存在しないはずのライスシャワーの娘に転生しました   作:雅媛

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閑話 メジロドーベルとデート(たぶんデート)

「ホワイト。今度の休み、空けときなさい」

「いいですよ」

「……まだ何も言ってないんだけど」

「デートでしょう?」

「っ!」

 

 放課後の教室で、ドーベルの動きが止まった。

 

「違うんです?」

「ち、違わないけど!」

「ならいいじゃないですか」

「もう少しこう、何でとか、どこへとか聞きなさいよ!」

「前に約束したでしょう。例の熱愛報道の責任を取るために二人で出かけるって」

「その言い方やめて!」

 

 怒られた。

 でも誘ってきたのはドーベルである。

 

「それに」

「何よ」

「今のドーベル、ものすごく誘いたそうな顔してましたし」

「してない!」

「してました」

「してない!」

「じゃあ断ります?」

「それは駄目!」

「ほら」

「……っ!」

 

 分かりやすい。

 桜花賞を勝ってから、ドーベルは少し変わった。

 いや、性格そのものが変わったわけではない。相変わらず素直じゃないし、褒めれば怒るし、男の人が近くにいると緊張するところも変わっていない。

 ただ自信がついた。

 少しだけ。

 

「いい? 今回は私が誘ったんだから、私が決めるわよ」

「はい」

「行く場所も」

「はい」

「食べるものも」

「はい」

「文句言わないで」

「そこまで?」

「言うことなんだから聞きなさい」

「……」

 

 すごい。

 

「ドーベル」

「何」

「調子乗ってます?」

「乗ってない!」

 

 絶対乗っている。

 でも面白いのでそのままにしておくことにした。

 

 休日。

 待ち合わせ場所へ少し早めに着くと、ドーベルはすでに来ていた。

 制服でももちろん勝負服でもない。

 落ち着いた色の私服に身を包み、こちらに気づくと小さく手を上げる。

 

「遅い」

「まだ十分前ですよ」

「私の方が先だったから遅いの」

「横暴ですね」

「今日は私に任せるって言ったでしょ」

「言ったのドーベルですけどね」

 

 それより。

 

「今日も綺麗ですね」

「……」

「ドーベル?」

「……今日は、それ言われても動揺しないから」

「おお」

 

 すごい。

 

「GⅠを2勝するとそこまで強くなれるんです?」

「関係ないわよ! ただ、いつまでもあんたに好き放題言われっぱなしなのが嫌になっただけ!」

「じゃあ改めて。髪も綺麗ですし、その服もすごく似合ってます。色もドーベルの雰囲気に合ってますし、やっぱり顔がものすごくいいですね」

「……」

「目も」

「待って」

「はい?」

「一個ずつにして」

「やっぱり駄目じゃないですか」

「うるさい!」

 

 まだ完全ではなかった。

 でも、以前なら最初の一言で逃げそうになっていたので、成長ではある。

 

「行くわよ」

「はい」

 

 歩き出す。

 どこへ行くのかは教えてもらっていない。

 

「ちなみに予定は?」

「全部考えてある」

「全部?」

「そう」

「すごいですね」

「当然でしょ。私が誘ったんだから」

 

 鞄から小さなメモを出した。

 見る。

 

 時間

 店

 移動時間

 昼食

 休憩

 買い物

 

 かなり細かい。

 

「……」

「何よ」

「デートのしおり作ったんです?」

「ち、違う! 予定をまとめただけ!」

「それをしおりって言うんじゃ」

「違う!」

 

 顔が赤くなっている。

 どうやら増えた自信にも限界はあるらしい。

 最初に連れていかれたのは、少し大きめの商業施設だった。

 服、雑貨、化粧品、菓子。いろいろな店が入っている。

 

「まずここ」

「服?」

「そう」

「ドーベルの?」

「違う」

 

 ボクを指差した。

 

「あんたの」

「ボク?」

「前から思ってたんだけど、ホワイトって自分がかわいいって言う割には、普段着は割と無難なのよ」

「動きやすいので」

「そういうところよ」

「駄目です?」

「駄目じゃないけど、せっかくなんだからもっと色々着ればいいじゃない」

「なるほど」

 

 それは一理ある。

 そもそも母が何となく選んでるのを着てるだけだし。

 

「それで今日はドーベルが選んでくれる?」

「そう」

「自信あります?」

「あるわよ」

「年度代表ウマ娘になったから?」

「それ関係ない!」

 

 でも。

 

「任せなさい」

 

 かなり得意そうだ。

 店へ入り、ドーベルが服を選ぶ。

 

「これ」

「白?」

「あんた白ばっかりだから、これはなし」

「選んでから捨てないでくださいよ」

「こっち」

「かわいいですね」

「でしょう?」

「ドーベルとお揃いっぽい色にします?」

「っ」

「?」

「……それは、後で考える」

「はい」

 

 いくつも持ってきた。

 着る。

 

「どうです?」

「……」

「ドーベル?」

「似合ってる」

「ありがとうございます」

「でもこっちの方がいいかも」

 

 また渡される。

 着る。

 

「これは?」

「……いい」

「さっきより?」

「いい」

「じゃあこれにします?」

「待って。もう一着」

 

 完全に楽しんでいる。

 こちらも嫌ではないので好きにさせた。

 何しろ鏡の前で真剣な顔をしてボクの服を選んでいるのはメジロドーベルである。

 前世で馬を知っていたボクからすると、かなり贅沢な状況だ。

 

「ホワイト」

「はい」

「聞いてる?」

「聞いてますよ」

「じゃあどっちがいい?」

「ドーベルが選んだ方」

「自分の意見は!?」

「どっちもかわいいです」

「あんたはそういうところが……」

「それに」

「何」

「ドーベルが一生懸命選んでくれた服なら、どっちでも嬉しいですよ」

「……」

 

 止まった。

 

「どうしました?」

「……やっぱりこっち」

「急ですね」

「こっち!」

「はい」

 

 何かあったらしい。

 結局、一着買った。

 

 ボクが払おうとしたら。

 

「今日は私が出す」

「何で?」

「私が誘ったから」

「でも自分の服ですよ?」

「桜花賞の賞金も入ったし」

「調子乗ってますね」

「だから乗ってない!」

 

 押し問答になった末、服は自分で払った。さすがにそこまで全部任せるのは違うと思う。

 次は昼食。

 

「ここ」

「おしゃれですね」

「そうでしょう?」

「しおりに書いてありました?」

「しおりじゃない!」

 

 女性客の多い店らしく、ドーベルも比較的落ち着いている。

 席へ座り、メニューを見る。

 

「好きなの選んでいいわよ」

「ドーベルが決めるんじゃ?」

「私が決めたら本当に横暴な気がして」

「今さらでは?」

「帰る?」

「すみません」

 

 注文して料理が来る。

 

「美味しいですね」

「でしょ」

「ドーベルが作ったみたいな顔してますね」

「店を選んだのは私だから」

「本当に今日ずっと自信満々ですね」

「……悪い?」

「全然」

 

 むしろ全然いいと思う。

 

「桜花賞勝ったんですから、そのくらいしていいでしょう」

「……そう?」

「はい。G1ですよ」

「でもホワイトは朝日杯勝った時、そこまでじゃなかったでしょ」

「ボクは元から自信ありますから」

「そうだった」

「常時このくらいです」

「それもどうなのよ」

 

 次は雑貨屋。

 その次は菓子店。

 さらに本屋。

 本当に予定が組まれている。

 

「ドーベル」

「何」

「これ全部下見したんです?」

「……」

「した?」

「一回だけ」

「デートのために?」

「確認のため!」

「何の?」

「混み具合とか!」

「ものすごく楽しみにしてたんですね」

「違う!!」

 

 違わないと思う。

 でもボクも楽しい。

 振り回されている。

 今日はドーベルが行くと言ったところへ行く。

 入ると言った店へ入る。

 これを見ろと言われたものを見ている。

 それでも嫌ではない。

 美少女が楽しそうにしているのを見るのはそれだけで楽しい。

 その美少女がメジロドーベルならなおさらだった。

 何より

 普段は人の目を気にして

 こちらが一歩近づいただけで妙に慌てることもあるドーベルが

 今日はずっと自分から先に進んでいる。

 

 桜花賞。

 ティアラ三冠の初戦に勝ったことが本当に嬉しかったらしい。

 

「ホワイト」

「はい」

「次、あっち」

「まだあるんです?」

「あるわよ」

「しおり何時まで?」

「だからしおりじゃない!」

 

 次は小さなアクセサリーショップだった。

 ドーベルが棚を見る。

 

「これ」

「リボン?」

「そう」

 

 白地に緑の細いライン。

 

「ドーベルっぽいですね」

「……そう?」

「はい」

「じゃあ」

 

 少し迷って。

 

「つける?」

「ボクが?」

「嫌ならいいけど」

「いいですよ」

 

 受け取る。

 髪につけようとすると。

 

「待って」

「?」

「私がやる」

「お願いします」

 

 ドーベルが後ろに立つ。

 髪に触れる。

 少し時間がかかる。

 

「……」

「ドーベル?」

「動かないで」

「はい」

「……できた」

 

 鏡を見る。

 左耳についた緑と白のリボン。

 

「いいですね」

「うん」

「かわいい?」

「……」

「ボクはかわいいと思います」

「聞かないでよ!」

「ドーベルが選んだんでしょう?」

「そうだけど!」

「じゃあ似合ってない?」

「似合ってる!」

「ありがとうございます」

「……もう」

 

 買う。

 今度はドーベルが払った。

 

「これはプレゼントだから」

「おお」

「桜花賞のお祝いに付き合ってもらったから、そのお礼」

「ボク、何もしてませんよ」

「付き合ったでしょ」

「まあ」

「じゃあいいの」

「ありがとうございます」

 

 素直にもらう。

 ちょっと嬉しい。

 いや、かなり嬉しい。

 

 店を出る。

 ドーベルが止まった。

 

「……」

「どうしました?」

「人、多い」

「休日ですからね」

「そうじゃなくて」

 

 視線。

 周囲の何人かこちらを見ている。

 そりゃそうだ。

 桜花賞を勝ったばかりのメジロドーベル。

 ジュニア年度代表のピュアホワイト。

 二人で歩いている。

 しかも前に熱愛記事まで出ている。

 

「気づかれてますね」

「……そうね」

「戻ります?」

「……」

 

 少しだけドーベルの表情が硬くなる。

 でも。

 

「戻らない」

「大丈夫?」

「今日は私が決める日だから」

「そんな日だったんです?」

「今決めた」

「横暴」

 

 それからドーベルがボクの手を取った。

 

「……」

「……」

 

 手を繋がれた。

 

「ドーベル」

「何」

「今日は随分攻めますね」

「はぐれたら困るでしょ!」

「はぐれてもすぐ見つけられると思います」

「うるさい!」

 

 握る力が少し強くなる。

 

「嫌?」

「全然」

「……ならいい」

 

 歩く。

 視線が増えた気がする。

 まあいいか。

 ボクは特に困らない。

 ドーベルも今日は離さない。

 

「桜花賞ってすごいですね」

「何がよ」

「ドーベルが強気です」

「普段からこれくらいよ」

「嘘」

「嘘じゃない!」

「じゃあ今後も手繋ぎます?」

「っ」

「ドーベル?」

「……今日は」

「今日は?」

「今日だけ!」

「はい」

 

 本当に調子に乗っている。

 そのまま予定を最後まで消化した頃には、夕方になっていた。

 

「終わり?」

「……うん」

「楽しかったですね」

「本当?」

「はい」

「振り回しすぎたかと思った」

「振り回されました」

「やっぱり」

「でも楽しかったです」

「……そっか」

「また行きましょう」

「え?」

「嫌です?」

「嫌じゃない!」

 

 即答。

 

「じゃあまた」

「……」

「次は?」

「次?」

「ドーベルがまた全部決める?」

「……」

 

 少し考えて。

 

「今度はホワイト」

「ボク?」

「今日、私が連れて回ったんだから」

「はい」

「次はあんたが私を連れていきなさい」

「いいですよ」

「……軽いわね」

「行きたいので」

「っ」

 

 ドーベルの顔が赤くなる。

 

「どうしました?」

「何でもない」

「じゃあいつにします?」

「まだいい!」

「何で?」

「皐月賞あるでしょ!」

「ああ」

 

 忘れてはいない。

 忘れてはいないけれど。

 

「じゃあ皐月賞終わったら?」

「……」

「ドーベル?」

「勝ったら」

「はい?」

「皐月賞、勝ったらあんたが考えなさい」

「デート?」

「……そう」

「分かりました」

「ちゃんと考えてよ」

「任せてください」

 

 それならまた一つ勝つ理由が増えた。

 

「じゃあ皐月賞取ってきます」

「簡単に言うわね」

「取るつもりなので」

「……ほんと、あんたってそういうところ変わらない」

「ドーベルもでしょう?」

「私?」

「桜花賞の前はあんなに不安そうだったのに」

「うっ」

「今は『次はあんたが私を連れていきなさい』ですからね」

「……」

「すごい成長です」

「ホワイト」

「はい」

「最後に一発殴られたい?」

「遠慮します」

「なら黙って」

「はい」

 

 帰る。

 途中まで一緒に。

 そして別れる直前。

 

「ホワイト」

「何です?」

「今日は……ありがと」

「こちらこそ」

「あと」

「はい」

「皐月賞」

「はい」

「負けないでよ」

「もちろん」

「私、桜花賞ウマ娘なんだから」

「またそれ」

「友達が皐月賞で負けたら格好つかないでしょ」

「関係あります?」

「あるの!」

「分かりました」

 

 笑う。

 

「じゃあ勝ちます」

「……うん」

 

 ドーベルも少し笑った。

 随分偉そうになったものだ。

 

「……」

 

 髪についた白と緑のリボンを見る。

 

「楽しかったですね」

 調子に乗っているドーベルも

 かなりかわいかった。

 

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