「今度の休日、空いてる?」
授業が終わった直後。
帰り支度をしていたところで、ドーベルからそう声をかけられた。
「空いてますよ」
「じゃあ、その……」
そこで言葉が止まる。
珍しい。
以前ならドーベルがこういう反応をしても、人付き合いが苦手なのだろうと思った。
でも最近は少し違う。
例の男性トレーナーの一件以降、ドーベルは以前よりかなりボクの近くにいる。
昼食を一緒に食べる。
移動教室でも一緒。
トレーニングが終われば話しかけてくる。
なので。
少なくともボクへ話しかけること自体には、もうかなり慣れたと思っていたのだが。
「何です?」
「……うちに来ない?」
「うち?」
「メジロの家」
「……メジロの家」
思わず繰り返した。
メジロ家。
あのメジロ家である。
前世の競馬ファンだったボクにとっては、名前を聞くだけでいくらでも思い浮かぶ。
メジロラモーヌ。
メジロマックイーン。
メジロライアン。
メジロパーマー。
もちろんドーベルにブライト。
その他にも数え切れない名馬たち。
日本競馬史でも屈指の名門。
この世界でも当然のように名家として存在している。
「行きます」
「即答ね」
「興味ありますから」
「……メジロ家に?」
「はい」
「そう」
なぜ少し残念そうなんだろう。
「もちろんドーベルにも会いに行くんですよ」
「っ」
耳がぴんと立った。
「そ、そう」
「そもそもドーベルに誘われてるんですから」
「……そうだけど」
「?」
「なんでもない」
よく分からない。
そこへ後ろから、いつものゆったりした声が割って入った。
「まあ~。ホワイトさんも来てくださるんですねぇ~」
「ブライト」
ブライトがにこにこしながらこちらへ来る。
「今度のお休みに、お茶会をするんです~」
「お茶会」
「はい~。お菓子もたくさんご用意しますよぉ~」
「絶対行きます」
「お菓子で決めたの?」
「人聞きが悪いですね、ドーベル」
元から行く。
お菓子で優先順位がさらに上がっただけである。
「ホワイトさんは甘いもの、お好きですかぁ?」
「好きですよ」
「まあ~。私もです~」
「気が合いますね」
「ふふ~。嬉しいです~」
ブライトが少し距離を詰めてくる。
「特にお好きなものはありますかぁ?」
「そこまで気を遣わなくてもいいですよ」
「せっかくホワイトさんがいらっしゃるんですもの~」
「じゃあチョコレート系で」
「覚えておきますねぇ~」
にこにこ。
やっぱりブライトはこういう時に強い。
ふわふわしているので流されている感じが薄いのだが、気づけばこちらが頷いている。
横を見る。
ドーベルがブライトをじっと見ていた。
「どうしました?」
「別に」
「そうですか」
「……チョコね」
「はい」
「私も覚えたから」
「ありがとうございます」
そして休日。
指定された場所まで電車で向かい、そこから迎えの車へ乗った。
そこまではよかった。
問題はその後である。
「……」
窓の外を見る。
「……」
もう一度見る。
「……広くないです?」
「何が?」
「敷地です」
さっき門を通った。
そこから結構な距離を車で走っている。
なのにまだ屋敷へ着かない。
「普通じゃない?」
「普通の家は門から玄関まで車で移動しませんよ」
「そうなの?」
「そうですよ」
ドーベルが本気で不思議そうな顔をしている。
金持ち怖い。
「森がありますよ」
「庭よ」
「池も」
「庭」
「向こうにも建物がありますけど」
「別棟」
「……」
前世でもお金持ちはいた。というか今の両親も一般的に見たら結構お金持ちだ。
ただ、メジロの金持ち度はまるで違う。
体感するとスケールがおかしい。
前世のボクの家が何軒入るだろう。
やめよう。
虚しくなる。
やがて車が止まる。
見上げる。
「……これ、家?」
「家だけど」
「ホテルじゃなく?」
「違うわよ」
屋敷だった。
大きい。
とても大きい。
玄関だけで我が家の居間より広そうだ。
「ホワイトさん~」
その玄関前ではブライトが待っていた。
「いらっしゃいませ~」
「お邪魔します」
「本当に来てくださいました~」
「約束しましたから」
ブライトが嬉しそうにボクの両手を取る。
「今日はゆっくりしていってくださいねぇ~」
「ありがとうございます」
「ブライト」
「はい~?」
「いつまで握ってるの」
「ご案内しようと思いまして~」
「案内に手を握る必要ないでしょ」
「この広さなら必要かもしれませんよ」
「ホワイトまで!」
実際。
迷子になっても不思議ではない。
そのままブライトに手を引かれて歩き出す。
ドーベルが横からじっと見ている。
少しすると。
「ホワイト、こっち」
「はい?」
反対側の手をドーベルに取られた。
「?」
「……何」
「いえ」
左右から手を引かれている。
子供のようだ。
まあいい。
迷子にはならない。
屋敷の中も当然広かった。
長い廊下。
高い天井。
壁には絵画。
棚には素人目でも分かる高そうな調度品。
さらに途中には、歴代のメジロ家のウマ娘らしい写真まで飾られている。
「あ」
足が止まった。
「これ、マックイーンさん?」
「そうよ」
「若いですね」
「今も若いでしょ」
「そういう意味じゃありません」
写真の中のマックイーンはまだ幼い。
隣にも見覚えのある顔がある。
「うわぁ……」
これはすごい。
前世で競馬博物館へ行った時より興奮しているかもしれない。
何しろ展示物ではない。
本人たちの家に、家族写真として飾られている。
「ホワイトさん、とっても楽しそうですねぇ~」
「楽しいですよ」
「メジロがお好きなんですかぁ?」
「かなり」
前世基準なら。
ブライトが嬉しそうに笑った。
「では、私のこともお好きですかぁ?」
「はい」
普通に答える。
ブライトが一瞬だけ止まった。
「……ブライト?」
「ふふ~」
「何です?」
「なんでもありません~」
なぜかとても嬉しそうだ。
反対側。
ドーベルもこちらを見ている。
「ドーベルも好きですよ」
「なっ」
「聞かれる前に答えておこうかと」
「そ、そういう問題じゃ……」
顔が赤い。
何かおかしかっただろうか。
友達として好きなのは普通だと思うのだが。
「ホワイトさんは罪深いですねぇ~」
「何がです?」
「ふふ~」
「ブライト、変なこと言わないで!」
やっぱりよく分からない。
そして。
案内された部屋へ入ったところで、ボクはまた足を止めた。
大きな窓から入る午後の日差し。
白いクロスを掛けられた丸いテーブル。
その中央には、銀色に輝く三段のケーキスタンド。
一番下には、小ぶりなサンドイッチが種類ごと綺麗に並んでいる。
二段目には、焼き色の美しいスコーンと焼き菓子。
一番上には、小さなケーキやタルト、艶のあるチョコレート菓子。
横にはジャムとクロテッドクリーム。
季節の果物。
さらに何種類もの茶葉と、どう見ても高級そうなティーセット。
「……本物だ」
「何が?」
ドーベルが首を傾げる。
「アフタヌーンティーです」
「そうだけど」
「本当に三段になってる」
「普通でしょ?」
「金持ちの普通を一般常識にしないでください」
前世でもアフタヌーンティー自体は知っていた。
写真で。
実物を見るのは初めてだ。
ホテルでお茶とお菓子にそれなりの金額を払う趣味など、前世のボクにはなかった。
まさか転生して、メジロ家で初体験することになるとは。
人生とは分からない。
「ホワイトさん、こちらへどうぞ~」
「はい」
席につく。
給仕の人が紅茶を淹れてくれる。
香りがいい。
カップも絶対高い。
落としたらどうなるのだろう。
考えない方がいい。
「ホワイトさんがお好きだと伺いましたので、チョコレートのお菓子も多めにしていただきました~」
「本当に用意してくれたんですね」
「もちろんです~」
「ありがとうございます」
目の前には艶のある小さなチョコレートケーキ。
見るからにおいしそうである。
さて。
まずはこれから。
そう思ってフォークへ手を伸ばすと。
「ホワイト」
「はい?」
ドーベルが先にフォークを取った。
チョコレートケーキを一口分切る。
そして。
そのフォークをボクの方へ向けた。
「……あーん」
「……」
見る。
ケーキ。
ドーベル。
もう一度ケーキ。
「何してるんです?」
「見れば分かるでしょ」
「あーんですね」
「そうよ」
「なぜ?」
「……意趣返し」
「意趣返し?」
何か恨まれることをしただろうか。
考える。
最近。
ドーベル。
食事。
あ。
「前にボクが食べさせたから?」
「そう!」
顔が少し赤い。
「あの時、散々あーんってやったでしょ」
「手が震えてたからですよ」
「理由は関係ないの!」
「そうです?」
「今日は私がやる番」
なるほど。
あの時のお返しらしい。
とはいえ。
あの日のドーベルは自分で食べられなかったからボクが食べさせただけだ。
特に仕返しされるようなことをした覚えはないのだが。
「ほら」
「あーん」
「……!」
口を開ける。
ケーキが入る。
濃厚な甘さが広がった。
「おいしい」
「……そう」
ドーベルの耳が嬉しそうに動いた。
「ドーベル」
「何?」
「意趣返しなら、ボクが喜んだら失敗じゃないです?」
「うるさい!」
どうやらそこは考えていなかったらしい。
かわいい。
「まあ~」
向かいで見ていたブライトが、楽しそうに笑う。
「そういうことだったんですねぇ~」
「ブライト?」
「以前、ホワイトさんに食べさせていただいたんですかぁ?」
「……まあ」
「食事の介助ですよ」
「ホワイト!」
「事実でしょう?」
何を慌てているのだろう。
「それなら私もやってみたいです~」
「何でそうなるのよ!」
「楽しそうですもの~」
ブライトもフォークを取った。
今度は小さなタルト。
「ホワイトさん、あ~ん」
「ブライトまで?」
「はい~」
「まあいいですけど」
食べる。
「あーん」
ぱくり。
「いかがですかぁ?」
「これもおいしいです」
「まあ~。よかったです~」
ブライトが満足そうに笑う。
「ちょっと」
「はい~?」
「何でブライトまでやってるのよ」
「便乗です~」
「堂々と言わないで!」
ブライトは強い。
そして。
「ホワイト」
「はい?」
「次これ」
「まだ意趣返し続くんです?」
「当然でしょ」
ドーベルがスコーンを小さく切る。
クロテッドクリームを乗せる。
「あーん」
「あーん」
ぱくり。
「ホワイトさん、こちらもどうぞ~」
「今度はブライト?」
「あ~ん」
「あーん」
ぱくり。
「じゃあ次これ」
「ドーベル」
「あーん」
「あーん」
ぱくり。
ドーベル。
ブライト。
ドーベル。
ブライト。
気づけば交互になっていた。
「あの」
「何?」
「はい~?」
「意趣返しって、いつ終わるんです?」
「……」
「ふふ~」
「ドーベル?」
「……もう少し」
「なんか目的変わってません?」
「変わってない!」
絶対変わっている。
ブライトに至っては最初から意趣返しですらない。
「ホワイトさん、次はこちらを~」
「はいはい」
「あ~ん」
「あーん」
食べる。
おいしい。
なので別に困ってはいない。
「ホワイト、こっちも」
「あーん」
「あーん」
食べる。
「……なんかドーベル、慣れてきましたね」
「ホワイトが素直に食べるからでしょ」
「食べ物に罪はないので」
「そういうところよね……」
何がだろう。
その後もしばらく。
自分でも食べ。
ドーベルから食べさせられ。
ブライトからも食べさせられた。
アフタヌーンティーとは、こういうものではなかったはずだ。
多分。
メジロ式というわけでもないだろう。
多分。
ただ。
ドーベルは明らかに楽しそうだ。
あの時は手を震わせながら食べていた。
それを思えば。
今こうして笑っているだけでもいいことだろう。
「ホワイトさん、よく召し上がりますねぇ~」
「食べるのもトレーニングなので」
「そうなの?」
「ブルボンさんにいっぱい食べろと言われています」
「太ったりしないの?」
「それ以上に動かされますから」
「……大変ね」
「慣れました」
量そのものを注意されることはほぼない。
むしろ少ない方が問題になる。
食べろ。
走れ。
寝ろ。
基本はこれだ。
ただしブルボンさんが細かく見るのは内容である。
炭水化物。
タンパク質。
脂質。
ビタミン。
ミネラル。
その他諸々。
消費した分だけ大量に食べる。
そして必要なものを全部摂る。
「じゃあ甘いものばっかりでもいいの?」
「それは駄目です」
「怒られる?」
「怒られはしません」
「そうなんだ」
「不足した栄養を補充されます」
「補充?」
「ロイヤルビタージュースで」
「……何それ」
ドーベルが怪訝そうな顔をする。
「ものすごく栄養価の高いジュースです」
「まあ~。身体によさそうですねぇ~」
「とてもまずいです」
二人が黙った。
「とても」
「二回言ったわね」
「重要なので」
あれはジュースを名乗ってはいけないと思う。
以前ブルボンさんへ味について抗議したところ、
『摂取効率に味覚評価は含まれていません』
と言われた。
含めてください。
「だから今日は甘いものだけじゃなく、サンドイッチも果物もちゃんと食べます」
「なるほどね」
「ビタージュース回避のためです」
「すごい理由ですねぇ~」
「飲めば分かりますよ」
「遠慮するわ」
「私も遠慮します~」
賢明である。
ケーキ。
サンドイッチ。
果物。
順番に食べる。
すると。
「ホワイト」
「はい?」
「こっちも」
「サンドイッチまであーんするんです?」
「……悪い?」
「いえ」
フォークではなく手で持った小さなサンドイッチを差し出される。
「あーん」
「あーん」
食べる。
「どう?」
「おいしいです」
「……そう」
やっぱり嬉しそうだ。
「ではホワイトさん、果物も~」
「ブライトも続けるんですね」
「はい~」
「あーん」
食べる。
甘い。
「これだとボクほとんど自分で食べなくてもよくないです?」
「別にいいでしょ」
「楽でいいですけど」
「……なら黙って食べて」
「はい」
ドーベルの意趣返しは。
どうやらボクを楽させる方向へ進化したらしい。
食事が一段落すると、自然と学園の話になった。
授業。
寮生活。
トレーニング。
そして選抜レース。
「ホワイト」
「はい?」
「あんた、また速くなってるわよね」
「そうですか?」
「そうよ」
ドーベルの表情が少し真剣になる。
「入学試験の時より明らかに」
「毎日鍛えてますから」
「それにしたって……」
ブライトも紅茶を飲みながらこちらを見る。
「ホワイトさんは、伸びるのがお早いですねぇ~」
「そうみたいですね」
自分でも感じている。
最初に競った時。
タイキには加速と最高速度。
ドーベルには瞬間的な切れ味。
ブライトには長く伸び続ける末脚。
それぞれ明確にボクより上の部分があった。
でも今は違う。
少なくともあの時の三人を相手にするなら、かなりの部分でボクが上回っていると思う。
そして。
それを三人も理解している。
選抜レースを見たからこそ。
「ドーベルはトレーナー、決まりました?」
「……まだ」
「慎重ですね」
「前より慎重にはなった」
一瞬だけ。
ドーベルの表情が曇る。
あの男性トレーナーのことだろう。
でもすぐこちらを見る。
「でも、それだけじゃないから」
「?」
「ホワイトのせいでもある」
「ボク?」
心当たりがない。
「選抜レース」
「ああ」
「あれ見て、ちゃんと選ばないとって思ったの」
「元からちゃんと選ぶでしょう」
「そういう意味じゃなくて」
ドーベルが少し身を乗り出す。
「本気で勝ちたいの」
「ボクに?」
「……それも」
頬が少し赤い。
なぜレースの話で照れるのだろう。
「いいですね」
「何が?」
「ドーベル、もっと強くなるんでしょう?」
「そのつもり」
「楽しみです」
本心である。
今でもドーベルの切れ味は怖い。
あれがさらに磨かれる。
想像するだけでも面白い。
「絶対負けませんけど」
「……ホワイトって本当にそういうところよね」
「何がです?」
「なんでもない」
ブライトを見る。
「ブライトは?」
「私ですかぁ?」
「トレーナー」
「いろいろな方とお話はしていますよぉ~」
「まだ決めてない?」
「そうですねぇ~」
ブライトがゆっくり紅茶を飲む。
「ホワイトさんを見ていると、もっといろいろできそうな気がしてきまして~」
「ボクを?」
「はい~」
にこにこ。
でも目はこちらをしっかり見ている。
入学試験の時と同じだ。
この人はふわふわしているようで、かなり周囲を見ている。
「今のままでも走れますけれど~」
「はい」
「もっと速くなったら、ホワイトさんはどんなお顔をされるのかなぁと思いまして~」
「喜びますよ?」
「まあ~」
「強い人と走るの好きですから」
「では、頑張らないといけませんねぇ~」
ドーベルは真っ直ぐ。
ブライトは柔らかい。
でも。
根っこは同じなのかもしれない。
二人とも。
勝ちたいのだ。
それが嬉しい。
「ところでホワイトさん」
「はい?」
「タイキさんとは、とても仲がよろしいんですよねぇ~」
「ルームメイトですから」
「先日もお二人でお出かけされたとか~」
「よく知ってますね」
「学園で少しお話になっていましたよぉ~」
ああ。
あの服か。
ものすごく目立った自覚はある。
「デートだったんですって?」
「タイキはそう言ってましたね」
「……そう」
「デートですかぁ~」
何となく。
二人の空気が少し変わった。
「友達と遊びに行っただけですよ」
「タイキは?」
「友達ですよ」
「そう」
ドーベルの耳が少し上がった。
何か嬉しいことがあったのだろうか。
「では~」
「はい?」
「今日もデートですねぇ~」
「え?」
ブライトを見る。
「ホワイトさんは休日に私たちのお家へいらして、一緒にお茶を召し上がっております~」
「そうですね」
「でしたらデートです~」
「メジロ家ではそういう定義なんです?」
「ふふ~」
分からない。
タイキも同じことを言っていた。
もしかしてボクが知らないだけで、この世界では女の子同士で休日を過ごすことも普通にデートと呼ぶのだろうか。
前世の常識をそのまま当てはめる方がおかしいのかもしれない。
「じゃあデートでいいですよ」
「っ」
「まあ~」
二人とも妙な反応をした。
「何です?」
「いや……ホワイト、本当に……」
「?」
「なんでもない!」
ドーベルが紅茶を飲む。
耳まで赤い。
「ホワイトさん」
「はい?」
「では今度、私と二人でもデートしていただけますかぁ?」
「いいですよ」
「ブライト!」
ドーベルが即座に声を上げた。
「はい~?」
「何さらっと誘ってるのよ!」
「お誘いしたかったので~」
「だからって!」
「では、ドーベルも誘えばよろしいのでは~?」
「それは……」
ドーベルがこちらを見る。
さっきまでブライトへ文句を言っていた勢いが急に消えた。
「……ホワイト」
「はい?」
「今度、その……」
「はい」
「二人で出かける?」
「いいですよ」
「……即答」
「嫌なんです?」
「嫌じゃない!」
なら問題なし。
「じゃあ約束ですね」
「……うん」
小さく頷く。
嬉しそうだ。
「私とのデートも約束ですよぉ~」
「もちろん」
「ふふ~。楽しみです~」
休日の予定が二つ増えた。
友達が増えるのはいいことである。
その後もお茶会は続いた。
そして。
「ホワイト」
「はい?」
「あーん」
「まだ意趣返し続いてたんです?」
「悪い?」
「いえ。あーん」
ぱくり。
「ホワイトさん、こちらも~」
「あーん」
ぱくり。
「……もう普通に食べさせるのが目的になってません?」
「気のせい」
「そうですか」
「そうよ」
明らかに違う気がする。
まあ。
二人とも楽しそうなのでいいだろう。
やがて帰る時間になった。
玄関まで二人が見送ってくれる。
「今日はありがとうございました」
「また来て」
「ぜひ」
「次はもっといろいろご案内しますねぇ~」
「楽しみにしてます」
ブライトがボクの手を両手で包む。
「約束ですよぉ~」
「はい」
「……ブライト、近い」
「そうですかぁ?」
「そうよ」
ドーベルが間へ入ってくる。
そして。
ブライトの手からボクの手を取る。
「じゃあホワイト、また学園で」
「はい」
握ったままである。
別にいいけど。
そうだ。
「ドーベル」
「何?」
「今度のデートも楽しみにしてますね」
「っ!?」
一瞬で顔が真っ赤になった。
「な、なんでその言い方するのよ!」
「ブライトがデートって言ってたので」
「ああもう!」
なぜ怒られた。
ブライトはとても楽しそうだ。
「私とのデートも忘れないでくださいねぇ~」
「忘れませんよ」
「ふふ~。嬉しいです~」
車へ乗る。
窓から二人へ手を振る。
広い屋敷が少しずつ遠ざかっていく。
本当に広かった。
アフタヌーンティーもおいしかった。
ドーベルとブライトとも、前よりさらに仲良くなれた気がする。
特にドーベル。
あの一件の直後はずっとボクへくっついていたけれど。
今日は元気だった。
あーんまで仕返ししてくるくらいには。
それなら大丈夫だろう。
それに二人ともレースへ本気になっている。
次に一緒に走る頃には。
もっと強くなっているはずだ。
楽しみである。
ただ。
一つだけ気になる。
タイキといい。
ブライトといい。
ドーベルといい。
最近やたら『デート』という言葉を使う。
「……最近の女の子は、友達と遊ぶのもデートって呼ぶんですかね」
前世ではあまり聞かなかった気もする。
文化の違いか。
世界そのものが違うから、その辺りの常識も違うのかもしれない。
まあ。
意味が通じれば問題はない。
タイキと遊ぶのも楽しかった。
今日も楽しかった。
友達が増えるのはいいことである。
歴史的名バたちと一緒に走れるだけでなく。
こうして普通に遊ぶことまでできる。
やっぱり。
ボクはかなり運がいい。