死んだ目をしたプロデューサー 作:勇気に満ちし者
新たに投票してくださった、かぶらんさん、明日のやたからすさん、ありがとうございます!
あと少しでバーの評価がカンストです!ご投票よろしくです!
標ツアーファイナル行きたかった…!チケットの落選さえしてなければ!
ところで皆さん、手毬と美鈴のデュエット曲『慟哭のコンチェルト』は聞きましたでしょうか。二人が互いに抱く後悔を歌にして表現するなんて…歌詞を考える人はすごいですね。
そんな公式とは全く違った展開をしている本作ですが、今回の話で物語が大きく進みます。
主人公は手毬に対してどんな言葉を送るのかご覧ください。
それでは本編どうぞ!
『SyngUp!』を再結成させてプロデュースすると覚悟を決めた俺はそのことを佑芽さんに伝えるべく準備していた。
佑芽さんには話があるから今日も事務所に来て欲しいと連絡した。
今日はすぐに話が終わること。
そして午後は諸事情があるため昼食は事務所で取らないこと、そして放課後の補習練習には付き添えないと伝えた。
普段、緊張しない俺だが佑芽さんに『SyngUp!』のプロデューサーになると伝えるのは凄く緊張してしまう。
佑芽さんは『今度は自分の番』だと言って、前回はプロデュースすることになっても我慢すると言っていた。
ただ、人間というのは数分経てば気が変わる生き物だ。1日経っているのなら尚更だ。
最悪の場合、佑芽さんから了承を貰えず、プロデュース契約を解約すると言われる可能性もある。
そうはなって欲しくないが嫌な思考が脳内を巡る。
───でも、もうあとには引けない。
俺は十王社長に『SyngUp!』のプロデューサーになると宣言した。
自分で自分の首を絞めてるのはわかってる。
彼女達を他の誰かに取られるのは避けたかったんだ。
こんな些細な壁を乗り越えずに『HIF』で佑芽さんと『SyngUp!』をソロとユニット、それぞれで優勝させることなんて不可能だ。
俺は───……越えてみせる。
そう決意したのはとある講義中の最中であった。
◆◇◆◇
お昼時、事務所へ戻って身支度をしながら佑芽さんを待つ。
いつものように廊下からリズミカルな足音が聞こえ、事務所のドアが開かれた。
「こんにちは!プロデューサーさんっ!」
「はい、こんにちは。佑芽さん」
緊張していることを隠しながらいつも通り挨拶を返した。
今日も佑芽さんは可愛くて元気がいい。
「今日は何の話ですか?」
佑芽さんは俺の向いの席に座った。
「まずは昨日に続き、連日で呼び出してすみません」
「全然大丈夫です!───それよりプロデューサーさんは午後から用事があるんですよね?なら早めにお話しないとですねっ!」
気を使って佑芽さんが話を進めてくれた。
本当に気が利くいい子だな。
「お気遣いありがとうございます。───では手短に結論からお伝えします」
「!は、はいっ!」
佑芽さんはそう答えて背筋を伸ばして姿勢を整えた。
「『SyngUp!』のプロデューサーになると覚悟を決めました。───再結成した暁には佑芽さんと『SyngUp!』をプロデュースしたいと考えてます」
「──────…………」
俺は佑芽さんの目を見ながら伝えた。
佑芽さん目を見開き、昨日の今日の話で驚いた様子だった。
「……佑芽さんの期待を裏切るような形になってしまい申し訳なく思ってます。それでも───……彼女達の魅力に惹かれてしまいました」
俺はありのまま彼女達に抱いている思いを語った。
「ただ『SyngUp!』だけに現を抜かすことは絶対にしません。佑芽さんと『SyngUp!』の両方を満遍なく、対等にプロデュースすると約束します」
佑芽さんにそう宣言した。
その言葉を聞いた佑芽さんはほっとため息を着いて胸を撫で下ろす。
「そこまで必死に説明しなくても大丈夫ですよ。あたしはなんとも思ってませんから!」
「え?」
「あ!なんとも思ってないって言うのはプロデューサーさんが浮気する人だ!とか!嫌だなーって思ってるとかじゃなくて!」
佑芽さんは焦りながらその場出あたふたしながら言葉を選んでいた。
「例え、美鈴ちゃん達をプロデュースすることになってもあたしのことを蔑ろにすることはないとちゃんとわかってますっ!」
佑芽さんは決まったと言わんばかりふんすと鼻息を出して言い切った。
「それにプロデューサーさん、昨日から美鈴ちゃん達をプロデュースしたそうに見えてましたからね!───覚悟はできてました!」
「!そうですか……。」
どうやら佑芽さんには見透かされていたようだ。
「佑芽さんがおっしゃってた通りになりましたね」
「ふっふっふー!これであたしの勘は当たるって証明されましたねっ!」
腕を組んで得意げに佑芽さんは応えた。
「でもひとつだけ引っかかる部分があります!───覚悟を決めたってどうゆうことですか?あたしはてっきりプロデュースしたいものだとばかり思ってたんですけど……?」
「それはですね───」
俺は佑芽さんに今朝のことを話した。
賀陽燐羽が事務所に来たこと。
『SyngUp!』再結成の件で口論となったこと。
そして───……十王社長が来たこと。
「───それで俺はその場で十王社長に『SyngUp!』のプロデューサーになると宣言したんです」
佑芽さんは腕を組みながら顔を顰めて話を聞いた。
何か気に障る部分でもあったのだろうか。
「プロデューサーさん!───十王社長?って何方ですか?あっ!星南会長と同じ苗字ですね!もしかしてご家族の方ですかっ!?」
アイドルのことに疎いとは思ってたが、十王社長を知らないとは……。こ、これは驚いたぞ。
「えっと、十王社長は十王星南の父親に当たるお方です。そして初星学園の母体であるた100プロダクションの代表取締役社長です。───ようは俺達のボスだと思ってください」
「えぇぇぇえええええ!!!せ、星南会長って社長令嬢だったんですか!?し、知りませんでした!」
ん、んー学園中の皆が知ってる周知の事実なのだが……。ここで知ってくれたということで前向きに捉えよう。
「ああ!ごめんなさい!話がそれちゃいました!───じゃあ社長に宣言したのなら、尚更プロデュースしないといけませんねっ!」
「そうですね。───正しくあとには引けない状態です。なのでまずは『SyngUp!』の再結成を成功させないといけません」
再結成できないとプロデュースなんてできない。
賀陽さんの退学の件もある。
早急に何とかしないと再結成は不可能となってしまう。
「プロデューサーさんなら大丈夫です!あたしの勘がそう言ってますからっ!」
「はは、佑芽さんの勘は当たると証明されましたからね。かなり心強いです」
「『SyngUp!』が再結成したら美鈴ちゃんと手毬ちゃんと同じ仲間になれるんですよね!賀陽燐羽ちゃん?は会ったことないからまずは仲良くならないとですねっ!」
思うところはきっとあるだろう。
だけど仲間ができると思って張り切ってるって感じだろうか。
「佑芽さんなら賀陽さんともすぐに仲良くなれますよ」
賀陽燐羽には姉がいる。
賀陽継、歴代の『一番星』である。
賀陽燐羽が『SyngUp!』結成と同時にグレた原因に関係があると思われる人物だ。
身内の話は分をわきまえる必要がある。
他人の俺がズカズカと賀陽継のことを賀陽燐羽に問うたり、話すのであれば言葉を選ばないといけない。
そう思った俺は、あの時、あえて賀陽継には触れず、賀陽燐羽が月村手毬に抱いていた思いを中心に話したんだ。
これは俺の憶測だが、『SyngUp!』が結成前に、初星の卒業生と行った対バンライブで、賀陽燐羽が賀陽継に勝ってしまったことで姉妹関係が拗れていると踏んでる。
現にその対バンライブ後、賀陽継は引退した。
それに対して、花海姉妹は勝負癖はさておき、その他の部分においてはまさに理想的な姉妹関係だ。そのため、賀陽燐羽が2人の存在を知れば何か変わるような気がする。
仮に、いや絶対に佑芽さんが咲季さんに勝つ日は訪れる。寧ろ俺が勝たせてみせるが。
勝った時、花海咲季はどうなるのだろうか。
賀陽継と同じ道を歩むことになるのだろうか。
「(───そんなことには絶対させない)」
させてたまるか。
もし彼女が挫けそうな時は俺が支えてやる。
花海佑芽にとって花海咲季は姉であって、ライバルであって、最高のパートナーなんだ。
佑芽さんが輝くために咲季さんは必要不可欠。
もしもの時は……また覚悟が必要だな。
「(そう考えると兄弟とか姉妹とか大変だな)」
自分には血の繋がった家族が誰一人いなかった。
そんなしがらみを体験せずに過ごしてきたが、こう考えると複雑だよな。
と、長く語ったが、そう言った感じで自分と同じ妹と言う境遇である佑芽さんに対して、賀陽さんは近親感が湧いて仲良くなるのではと勝手ながら思ってる。
「えへへ、仲良くなれると嬉しいですっ!───あ!プロデューサーさん時間大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございます。───お話は以上になります。お時間の調整ありがとうございました」
「いえいえ!『SyngUp!』の再結成に向けて頑張ってください!あたしの応援パワーをプロデューサーさんに送りますっ!必要とあらば花海佑芽がお力添えしますよ〜!」
両手を前に出して佑芽さんは念を送るような仕草をしてくれた。
「約束します。必ず『SyngUp!』を再結成させてみせると。───佑芽さんに心強い仲間を用意してみせます」
「!……はい。期待してます。プロデューサーさん」
佑芽さんは一瞬驚いたが、すぐに優しい顔になって微笑みながらそう言ってくれた。
期待してます。
それは俺が一番好きな言葉だ。
佑芽さんはわかってて言ってくれたのだろう。
「これからお姉ちゃんとお昼ご飯食べるので行きますね!プロデューサーさんも午後のお仕事頑張ってください!」
「はい、佑芽さんも午後の授業と放課後の補習頑張ってください。───今回は午後の諸事情の延長でご一緒できませんのでお許しを」
「わかりましたっ!!」
元気よく応えた佑芽さんはまた明日、と大きな声で言い残して事務所を後にした。
今日の補習授業に俺は参加しない。
参加しようと思えばできるが、賀陽燐羽が月末で初星を自主退学をするとのことだから、それまでに『SyngUp!』の再結成をしなければならない。
もしくは再結成するための条件を取り決めをる必要がある。
ならば行動を早めないといけないのは必然だ。
佑芽さんが事務所を退室した後、俺も準備をするために事務所を後にしたのであった。
◆◇◆◇
「───……さてと」
一度自宅に戻って準備を終えた俺は事務所へ戻ってきた。
掛け時計で時間を確認すると高等部がHRを終える時間帯だった。
我ながら計算通りだなと自画自賛をしながら事務所を出て目的の場所へと向かう。
1年2組の前を通ると佑芽さんや他の生徒達から見られる。
俺が2組に来ると生徒達は思っただろう。
だが、今回用事があるのは2組ではない。
「失礼します」
俺は1年1組のドアを開けながらそう言った。
「──────……………………」
1組の生徒達から一斉に視線を浴びる。
息を一息吐き捨てて彼女の名を呼んだ。
「月村手毬さんはいらっしゃいますか?」
静寂していた教室に俺の声が響く。
「……なんですか、プロデューサー」
椅子から立ち上がり、月村さんは顔をムッとしながらそう言った。
「どうも、プロデューサーです。少し月村さんとお話したいと思いましてね」
そう話しながら月村さんの席へ向かった。
「どうせ、また酷いことを言いに来たんでしょ」
「そんなところです。この場では言いずらいので事務所で話しませんか?」
「ッ!はぁ、本当に性格悪いですね。酷いこと言われるとわかっててほいほい着いていくと思いますか?」
「酷いことを否定することはありません。ですが、月村さんの今後にとって糧になる話だと断言できます」
「……その興味を引かれるような言い方はなんなんですか?」
「俺の目が嘘をついてるように見えますか?」
「見えませんけど!何考えるのかすら全然分からないんですけど!?」
声を大にして月村さんは否定した。
否定しただけでなく追い打ちをかける言葉も言われた。
「はは、よく言われます」
「知ってます。私もあなたに以前、似たようなセリフを言った覚えがありますから」
似たようなセリフ……。
ああ、練習塔で雨が降ってた時の話か。
あれからもう……って数日しか経ってないのか。
なんだか思ったよりも長い日を過ごした感覚だな。
あれ、デジャブ感があるな。
「約束覚えてますか?」
「約束、ですか?」
「そうです。私があなたの話を聞いたらなんでも言うことを聞く権利をくれるって話です」
「そのことでしたか。忘れてましたけどいいですよ。なんでも聞きます」
「その忘れてたって発言必要ですか?───まあ、改めて宣言してくれて助かりますけど」
やれやれと言わんばかりに肩を落としながら月村さんは答えたのであった。
「いいですよ。事務所に連れてってください」
身支度をしながら月村さんはそう言った。
「ありがとうございます。ではご案内します。───とこで咲季さん?そう睨みつけるのはやめてください。萎縮します」
そう答えると月村さんは「え?」といいながら咲季さんの方へ顔を向けた。
咲季さんは終始、頬杖をつきながら俺を睨んでいた。
「別になんとも思ってないわ。───ただ、佑芽以外のアイドルに現を抜かして、わたしに勝てると思ってるようじゃ舐められたものねと思っただけよ」
「言いたいことはわかります。ですが、あなたに負け続ける気はありませんよ。───花が咲いた時、佑芽さんが貴方を叩き潰します。負けた時のことを今のうちに考えてた方がいいかもですね。あはは」
舐められたものだから少しだけ煽る形で言い返した。
「そう、なら安心だわ。ここで弱気な返答でもしてたらビンタしてたところよ」
「……俺を試してたんですか?」
「そんなところよ。───手毬、有翔は目が死んでて何を考えてるのかわからないけど、プロデューサーとして責務はキッチリ果たすヤツよ。まあ、今後の付き合い方の参考に覚えておくことね」
咲季さんは言い残して教室を出ていく。
どうやら佑芽さんから俺が『SyngUp!』のプロデュースをする話を聞いてたようだな。
だから俺のことを試すようなことを問たのか。
これから話す内容を知らない月村さんにとって咲季さんが送った言葉の意味は理解できないだろう。
と、ゆうか咲季さんからの評価が高くて嬉しい。
「咲季は何言ってんだろう……。まあどうでもいいです。早く事務所に行きましょう」
「ええ、向かいましょう」
月村さんを連れて1年1組を退室する。
その後はあえて1年2組の前を月村さんを連れて通る。
「──────……………………」
自席に座る秦谷さんに視線を送る。
俺の考えていることは伝わらないと思うが、視線を送ることに意味がある。
その行為で彼女なら今から俺がやることを察するはずだ。
「!」
佑芽さんも頑張れ!と言わんばかりにガッツポーズをしてエールを送ってくれた。
彼女の応援に応えないといけないな。
そんなことを考えていたらあっという間に事務所へと着いた。
「こちらになります」
ドアを開けて事務所に入る。
「思ったより質素ですね。もっと豪華なのかと思ってました」
「はは、そういうのは有名なプロダクションに所属した時のご褒美と思ってください」
あくまで学園だからな。
他のプロダクションには劣ってしまうのは仕方がない部分がある。
「こちらにお座り下さい」
パイプ椅子を引いて座る場所を案内した。
「気が利きますね。ありがとうございます」
月村さんはお礼を言って座った。
向かい席のいつもの自席に俺も座って話し出した。
「今日は事務所にお越しいただきありがとうございます。早速ですが、本題に移らせていただきます」
月村さんは無言でコクリと頷いた。
「月村さん、俺に……あなたをプロデュースさせてくれませんか?」
開幕早々に俺は月村さんを勧誘した。
「…………ふっ」
俺の勧誘に対して月村さんはふっと笑った。
「失礼しました。昨日のレッスンで手応えがあったのでプロデュースの勧誘はされるだろうなと思ってたところです。───あなたからとは思ってませんでしけど」
どうやら前回のレッスンで歌を披露したことで、プロデュースの勧誘を受けるだろうと思っていたようだ。
俺から受けるとは思ってなかったみたいだが。
「でもいいんですか?」
「いいとは?」
「あなたは佑芽のプロデューサーですよね?私と佑芽、2人の
佑芽さんの心情を察せれてて偉い。
だが───
「俺がいつ、月村さんをソロアイドルとしてプロデュースの勧誘をしたと言いましたか?」
「───は?」
言葉の意味を理解するのに時間がかかったようだ。
理解してから発した言葉はお得意の言葉であった。
「じゃあなんですか?私を───……ユニットアイドルとしてプロデュースしたいってことですか?」
「おっしゃる通りです」
「ッ!ふざけないでください!どうせあなたのことです!私のこと少しは調べてるんですよね!?」
「少しどころか凄く調べました」
「だったら!私がユニットを組みたがらない理由はわかるはすです!───なのに……!なんでユニットを組むような勧誘をするんですかっ!」
ユニットを組みたくない。
その思いが強く伝わる勢いで月村さんは激怒した。
「あなたがユニットアイドルとしての適正が高いと判断したからです」
「適正が高い……?そんなはずありません!月村手毬は一人でアイドルをやれます!───いいえ、一人でやらなくちゃいけないんです……!」
「お言葉ですが発言が矛盾してますよ。一人でやらなくちゃいけないの理由が一人でアイドルをやれることになるんですか?」
「揚げ足を取らないでください!───大体、ユニットって……。私に着いていける人なんていません!」
月村さんは怒りながら自分に着いてこれる人はいないと言い切った。
「残りのユニットのメンバーは賀陽燐羽、秦谷美鈴のお二人です」
「は、はぁ……?」
「俺は『SyngUp!』を再結成させるつもりです」
「な、なな!───は、はぁ!?」
慌てた様子で月村さんが取り乱した。
「あ、ありえない!絶対に無理です!終わったユニットを再結成だなんて……。無理に決まってます」
「俺は再結成できると思ってますよ。それに、月村手毬が最高のパフォーマンスを発揮するためにお二人は必要不可欠な存在です」
「そんなはずありません!あいつらはいつも私の邪魔ばかりして!気持ちよく歌えませんでした……!凄く目障りだったんです!美鈴に至っては理由を付けて練習をサボってばかりで、燐羽も……。───誰一人、私と一緒に走ってくれなかった!着いてきてくれなかったんです!」
月村さんは続くように語り続けた。
徐々に彼女が抱いてた思いが顕になってきたな。
「ユニット活動するにあたって大切なことはなんだと思いますか?」
「そんな話どうでもいいです!私はもうユニットは絶対に組まないと決めてるんです!」
「……話が戻りますが、ユニットを組まない理由は月村さんに着いてこれる人がいないからですか?」
「そうです!」
即答で月村さんは答える。
だが、そうではないと俺は思ったから踏み込む。
「出過ぎた発言であることは自覚してますが───……足を引っ張っていたあなたがそんなこと言うんですね」
「──────ッ!!!!」
「本当は二人に追いつけない自分が嫌になって解散を切り出したのでは?」
月村手毬は賀陽燐羽、秦谷美鈴の2人に支えられて本領を発揮できていた。
2人はフォローに徹して本来のパフォーマンスを中等部時代は発揮できていない。
月村手毬はそんな2人に嫌気をさしてたが、2人の実力は本物で高い評価をしていたはずだ。
故に走らない2人を自分が引っ張る。もとい、押し上げる形で『SyngUp!』をまとめようと奮闘した。
否、まとめるというより中等部ナンバーワンユニットなのだから更に高い場所へ一緒に行きたかったのだろう。
だが───現実は残酷だ。
月村手毬はがむしゃらに必死に努力した。
にも関わらず手を抜いてる2人に追いつけない。
ずっと背中を見続けることになった。
「本ッ───当に性格悪い……!どうしてそんな人の心に踏み込むようなこと平気で言えるんですかっ!!」
「そうですね。月村さんの言う通り俺は性格が悪いかもですね。ですけど、俺が言ってることは事実なのでは?」
「ッ!うるさいなぁ!白状すればいいんでしょ……!!」
月村さんは涙目になりながら自身が今まで一人で抱えていた思いを語り出した。
「そうですよ……!私が二人の足を引っ張ってました……!───ずっと申し訳なかったんです!私よりも凄い二人が私のレベルに合わせて!パフォーマンスの質を下げて!……仲間の好意に耐えられなかったんです───ッ!」
月村さんは語りながら大粒の涙目を零す。
一度出た涙は止まらずに語り終わったあとも溢れていた。
「燐羽も!美鈴も!───何より私自身を許せなかった!大っ嫌いになった!もう……ユニットから抜けるしか、なかったんです……!」
下を向きながら彼女は弱々しく語り切った。
「それがあなたが抱いていた本当の思いなんですね」
「───えぇ?」
その言葉を聞いた月村さんは顔を上げた。
「あなたの本心を聞きたくてあえて踏み込み、出過ぎた発言しました。申し訳なかったです。───ですが、あなたの思い、ちゃんと伝わりました」
困惑する様子で月村さんはあたふたする。
そんな彼女の手を取り言葉を送った。
「え、えぇ?」
「ずっと一人で抱えてて辛かったと察します。一人で暗闇の中、答えのない自問自答を繰り返し、それでも逃げずに走り続けた月村さんを尊敬します。───頑張りましたね」
「──────ッッッ!!!!」
月村さんが身体をビクリと震わせ反応した。
次の瞬間、先程とは違って無言のまま大粒の涙が滝のように彼女の頬を流れていた。
「なんで……なんでそんな優しい言葉を言うんですか……?」
「頑張った人には頑張ったねと労うのが普通かと。───それに俺はあなたのプロデューサーになると決めましたから褒めるのは当然ですよ」
そう言うと月村さんは再び下を向いてしまった。
「月村さん、『SyngUp!』が解散した原因は何もあなただけではありません。中等部の多感な時期で、中等部ナンバーワンユニットと言う重圧や、周囲からの期待など、外部要因も絡んでます」
俺は一息置いて続きを語った。
「そんな時期に『SyngUp!』をまとめるプロデューサー、もとい大人の存在がなかったことが原因だと俺は思ってます」
そうに決まってる。
『SyngUp!』を支える大人がいれば彼女達が解散の道を歩むことはなかったはずだ。
それに───月村さんの自責の念を取っ払うためにも、外部要因があったという言葉は気が晴れるに違いない。
「……違います。私のせいです。私が、下手だから……。下手くで、甘えん坊で、その癖に生意気で、プライドだけは高くて、そんな自分が2人の足を引っ張って───!」
「月村さん」
自責の念に駆られる月村さんを止めるべく彼女の発言を遮った。
「それは
「───
月村さんの言うことを否定はしない。
自身が抱いていた思いだ、それを他人の俺が否定する権利はない。
ただ、それは過ぎた話だ。
俺が話したいのはこの先の話だ。
「月村さんがそう思ってしまうのは過去に囚われているからです。これからは未来のことを考えましょう」
「……『SyngUp!』が再結成した時のこと、ですか?」
「そうです。今のあなたでは再結成しても同じ思いを抱くだけです」
「……だったら無理じゃないですか。月村手毬は結局、誰かに頼らないと生きていけない。そんな情けないヤツだって思い知らされて、ますます自分を嫌いになっちゃいますよ……。」
弱々しく彼女は告げた。
「ですので二人に証明しましょう」
俺は月村さんの手を離し、一息置いて言葉を発した。
「二人よりもあなたの方が実力が上だと。───今度こそ、あなたが二人の上に立って引っ張りましょう」
「───ッ!私が……燐羽と美鈴よりも実力が上だと証明……?」
「はい。あなたの秘めたポテンシャルを開花させれば二人には勝てるはずです。───なりましょう。二人を越えたトップアイドルに……。新しく生まれ変わった月村手毬を見せつけましょう」
月村さんは二人より劣っていると自覚している。
自覚故の怠惰な行動やフォローが気に入らなかった。
ならばそんな二人よりも上になればそんな思いはどこかへ飛んでいくだろう。
なんなら、対等になれたと思えば、フォローなどはそう言うフォーメンションなんだと割り切って邪魔だとか嫌気が指すことも無くなるはずだ。
「俺は月村手毬をユニットアイドルとして勧誘しました。ですが、ユニットアイドルだから
プロのユニットアイドルでもソロ活動をしているアイドルなんて沢山いる。
「ソロ、ユニット、それぞれの形で遜色ない実力を発揮できる。───そんな完璧なアイドルを月村手毬の新しいアイドル像とするのはいかがでしょうか?」
「ソロとユニット、両方……です、か?」
「はい。ソロの持ち歌を何曲も持って、ユニットでも持ち歌を持って。───手始めに『HIF』で賀陽燐羽と秦谷美鈴をソロ部門で下して、あなたが上だと証明しましょう」
言い切った俺の目を見ながら月村さんが硬直していた。
何かおかしな発言でもあっただろうか。
「……不思議な方です。こんな自分を卑下することしか取り柄のない私にここまで言うなんて」
「そんなことありませんよ。言い換えれば自分の弱点を理解している聡明な方ですよ」
「弱点だけですよ」
涙袋に溜まった涙を指で拭いながら月村さんは答えた。
「月村さん、あと一つだけ言いたいことがあります」
「……なんですか?」
「話そうとしたユニット活動するにあたって大切なことです」
「……聞かせてください」
月村さんは腕を組み目をつぶりながら答えた。
「大切なのは『同じ
秦谷さんと話して、賀陽さんは約束を守る義理堅い人だと知った。
仮に『SyngUp!』の目標が『HIF』で優勝するという話であれば、賀陽さんが中等部時代、『HIF』で優勝してないのに月村さんの解散に賛同するとは思えない。
今朝話した通り、月村さんに思う部分はあったと思うが、それは賀陽さんの中できっと『中等部ナンバーワン』というのが
「再結成する前に
そうだ。
月村手毬は走ってもいい。
秦谷美鈴は歩いてもいい。
賀陽燐羽は自身の美学に徹していい。
「あなた達はそれぞれお互いの思うがままの足並みで
「!全力で走ってもいいんですか……?頑張っていいんですか……?」
「はい、頑張って構いません。ただ『頑張る』の方向性は見直しましょう。───がむしゃらにではなく『効率性』を重視した新しい頑張り方でギリギリまで無理して頑張ってください」
賀陽さんであれば『効率性』を重視する。
秦谷さんであれば無茶をする月村さんを抑制するだろうが、そこに関しては俺から秦谷さんに月村さんはそうゆう方なんだと説得するしかない。
それは月村さんにも言えることで、秦谷さんのマイペースの部分を彼女に受け入れてもらう必要がある。
話が戻るがそれでいいんだ。
何故なら辿り着く
「『効率性』を重視した頑張り……。昔、燐羽から効率的にやりなよって言われたことを思い出しました。───今更ですけど……。そっか、燐羽は『効率性』を重視してたんだぁ」
過去を振り返るように遠くを見ながら月村さんはポツリと言葉を漏らす。
「でも頑張ってもいいって言われたのは初めてです」
「ギリギリまでですからね。死ぬまでではないので勘違いしないように」
「……別にそこまで馬鹿じゃないんですけど」
ムスッとしながら月村さんはそう言う。
馬鹿ではないけどストイックで無茶をするのは事実だろとは言いにくかった。
「プロデューサー、話を戻しますけど、さっきの発言に一つだけ誤りがあったので訂正させてください」
「はい?」
月村さんは椅子から立ち上がった。
そして指を俺に向かって突き刺した。
「3人で同じ
思いもしなかった発言に硬直した。
「あなたも
なんだこいつ。
さっきまであんなに弱々しくしてたくせに……。
───でも
「ようやく普段のあなたに戻りましたね」
「!う、うるさいです。───それと!私!別に泣いてませんから!た、たまたま目に大きなゴミが入って、痒くて涙腺が刺激されただけですから!」
泣いてたなんて言いふらさないでくださいね!
と大きな声で子供が嘘を隠すように言っていた。
「……一度だけ正直に言います」
月村さんは椅子に座り直してそっぽを向きながらそう言って語り出した。
「本当はもう参っちゃうぐらい、ぐちゃぐちゃな感情を抱いて毎日過ごしてました。───『SyngUp!』が解散して、美鈴とも相部屋じゃなくなって、食事に逃げて、食べすぎて、太ったりもして……。そんな自分が情けなくて、大っ嫌いでした」
月村さんは引き続き外を見ながら語ってくれた。
「後者の方は昔からそうなんです。小さい頃からずっと───だから、私は私が自分を好きになるためにアイドルになったんです」
外から視線を外して俺の目を見て彼女は告げた。
「プロデューサーは言ってたよね?ソロとユニット、両方とも遜色ないレベルで実力を発揮できるアイドルにならないかって。───いいよ、なってあげます」
相変わずの上からの発言だった。
だけど、彼女自身が俺の意見を受け入れ、それを実現させると言ってくれたんだ。良しとしよう。
「月村手毬にソロアイドルは難しいかもしれません。ですが、ソロ活動であればユニットアイドルとして並行して活動可能です。───なにより、ライブで披露する時、休憩も挟めて体力が尽きる心配もありませんから」
ユニットライブをするからと言って必ずも全曲ユニット曲を披露しないといけないことはない。
月村さん、秦谷さん、賀陽さん、それぞれがソロでの楽曲を披露するセトリにすれば、お互いのソロ活動は実現出来る。
なにより、これからできるだろうファン達も彼女達がソロでそれぞれの持ち歌を披露してくれるとなれば、泣いて喜ぶはずだ。
俺が彼女達のファンであればそうなると嬉しいからな。
「むっ、言っておきますけど体力は普通にありますから。───ただ、ペース配分が苦手というか、なんというか」
「ええ、存じてます。月村さんは集中が高まると後先考えずに全力でパフォーマンスを披露する。それは実力以上の力を発揮して、尚更体力を消耗してしまう。あなたの欠点ですね」
「真正面から正論を言われるとムカつきますね」
「欠点であって才能でもありますよ。───この才能をものにした時、あなたはトップアイドルになれると確信してます」
才能なのだから克服する必要はない。
特殊な才能なのは認めるが、月村さんに伝えた通り、この才能が開花すれば彼女は間違いなく、初星にも名を刻み、アイドル業界をも轟かすトップアイドルになるに違いない。
いや───俺がそうさせてみせる。
「それに対してユニット適正は抜群です。月村手毬は支えがあれば全力で歌える。組む相手を厳選する必要はありますが……。秦谷美鈴と賀陽燐羽の二人であればあなたを更なる高みへと導くことでしょう」
「一度解散したメンバーなのによく強気で言えますね。何か根拠でもあるんですか?」
「根拠なんて中等部の実績だけで十分かと。それに、邪魔されてない時の月村手毬のパフォーマンスは魅力的でした。正直言って好きですね」
「そ、そうゆう恥ずかしいことスラッと言うのなんなんですか!?しかも無表情で!き、気持ち悪いんですけど……!」
月村さんは顔を青ざめて引く様子を見せながら答えた。
そんな気持ち悪いこと言ってるかな。
「俺がキモイのは置いといて。───3人がお互いを尊重して、完璧な連携が取れた時に『SyngUp!』は完成する。俺はそんなあなた達をプロデュースしたいと思ったんです」
「プロデューサーのエゴ剥き出しの理由じゃないですか。───まあ、あの二人以外に私と組める人はいないとは思いますけど」
そう応える限り、やはり二人に対する感情は他の人達とは違うものなんだと思い知らされる。
「改めてとなりますが、俺のプロデュースの勧誘を了承していただける。という認識でお間違いないでしょうか?」
返答は分かりきってるがあえて問い直した。
「いいですよ。『SyngUp!』のプロデュース権利をあげます。足を引っ張ったら───」
ふっと笑って月村さんは再び口を開いた。
「───殺すから」
前回の時とは違う。
今回は微笑みながらそう言った。
「ありがとうございます。殺されないように善処します」
その場で一礼して感謝の言葉を月村さんに送った。
殺されないように、足を引っ張らないよう気をつけなければ。
「それで?『SyngUp!』を再結成させるという馬鹿げたことを考えるプロデューサーのことです。再結成させるために、次は何をするのか決めてるんですよね?」
「とりあえず秦谷さんと仲直りしてください」
「ぐっ!ま、まあそうなりますよね……。」
「まあまあ、お待ちくださいな」
俺は立ち上がって事務所のドアへ向かった。
ドアを開けて廊下の様子を伺う。
「───……やはり来てましたか」
「まあ、バレてしまいました」
事務所の前で秦谷さんが立ち聞きしていた。
「
「伝わってたようで何よりです。───中には月村さんがいます。早く仲直りしてきてください」
俺は事務所から出て秦谷さんへ中に入るように伝える。
「プロデューサーは見届けないのですか?」
「思いのほか早く終わったので、補習授業を受けてる佑芽さんの元へ向かいます。お二人が仲直りするにあたって俺は必要不可欠な訳でもありませんから」
「まあ、完全にわたし達に投げやり状態ですね」
「その方がいいかと。今の月村さんなら自分の意見とあなたの言葉も聞き入れると思いますよ」
そう答えながら俺は補習授業が行われているレッスン室へ向けて歩き出す。
「あ、秦谷さん、あなたも俺の担当アイドルになるというのなら事務所を自由に使って構いません。───もし、退室される場合はこちらで鍵をかけて下さい」
俺はポケットから事務所の合鍵を取り出して秦谷さんに渡す。
「まあ、よろしいのですか?」
「言いましたが俺の担当アイドルになるのなら、です。───正式な勧誘は後ほどいたします。今は月村さんとの仲直りを優先してください」
「ふふ、かしこまりました。───まりちゃんと二人でプロデューサーの帰りを事務所で待ってます」
色々諸事情があって事務所から離れたくはない。
だけど彼女達二人がいるのならそれはそれでいい。
「では……行ってきます」
秦谷さんはそう言って事務所のドアを開く。
「美鈴ッ───!?」
「───まりちゃん、少しお話しましせんか?」
「!……いいよ。私も話したいことあったから」
少しだけ二人の話を廊下から聞いていた。
「─────────あのね」
月村さんが語り出したところで俺はその場を去ったのであった。
答えてもいいよ?月村手毬の質問コーナー!
Q.有翔くんと初めて会った時の印象を教えてください
A.目が死んでる人。いきなり酷いことを言ってきて性格悪いなと思いました。普通に考えて初対面の人にあんなこといいますか?人が一番気にしていることをずかずかと。───まあ過ぎたことはいいです。なんでも言うことを聞く権利が手に入ったのでチャラにします。
Q.回答長すぎませんか?次はもっと短く答えてください
A.は?質問したのはそちらでは?そもそも文字数制限とか言われてないんですけど?それに───
Q.以上です。ありがとうございました
A.ちょっ───ッ!
今回、なんと脅威の14,000文字オーバー…どうりで執筆なげーと思ったわけだ。
でも伝えたいことはほとんど書けた気がします。
次回は短めにしようかな。
え?香名江さん実装決定…?まじですか…!
ていうか燐羽様はいつ実装されるの!?難しいってわかってるけど実装して!
お願い!切実な思いなんです(´;ω;`)
※投稿日(2026/11/8)
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それではまた次回お会いしましょう~