とんでもスキルで異世界ハンターメシ 作:鮮血ラーメン
フェンリルのフェルが仲間に入ってから数日経った。
ハンターは今、ムコーダが雇ったパーティ──
リーダーからヴェルナー、ヴィンセント、ラモン、フランカ、リタという名であるらしい。
ハンターは縁起が悪いから四人以上パーティを組まないが、こちらではそうでもないようだ。
彼らの護衛対象であるムコーダは真ん中で、フェルは彼らの後ろをのっそのっそと歩いている。ハンターはそこから少し離れたところをついていっていた。ギルドカードすら身分証明にならないのだ、そんな怪しさの塊な自分の同行を許してくれたんだから破格の待遇だと彼は納得している。
他の旅人が、ぎょっとした顔で一同を見つめていた。
「なあムコーダさん、大丈夫か?」
「うう……大丈夫じゃないです……」
ヴェルナーがムコーダを気遣っている。
にが虫を口いっぱいに放り込んで噛み潰したばかりか水も使わず飲み干したような、もの悲し気な雰囲気を彼は放っていた。
『カムラの里とか火の国とかは知ってるけどニホンは知らないな。知ってたとしてもどうやってここに来たのかわからないし』
ニホンなる国がどんな場所なのか説明を受けた上で正直に打ち明けた時のムコーダの表情といったら無かった。自分とはまた違う理由でこの世界にやってきた人間へ、仲間だと思って秘密を話したら全然無関係だったと言われたらショックも受けるだろう。それを可哀そうだと思いながらも、知らないものは仕方ないじゃないかとハンターは内心自己弁護をしていた。
(転移者……か)
ニホンという異世界から呼び出され、いろいろあって逃げ出したそうだ。
異世界から異世界に渡った? およそ正気を疑うことだが、ミラボレアスにまつわる御伽話よりはムコーダの言い分のほうがまだ理解できる。
いや、それより。
(俺が持ってた換金アイテム……全っ然使い物になんないんだなー……)
総額を伏せてゴヒャクエン玉を見せたところ「そんな素材は見たことが無い」と言われてしまった。見たことのない素材は鑑定スキルを持つ人間に見せなければ価値を判別できないとも。
ゼニーも恐らく使う事の出来ない貨幣だと言われたハンターは、それじゃあこの土地じゃ無一文じゃないかと軽く絶望しそうになった。
食料の類はほとんど手付かずだったからいいものを、このままでは職にあぶれて餓死を待つばかり。
(まー……冒険者? になればいっか……)
まあ、なんとかなるだろう。
どうやらこの世界ではハンターの代わりに『冒険者』が働いているらしい。
聞いてみると、冒険者のやってることは大体ハンターと同じだ。モンスター退治、素材納品、その他もろもろ。
それなら自分でも生きていくことは難しくあるまい。冒険者になること自体は簡単だそうなので、元の世界に帰る手段が見つかるまで頑張って働けばいいのだ。というか、現状そうするしかない。
『おいお主』
「え、はい」
いつの間にか横に並んでいたフェルに考え事から引き戻される。
『お主の武具、嗅いだことのない匂いがするな』
「ああ、これ? ええと、リオレウスの素材で作ったんだ。リオレウスは……飛竜種のモンスターだよ」
ハンターは、赤い装甲をコツコツと叩いた。
『ひりゅう……ふむ、ワイバーンの類だな?』
「あーっと、まあそんな感じ」
わいばあんってなんだろうとハンターは思っている。
『ふむ、なかなか名うての狩人と見受ける。どうだ? 機会があれば我と手合わせするというのは』
「アハハ……いや結構です……」
ハンターはバイザーの奥で力なく笑った。数日間同じ釜の飯を食べて過ごした相手を殺すのはさすがに気が引ける。
「それにしてもフェルさん、あんたたちフェンリルが一国を滅ぼしたって本当なのか?」
どうしても気になったので聞いてみた。国を滅ぼしたモンスターはたくさんいたが、どれも山のように巨大だった。それに対して、見上げているフェンリルはざっくり見積もってもドスファンゴより大きいくらいである。
とはいえサイズ=力の強さなわけではなく、生ける災いのようなモンスターを剣一本で屠る
『我らを災害と同じ扱いをするのはいただけぬな。我の前に国が立ちふさがったから滅ぼしたまでのこと』
「へぇ」
『この我に手を出そうという不埒な輩は、みな滅べばいいのだ』
血の気が多いなあとハンターは苦笑いする。人間への敵愾心が剥き出しのモンスターなんて慣れたものだ。
『そんなことよりもそろそろ飯の時間ではないか? どれ、主をせっつきに行くとするか』
そう言って、フェルはムコーダの方へ歩みを進める。
食いしん坊の腹時計は正しいもので、太陽は真南に座していた。
「やばいなぁ……」
ムコーダが食事を用意している間、やることもないので武器の手入れをしていたハンターはふとそんな声を拾った。
「どうしたんだ、ムコーダさん」
「んいや、レッドボアの肉がそろそろ無くなりそうで……」
「あー、フェルさんがめっちゃ食べるからなぁ。よし、それなら俺のを使えばいいよ」
「え、そんなことは……」
「いいのいいの。ずっと使わないままじゃもったいないしな」
そう言ってハンターは、生肉を三つほど取り出した。
「うん、これだけあれば大丈夫だろう」
小さなポーチからネコ型ロボットよろしくに取り出された、巨大な生肉を目の前にズドンと置かれたムコーダは、まるで宇宙は成長することを教えられた学生のような顔で立ち尽くしていた。
「これだけあれば、みんなお腹いっぱい食べられるだろ。……ムコーダさん?」
ムコーダははっとした。
「はい、照り焼きとスープお待ちどうさまです」
「うひょーっ。待ってたぜ」
「こら、ヴィンセント。食器を落とすぞ」
芳醇な香りを放ちながら運ばれてきた料理を前に、思わず小躍りしたヴィンセントがヴェルナーにたしなめられた。
たしかにこんなに美味しそうな料理を前にしたらみんなそうなるよな、と微笑ましくなるハンター。彼もコックアイルーの料理を待っているときにはしたなくもカトラリーでテーブルをガンガン叩いてしまっていたので。
照り焼きは表面がカリカリに焼けていて、香ばしい皮の嚙み心地がいい。オニオニオンの匂いがするスープは疲れた体に染み渡るようだ。
「はぁ、美味い」
「本当ね。旅の中で温かいものが食べられるなんて幸せなことだわ」
ひとりごつハンターに、フランカが相槌を打つ。
それに首を振って返したハンターは、つと視線をムコーダへと向けた。
彼はまだ自分の分に手を付けておらず、忙しそうにフェルの食事を作っていた。どう見ても、人手を欲している状態だ。
ハンターは照り焼きとスープを食べ終わり、彼の方へ向かった。
「ムコーダさん、よければ手伝おうか?」
「いえ、一人のほうがやりやすくていいんです」
「そうなのか? ……じゃあ、手を貸してほしい時は言ってくれよ。皿洗いくらいならできるから」
あまりしつこくてもよくないから、ハンターは素直に引き下がることにした。
そしてその場を離れたハンターに、「俺のスキルを知られるわけにはいかないからな……」という彼の呟きが届くことはなかった。