6月5日。宇治には縣祭りという伝統な祭りがある。
今年は…不運なのか…土砂降りとまではいかないけど、生憎の雨だった。
「ゆうーそろそろ行こー」
私服に身を包んでりりりんが、チャイムを鳴らす事も無く、家の中に入ってきてそう言ってきた。
「はいはい、ちょっと待って」
先日、りりりんからお誘いを貰って、二人で行く事に。
去年もなんだかんだ言って、りりりんと行ったけど。
「お待たせ」
「うん、行こ~」
そう言って、手を差し出してくるりりりん。
そんな彼女の取る。
「はいよ」
「えへへ~」
彼女の手を取ると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
「吹部の誰か来てるかな」
京阪宇治を出てすぐ、りりりんがそう聞いてきた。
「一年の一回のお祭りなんだし、来てるだろうね」
宇治橋を渡って、屋台を巡りながら、りりりんとそんな話をする。
実際、北宇治の制服を着た先輩方を見かけたし、居るには居るんじゃないかな。
「ゆう、あれ食べたい」
「はいはい。好きなだけどうぞー」
両親からは、りりりんと楽しんでおいでと言われて、かなりのお金を渡してもらっている。こんなに要らないんだけどな。
「今日は、たくさん食べるぞー」
「祭りってそういう物だったっけ…」
りりりんの言葉に、僕は思わず困惑してそう返す。
祭りとは楽しむもの……食べる事も楽しむうちに入るか。そうなると……よく分かんないや
「だって、ゆうと同じ高校に入って、同じ部活して、こうやって祭りにも来て、私めっちゃ嬉しい」
「僕も同じだけど、さっきの話と関係ある?」
「あるよ~」
「いや…無いと思う」
なんて会話をしていると、僕達に聞きなれた声で僕達の事を呼ぶ声がした。
「あっ、梨々花ちゃんと伏見君だ」
僕らの姿を見かけたのか、僕らに声を掛けてきたのは、黄前先輩と塚本先輩だった。
二人きりって事は、デートでもしてるのかな。付き合ってるとかそういう話は聞いた事ないけど。
「黄前先輩と塚本先輩、お疲れ様です!」
「お疲れ様です~」
「うん、お疲れー」
「先輩方はデートですか~?」
「えっ!?」
りりりんが先輩方に聞いたが、黄前先輩から返ってきた反応は、僕の思っていた反応と違っていた。
「あれ~違いました?」
「ち、違わないんだけど…」
様子がおかしいな…なんかこう、関係がバレたくない…みたいな。
やっぱり付き合ってるのかな。黄前先輩と塚本先輩。
「そう言う二人もデートか?」
塚本先輩がそう聞いてきた。
「そんな所…ですかね?」
「え~私はそう思ってるけど~」
僕はあやふやに先輩に返すと、りりりんが隣からそうツッコんできた。
このやり取りを見て、塚本先輩がちょっとだけ微笑んでいた。
「です」
「お前らも複雑なんだな」
塚本先輩を困らせてしまった。
後日、何か美味しい物でも私に行こうと思う。
「先輩達も、デート楽しんでくださいね。行こ、りりりん」
「うん、ではでは~」
僕とりりりんは先輩達に手を振って、この場を後にする。
「うん、二人も楽しんでね」
黄前先輩からそう声を貰った。
「それでそれで久美子先輩と塚本先輩、付き合ってると思う?」
「僕はそうだと思うけどなー」
雨が上がり、橘橋を渡って、中洲にある雨粒が付いたベンチをタオルで拭いて座り、りりりんと先輩達の話題で盛り上がっていた。
先輩達が付き合ってるのかいないのかの話で。
「黄前先輩の様子がおかしかったのは気になったけどね」
「それは私も思った~」
「だよね」
りりりんも同じ事は思っていたようだ。
今度、友恵先輩にでも聞いてみようかな。何か知ってるかもしれないし…
でも、それを知った所で…意味ないしなと思いつつ。
「僕らに言えない事かもしれないし、この話は終わりでいいんじゃない?」
「そうだね~って事ではい」
りりりんはそう言って、リンゴ飴を出してきた。
というか、どこに隠し持っていたんだ。
「いつのまに買ってたの?」
「ゆうがトイレに行ってる間に~」
「あの時か」
「そうだよ~」
りりりんからリンゴ飴を貰って、一口舐める。
「うん、美味しい」
「ね~」
りりりんと過ごすこの時間はとても心地良かった。
そんな時間が30分程経っただろうか。腕時計を確認すると、良い時間になっていた。
「もうこんな時間だし、帰る?」
「私はもうちょっと夜空を見たい~」
「確かに綺麗な夜だからな」
りりりんが言う通り、雨がさっきまで振っていたのが嘘のように、綺麗な夜空が見えていた。
「ゆう」
「ん?何?」
「オーディション頑張ろうね」
「…もちろん」
来週に控えたオーディションの事を頭の隅に入れて、僕はそう返した。
「あっ、流れ星だ」
「何かお願いしなきゃ…!」
りりりんはそう言って、手を握って願い事を口に出していた。
「鎧塚先輩とゆうと三人でコンクールに出られますように…!」