とんでもスキルで異世界ハンターメシ 作:鮮血ラーメン
男はその日も、依頼を受けてドスファンゴ狩りをしていた。
彼はG級になって久しいが、ハンターになりたての頃からブルファンゴの横槍には悩まされてきた。爆弾を置いていても突進、卵を運んでいるときも突進、突進突進突進。
千里眼でも持ってるのかというほどに感知範囲が広く、一撃で倒れるほどヤワではない。
ハンターが自分よりはるかに強いモンスターと戦っていて、割り込んだら死が確定しているのに突っ込んでくるのはいっそ清々しい大和魂の持ち主と言えよう。
「止めだッ」
「ピギィッ……!!」
だからハンターは今日も今日とてドスファンゴを狩り恨みを晴らしていた。ファンゴはイナゴのように邪魔くさくてタケノコみたいに生えてくると俗説があるほどにいくらでも湧いてくるのでどれだけ狩っても全く可哀そうに思わなかった。イノシシ死すべし、慈悲はない。
全身から出血し、トドメに心臓を一突きされたドスファンゴはふらふらと歩調を刻んで重い音を立てて倒れる。
「成果はまずまずってところか…」
今回仕留めたのはドスファンゴの中でも小さめのサイズだ。若い個体なんだろうか、あまり肉の量には期待できそうにない。
まあ、肉にはまだまだ余裕があるので大丈夫だが。
「テント片付けよ」
今晩はこんがり肉に決定だと考えつつ、剥ぎ取りを済ませたハンターは狩り場を離れた。
絶対に変だと考え出したのは、しばらく歩いてもマイハウスどころか町並みさえ見えてこない辺りからだった。
ぶっ通し歩き続けたが、ここまで地形が見慣れないものだと嫌でも異常事態を察してしまう。
導蟲は腰の虫かごに引きこもったままだ。こういう時仕事をしてくれないと困るのに。
時刻はもうすぐ夜である。空は暗い色に染まり、夕日が男の焦りなど気にもしないで沈んでいく。
「まずいぞ」
なぜか兜のバイザーを手の甲でコツンと叩き、それから苦笑してバイザーを上げ冷や汗を拭う。
その時だ、導蟲が不安そうに縮こまって震え出した。
何事かと視線を動かし、息を呑む。
眩しいほどの白銀の毛並み。
紅氷花を思わせる、薄暗がりの中でも赤く輝く優美な四肢。
偉大とすら表現できるほど見事な毛並みの、大狼。
──ゴクリ、と喉が鳴る。
「じ、ジンオウガか……?」
それにしてはジンオウガ特有の甲殻や、角が無いような。それどころかちらりと見えた限りでは雷光虫を取り巻いてすらいなかった気がする……
だがそんなことはどうでもいい。
ハンターは一瞬迷うふりをして、その後を追った。
その目は興奮に輝いていて、さっきまで帰り道を探そうとしていた焦りはどこにもない。
元々、彼はそういう人間だった。
自分が窮地にあっても、強そうなモンスターを見つけたら喧嘩を売る。そんな奴なのだ。
狼の背後を追っていくと、ハンターの鼻をある匂いがくすぐるようになる。
スパイスが利いてて甘辛い、生唾がこみ上げるような匂い。
ドスファンゴと戦ってる間は携帯食ばかりかじっていた(しかも一口食べる度にガッツポーズをしなければいけない旧式のヤツ)ので、温かい食事の気配に胃袋が目敏く反応する。
「だめだめ、食事なんてしてる暇なんてないぞ。あのモンスターが人に危害を加えるかもしれないしな……おっと」
モンスターが走る速さを上げたので、ハンターも駆け足になった。
『人間よ、我にもそれを食わせ……ぬ? お主、まだあきらめていなかったのか』
ハンターが出たのは小さな野営地。真っ青な顔をした一般人が六人、新参者の来訪に驚いていた。
「に、にん……げん?」
「誰だ……?」
「フェンリルを追ってきたのか……なんと命知らずな」
『おい人間、聞こえないのか』
「はっはひ! ただいまッ!!」
黒髪で、凡庸とした顔の青年がビクリと竦んで何やら焼いた肉を持ってくる。
フェンリルとかいう狼はガツガツとそれを平らげ『美味いが足りぬ。もっとよこせ』と催促した。
ハンターは忍び足で五人に近づき、リーダー格らしい男性に話しかけてみた。
「なあ、あのモンスター放置していいのか? がっつり餌付けされちゃってるじゃないか」
「倒すだって、とんでもない…… 一国を滅ぼしたモンスター相手にそんなことできるか」
「……あー、国を滅ぼすって古龍みたいなものか」
「…なぜ古竜を知っている?」
「お金に困ったらしょっちゅう狩るぞ。
彼らは黙り込んだ。
そうこうしているうちに、フェンリルは食事を終えたようだ。
巨狼は満足そうにげっぷし、瞬歩の種でもガンギメしたのかというほどに高速で料理を作っていた男は、正反対にカラカラに干からびていた。
『ゲプッ、美味かったぞ』
「そ、それはどうも……」
『……うむ、よし。お主と契約してやろう』
「…………へ? けい、やく?」
『お主と従魔契約してやろうと言うのだ』
五人組がどよめいた。どういう状況なのかはわからないが、なんだかやばいことになってきたんじゃないかとハンターも焦りだす。
「けっ契約だって……!? あのフェンリルと!?」
「長生きはするものだな……」
「なあ!あの! ……どういうことなのか説明してくれないか?」
「ムコーダさんがフェンリルと契約することになったんだよっ! 伝説の魔獣とだよ!? 信じられない! そんなのあたい見たことないよ!」
「ああ、およそ信じられぬ……」
ムコーダがあの人の名前だと仮定すると同時に、『ジューマケイヤク』とはオトモンみたいなものなのかとハンターは推理した。それと同時に『ラージャンをオトモンにしようとして殴り殺されたマヌケ』の顔を何人か思い出していた。
ムコーダなる男の人はさんざん遠慮した末に半ば押し切られる形で契約を終えた。
あれこれ提案された末に名前を決め、フェンリルこと『フェル』は『それでは三度の食事、期待しているぞ』と言い放つ。
「………は?」
その言葉に呆気にとられたムコーダを放置して、フェルはハンターに目を向けた。食事に釣られて契約を交わした方と食事でとんでもないモンスターをオトモンにしてしまった方、ちょろいのはどっちなんだろうなとぼんやり考えていたハンターは反射的に身構えそうになった。
『ところでそこのお主、闘志を丸出しに我に付いてきたようだがどうする? 戦うと言うのなら引き受けてやってもよいぞ』
「いや…… 言葉が通じて無害なら戦う気なんて起きないよ。さっきはごめん」
『フンッ、それなら許してやろう』
ハンターは両手を上げて、己の無害さをアピールした。自分の闘志を察知できるほどの力量の持ち主なら
「それより、なああんた、ムコーダさんだな。えっと、俺はハンターって言うんだけど… 見たところ狩人じゃなさそうだな、どこに行くつもりだ?」
「ハンター? 狩人? ……この先のレイセヘル王国の国境を越えてフェーネン王国に入るつもりですが」
聞き覚えの無い単語に首を傾げながらも、とりあえず都市部に行けるならどれでも一緒かとハンターは思い切って持ち掛けた。
「なあ、その旅に俺も混ぜてくれないかな」
「え、でも……」
「タダでなんて言わないさ。今あまり手持ちがないんだけど、この中に入ってるゴヒャクエン玉、みんな売れば十万
「えっ十ま……ごっ、五百円????」
ムコーダは何が琴線に触れたのか、ずっしりとした袋の重みよりも、いまハンターが口走った言葉に絶句していた。
が、当のハンターはさして気にも留めていなかった。これも現状把握のため、町に出られるならどんな手段だっていい、と藁にもすがる思いで。
「わかりました。……でっでもまだ条件があります」
「なんでも聞くよ、
ムコーダはフェルたちに見守られながら木陰にハンターを連れ込み、すうはあと深呼吸をした。
……ざあ、と冷たい風が木を揺らした。
ムコーダが、その口を開く。
「日本という国を、ご存じないですか?」
「ごめん知らない」