死んだ目をしたプロデューサー 作:勇気に満ちし者
ガハマスさん、連続体さん、評価ありがとうございます!!
前回の前書きで感謝の言葉を伝えることを失念しておりました。
残り3名の方から評価をいただけるとバーに色が付きます!
面白いと思ったら評価のほどよろしくお願いいたします!
それでは本編どうぞ!
あれから数日が経過して金曜日となっていた。
佑芽さんと出会った月曜日から内容が濃ゆい日が続き、あっという間に平日を終えようとしていた。
まずは佑芽さんとプロデュース計画を話した次の日、いきなり佑芽さんから生徒会に入ることになったと報告が入った。
『一番星』であり、初星学園高等部、生徒会会長である、十王星南からの直々のお誘いとのこと。
初星学園での生徒会執行部は選挙制ではなく、上級生役員による指名制で役員を選出している。
それはいいが、この生徒会執行部というのは名ばかりの実質、十王星南が見定めたアイドルを育成する擬似的なプロダクションとして運営している。
学園長が身内だからこそ許される横暴…とは言ったものの、色々と制限が課せられているらしい。
例えば十王星南が見定めたアイドルに担当Pが着いてる場合、問答無用でプロデュース権は担当Pに譲ると言うやつがある。
お陰で佑芽さんを十王星南に奪われることを防げた。ありがとう学園長。
ちなみに俺がこんなに詳しいのは、十王星南から直接話を聞いたからだ。
あれはプロデュース科の講義を終え、御手洗から講義室へ戻った時だ───。
「失礼します。圷 有翔さんはいらっしゃいますか?」
講義室の出入口へ到着するのと同時に室内からそう声が聞こえた。
いきなり現れた『一番星』にプロデューサー科の学生は息を飲む。しかも、呼び出した学生が圷 有翔ということもあり、一同が首を傾げる。
いきなり現れ、俺の名を呼んでたものだから俺は背後から声をかけた。
「圷 有翔は俺です。何か御用でしょうか?」
「!?」
背後から話しかけられると思ってなかった十王星南はビクリと身体を震わせて振り返った。
「……初めまして。初星学園高等部、生徒会執行部会長、十王星南です。───あなたが、佑芽のプロデューサー、圷 有翔さんですか?」
「ええ、佑芽さんというのが花海佑芽さんなのであれば、担当Pは俺になります」
初コンタクトはこんな感じで彼女から接触してきた形となった。
それからは場所を俺達の事務所へと移して、佑芽さんのプロデューサーになった理由やら今後のプロデュース計画やあれやこれやと数時間ほど口論となった。
その際に生徒会執行部について色々と伺ったという訳だ。
それが翌日の話であり、次は翌々日の話だ。
俺はお昼休憩時、1年1組の教室へと向かった。
入室と同時に咲季さんを呼ぶ。昼食を食べ終え午後の授業の予習をしてた咲季さんは嫌な顔せずに俺の元へとやってきた。
俺は咲季さんに佑芽さんのプロデュース計画書を渡したのだ。
「……教えないんじゃなかったの?」
「そのつもりでした。ですが、思ったんですよ」
「思ったってなによ」
「普通に大人気ないなって。───あと、佑芽さんにとって咲季さんは姉でもり、彼女が成長するためのかけがえのないパートナーだなと思い知らされましてね」
花海家に訪れた際、ご両親から佑芽さんと咲季さんの話を聞き、幼い頃からご両親が多忙で咲季さんが佑芽さんの面倒を見ていたこと。
アスリート時代、佑芽さんの身体のケアなど、あまたのサポートをしてた、言わば優秀なサポーターと言って過言では無い存在。
寮も同室ということで、これからもライバルでありながらサポートを行っていただける立場である以上、プロデュース計画は伝えるべきだと判断した。
「ふーん、融通の聞かないいけ好かないやつと思ってたけど話せばわかるやつだったのね!」
「普通に言い過ぎなのでは?」
ドストレートに抱いてた俺の印象を語った咲季さんに対して冷静に突っ込む。
「でも見直した。佑芽のプロデュース計画、確認させてもらうわ!───って、これうちのフォーマットじゃない!」
佑芽さんから言及されなかったが、咲季さんから言及された。ご両親からこれを使うようにとご要望が入ったので応えただけですよーと応えて終えた。
何か意見があれば連絡をくれと伝え、咲季さんと連絡先を交換した。これで一年のフロアに足を運ぶ必要がなくなり、目立つことも無くなって一安心だ。
そして現在───。
「佑芽さん、少し休憩しましょう」
「ふぅ───。はいっ!」
佑芽さんは俺の声を聞き、一息ついたあと、元気よく返事をして近寄ってくる。
「こちらをどうぞ」
お水を渡すと佑芽さんは受け取り、ごくごくと飲み込んで喉を潤ませる。
「ダンスレッスンの調子はどうですか?」
「ものすごーっく大変です!だけど、成長している感をビシバシ感じますっ!」
「それは何よりです」
俺が佑芽さんに提示したダンスレッスン方法、それは徹底した分析によるロジックに元ずいた稽古だ。
「先程の練習風景を撮影しました。一緒に振り返りましょうか」
「はい!お願いします!」
タブレットを床に置いて撮影した佑芽さんの練習風景を再生する。
「この部分。腕の伸びがイマイチですね。───腕を伸ばす、というより指先までエネルギーを流すイメージで指を突き出して見てください」
「指先までエネルギーを流して突き出す。───こうですか!」
佑芽さんはその場で説明した仕草をして見せた。
「それは貫手です。殺意を消してください」
キルアみたい貫手をしないで欲しい。
心臓を突かれるかと思ってヒヤヒヤしたぞ。
「佑芽さん、感覚でいいんです。動き自体は間違ってないので、あとは表現力の問題です。柔らかく、朗らかに、赤子に手を伸ばすイメージで踊ってみてください」
「赤子に手を伸ばす…。確かにさっきのだと赤ちゃんが怪我してしまいますねっ!もっと優しく───!」
佑芽さん流れるようにゆっくりとその場で動く。
「そう、それが理想の振り付けです」
「おー!やっぱりプロデューサーさんの教え方はわかりやすくていいです!またひとつ成長できました!」
佑芽さんはガッツポーズを取りながら言った。
そう言っていただけると凄く嬉しく思う。
「ありがとうございます。次は……ここのターンですね。こちらは以前もトレーナーがおっしゃってた通り、力任せで回るのでなく、軸を意識してください」
「んー軸を意識って言われてもよくわからないんですよねー」
頭を掻きながら佑芽さんはそう言う。
「そうですね。───時に佑芽さん、てるてる坊主はご存知ですか?」
「もちろん知ってます!幼い頃、遠足の前日にはお姉ちゃんと一緒に作ってました!お姉ちゃんはそんなの意味無いって言ってましたけど、えへへ」
ロジックに基づいた否定は咲季さんらしいな。
ってそこに感心している場合じゃない。
「てるてる坊主は吊るしますよね?その時、てるてる坊主のどの部分に糸を付けますか?」
「頭です!」
「頭のどこですか?」
「頭の真ん中です!でないとまっすぐ吊り下がらない───って!あぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
何かに気付いた佑芽さんは叫んだ。
隣にいたもんだからダイレクトで鼓膜が揺れた。
「頭の中心に糸をつけないとまっすぐ吊り下がらない!じゃないと軸がズレるから!」
「さすが佑芽さん、よく気付きました。そうです。自身の頭の真ん中から天井に糸で引っ張られているつもりで踊ってみてください」
佑芽さんは天才だ。それは圧倒的な才能だが、それを上手く扱うためのロジックが足りていない。
その部分を俺が補えば佑芽さんは爆発的な成長を遂げる。
ロジックで物事を考え、実行して成果を上げる天才に近い存在を俺は秀才だと思ってる。咲季さんをイメージしていただければわかりやすいと思ってくれ。
天才は直感タイプだと言われるが実際そうである。そこに秀才が身につけるロジック思考を合わされば───あとは言うまい。超人の完成だ。
「で、でも!頭の中心がわかりません!」
「頭の中心、ですか。───佑芽さん、こっちに来てください」
「?はい」
佑芽さんはトコトコとこっちに近づく
「失礼します。てい」
「ッッッッ!!!!」
俺は佑芽さんのアホ毛部分、もとい百会を強く押す。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!」
佑芽さんの断末魔がレッスン室に響く。
なんか誤解されそうだからその叫び方は勘弁して欲しい。
「いきなり触れて申し訳ないです。ただ、感覚派の佑芽さんには、こうして頭上の中心部分を教えた方が良いかと」
「確かにジンジンして何処が中心なのかわかりましたけど!い、いきなり触られと驚きます!ぷ、プロデューサーさんじゃなかったら怒ってますからねっ!?」
「それは……申し訳なかったです。以後気を付けます」
確かにいきなり女性の身体に触れるのは良くなかった。
コンプライアンスにおいてはあさり先生から厳しく指導されてたというのに…申し訳ない。
「お詫びになんでも言うことを聞きます」
「……プロデューサーさんは、そういえばあたしがなんでも許してくれると思ってません?」
「そのようなことはありません。俺ができるのはこのぐらいですからね」
「ふーん、わかりました。じゃあプロデューサーさんも頭を出してください」
「?はい」
佑芽さんに会釈するみたいに頭を下げた。
「ていっ!」
「ッッッ〜!!!」
佑芽さんは俺に仕返しと言わんばかりに百会を強く押す。生まれながらの超パワーで強く押された俺はその場で頭を抑えて悶絶する。
「わっはははっ!これでおあいこですよプロデューサーさん!」
「い、痛えぇ───!」
丁寧語で話すことすら忘れてしまう痛さ。
やばい、普通に涙が出そうだ。いや、若干出てる。
「!?ぷ、プロデューサーさん?な、泣いてるんですかっ!?」
「……泣いてません」
「ぷ、プロデューサーさんの目が生き返ってる…?」
涙目になった俺の目を見ながら佑芽さんは驚く。
泣目になった俺を見て思うことがそれってどうゆうことだよ。
「……………………………………………………」
佑芽さんは無言で俺の目を見てくるが、その目がなんと言うか、高揚した感じで少し怖かった。
「とにかく、これで頭の中心部分はわかったと思います。先程話した内容を意識しながらもう1セット踊って今日は終わりましょう」
「!はいっ!」
正気に戻った佑芽さんはいつも通り元気よく応えて鏡の前へ移動した。
「指先にエネルギー、赤子に手を伸ばす。頭の上、天井から糸、中心部分───!!」
ピコーンとアホ毛が普段よりも元気よく立つ。
それから同じダンスを踊るも先程とダンチで違った。やわからい指先、ズレてた軸は糸を意識したことで改善され、伝えたことを一瞬にしてこなしてみせた。
「(これで物覚え悪いかのか?)」
普通に物覚えいい方だと思ったが、そう伝えると調子に乗る可能性があるから伝えるのは今度にしようか。
もしかすると俺の教え方が上手いってのもあるかもしれない。
「プロデューサーさん!どうでしたか!」
「はい。先程と見違えるほど改善されました」
「ッ〜!ありがとうございます!ここ最近で一番上手く踊れた自信があります!プロデューサーさんのおかげですっ!」
「それは嬉しい限りです。この感覚を忘れずに今後も練習に励みましょう」
「はいっ!!」
元気な返事を最後に今日のレッスンは終わりを迎えた。今週はダンスレッスンが中心だったから来週はボーカルレッスンを多めにスケジュールを調整するとしよう。
「佑芽さん、レッスン室の鍵はこちらで返却しておきます。予報ではこれから雨が降るとの事なので早めに寮へご帰宅ください」
「そうなんですかっ!?傘持ってきてないので降る前に帰ります!教えてくれてありがとうございます!」
「どういたしまして。日曜はお昼頃に寮内のラウンジに来てください。準備しておきますから」
「わー!そういえばもう明後日でしたね!プロデューサーさんの手料理頼みしにしておきまーす!」
「ええ、精一杯、振る舞いますのでお楽しみに」
「はいっ!では今日もレッスンありがとうございました!失礼しますっ!」
佑芽さんはレッスン室を勢いよく出ていく。
空の様子を見るが今からでも降り出しそうな程、分厚い雨雲が空を覆っていた。
「(俺も早いところ帰るか)」
事務所で仕事をしようと思ったが自宅でやった方が良さそうだ。
レッスン室の清掃をして退室する。
鍵をかけてポケットに収め、鍵を管理しているプロデューサー科の教員室へと向かう。
「失礼します」
ドアをノックして入室する。
「!圷くん、お疲れ様です♪」
俺に気付いたあさり先生が声をかけてきた。
「お疲れ様です。あさり先生は残業ですか?」
「あはは、お察しの通りです」
デスクの端にたんまり溜まったプリント。
見た感じ小テストの様子だから採点で残ってるって感じか。
「圷くんは鍵の返却ですか?」
「ええ、お察しの通りです」
あさり先生と同じ返事をしながら鍵の保管場所へ向かって鍵を収める。
「?あさり先生、レッスン室の鍵、あとひとつ未返却みたいですね」
「そうですか?圷くん以外のプロデューサー科の学生はみなさん鍵を返却してます。生徒さんの返却漏れですかね」
「使用時間過ぎてますねー」
プロデューサー科の学生であれば遅くまでレッスン室の使用は可能だ。
レッスン塔の施錠を行う管理カードがあるから、多少遅れても問題はない。
だがアイドル科の高等部の生徒となると話しは変わってくる。施錠カードはないし、使用可能時間は決まっている。
「思い返せば他にも明かりが付いてたような…?」
レッスン塔を出る際に明かりが付いてたような気がした俺はぽつりと言葉を漏らす。
「でしたら時間を忘れてレッスンに集中している生徒さんがいるかもですね。───圷くん、様子を見てきてくれませんか?」
「……他ならないあさり先生の頼みとあれば断れないですね。わかりました」
「ありがとうございます♪」
あさり先生の仕事が少しでも減るのであれば良しとするか。
教員室を出て空の様子を確認する。
雨は降り始めてて土砂降り状態、ロッカーに傘を取りに行き、レッスン塔へと向かう。
遠くから見てわかるが一室だけ明かりが灯ってる。
やはり時間を忘れてレッスンに没頭している生徒がいる様子だ。
レッスン塔へ入り、明かりがついてるレッスン室へ向かう。
扉の中央部分がガラスとなっているため、開けずとも中の様子を見ることができる。
「(……彼女は───。)」
レッスン室でダンスレッスンを黙々とひとりでこなしていた生徒は見覚えのある生徒だった。
「(月村手毬さん、でしたか)」
数日前、咲季さんと話してる時に現れた生徒であり、一言二言話をしたことがある方だ。
暫し様子を眺めたがダンスレッスンを終える気がしない。
「(とゆうかストイック過ぎないか?)」
レッスンにしては力が込められすぎてる。
あんな無茶な練習をトレーナーやプロデューサーなしで長時間続けるとなれば、体力はもたないし、下手したら怪我する可能性もある。
「ッ!」
月村さんがふらつきその場で尻餅を着く。
「(思った通りだな)」
俺はドアを開けて月村さんに近付く。
「月村さん、大丈夫ですか?」
「ぎゃっ!?」
月村さんは俺の声に驚き悲鳴をあげた。
「驚かせてすみません。レッスン室の使用時間をすぎてる生徒がいるらしく見回りに来た次第です。───立てますか?」
「ひ、ひとりで立てます!」
顔を赤め威嚇するような言い方をしながら月村さんは立ち上がる。
「月村さん、レッスン室の使用時間を超過してます。練習を切り上げてご帰宅ください」
俺は淡々と話す。
尻もちを付いてたことに関しては触れると面倒だからあえて触れないことにした。
「……すみません。レッスンに集中してて気付きませんでした」
「……そうですか」
なんかクールぶってるな。
さっき尻もち付いてたくせによくぶれるな。
「確か、咲季の妹のプロデューサーですよね。なんでそんな人が見回りを?」
「プロデューサー科の教員が多忙らしく代わりに俺が見に来た次第です。他意はないですよ」
変なことを思われたくないから他意はないと伝える。
「周囲も暗くなってます。雨も降ってて視界も悪いので早めにご帰宅を。この際、レッスン室の清掃は俺が引き受けますよ」
「え?嘘…。外、真っ暗、だ───」
外の様子を見た月村さんは息を飲む仕草をする。
この子、暗いのが苦手な感じか?
「暗いところは苦手ですか?」
「は?そんなわけないじゃないですか。馬鹿にしないでくれます?」
「───あ、はい」
「子供じゃないんですからこのぐらい───!」
月村さんが何やら語っている最中。
ゴロロロロ
雷雲が轟音を鳴らした。
「ひっ!雷!燐羽!止めて───!」
月村さんは頭を抑えその場で蹲る。
燐羽、と名前を呼んでは雷を止めるよう頼み込む。
「───はっ!」
月村さんは上から見下ろす俺の顔を見た瞬間に正気を取り戻す。
ゆっくりと立ち上がり腕を組んでふっ、と笑ってみせた。
「別に怖くありませんけど?」
「……月村さん、さすがに無理があります」
あんな醜態を晒してよく強気に出れたもんだ。
寧ろ感心してしまう域に達している。
燐羽、とは賀陽燐羽さんのことだろうか。
元『SyngUp!』のリーダーにして、1年3組に所属している生徒だったか。3組に所属しているが、唯一特例でアイドル活動を行ってない、十王龍正社長のお気に入りという話がある。
とゆうか、元『SyngUp!』のリーダーである賀陽燐羽さんでさえ、いくらなんでも雷を止めることはできないだろうに…頼るってことは長年頼り続けた癖というのが抜けてないって証拠か。
「怖くないのであればひとりで帰れますよね?」
「か、帰れますけど…。ふっ、女性を夜道にひとりで帰らせるのはプロデューサーとしてどうなんですか?」
「あなたのプロデューサーになった覚えはありません。夜道と言っても学生寮は目先です。───周囲には警備員もいますし恐れる必要はありません。快くおひとりでご帰宅できます」
「ッ───!ぐっ!ぐぎぎぎィ!」
月村さんが何かいいだけでこっちを睨む。
クール系の徹底はどうしたんだろうか。台無しですよ。
「……言いたいこと、わかりませんか?」
「わかりませんね。思いや考えというのは言葉にしないと伝わらないものです。それに───」
「???」
「───しっかりと話し合わず、自分の意見だけ押し付けた結果が『SyngUp!』解散を招いた原因なのでは?」
「──────えぇ?」
しまった。
言うつもりは微塵もなかった。
『SyngUp!』について公表されている情報は知っている。
別に意識して調べたとかそうゆう訳ではない。
が、一方的に月村手毬が意見を言い続け、内部崩壊を招いたという結果は知ってて───。
「すみません、出過ぎた発言でした。忘れてください……は無責任すぎますね」
「……いえ、事実なので否定はしません」
「申し訳ないです」
俺は謝ることしかできなかった。
自分で担当プロデューサーではないと言ったくせに偉そうに語ってしまった。
「なんですか?言い過ぎて罪悪感抱いてるんですか?」
「いえ、まあ、そうですね」
「だったら学生寮まで送ってください。別に怖くはないですけど、傘を忘れ…てはなくて、傘をさすのが面倒なので代わりにさしてください。それで許します」
「わかりました。それで許していただけるのであればお供します」
こんなことで許されるとは思えないが、月村さんがそれでいいと言うのならここは甘えよう。
「私、これから更衣室で着替えるので連れてってください」
「……更衣室、ですか?同じ棟内なので連れて行かなくても───」
「連れて行ってくれますよね?」
「───はい、喜んで」
彼女のペースになってしまった。
今後、彼女の要求には全て応えないといけない流れになった。
とゆうかやっぱり暗いのが苦手なんだな。
月村さんがレッスン室を出るのと同時に廊下の電気を付けてきてくださいと言われ、操作パネルの元へ向かって電気を付けてあげる。
「わ、私が声をかけたら返事してください」
「わかりました」
「絶対ですよ!絶対ですから!」
「わかりました」
「全く、その目、本当に何考えてんのかわかんないんだけど」
ブツブツ文句をいいながら月村さんは更衣室へと入っていく。
俺は更衣室とは反対側の壁に背を預け、月村さんが戻ってくるのを待つ。
「……………………………………………………」
先程の発言、あれは出過ぎ発言であった。
月村さんが、案外話せれるタイプだったからつい踏み込んだ発言をしてしまった。
本当に反省しなければならない、思ったことを言ってしまう俺の悪い癖がここに来て迷惑をかけた。
胸ポケットから携帯を取り出し『SyngUp!』について調べる。
思えば『SyngUp!』について何か調べるのは今回が初めてだ。調べずとも情報が入ってくるほど、彼女達は有名であり、レベルの高いアイドルと認知していた。
反面、悪評も耳にはしてたが…。
「……ライブ映像、か」
俺は月村さんが戻るまで『SyngUp!』のライブ映像を見ることにした。
「(なるほど。月村手毬のワンマンユニットと言われても過言では無いな)」
アクセル全開でパフォーマンスを披露する月村手毬が目立つのが第一印象だった。
そんな彼女をセーブするべく、賀陽燐羽と秦谷美鈴がアドリブや意図した妨害、もといサポートを行うことで成り立っていたのだろう。
その行為に嫌気がさした月村手毬が解散を切り出したって流れか。
「(……ん?)」
その後、SNSでは月村手毬が原因で『SyngUp!』が解散されたと、当時の口論の様子が拡散されて炎上。
しかし、賀陽燐羽が月村手毬を叩くアンチに向かって過激な発言を繰り返した結果、矛先は賀陽燐羽へと移り、月村手毬の炎は下火になったと。
「あの、いますか!」
「!」
更衣室から声が聞こえた。
「はい、聞こえてます」
「……は!?なに聞いてるんですか!」
理不尽にも程がありますて歌姫様。
月村手毬、中等部から抜群のセンスを披露し続け歌姫と呼ばれていた。
一回生の時、彼女の歌を聴いたことがあるが、確かに洗礼された美しい歌声であり、歌姫と呼ばれるに相応しいアイドルであった。
「(あの危ういレッスン)」
『SyngUp!』が解散した今、彼女はひとりでレッスンをしている。
担当Pも恐らく悪評のせいでつくことは難しいだろう。
「(だからあの時…。)」
1組で月村さんと話した時、俺が月村さんのことを知ってると答えた時、ムスッとした反応をしたのか。
「(自分のことを知ってる人がプロデューサーになりたがらない)」
そう察したのだろうか。
だがこの先、彼女にプロデューサーが付かずに一人で無茶なレッスンを続けたら…。貴重な才能の原石が廃れてしまう。
だけど俺には佑芽さんがいる。
佑芽さんを『一番星』にすると決めた以上、担当アイドルは彼女ひとりでいくつもりだ。
申し訳ないが、月村さんには相応しいプロデューサーが現れることを俺は祈ることしかできない。
「(って、なに勝手なこと考えてんだか)」
仮に俺が月村さんを誘っても彼女は応えないだろう。
こんな、何を考えてるのかわからない目をした人を好む人なんて、佑芽さん以外にいないのだから。
「お待たせしました」
私服に着替えた月村さんが更衣室から出てきた。
「では学生寮へ向かいましょう」
「はい、しっかりエスコートしてください」
その言葉を受けて、俺は無言で頷きレッスン塔の玄関へと二人で向かう。
「外灯もあって少し明るいですね」
「ですね。別に怖くありませんが傘を差すのが手間なので同行してください」
そういえばそうだった。
そんな設定だった。
俺が傘をさすと月村さんがひょいっと入ってくる。
「では行きますか」
こくりと月村さんが頷き歩き始める。
「時に月村さん。待ってる間にあなたのライブ映像を拝見しました」
「!そ、そうですか。それで、どう思ったんですか?」
「美しい歌声だなと思いました。まさに歌姫だなと」
「……ふーん、そうですか」
あれ、なんか佑芽さんと同じでこの子もチョロいのか?
「あなたの歌唱力を評して頼みがあります。勿論、タダではありません」
「私に頼み、ですか?」
出過ぎた発言をした中で恐縮だが、どうしても彼女にお願いしたいことができたのだ。
「俺の担当アイドル、花海佑芽さんのことはご存知ですよね?」
「咲季の妹ですよね」
「そうです。彼女は歌唱力が乏しくトレーナー以外に稽古を付けれる方を探していたんです。───月村さん、その役にあなたを推せればと思ってます」
月村さんは何かを考えるように指を口元へ置く。
「私が燐羽みたいに歌の稽古をするってことですか?」
「ええ、賀陽燐羽さんがどのような稽古をしてたか存じませんが、似たようなものをイメージしていただければと。───手間だとは思いますが、月村さんの成長の手助けにもなると思います」
「教えることで学べることはありますからね。───いいですよ。条件次第ですが」
月村さんは条件次第で役を担うと答えてくれた。
「では月村さんの頼みをなんでもひとつ受け入れます。どんな頼みだろうと俺の持てる力を駆使して実現させてみせますよ」
「な、なんでもですか!?───ふっ、いいですよ。その条件で結構です」
クール口調で月村さんは答えた。
俺が提示できる最大限の条件となればこうなってしまうのは仕方があるまい。
何はともあれ、これで佑芽さんのボーカルレッスンが次のステップへと移れるな。
「では連絡先を交換しましょう。スケジュールを共有しておきます」
「わかりました。───これでいいですか?」
連絡先の交換を終えるのと同時に学生寮の正門へ到着する。
「……手毬!?」
「!有村先輩!」
正門前に立っていた生徒が月村さんの元へ駆け寄る。
「寮生から帰ってきてないって聞いたから探しに行くところだったんだ。───全く、ストイックなのはいいけど程々にしなよ?」
「す、すみません」
弱々しく月村さんは謝罪した。
「あなたは……手毬のプロデューサーですか?」
『違います』
奇しくも月村さんと否定がハモった。
「俺は花海佑芽さんの担当プロデューサーです。今は手が塞がってますので名刺を渡せず申し訳ないです」
「大丈夫ですよ。───そうですか、あなたが佑芽のプロデューサーだったんですね。話は聞いてます」
えー話ってなんだろう。
ちょっと気になる。
そんな気持ちを抑えて俺は有村さんに月村さんをここまで連れてきた経緯を話した。
あさり先生の代わりに見回りに来たこと、月村さんが傘を持ってなかったから同行したこと、など。
「そうだったんですね。じゃあ手毬、寮の玄関までは僕が連れていくよ」
「有村先輩!ありがとうございます!」
ぱーと見るからに表情が豊かになった。
そうですか。俺との相合傘はそんなに嫌でしたか。
心に傷を負った。
佑芽さんに慰めてもらうか。
気付けば月村さんは有村さんの元へ移動していた。
「では月村さん、俺はここまでです」
「そうですね。その、ありがとうございました」
「いえいえ、こちこそ佑芽さんの件、大変助かります」
「……まあ、ふっ、才能あるものが頼られるのは必然ですから。なんとも思ってません」
「ええ、おっしゃる通りですね」
変に突っ込むと反感くらいそうだからな。
ここは黙っておくとしよう。
「それでは有村さん、あとは任せます」
「はい、任されました。プロデューサーも帰り道、気を付けてください」
「お気遣いありがとうございます」
有村麻央、だったか。
頼もしい寮長と聞いていたがここまで頼もしく礼儀正しいとは…恐れ入った。
こうして月村さんとの件は幕を閉じた。
残った俺はレッスン塔へ戻り月村さんが使用していたレッスン室の清掃をして、レッスン塔の施錠を行ったあと再び教員室へと戻る。
あさり先生から遅くて心配したと言われ、月村さんと少し話していたと伝えるとほどほどにしてくださいねと注意された。
言いたいことはあったが、俺が余計なことを言ったことが原因なため、特に言い返さずに受け入れた。
その後、事務所へ戻ったが、結局その場で仕事をすることになった。
「(『SyngUp!』…か)」
この時の俺は何も知らなかった。
月村手毬と接触したことで、賀陽燐羽、秦谷美鈴とも面識を持つことになることを。
はい、月村手毬の話でした。3話に登場してましたので嘘ではないはずです。
今後も手毬は登場します。なんなら───。
ストックはここまでなのでまた地道に執筆いたします。
プロット自体は決まってますので執筆する時間さえあれば…。
早めに投稿できるよう頑張ります。
少しでも面白いと思ったら感想と評価をお願いいたします。
※人物紹介は今回なしとなります※