死んだ目をしたプロデューサー   作:勇気に満ちし者

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そででは本編どうぞ!


7話

 姫崎さんのプロデューサーだと名乗る男性が自己紹介をした。

 

「…………………………………………………………」

 

 ラウンジが静寂に包まれるも。

 

「初めまして!莉波先輩にお世話になってます!花海佑芽ですっ!」

 

 佑芽さんが元気よく姫崎Pに自己紹介をする。

 

「こちらこそ初めまして。莉波さんからお話は聞いてます。───とても明るくて、見ているこちらが元気になると伺ってます」

「莉波先輩そんなこと言ってたんですか!嬉しいです!」

「ふふ、佑芽ちゃんいつも元気良くて、楽しそうだから見ててこっちも元気になるの」

 

 それはわかりみ。

 姫崎さん、わかってるじゃないか。

 

「それと───」

「!」

 

 姫崎Pが俺に視線を向ける。

 

「初めまして、花海佑芽さんのプロデューサー、私は姫崎莉波の担当プロデューサーになります」

 

 近寄りながら胸ポケットから名刺入れを取り出し、俺に名刺をスムーズに渡してきた。

 

「わざわざありがとうございます。頂戴します。───申し遅れました。私、花海佑芽の担当プロデューサー、圷 有翔と申します」

 

 俺達はお互いに名刺を交換し合う。

 

「あさり先生から伺ってます。なんでも1回生の頃、お世話したお気に入りの生徒がいるんだとかで」

「そうですか。あさり先生は恩師ですからね。───あー、噂の1回生ってあなたのことでしたか」

 

 受け取った名刺で1回生であることを確認した。

 

 ふーん、こいつが噂の現役合格、且つ1回生の時点でプロデュース許可が降りてるエリート君ですか。

 

 爽やかイケメン野郎じゃないか。

 さぞおモテになるのでしょう。

 

 俺とは違ってな。

 

「学園の後輩(・・)として接していければと思ってます。今後ともよろしくお願いします」

「はは、後輩ですか。俺も本年度からプロデュース許可が降りた素人なので同期ってことでよろしくです」

「そんなことはありません。俺なんてまだまだ未熟です。先輩達を見習いと思ってるところです」

 

 何だこの子、本当に未成年か?

 

 去年の俺とは違って社会に馴染んでる感がある…。こう言った部分で差があって1回生の時にプロデュース許可が降りなかったのかもしれない。

 

「急に押しかける形となって申し訳ないです。莉波さんから俺もどうかと誘いを受けたので参加させていただいた次第です。───勿論、手ぶらではありません」

 

 そう言って姫崎さんの所へ向かい、姫崎さんが抱えていた桶を持ってきた。

 

「お寿司を持参しました。───が、立派はお料理があるみたいで…。」

 

 こちらの受け取りに時間がかかって遅れましたと遅れた理由も説明してくれた。

 

「わざわざありがとうございます。元々、こちらもお寿司を提供するつもりはなかったのでお互い様ですよ。───調理にはもう少々お時間がかかります。先にみなさんで食べててください」

「お気遣いありがとうございます。圷先輩」

 

 なん……だと……!

 

 あ、圷先輩だと?先輩なんて呼ばれたの初めてなんだが。

 

「2人で盛り上がってるところ悪いんだけれど、そろそろ沸騰するわよ」

「お米も炊き終わりました。酢飯にしますね」

 

 咲季さんと秦谷さんがそう告げる。

 

「すみません、お2人に任せたままでした。───では俺は調理に戻ります。姫崎Pは皆さんと交流しててください。色んなアイドルと交流することも勉強ですよ」

「わかりました」

 

 あさり先生みたいなことを言って俺は作業に戻った。

 

「先に蕎麦から取り掛かりましょうか。かき揚げ作っちゃいますね」

「じゃあわたしは茹でておくわね。つゆは適当に作ったから味見してちょうだい」

「どれどれ……。完璧です。これでいきましょう」

「ふふん!当たり前じゃない!」

 

 味見を終えたあとは無駄のない連携を取りながら調理を進めていく。

 

 流石、咲季さんって感じで少し感動してしまう。

 

 俺は咲季さんが切ってくれた野菜をバッター液へ入れてかき混ぜる。その後は適正温度となった油へ投入してかき揚げを作っていく。

 

「佑芽さんのプロデューサーはお料理得意なのですか?」

 

 秦谷さんがうちわで酢飯に風を送って冷ましてる最中に話しかけてきた。

 

「それなりにできます。一人暮らしですし、自炊した方が安上がりですからね」

 

 料理を教えてくれたあさり先生、本当にありがとう。

 

「ふふ、料理ができる殿方はモテるらしいですよ?」

「……そうなんですか?咲季さん」

「モテるかどうかは知らないけど、生きてく上で困ることはないんじゃないかしら!」

「ごもっともなご意見誠にありがとうございます」

 

 正論パンチに感謝したところで揚がったかき揚げを油からすくい取る。

 

「この蕎麦、十割蕎麦なのね。これは有翔が選んだのかしら?」

「はい、咲季さんなら十割蕎麦を好むかと」

「わたしのため!?佑芽のためじゃなくて!?」

「まあ、担当アイドルより花海咲季さんの好みを優先したのですか?」

 

 なんか秦谷さんの笑顔が怖いのは気の所為だと思いたい。

 

「咲季さんはGI値を意識するかなと。───普通の蕎麦だと文句言われそうだったので」

「後半部分が選んだ理由の大半じゃない!!」

「それに咲季さんが好む食べ物であれば佑芽さんも好んでるはずです。姉妹仲良しですからね」

「えへへ〜!そんなに褒めてもSSDしか出ないわよ!はいっ!」

「いりません」

 

 やめろ!その変な飲み物を俺に渡すな!

 

「ところであなた…。秦谷美鈴だったかしら?お料理得意なのね!普段からあなたも自炊するのかしら?」

「ええ、わたしは誰かのお世話をするのが好きでして……。昔はまりちゃんに弁当を作ってたんですよ」

「弁当?そういえばこの前ことねが手毬に弁当を作ってたわよ!───手毬、文句言いながら美味しく食べてて可愛かったわ!」

 

 おいおい、秦谷さんにその情報は悪手じゃろ。

 

 ことねって藤田ことねさんだろうか。

 一時期、バイト先が一緒だったから少しだけ知ってはいる。

 向こうが俺の事を知っているかは知らないが。

 

「……まあ、弁当、ですか?それは───何故ですか?」

「さあ?それは手毬本人に聞けばいいじゃない。あなた達ユニットを組んでた仲なのよね?」

「………………ええ、そうです」

 

 見るからに秦谷さんの機嫌が悪くなってる。まずいぞ。

 

「咲季さん、そろそろ蟹が蒸しあがる頃合かと。確認をお願いします」

「!そうね、続きはまたあとでしましょう!」

 

 俺が2人の会話を遮るよう助け舟を出す。

 咲季さん、先程の仮は返しましたよ。

 

「藤田ことねさん…。存じ上げませんが許せませんね。───まりちゃんの面倒を見ていいのはわたしだけだと言うのに」

「はは、そうですね」

 

 俺は適当に肯定してこの話は終わりを迎えた。

 

 咲季さんが蕎麦を事前に盛り付けた器に完成したかき揚げをトッピングしていく。

 

 完成した蕎麦をおぼんに乗せて佑芽さん達の所へ配膳する。

 

「プロデューサー、遅いですよ」

「月村さんのプロデューサーになった覚えはありません。が、遅くなったことは謝ります」

「素直に謝ればよくないですか?」

 

 あなたが言うのか。

 なんてことは口が裂けても言えなかった。

 

 思いを噛み殺して蕎麦を配膳する。

 

「佑芽ちゃんのプロデューサーさん、お料理と配膳ありがとうございます♪ ───あ、自己紹介がまだでしたね」

 

 姫咲さんが感謝の言葉を述べた後に自己紹介を始めた。

 

「3年1組、生徒会執行部、初期担当の姫崎莉波です。───待ってる間、佑芽ちゃんからずっとプロデューサーさんの話を聞いてました」

「ちょっ!莉波先輩!は、恥ずかしいから言わないでくださいよっ!」

「それはそれは、佑芽さんと仲良くしていただけて嬉しいです」

 

 ちゃんと先輩に可愛がって貰えてて何よりだ。

 

「わー!花海さんのプロデューサーが作ったかき揚げ!凄く美味しそうですわ!」

「はっ!だ、だよね!プロデューサーさん!かき揚げ作るスペシャリストだったんですかっ!?」

 

 俺の料理の反応を忘れてた佑芽さんが千奈さんに続いて慌てて反応した。

 

「料理ができる男性はモテるらしいよ。佑芽、プロデューサーを取られないようにしないと」

「そういう広ちゃんが一番取ろうとしてるじゃーん」

 

 佑芽さんはジト目で篠澤さんを見つめる。

 この話は聞かなかったことにしとくか。

 

「モテるって、こんな死んだ目をした人を好きになる人なんていないでしょ」

「て、手毬ちゃん!?失礼だよ!」

「いいんですよ。この人は私にもっと酷いことしたので」

 

 なんていいながらかき揚げがトッピングされていない月村さん用の蕎麦をすすりながら言う。

 

 姫崎さんが庇ってくれたのは嬉しい。

 

「酷いことって……ありと、手毬に手を出したの?」

 

 手を出すわけないんだが。

 

「そうゆうことじゃないから!───それと、あなた達、さっきから手毬、手毬って本当に馴れ馴れしいんだけど!?」

「そんなこといいながら喜んでるんじゃないの?」

「よ、喜んでない!」

 

 咲季さんが蟹を持ってくるのと同時に月村さんへ突っかかる。

 

「そんなことよりプロデューサー!早くとんかつ作ってくださいよ!私、ずっーーと待ってるんですから!」

「わかりました。お待ちください歌姫様」

 

 相変わらず我儘だな。

 この人の担当プロデューサーとなる人は大変そうだな。

 

「とんかつ?あんな高カロリーな食べ物はアイドルの食べ物じゃないからやめなさい。───それと有翔、わたしの担当料理はこれで終わったから先にいただいておくわね」

「わかりました。ご協力ありがとうございました」

「そんなにかしこまらなくていいわ。ライバルに手を貸す強者であるわたし故の余裕ってやつよ!」

「はは、そうですね」

 

 相変わらずの自画自賛だ。

 その余裕を早くなくさせてやりたいもんだ。

 

 配膳を終えた俺はキッチンへと戻る。

 咲季さんがキッチンを離れたことで秦谷さんと2人っきりとなった。

 

「佑芽さんのプロデューサー、酢飯の用意が終わりました。この後はいかがなさいますか?」

「ありがとうございます。寿司はこちらで握るので秦谷さんもお食事に入って結構ですよ」

 

 ここまでしてくれたらあとは握るだけだ。

 長く拘束するのも申し訳ないから、お食事に入って構わないと伝える。

 

「わかりました。───ですが、寿司以外の料理をこれからもする様子ですね。手伝えることがあればお供します」

 

 鋭いな。俺が月村さんのためにとんかつを作ることを残りの材料と調理器具で察したのだろう。

 

「ええ、これから月村さんのためにとんかつを作ります」

「まあ、まりちゃんのためにですか?───プロデューサーは何故、まりちゃんのためにとんかつを?」

「本人から今回の食事会に参加するにあたって要望をいただいたからですね。他意はないです」

 

 月村さんと佑芽さんの顔合わせはレッスン前に済ませておきたかったから食事会へ誘ったこと。

 

 月村さんの参加条件にとんかつを作れと言われたから従った迄だと追加で説明をする。

 

「でしたら一勝負しませんか?」

「勝負、ですか?」

「はい、どちらのとんかつが美味しいのか、まりちゃんに決めてもらいましょう」

「……構いませんが、勝負する理由は?」

「ふふ、わたしの方が美味しいとんかつを作れるとまりちゃんに証明するためです」

 

 とことん月村さんに自分なしでは生きていけない体にしてやろうって意志を感じざるを得ないな。

 

 秦谷さんは相当、月村さんのことを好いているな。

 このように甘やかされることを嫌って、月村さんは『SyngUp!』の解散を切り出したって所だろう。

 

 解散理由は他にもあると思うが、これも原因のひとつのはずだ。

 

「まりちゃん」

 

 秦谷さんは俺の返事を聞かずに月村さんの元へ向かっていた。

 

「…………なに?」

 

 咲季さんが解した蟹を食べていた月村さんが秦谷さんを睨む。

 

「今は一時休戦のはずです。そのような怖いお顔はやめてください。───それに、可愛いお顔が台無しですよ」

「顰めてても美人だからいいでしょ?それより今は蟹、食べてるから邪魔しないで」

 

 どうやら食事を邪魔されたのが嫌だったようだ。

 

 とんかつを好むと言い、食に対する向き合い方が普通の人と比較して重要度が高い雰囲気が見受けられるな。

 

 あと、自分が美人だと自覚しているのは強いな。

 俺もクールな月村さんの容姿は嫌いじゃない。

 

「はい、まりちゃんは可愛くて美人です。───ところで、今から佑芽さんのプロデューサーとわたしでどちらが、美味しいとんかつをまりちゃんに提供できるか勝負するんです。審査してくれますか?」

「それってとんかつ2枚食べれるってこと!?」

「ふふ、そうなりますね」

 

 月村さんは目を輝かせながらそう言う。

 食いつくところそこですかい。

 

 とんかつ2枚って男でも油的にきつい部分があるんだが。

 そんなこと気にせず、純粋に2枚食べれることに喜んでる感じだな。

 

「いいよ。審査してあげる、プロデューサー、美鈴のとんかつは凄く美味しいので頑張ってくださいね?」

「月村さんのお口に合うよう尽くします」

 

 なんで俺は応援されてるんだろう。

 意味がわからないな。

 

「秦谷さんはこれでよかったのですか?」

「よかった、とは何がですか?」

「とんかつを2枚も食べるとなればカロリー的に体重が増えるのは明確かと」

 

 男性でも太るのだから女性なら尚更だ。

 

「ふふ、そこは構いません。───太ったまりちゃんがわたしに痩せるために頼って来てくれたら…それはそれでいいので」

 

 そこまで考えての提案。

 策士だな。

 

「いいえ、変に恨まれたら困ります。1枚の豚ロースを半分に分けて2枚作りましょう」

「まあ、わたしは構いませんが、そうするとまりちゃんは2枚じゃないと怒るのでは?」

「それはごもっともですね。やはり、月村さんの扱いは秦谷さんが上手ですね」

「当たり前です。幼馴染ですから」

 

 秦谷さんは普段とは違った柔らかい純粋な笑顔で答えた。

 

 確かに、1人前のとんかつが2枚と思ってた矢先、ハーフで2枚だと納得せずに突っかかってくる可能性が高い。

 

 ここは秦谷さんの提案に乗るざを得ない、か。

 

「こちらのとんかつの材料はわたしが用意します。佑芽さんのプロデューサーは先に調理しててください」

「わかりました」

 

 秦谷さんは再び自室へと戻った。

 

 自炊をする秦谷さんのことだ。

 とんかつの材料ぐらい常備してるのだろう。

 

 俺は一人で黙々ととんかつの準備に取り掛かる。

 豚肉の下処理を行うのと同時に油の温度を調整していく。

 

 卵をつけてパン粉を豚肉に付けて油に投入して3分ほど揚げて、1分弱、強火で揚げる。

 

 油から取り出して一口サイズにとんかつを切り分けていく。

 

「月村さん、お待たせしました」

 

 お皿に盛り付けたとんかつを月村さんの元へ配膳する。

 

「わぁー!!───んんっ!遅かったですね。待ちくたびれました」

「申し訳ないです。───こちら、ご要望をいただいた「とんかつ」になります」

 

 月村さんは一瞬、目を輝かせていたが、咳払いをしたあとは嫌味を言っていた。そんな嫌味は無視して提供した。

 

「いただきます!」

 

 月村さんはソースをかけてとんかつにかぶりつく。

 一口食べて目を見開き、噛み締めながら小さくガッツポーズをする。

 

「久しぶりの豚肉、そして衣……!私はこれを食べるために生きている……!!!」

 

 はあ、そこまで感動する食べ物なのか。

 

「プロデューサー、美味しいです。───ですけど、とんかつだけってどうゆうことですか?普通、千切りキャベツも用意しませんか?」

「いえ、月村さんはお野菜がお嫌いかと思ったのであえて提供してません」

「は?別にとんかつとなら千切りキャベツ食べれますけど。───常識的に考えて油物を野菜なしで提供するお店なんてないでしょ」

「はは、そうですか」

 

 なにコイツ(月村さん)。

 俺、そこまで言われる筋合いあるのかな。

 

 俺は謝罪こそはしなかったが月村さんの発言を流すように適当に肯定した。

 

「ダメよ有翔、野菜はちゃんと用意しなさい。キャベツには消化を助ける効果があるのだから尚更よ」

 

 咲季さんからお叱りを受けた。

 月村さんに言われるのと重みが違うな。

 

「すみません。俺の知識不足でした」

 

 これに関しては俺の落ち度だから受け入れるか。

 

「まあ、寛大な心を持つ私だから許しますけどね。───あと、念のためもう一度言いますが美味しかったです」

「はは、お口に合ったようで何よりです」

 

 なんだ(なんなんだ)コイツ(月村さん)。

 ツンデレってやつかな。

 

 唐突な『Campus_mode!!』は置いといてだ。

 

 味に関しては好評のようで何よりだ。

 久しぶりに作ったから緊張したが喜んでいただけてよかった。

 

 月村さんが食べていた途中で秦谷さんが戻ってきた。

 

 俺のとんかつを美味しそうに食べてた月村さんを見て「まあ…」と一瞬だけ、目のハイライトを消して俺を見てた…気がするが気の所為だと思いたい。

 

 秦谷さんはすぐに調理に取り掛かる。

 慣れた手つきで次から次へと準備をして、なんやかんやでとんかつは完成した。

 

「まりちゃん、わたしの力作です」

 

 ふふ、と笑いながら秦谷さんは月村さんにとんかつを配膳した。

 

 秦谷さんの提供したとんかつのお皿には千切りキャベツがたんまりと乗っている。

 

 この時点で俺は負けたのかもしれない。

 

「美鈴のとんかつ……久しぶりに食べる」

 

 月村さんはゴクリと唾を飲み込み口に運ぶ。

 

「お、美味しい〜〜〜♪♪♪ ───やっぱりとんかつは美鈴のが一番だねっ!」

「!!!まあ、ありがとうございます」

 

 ドヤっと言わんばかりに俺を見てくる秦谷さん。

 

 負けてもなんともないと思ってたのに…。

 この敗北感はなんだろうか。

 

「ご馳走様!美鈴、美味しかった!───ってことでプロデューサーの負けですね」

「負けてしまいましたか」

 

 月村さんは一瞬にしてとんかつを平らげていた。

 

 とゆうか千切りキャベツ一口も食べてないんだが?

 俺への文句はなんだったんだよ。

 

「佑芽さんのプロデューサー、わたしの勝ちです。───ふふ、わたしが上であなたが下ですね」

「はは、そうですね」

 

 確かに敗北感がないと言えば嘘だ。

 だが、申し訳ないけどどうでもいいです。

 対戦ありがとうございました。

 

「手毬、あんな高カロリーな食べ物よく食べれたわね。確実に太るわよ」

「べ、別に太らないから!ま、万が一太ったら運動して痩せるから!」

「手毬ちゃん運動するの!?じゃあ今度よかったら一緒に走ろうよ!」

 

 花海姉妹に絡まれた月村さんは声を荒らげて答えていた。

 あの様子だと太ることは自覚してたが、好物を食べれる欲を抑えれなかったのだろう。

 

「ところで佑芽さんのプロデューサー、わたしが勝ちましたが何かご褒美はありませんか?」

「ご褒美をかけた勝負をした覚えはありませんが……。そうですね。負けは負けですね」

 

 負けたことは事実だ。

 

 秦谷さんのご褒美の提案は後出しだが、これぐらい聞いてあげるのが大人としての対応だ。

 

「ご褒美は『なんでも言うことを聞く』でいかがですか?俺にできることはこれぐらいですから」

 

 俺は佑芽さんや月村さんの時と同様になんでも言うことを聞くと答えた。

 

「……まあ、それは───本当ですか?」

 

 一瞬、目を細めた秦谷さんはそう答えた。

 まるで何かを思い付いたかのように。

 

「ふふ、でしたら近日中にお願いしたいことがあります。事務所へ伺ってもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ。事務所の場所はあとでお伝えしますので連絡先を伺ってもよろしいでしょうか」

「わかりました。こちらをどうぞ───。」

 

 流れるように秦谷さんと連絡先を交換した。

 

 月村さんからの要求は怖いが、秦谷さんは常識人なのだから無茶なことは言い出さないはずだ。

 

 こうして秦谷さんとのとんかつ勝負は俺の敗北で幕を閉じた。

 

 残りの寿司に関して俺は一人で取り掛かる。

 先程の勝負を終えて、月村さんは一時休戦であるが、そんなことを忘れて秦谷さんと凄く楽しそうに会話している。

 

 秦谷さんはふふと笑いながら、改めて秦谷さんように用意した蕎麦を食べている。

 

「圷先輩、ご一緒してもよろしいですか?」

 

 一人で寿司を握っていたところに姫崎Pがそう話しかけてきた。

 

「男一人であそこに居続けるのは胃が痛いです。それに莉波さんも俺がいない方が、ご友人達と話せることもあると思うので」

 

 それは確かにそうだな。

 見た感じ佑芽さんと二人で何やら話しているみたいだ。

 

 あ、なんかさっきこっち見たぞ。

 二人でなんの話をしてるのだろうか。

 

「ところで圷先輩は寿司を握れるのですね。───差し支えなければ握り方をご教授いただけますか?寿司は莉波さんの大好物なんです」

 

 なるほど。だから寿司を用意したってわけか。

 

 市販の寿司も食べれて高級な魚介の寿司も食えて姫崎さんはさぞ喜んでいることだろう。

 

「わかりました。覚えれば結構簡単です。まずは───」

 

 そこから姫崎Pに寿司の握り方を説明した。

 ネタに関しては魚を捌けた方が本格的になるが、市販の刺身で握るのもありだと伝えたら喜んでいた。

 

 が、この真面目君のことだから姫崎さんのために魚の捌き方を覚えるのだろう。

 

 教えてと言われたら教えてあげるけど。

 

 それから姫崎Pと寿司を握り終え、皆さんに配膳をしたあと、俺達は外の空気を吸うために中庭に出ていた。

 

「流石に空気が美味すぎる。女性陣だけの閉鎖空間ってきついものがありますよね」

「圷先輩はてっきり慣れてるのかと思ってました」

「慣れてるわけないんだが?」

 

 死んだ目をした俺は長崎にいた頃、女性との会話なんて母親以外してないからな。女慣れなんてしてるわけないだろ。

 

 ってそんな事情を姫崎Pが知ってるはずもないか。

 

「圷先輩、丁度2人だけなので少しお仕事の話をしてもよろしいですか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます。───圷さんが担当されてる花海佑芽さんですが、『初』には出場されますか?」

 

 『初』それは初星学園で行われる定期公演のことだ。

 

 中間試験、最終試験と審査を突破することで出演できる。最終試験で1位を取ればメインステージでライブをする権利を獲得できるのだ。

 

「出場します。本人にもそのことは伝えてます」

 

 佑芽さんには先日のプロデュース計画のMTGで話を伝えている。

 咲季さんも出るはずだと話したところ、試験で勝負だっ!って意気込んでいた。

 

「『HIF』出場を目指すにあたって実戦形式でライブを経験できるいい機会です。───それに、最終試験で『1位』を取れれば講堂のメインステージでライブを披露する権利も獲得できる」

 

 大型ライブを成功させることで成功体験をさせることができる。

 プロデューサーにとってもアイドル生徒にとっても、大きく成長できる貴重な機会となる。

 

「やはりそうでしたか。こんな貴重な機会、圷先輩が見逃すはずないですよね」

「と、ゆうことは姫崎さんも?」

「はい、出場予定です。莉波さんには時間がない、このような機会は見逃せません。なので───」

 

 姫崎Pは俺の目を見て続きを語った。

 

「───俺は莉波さんを最終試験で『1位』にしてみせます。『初』で実績を積んで、『HIF』にも出場して『一番星(プリマステラ)』を目指します」

 

 覚悟が決まった男の顔だった。

 強気に出たのは、自分の担当アイドルが『1位』になる確信があるのだろうな。

 

「時間がない、とは言いましたがこちらは容赦しませんよ。1年生だろうが、アイドル経験が少なかろうが、俺は俺の全てを使って佑芽さんを育てるつもりです。───総じて負ける気はありませんから」

 

 俺も姫崎Pの目を見ながら強気で答えた。

 

「俺も同じ気持ちです。圷先輩、負けませんよ」

「こっちのセリフですよ」

 

 俺達はプロデューサーだ。

 自分達で殴りあって戦う訳ではない。

 

 だが、あえて言わせてもらおう…。

 こいつはライバルなのだと。

 

 共に『HIF』で担当アイドルを『一番星(プリマステラ)』にすると心に誓ったライバルだ。

 

『(絶対、負けない)』

 

 お互いが心で決意した瞬間であった。

 

◆◇◆◇

 

 プロデューサーとしての会話を終えた俺達はラウンジへと戻った。

 

「ん〜〜〜♪お寿司美味しい〜〜〜♪」

 

 姫崎さんがお寿司を食べて美味しそうに唸っていた。

 

「あっ!プロデューサーくん!お寿司残しておいたよ!───それとね、これ(うに)回らない寿司屋のだよ……!」

「!ま、回らない寿司屋のうに、ですか」

 

 ごくりと姫崎Pが唾を飲む。

 

「食べたら回転寿司のうにには戻れないかも……。それぐらい美味しいの!」

「お、俺もいただいてよろしいでしょうか?」

「ええ、構いません」

 

 作ったうにの軍艦巻きを姫崎さんは気に入ってくれたようだ。

 

 素材が素材だから美味しいのは至極当然なのだが。

 あと俺が食べていいと許可してよかったのかな?

 

「!!!!う、美味い……!」

 

 あの真面目君の姫崎Pが目をかっぴらく。

 余程美味しかったんだな。

 

「千奈ちゃん!本当にありがとう!私、このうにの味ずっーと忘れないよ!」

「莉波お姉様!喜んでくれて何よりですわ!まだまだ、佑芽さんのプロデューサーがご用意した寿司はありますからお召し上がりくださいませ!」

「うんっ!」

 

 姫崎さんは元気よく答えて、次はいくらの軍艦巻きへ箸を進めて口へ運ぶ。

 

「このプチプチ感……。虜になっちゃう〜♪」

「俺もひとつ───!こ、これは、なかなかの腕前で(?)」

 

 姫崎Pがいくらの美味しさでおかしくなった。

 さっきまでの彼はどこに行ったんだ。

 

 この3人はこのあとも寿司を食べ続けるだろう。

 

「うっ、気持ち悪い───美鈴、お腹さすって」

「はい、ふふ、こうですか?」

「ありがとう……。」

 

 月村さんがダウンしていた。

 とんかつが原因なのか食べ過ぎが原因か…よくわからんがお腹を痛めて体調が優れない様子だ。

 

「勧められたこの飲み物、面白くて素敵な味だね」

「でしょ〜!あなたわかってるわね!」

「今後も飲みたい。レシピを聞いてもいい?」

「いいわよ!───そうだ!よかったら今後はあなたの分も作ってあげるわ!」

「いいの?」

「ええ!自分の分を作る時に一緒に作ってあげる!───ところであなたお名前は?」

「ありがとう、わたしは篠澤広、初星学園に高等部から編入して───」

 

 咲季さんが篠澤さんにSSDを布教していた。

 篠澤さんは気に入ったらしくてレシピを聞いていたが…。篠澤さん、正気ですか?

 

「あっ!プロデューサーさん戻ってきましたね!一緒にお寿司食べましょう!!」

 

 戻ってきた俺に気付いた佑芽さんが話しかけてきた。

 

「プロデューサーさん、まだ何も食べてないですよね?」

「そういえばそうでした。よくわかりましたね」

「それはプロデューサーさんのこと定期的に見てましたからね!───美鈴ちゃんと仲良く二人で作業しているところも」

 

 なんか後半部分がやけに強調されてたのは俺の思い込みだということにしよう。

 

「プロデューサーさん〜♪よければあ〜ん、してあげましょうか??」

 

 佑芽さんが身体をくねくねと揺らしながら提案した。

 

「魅力的なお誘いですがお断りします。コンプライアンスに引っかかると後々面倒なことになるのでね。───お気持ちだけいただきます」

「ぐぬぬー!せっかく誘ったのにー!!!」

「申し訳ないです。アイドルとプロデューサーである以上、こういったことは付き物なのです」

 

 普通に内心ではめちゃくちゃ喜んでいる。

 が、立場上ほいほいしてもらうわけにはいかないのだ。

 

「仕方がないですね。……ではこちらを召し上がってください!」

「?はい」

 

 やけに切り替えが早いな。

 

 俺は差し出された寿司に箸を伸ばして取る。

 そしてそのまま口へと運ぶ。

 

「んっ!?」

 

 大量のわさびが鼻をツーンと刺激する。

 次は目がスースーして涙目となる。

 

「う、佑芽さん、な、なんでこんなことを───!」

 

 涙目になりながら佑芽さんを見る。

 

「……………………………………………………」

 

 俺は椅子に座っていた。

 佑芽さんは座る俺を見下ろすように見ている訳だが…。

 

 佑芽さんの視線が怖かった。

 口角を上げているが瞳が怖いのだ。

 

 トロリとした溶けだしそうな瞳は向けられたことがない視線で恐怖を感じる。

 

「ぷ、プロデューサーさんって、な、涙目になると、その───え、っち、ですよね……?」

「は、はい?」

「ッ!?わ!わわわわ!なんでもないですっ!!!忘れてください!!」

「え!?う、佑芽さん!?」

「ああああああああああ!」

 

 佑芽さんは叫びながら何処かへと行った。

 

「あ、わたしが作った大量わさびの寿司食べたの?」

 

 篠澤さんがこっちに来た。

 

「……これは篠澤さんが作ったのですか?」

「うん、わさびの刺激、わたしは好きだから」

 

 犯人はこの人か。

 佑芽さんは知らずに俺に寿司を勧めたのか。

 それとも知ってて勧めたのか…。謎だ。

 

「ありとの目は涙目になると生気を取り戻すんだね」

「そうなんですか?自分では見た事ないので気付きませんでした」

 

 じゃあなんだ。

 この先、ずっと涙目で過ごせばいいのかな。

 それは極端すぎる考えか。

 

 こうして佑芽さんは何処かに行ったまま戻ってくることはなく食事会は終わりを迎えた。

 

 残った寿司は各自が友人達へおすそ分けしてくれるらしい。

 俺と姫崎Pの二人はあさり先生の元へ向かって寿司を渡した。

 

 教員室にいるかもと思ってたが本当にいたな。

 社会人にとって日曜日とはって問いたいぜ。

 

 佑芽さんと月村さんの顔合わせも無事に終えれた。

 関係も今のところは良好の様子だから、明日からのボーカルレッスンは問題なさそうだ。

 

 俺は佑芽さんに自宅に帰る旨をチャットで伝えて初星学園を後にした。

 

 その後は自宅でゆっくりと休み、濃厚な休日は終わりを迎えたのであった。




次回は美鈴が事務所に来ます。
そしてとあるお願いをします。
果たしてどうなお願いなんですかね。

この作品の重要部分になる話であることは確かです。
お楽しみに。

少しでも面白いと思ったら感想と評価をお願いいたします!

※今回は人物紹介なしとなります※
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