存在しないはずのライスシャワーの娘に転生しました   作:雅媛

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閑話 年度代表ウマ娘

「ジュニア年度代表ウマ娘、ピュアホワイト」

「はい」

「……」

「ピュアホワイトさん?」

「もう一回お願いします」

「ジュニア年度代表ウマ娘、ピュアホワイト」

「いいですね」

「何がですか」

「響きが」

 

 年が明けて少しした頃、正式に発表された年度表彰の結果。

 それを端末で眺めるボクは朝からかなり機嫌がよかった。

 ジュニア級で最も高い評価を受けたウマ娘。

 それがボクである。

 朝日杯フューチュリティステークスを勝ったことが大きかったらしい。

 今年の同世代はブライトがホープフルステークスを勝っている。

 ドーベルが阪神ジュベナイルフィリーズを勝っている。

 タイキだって朝日杯ではボクとほとんど差のない走りをした。

 その中で選ばれた。

 なら。

 

「去年のジュニア級で一番すごかったのがボクということですね」

「投票結果上は、その認識で問題ありません」

「もっと褒めてもいいですよ」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「以上です」

「短い」

 

 ブルボンさんは相変わらずだった。

 とはいえ、年度代表に選ばれると表彰状やだけではない。

 正式に表彰パーティにも招待される。

 副賞として、新しい勝負服をもう一着仕立ててもらえる権利ももらえる。

 

「もう一着?」

「はい。既存の勝負服と同一仕様の予備を作成することも、別デザインを申請することも可能です」

「年度代表って素晴らしいですね」

「その部分ですか」

「だって勝負服一着もらえるんですよ?」

 

 今の白い花嫁勝負服はかなり気に入っている。

 だから急いで別のものを作るつもりはないけれど。

 将来的に違うデザインを作れる権利があるのは素直に嬉しい。

 

「何にしましょう」

「現時点で決定する必要はありません」

「じゃあ取っておきます」

「有効期限内であれば問題ありません」

「年度代表の称号も取っておけません?」

「称号は既に確定しています」

「じゃあ来年も使えますね」

「前年のジュニア年度代表という表現になります」

「少し弱くなる」

 

 そこは残念だった。

 

 

 

 

 そして表彰パーティ当日。

 招待状には正装で参加するよう書かれていた。

 そして勝負服も正装として認められている。

 なら

 

「当然これですね」

 

 鏡の前で確認する。

 白を基調にした勝負服。

 元々ウェディングドレスを参考にしていたはずの勝負服。

 空気抵抗になるからとスカートや大きなフリルを片っ端から削っていった結果、残った花嫁要素は短めのヴェール、長い白手袋、レースの意匠、それから赤いリボンが中心になっている。

 それでもかわいい。

 

「問題なし」

「ホワイト」

「はい?」

「本当にそれで行くの?」

 

 後ろからドーベルの声がした。

 

「そのつもりですけど」

「……そう」

「正装扱いですよ?」

「分かってるわよ」

「じゃあ何か?」

「別に」

 

 言いながら、ドーベルの視線がボクの勝負服を上から下へ一度往復する。

 

「パーティなのよ?」

「はい」

「普通のドレスとかあるでしょ」

「年度代表の表彰なんだから勝負服の方がよくないです?」

「まあ、それはそうなんだけど……」

「それより」

 

 今度はボクがドーベルを見る。

 

「……」

「な、何よ」

「ドーベル」

「何」

「ものすごく似合ってますね」

「っ」

 

 今日はドーベルも勝負服だった。

 緑を基調に黒や白を合わせた衣装で、本人の雰囲気とよく合っている。

 髪の色とも相性がいいし、何より華やかなのに派手すぎず、ドーベル本人の綺麗さを邪魔しない。

 

「やっぱり美人は強いですね」

「何がよ!」

「服です」

「意味分かんない!」

「この色すごく似合ってます。あと髪との組み合わせも綺麗ですし、目の色も映えますね」

「ちょっと待って」

「はい?」

「一気に言わないで」

「でも本当に綺麗なので」

「だから!」

 

 ドーベルが顔をそらす。

 頬が赤い。

 

「ホワイトさんは今日も絶好調ですわね~」

 

 のんびりした声がして、振り向く。

 

「ブライト」

「ごきげんよう~」

「……」

「?」

「ブライトもかわいいですね」

「あら~」

 

 ブライトも勝負服。

 明るく柔らかな色合いと、ふんわりした装飾の多い衣装が本人の雰囲気にものすごく合っている。

 

「すごいですね。完全にブライトのための服じゃないですか」

「勝負服ですから、そうなのでは~?」

「そういう意味じゃなくて。雰囲気がぴったりです。色もかわいいし、こういうふわっとしたところもブライトっぽい」

「まあ~。ありがとうございます~」

「なんでブライトは普通に受け取れるのよ……」

 

 ドーベルが横で呟く。

 

「褒められたら嬉しいですもの~」

「そういう話じゃ……」

「ドーベルも素直に喜べばいいんですよ」

「あんたは黙ってなさい!」

「褒めただけなのに」

「褒め方がしつこいのよ!」

 

 そこへ。

 

「ホワイトー!」

 

 ものすごく聞き慣れた声。

 

「タイキ」

「Congrats!」

「タイキもおめでとうございます」

「Thank you!」

 

 タイキも年度代表候補として招待されている。

 そして当然のように勝負服。

 

「……」

「What?」

「やっぱりタイキ強いですね」

「何がデース?」

「勝負服の攻め具合」

「?」

 

 チューブトップにミニスカート。

 若草色を中心にした、いかにもタイキらしい明るくアメリカンな勝負服。

 朝日杯の時にも思ったけれど、改めてパーティ会場で見るとすごい。

 ボクもそれなりに大胆な勝負服だと思っていたのに。

 

「またちょっと負けた気がします」

「だから何の勝負なのよ」

 

 ドーベルが疲れた声を出した。

 

「でもホワイトもスゴいデース!」

「ボクは花嫁なので」

「ドレスないケド?」

「それは走る時邪魔なので取りました」

「まだそれ言ってるの?」

「事実です」

 

 タイキと並ぶ。

 

「……」

「……」

 

 ドーベルが二人ボクたちを見て黙った。

 

「どうしました?」

「なんでもない」

「何か言いたそうですけど」

「よりによって、どうして一番そういう勝負服の二人が並ぶのよ」

「偶然です」

「ワタシたちBest pairデース!」

「変なところで意気投合しないで!」

 

 その後、会場に入ってみれば、確かにボクとタイキは妙に目立った。

 ドーベルとブライトは華やかで上品。

 ボクとタイキは。

 

「……」

「ホワイト?」

「なんか視線多くないです?」

「Annual starsデース!」

「年度代表関係ですかね」

「多分それだけじゃないわよ」

 

 ドーベルが何か言っていたけれど、よく分からない。

 

 そのまま式が始まった。

 ジュニア年度代表ウマ娘。

 ピュアホワイト。

 名前を呼ばれ、前へ出る。

 壇上。

 拍手。

 表彰。

 記念撮影。

 その全部が。

 普通に嬉しい。

 

 以前なら。

 ライスシャワーの娘。

 黒い刺客の娘。

 そんな呼ばれ方の方が先に来ることも多かった。

 でも今日は。

 ピュアホワイト。

 それだけ自分の名前で呼ばれる。

 

「……いいですね」

 

 受け取った表彰状を見る。

 

「年度代表」

 

 また言う。

 しばらく使おう。

 ドーベルもジュニアティアラ年度代表として表彰された。

 壇上へ上がる姿を眺めながら。

 

「やっぱり綺麗ですね」

「ホワイトさん、本当にドーベルがお好きですのね~」

「はい。美人なので」

「そういう意味ではなくて~」

「?」

 

 ブライトが笑っていた。

 タイキも候補として紹介され、ホープフル勝者のブライトも同じように壇上へ上がる。

 今年のジュニア級はかなり豪華だ。

 それぞれ別の強さがある。

 そしてこれから進む道も少しずつ変わっていく。

 でも今はパーティである。

 

「料理」

 

 式が終わる。

 目の前には。

 かなり豪華な立食料理。

 

「……」

 

 お腹が空いた。

 当然だ。

 今日は表彰前に食べすぎないよう少し控えてきた。

 終わったら食べる。

 そのつもりだった。

 

「……」

 

 見る。

 白い勝負服。

 見る。

 料理。

 トマトソース。

 

「無理」

 

 クリームソース

 

「危険」

 

 濃い色のジュース。

 

「絶対駄目」

「ホワイト、何してるの?」

「ドーベル」

「さっきから料理の前で止まってるけど」

「食べたいんです」

「食べれば?」

「この格好で?」

「……ああ」

 

 気づいてくれた。

 

「真っ白なんですよ」

「見れば分かる」

「ヴェールも白」

「そうね」

「手袋も白」

「そうね」

「料理を落としたら終わりです」

「大げさね」

「赤いソースとかついたら泣きますよ」

「洗えばいいでしょ」

「今日の写真、一生残るんですよ?」

「……」

「年度代表の記念写真で胸元にトマトソースつけてるの嫌です」

「まあ、それは嫌でしょうけど」

「でも食べたい」

「じゃあ手袋外しなさいよ」

「正装が崩れます」

「じゃあ着替えれば?」

「この服で出るって決めたので嫌です」

「面倒くさい!」

 

 怒られた。

 

「じゃあ食べなきゃいいでしょ」

「お腹空きました」

「知らないわよ!」

 

 冷たい。

 

「年度代表になったのにご飯も食べられないなんて」

「勝手にその格好で来たんでしょうが!」

「ドーベルは食べるんです?」

「食べるわよ」

「いいですね」

「……」

 

 ドーベルが止まった。

 ボクを見る。

 料理を見る。

 またボクを見る。

 

「……何よ」

「何も」

「その顔やめなさい」

「普通の顔ですよ」

「食べたそうな顔」

「食べたいので」

「……」

 

 ため息。

 それからドーベルが小さなフォークを取った。

 

「ほら」

「?」

「口」

「……」

「早くしなさい!」

「あーん」

 

 食べる。

 

「……美味しい」

「そう」

「もう一個」

「調子に乗らないで!」

「でも服汚れます」

「あんたねえ……」

 

 文句を言いながら。

 また食べさせてくれる。

 

「あーん」

「はいはい」

「ドーベル優しいですね」

「うるさい」

「Dober、とってもSweetデース!」

「タイキ!」

 

 いつの間にか横にいた。

 ブライトもいる。

 

「まあ~」

「何よブライト!」

「仲がよろしくて素敵ですわ~」

「違うから!」

「仲良しなんですよ」

「ホワイトも黙って食べてなさい!」

「じゃあもう一個」

「はいはい!」

 

 また食べる。

 おいしい。

 

「年度代表最高ですね」

「それ年度代表関係ないでしょう!」

 

 そうして。

 ボクはドーベルに食べさせてもらった。

 途中から本人も諦めたらしい。

 ただその時周りに人がたくさんいることをボクたちは忘れていた。

 

 数日後。

 

「ドーベル」

「……」

「ドーベル?」

「来ないで」

「何でです?」

「今あんたの顔見たくない」

「ひどい」

「誰のせいよ!」

 

 机の上。

 新聞。

 端末。

 記事。

 そこにはパーティの写真。

 ボクがドーベルから料理を食べさせてもらっている。

 

『年度代表ウマ娘二人に熱愛発覚!?』

『表彰パーティで見せた親密な姿』

『メジロドーベル、ピュアホワイトへ「あーん」』

『同期の二大スター、友人以上の関係か』

『キマシタワー』

 

「すごいですね」

「何がよ!!」

「話盛られてます」

「見れば分かるわよ!」

「でも写真はいいですね」

「どこが!」

「ドーベル綺麗に写ってます」

「今それ言わないで!」

「ボクもかわいい」

「それも言う!?」

 

 普通にいい写真だと思う。

 

「ボクは別に困らないですけど」

「私は困るの!」

「どうして?」

「どうしてって……!」

 

 ドーベルが何か言いかけて止まる。

 顔がどんどん赤くなる。

 

「……とにかく」

「はい」

「責任取りなさいよ」

「はい?」

「責任!」

「何の?」

「知らないわよ!」

「知らない責任取れないですよ」

「考えなさい!」

「……」

 

 考える。

 

「じゃあ」

「何」

「今度はボクが食べさせます?」

「そういう責任じゃない!」

 

 違ったらしい。

 

「じゃあ何です?」

「だから……!」

「デートとか?」

「っ!?」

 

 止まった。

 

「前にドーベルも誘ってくれたでしょう?」

「そ、それは!」

「じゃあ二人で出かけます?」

「……」

「ドーベル?」

「……責任取るっていうなら」

「はい」

「それくらい……」

 

 声が小さい。

 

「何です?」

「何でもない!!」

「なんで怒るんです?」

「一生考えてなさい!」

「重い責任ですね」

 

 そこへ教室の扉が開いた。

 

「Dober! ホワイト!」

 

 タイキの手に同じ新聞。

 

「お付き合い始めたデース!?」

「違う!!」

「まだです」

「ホワイト!!」

 

 ドーベルの叫び声が教室中に響いた。

 年度代表はとても名誉ある称号である。

 豪華なパーティにも出られる。

 料理も美味しい。

 ただし真っ白な勝負服で参加する場合は。

 食事の方法について事前に考えておいた方がいいらしい。

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