オーボエに音を乗せて   作:桜紅月音

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8話 サマーバケーション

 

オーディションを終えた北宇治高校吹奏楽部は、無事に府大会を突破して、夏休みがやってきた。とはいえ吹奏楽部に休みなんてない。

正確に言えばあるにある。けれど……

 

 

「合宿をしますので、ご家族には話しておいてください」

 

 

滝先生が言うように、北宇治高校吹奏楽部は、近くの宿を使っての合宿を行う。みぞれ先輩が言うには去年から始めたらしい。

その為、休みは学校が閉まる盆休みの三日間だけだった。

 

 

「伏見君」

 

 

「みぞれ先輩?何かありました?」

 

 

全体練習を終え、各パート練習に部員達が散っていく中、みぞれ先輩に声をかけられて、そう返事を返す。

 

 

「うん…お盆休み良かったらなんだけど…プール行かない?」

 

 

「プールですか?」

 

 

「嫌だった?」

 

 

「いえ、そんな事はないですよ」

 

 

みぞれ先輩に、プールに行かないかと誘われてしまった。

さっき、傘木先輩がフルートの人達に声をかけていたので、吹部のみんなで行こうよって意味の方が強いかも。

 

 

「みぞれ先輩は、僕で良いんですか?」

 

 

「うん、せっかくだから」

 

 

みぞれ先輩に誘われたのは嬉しい。

でも、僕よりもりりりんを誘ってあげた方が良いかもですよ先輩

なんて思っていると、傘木先輩が僕達に寄ってきた。

 

 

「みぞれが誘いたいって言うから、誰かと思ったんだけど。伏見君だったかー」

 

 

傘木先輩は笑いながらそう言ってきた。

そんな先輩に、みぞれ先輩は返事を返す。

 

 

「伏見君以外にもう一人いる」

 

 

「誰誰!?」

 

 

みぞれ先輩の発言に、傘木先輩は驚きながらもみぞれ先輩の言葉を待つ。

 

 

 

「ダブルリードのみんな」

 

 

「いいじゃん、誘いに行こうよ」

 

 

みぞれ先輩……やっぱり誘う気だったんだ。

りりりんはとっても喜ぶだろうし、即決で行きます!と言うんだろうなきっと。

 

 

「それで、伏見君はどうする?」

 

 

りりりんの事を思っていると、傘木先輩にそう聞かれてタジタジになりなら返す。

 

 

「えっと、予定確認してからでもいいですか?」

 

 

特に予定は無いけど、女子だけの空間に入るのは中々勇気がいるのでそう答えた。後は、暑いのが嫌だから外に出たく無いだけである。

先輩達と遊ぶのは楽しいとは思うけど。

 

 

「もちろん、強制ではないからね」

 

 

傘木先輩は笑顔でそう言ってくれた。

良かった。ここで行きませんとは言わないけど、何で来ないの?みたいな空気にならなさそうで良かった。

 

 

 

「お盆休みは暇?」

 

 

放課後、珍しく一人で帰っていると久石が声をかけてきた。

久石も一人で。

 

 

「久石も1人?」

 

 

「ええ、生憎」

 

 

久石は何かを企んでいそうな表情で、さり気なく僕の隣まで駆け寄ってきた。

 

 

「暇って聞いてくるって事は、久石も暇なの?」

 

 

「お盆休みって言っても、特別に何かをするって事はないから」

 

 

「それに関しては、全く同じ意見」

 

 

僕の場合は、暑いのが嫌だからと理由もあるけど、久石の意見には概ね合意だ。そんな僕の言葉を聞いて、久石は疑問に思っていたのだろう。

こう聞いてきた。

 

 

「あれ、梨々花と一緒にどこかに行ったりしないの?」

 

 

「今の所は、何の予定も入ってないね」

 

 

とはいえ…今日帰ったら、りりりんから誘ってくる事だろう。

プールの件然り、その他の二日間の休み然り

 

 

「それなら、私とおでかけしない?」

 

 

「なんで?」

 

 

「こないだのお礼です」

 

 

「お礼…?」

 

 

久石に何かお礼でもされるような事をしただろうか。

全くといって、身に覚えは無かった。

 

 

「あの時の言葉、忘れてませんよ」

 

 

「うん?あの時の言葉?」

 

 

「はい、はっきりと『私の事守る』って」

 

 

そういえば、そんな事を言ったような気がする。

オーディション前に……あれ覚えていたのか。僕はすっかりと抜け落ちていた訳だけど。

 

 

「確かに言ったけど、それとお礼の関係性って何」

 

 

「私はあれで救われたのでそのお礼です。中川先輩も受かりましたし」

 

 

「そうかい」

 

 

僕がそう返すと、僕の懐に入る様にしながらこう聞いてきた。

 

 

「で?どうします?私とのおでかけは?」

 

 

「考えておくよ」

 

 

久石には悪いが、僕はそう彼女に返した。

いや、本当に暑いのは嫌なんだよね……

 

 

 

 

 

********

 

先輩達からお誘いを受けた次の日の放課後。

いつものように、りりりんが僕の部屋に居た。

 

 

「ジャジャジャジャーンー新しい水着~」

 

 

「可愛いね」

 

 

「えへへ~」

 

 

りりりんは、先輩からプールのお誘いを受けて、市内まで行って買ってきたんだとか。行動力が凄い。

そんなりりりんは、黄色のフリルの付いた水着を着ていた。

 

 

「ゆうも一緒に行こうよ~」

 

 

「なんで」

 

 

僕の身体を揺らしながらそう訴えてくる。

 

 

「奏のお誘いも断ったって聞いたよ」

 

 

「そうだけど、なんで知ってんの?」

 

 

あの話は、僕と久石だけしか知らないはず。

周りに、誰か居た気配も無かった。なのになぜ

 

 

「奏が話してくれたもん」

 

 

「あっ…なるほど」

 

 

りりりんの言葉を聞いて、普通に考えたらそうだよなぁと納得した。

 

 

「それで、どうするの~」

 

 

「僕は行かないよ」

 

 

「ええ~」

 

 

りりりんから文句を言われたが、先輩達の中に入れる訳も無かった。

それに暑いのがやっぱり無理だった。

 

 

 

-駅前のベンチ-

 

 

「それで私の所に来たんです?」

 

 

「というより、電話で呼び出したのが正解でしょ」

 

 

僕は、久石の所に居た。

というより電話で呼び出された。

 

 

「そんなに会いたいだなんて~」

 

 

「…帰るぞ」

 

 

久石の態度に、イラっとした僕はそう一言を彼女にぶつけ、席を立とうとした。

 

 

「待って」

 

 

彼女はそう言って、僕の腕を掴んでくる。

 

 

「何」

 

 

「せっかくおめかししてきたので見てください」

 

 

久石は、僕のベンチに座らせて、久石は入れ替わるようにして立ち、その場で一回転する。

 

 

「いいんじゃないの」

 

 

「ありがとうございます、でも、もうちょっと褒め言葉が欲しいですねぇ」

 

 

「これ以上何を求めてるんだ…」

 

 

「例えば…髪の毛とか…ですかね」

 

 

「散髪でも行ったの?」

 

 

「はい、5ミリだけ切ってきました」

 

 

「おおう…拘ってる事は分かった」

 

 

5ミリだけ切ったなんて分からないよ

 

 

「そうです、拘ってるんです私」

 

 

ウィンクをしながら言う。

こうしてみると久石って可愛いなと思った。

求とは言い争いしてるみたいだけど。

 

 

「奢ってくれてありがとうね」

 

 

「これぐらい安いもんだよ」

 

 

その後、久石と2人でファミレスに来ていた。

彼女の目の前には、3皿の料理が並べられていた。

華奢な身体の割にはよく食うな…

 

 

「これ食べます?」

 

 

「久石が全部食べていいよ」

 

 

なんかこんだけ食べているのを見ると、こっちが引いてしまった。

久石のせいなのかおかげなのか、ジュースだけで済んでしまった。

 

 

 

「楽しかった~」

 

 

「楽しかったようで何より」

 

 

その日の夜、りりりんが楽しそう表情でやってきた。

みぞれ先輩とのプールが楽しかったのが伝わってくる。

 

 

「ゆうが居たらもっと楽しかったのにな~」

 

 

りりりんは、僕に何かを訴えるようにしながら言ってきた。

 

 

「はいはい…来年は行こうね」

 

 

「約束だよ~」

 

 

りりりんはそう言って、強引に指切りをしてきた。

来年は、プールに行かないといけないって事か。

暑さに慣れる練習でもしようと本気で思い始めた。

 

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