
賀陽さんが事務所の場所を知ってた理由に合点がいった。
「賀陽燐羽くんが事務所のドアをノックしようとした時、前方から秦谷美鈴くんが現れて───」
「賀陽さんは立ち去った。そして今日、訪れたといったところですか」
「ご名答。本日、彼女が約束の時間になっても姿を表さなかった。もしやと思って私もここに来た次第だ」
十王社長が事務所へ来た理由もこれで知れた。
さすがに目上の方がいきなり事務所に来られるのは心臓に悪すぎる。寿命が数年は縮んだ気がする。
「時に圷 有翔くん───君は賀陽燐羽くん、秦谷美鈴くんといい、元『SyngUp!』のユニットメンバーと深い交流がある様子だ」
十王社長は人差し指の側面を顎に押し当て考える仕草を取りながら問うた。
その仕草は十王星南が時折見せる仕草だった。
流石は親子と言ったところか。
「賀陽くんが君を気にかけたのも『SyngUp!』が関連しているのだろうか?」
「はい、お察しの通りです。私が月村手毬、秦谷美鈴と関係を持ったことで私に興味を持ったそうです」
本人が2人の名を出して俺の様子を見に来たと言っていたから間違いないだろう。
何処で俺達が知り合った情報を仕入れたのか定かではないが。
「随分と『SyngUp!』の元メンバーに入れ込んでるのだな。何か考えがあるのだろうか?」
これは……試されてる、のか。
ここで馬鹿正直に『SyngUp!』を再結成させるつもりだと伝えていいのだろうか。
いや、ここまで条件が揃ってて、聞かないってことは俺の口から直接、言わせたいって魂胆か。
「私は『SyngUp!』を再結成させたいと思ってます」
「───………………」
十王社長はその言葉を聞いて黙った。
「再結成させたいと思った理由を聞かせてもらおう」
「!……秦谷美鈴さんに『再結成』したいと相談を受けて……。」
「君は相談を受けたから『再結成』の協力をしてると?」
「───いえ、彼女達のライブを見てもったいないなと思ったからです」
彼女達には一人一人、輝く個性がある。
中等部の頃は月村手毬のフォローに入ってたから賀陽燐羽、秦谷美鈴はその輝きを発揮できていない。
『再結成』を果たせば、一人一人の個性を活かして中等部の時とは比にならない程の輝きを放ち、ファンを魅了させ、中等部だけで留まらず初星のナンバーワンユニットになるべく存在だと語った。
「では『SyngUp!』が再結成した後は君が彼女達をプロデュースするのか?」
「いいえ、私は花海佑芽さんの担当プロデューサーです。───彼女を差し置いて他の方をプロデュースするつもりはありません……。ですが、彼女達がプロデュースするように相談をしてきたら応えるとは思います」
そう説明した。
「受け身だな。君はプロデュースする気がないのに賀陽くんに対して『終活』を辞めさせたいと思ったのか?───君はその程度の覚悟で彼女の思いを踏みにじるのか?」
「ッ!それは違います!彼女自身が『終活』を望んでないと思ったからです!」
自分を殺して月村手毬を守る自己犠牲のという考えを撤廃して欲しい。だから『再始動』を提案したと伝える。
「であるなら君の覚悟は全くもって足りていない。───もし、彼女達が話し合いの末『再結成』を望むのであれば、100プロダクションは総出で彼女達をプロデュースするだろう」
「ッ─────────!!!」
つまり『SyngUp!』が再結成すれば100プロに所属するプロのプロデューサーが就任すると言ってるようなものか。
「(それでいいじゃないか)」
そう、それでいいんだ。
俺は佑芽さんのプロデューサーだ。
彼女を『一番星』にすると誓ったじゃないか。
『SyngUp!』なんかに現を抜かす暇なんてない。
───だけど、馬鹿げた夢を抱いてしまった。
『HIF』のソロ、ユニット、での総合優勝。『SyngUp!』のポテンシャルと佑芽さんが爆発的な成長を遂げれば実現できる可能性は十二分にある。
佑芽さんに集中して『SyngUp!』のプロデュースが疎かになる、もしくは逆のことが起こりうることもあるはずだ。
そんな時に担当アイドルが複数人いたからなんて言い訳をしたくない。
「……………………………………………………」
葛藤の中で十王社長の顔を横目で伺う。
終始真顔でこちらが次に発する言葉を待っている様子だ……。
難しく考えるな。
俺は彼女達をどう思ってるんだ……。
難しいことやあれやこれやを全て度外視して考えた結果───
俺は月村手毬の圧倒的な歌唱力が好きだ。
俺は賀陽燐羽の他の追随を許さないダンスが好きだ。
俺は秦谷美鈴の息を飲むほど美しい、儚く可憐なステージでの立ち振る舞いが好きだ。
俺は……どうしようもなく『SyngUp!』が大好きなんだ。
「…………なります───!」
他のやつに大好きな彼女達を渡してたまるか。
他の誰かに渡すぐらいならッ───!
「
気付けば俺は十王社長に宣言していた。
「他の誰にも渡さない!彼女達は俺の手で!俺の育て方で!あなた達100プロのアイドルにも負けないトップアイドルにしてみせますッ───!」
畳み掛けるように十王社長へ挑戦することを伝える。
もう───あとには引けない。
佑芽さんに怒られようが、『SyngUp!』からプロデュースを断れようが、俺は『SyngUp!』をプロデュースすると覚悟を決めたんだ。
誰になんと言われようと。
誰に無謀だと言われようと。
俺が『SyngUp!』をプロデューサーとして、大人として正しいアイドルの道へ導く……!
「どうやら覚悟は決まったみたいだな。だが、『SyngUp!』再結成の道のりは果てしなく遠いものだ。───ただのプロデューサー科の君に果たして務まるだろうか?」
「できるできないの話ではありません。───できなくても、地を這ってでも、血反吐を吐いてでも、俺の全てを駆使して『SyngUp!』再結成を実現させます」
「賀陽燐羽くんの自己犠牲を辞めさせるための自己犠牲、か。矛盾しているが……いい具合で狂ってる。───圷 有翔くん、君は面白いな」
十王社長がふっと微笑んだ。
「君が滅ぶのが先か、『SyngUp!』の再結成が先か……。今後が見ものだな。───だが、賀陽燐羽くんの961プロへの移籍は変えられないことだ。君ならどうする?」
「プロダクションの転籍を白紙にすることは不可能です。ただ、極月学園への転校は場合によっては融通が効くはずです」
「賀陽燐羽くんが退学手続きをしてないことにかけるというわけか」
「こればっかりは希望的な観測になります。───勿論、あなたの考えにはそぐわないとは存じてます」
「そうだな。私の考えにはそぐわないが……。これは君が決めることだ。私の顔色を伺っていては成せるものも成せない」
「……はい。ごもっともです」
遠回しで好きにしていいよと言ってるのだろう。
回りくどい方だなと思ってしまった。
「これ以上の追求はしないでおこう。君には君の今後の考えがあると見た。───圷 有翔くん、『SyngUp!』が再結成した暁には、彼女達の今後のプロデュースプランを聞かせてもらう」
十王社長は話しながら胸ポケットから重厚感がある名刺入れを取り出して俺の名刺を収めた。
収めるのと同時に自身の名刺を取り出して俺に渡してきた。
「まずは『SyngUp!』再結成に励め。些細なことでも構わない。なにか困り事があれば相談するといい。───君の今後の活躍に期待する」
「頂戴いたします。───……ご期待にお応えできるよう精進いたします」
名刺を受け取り深々と頭を下げて続きの言葉を伝えた。
「ふっ、では御暇する。───……達者でな」
満足したかのようにふっと笑い、十王社長は事務所から立ち去った。
立ち去る際の立ち振る舞いといい、不覚にもかっこいいと思ってしまった……。俺もいつか達者でな。とか言って立ち去ってみるか。
───じゃなくて。
「クソ焦ったぁぁぁぁぁあああ〜〜〜」
その場で膝から崩れ落ちる。
口からは魂が若干、抜けかけてた気がした。
いや、いやいや。
いきなり十王社長って。
ラスボス登場にも早すぎますてぇー。
終始震えを抑えるのことに必死だった。
俺、変なこと口走ってたり───……はしてるか。
「(でも……。十王社長はやはり凄い)」
普通なら『SyngUp!』を再結成したいのなら、ここで彼女達のプロデュースプランを提示しろと言い出すはずだ。
ただ、彼女達の性格、そして賀陽さんの立場上、再結成は一筋ではいかないと熟知してるが故にこの場ではなく、『再結成』した後に提示しろと妥協してくれたんだ。
「(賀陽さんが961プロに所属している以上、『再結成』は一筋縄ではいかない。───考えることは山ほどある、が)」
まずは目先のことからだな。
「佑芽さんに説明しないと……。」
結局、佑芽さんが思ってた通り俺は『SyngUp!』のプロデュースをすると宣言してしまった。
あの時、抱いた思いに嘘はない。
他の誰かに彼女達を取られるぐらいなら俺がプロデュースしたい。
そうだよ。
そうですよ。
そうなんだよ。
俺は『SyngUp!』がどうしようもないほど好きなんだよ。
歌やダンスだけじゃない。
単純に全員の面が好き。
それでいいじゃないか。
何も恥ずかしくなんかない。
開き直った?違うな。
元から圷 有翔はそうゆう人間なんだよ。
真面目なフリしても根は面食い。
他人に愛されたことがない故に顔が整った人に狂うほど焦がれる。そんなやつなんだ。
「はは、我ながらクズだな」
乾いた笑い声を出した後、いつぞや心で自分に投げた言葉を口に出したのであった。
教えて!賀陽燐羽先生の質問コーナー!
Q.有翔くんに会いに来た理由はなんですか。
A,手毬と相合傘していたPがいたって話を聞いたわ。日曜日には寮のラウンジでなんかしててみたいだし、結構、目立ってたのよね。こいつ。
Q.有翔くんの話を聞いてどう思いましたか。
A,人の心に土足で踏み込むクソ野郎。的を射抜いてて尚更頭にきたって感じ。
Q.総じて有翔くんのことをどう思いますか。
A,大っ嫌い。
以上です。
多分、こんな感じで捕捉説明しないといけない話だったかと思います。
十王社長の登場といい波乱の回でしたが執筆してて楽しかったです。
有翔くんのことは……許してやってください。
少しでも面白いと思ったら感想と評価をお願いします!
それではまた次回お会いしましょう~