結君が北宇治に入る時に新調したので、中学時代に使っていたお古ですが…
三日間の休みがあっという間に過ぎて行き、合宿が始まった。
「みんな~お盆はしっかり休んだかい?はしもっちゃんですよ~いや~今年は、海外での仕事が多くてなかなか来られなくてごめんね~」
「はしもっちゃん、英語しゃべれるんですか?」
「アイ ウィル ビー バック」
「長話はやめてくださいね」
橋本先生…パーカッションのプロの先生だったはず。
そして、先輩達から人気を誇っていた。
「新山です。今年も合宿頑張りましょう、よろしくお願いします」
そして、木管担当の先生。
凄い美人というそんな感想が真っ先に沸いた。
「初めまして、伏見結です」
あの後、金管と木管で別れて、新山先生が僕たちの元にやってきたので簡単に自己紹介をする。鎧塚先輩は、去年も会っていたので軽い挨拶で済ましていた。
「ええ、貴方の噂が聞いているわ。ソロコンで金賞も取った事もあるみたいね」
やっぱり音楽の先生なだけあって、僕の事は知られていた。
でも、なんだが嬉しい気分になった。
「はい。応援してくださる人達のおかげです」
「謙虚な姿勢。聞いてた通りだわ。伏見君の音楽教室の先生と同級生なの」
「そうなんですね。びっくりです」
なんと音楽教室の先生と新山先生は同級生という事を聞いてびっくりだった。
先生は何も言っていなかったからね。話すような事でもないけど。
「先生から聞いてるわ。演奏技術も高くて、人聞きもいいと」
「良い話で良かったです」
悪い話をしていたらどうしようと身構えていたが、そんな心配は要らなかった。
でも、先生なら良い事しか話さないと思うけど。
「もちろん贔屓とか無しで、ご指導お願いします」
「ええ、こちらこそお願いします」
滝先生は厳しい先生ではないと言っていた。
滝先生の言葉を信じる訳ではないが、この時はそんな雰囲気は無かった。
だが………
「もう一回!もう一回!」
新山先生はひたすらそう言っていた。
脳内にその言葉が響き渡るくらいには言っていた。
厳しくないのは嘘だった。いや、これぐらい厳しい方がやりがいはあるけど。
「疲れた…~」
「ゆう~大丈夫…?」
同じパートで集まった夕食時、ご飯を食べ終えて机に突っ伏していると、心配したりりりんがそう声を掛けてきた。
「疲れたけど、これぐらいはね。やり切らないとね」
「流石ゆうだね」
強豪校だってこれぐらいの練習はしてる筈だし。
こんな事で弱気を吐く暇なんて無い訳だし。
「でも、鎧塚先輩と伏見君は指摘あんまりなかったよね」
「うんうん、私たちは目を付けられてたのにね」
ファゴットの二人が、疲れた様子で練習の時の事を想い出しながらそう話していた。
ファゴットに限った話ではないが、結構指摘は飛び回っていた。
「いや…これでもまだまだだよ。もっと上手くならないと…」
「流石ゆう~はい、あ~ん」
「なんで!?」
りりりんが夕食のメニューであるコロッケを箸でつまんで、僕の口元まで持ってきた。
「だって~疲れてると思って~」
「流石に、一人で食べれるよ」
りりりんの行動に困惑しながらもそう返す。
後、みんなが居る所で出来るか
「ここでも見せつけてくるんだ」
「私たちじゃ出来ないねー」
「ねー」
その日の夜
「何やってんの~」
就寝時間を過ぎた後、僕は中庭のベンチに座っているとりりりんと久石の二人がやってきた。
「ここって星が綺麗に見れるからさ、夜空を見てたの」
「へ~」
そう言いながら、僕の隣に流れるように体を密着させて座ってくるりりりん。
「というより、二人はなんでここに?」
「自販機に飲み物を買いに」
「あー行けないんだー」
「ここで夜空を見てる伏見君に言われても…」
久石を揶揄ったつもりだったのだが、正論パンチをしてきた。
「そりゃそうだ」
でも、消灯後に飲み物は買わないようにって言われていたけど、僕みたいに向け出しているよりは良い。まだ可愛らしいものだから。
「綺麗だね」
「街灯がないと綺麗に見れるんだよ、大吉山とかもおすすめ」
「へ~」
「流石にこの時間に山登りは無理だけどね」
最近、夜に登った人達を見たって聞いたけど、一体誰なんだろうね。
しかも、楽器を持っていたらしいし。よくやったなと思う。
なんて思っていると、りりりんは僕の膝に顔を埋めてきた。
「どうしたの。りりりん」
「みぞ先輩と…ゆうと一緒に、三人で……コンクールで吹きたかった……!」
鳴きそうな声でそう言うりりりん。
やっぱりそう思うよなぁ…決してりりりんが下手という訳ではない。編成の問題で落ちてしまった。僕はそう考えている。
でも、今の僕はりりりんの頭を撫でてあげるしかなかった。
「梨々花…」
久石も今のりりりんを見て思う所があるらしい。
普段の彼女は、弱気な所を皆の前で見せる事なんてないから…
「来年は一緒に…コンクールで吹こう」
「うん…!」
そんなこんなで三日間の合宿はあっという間に最終日になった三日目に事件は起こった。
「通しで吹いて、いいですか?自由曲の最初から。流れで、ソロを吹きたくて」
隣に座るみぞれ先輩のたった一言。
滝先生は、その一言を聞いて『いいでしょう』と答えた。
「では、いきます」
先生が指揮台に立ち、楽器を構える。
そして、演奏が始まったのだが…
この場に居る皆が思った事だと思う。
なんと、みぞれ先輩が覚醒を果たした。
「これは……とんでもないものを掘り起こしたね」
と橋本先生が言う中。滝先生は「ちょっと時間をください」と言い、10分間の休憩時間が与えられ、みぞれ先輩の元には先輩方が集まってくる。
「すごいです先輩」
「圧倒されました」
「自分の演奏に集中できなくなっちゃいました」
「みぞれ本当にすごかった!」
等々、色んな反応があった。
そして、練習が再開となり_
「クラリネットは__」
と滝先生から各楽器に指示が飛ぶ。
みぞれ先輩の覚醒によって、みぞれ先輩の音に合わせるように、僕も同じように指示を出されて、先輩の音を目立たせるように…
そして、みぞれ先輩の覚醒を起こした三日間の合宿は終わり、関西大会がやってきた。