伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
月並みな表現だが俺は転生者である。
前世では特別な才能があったわけでもない。
世界を救った英雄でもなければ、歴史に名を刻む偉業を成したわけでもない。
ただ漫画とアニメが好きなだけの、どこにでもいる平凡な日本人だった。
そんな俺が死んで、気が付けば『呪術廻戦』の世界へ生まれ変わっていた。
しかも伏黒恵として。
呪術高専の生徒にして虎杖悠仁の相棒となる少年。
宿儺に身体の主導権を奪われ、義姉の津美紀と恩師?の五条悟を失い、絶望の底へと突き落とされる道化。
なんやかんやあって生き残るとはいえ、転生先としては最悪の部類だ。
なぜ俺が伏黒恵になったのかは分からない。
神様の気まぐれか、それとも単なる偶然か。
理由を考えたところで答えは出ないだろう。
重要なのは原作知識があることだ。
このまま順当に進めば残酷な未来が待っている。
だったら全力で抗うしかない。
せっかく手に入れた2度目の人生だ。
好き放題に生きて運命を捻じ曲げてやる。
その為に必要なのは圧倒的な強さだ。
生半可な実力では話にならない。
幸いなことに伏黒恵として生まれた俺には十種影法術が備わっている。
五条悟が大きな期待を寄せ、宿儺が執着した禪院家相伝の術式。
潜在能力は疑うまでもない。
しかし本来の伏黒は最後までその真価を引き出すことは出来なかった。
ならば話は簡単である。
原作知識を活かして十種影法術を極めれば良い。
最終目標は魔虚羅の調伏だな。
あの化け物を従え、なおかつ単独で倒せるだけの実力を身に付ければ、大抵の相手なら余裕で倒せるだろう。
一応、攻略法は考えている。
ただし成功する保証はない。
「オラァッ!」
「ギャッ!」
踏み込みと同時に拳を振り抜いた。
すると相手は情けない悲鳴を上げながら尻餅をつく。
前世の記憶を思い出してから月日が経ち小学1年生になった。
今は日課の喧嘩を行っている。
前世が平凡な日本人だったとは思えない行動だな。
呪術師は術式だけで戦う存在ではない。
むしろ最後に物を言うのは殴り合いの強さだ。
現に五条悟も「基礎でゴリ押しされる方が怖い」と言っていた。
式神使いだからといってフィジカルを疎かにする理由はどこにもない。
だから俺は喧嘩を通じて実戦経験を積んでいる。
「ヤロー! 1年の癖に!」
「よっちゃんに言いつけたる! よっちゃん超ツエーんだ!」
「明日になったら覚えてろ!」
奴らは捨て台詞を残して一目散に逃げていく。
喧嘩の相手は基本的に上級生だ。
さっきの連中は年下の子供を取り囲んでカツアゲをしていた。
ブン殴る相手は悪人だけ、それが俺なりのルールである。
もちろん俺から仕掛けたことは一度も無い。
そんなことをすれば補導されてしまうからな。
だとしても喧嘩は喧嘩なので俺の評判は最悪だけどな。
今日も今日とて津美紀から拳骨を喰らうのだろう。
まあ痛みに耐える訓練にもなるので悪くはない。
「いやぁ……思ったよりも問題児だね。顔もそうだけど父親に似たのかな?」
背後から声を掛けられた瞬間、全身の毛が逆立つ。
今まで相手にしてきた奴らとは比較にもならない。
背中越しでも分かるほどの圧力に本能が警鐘を鳴らしていた。
間違いない。
こいつは術師だ。
俺は転生してから喧嘩に明け暮れていた。
高校生の不良を返り討ちにしたことも一度や二度じゃない。
恨みを買って呪詛師を差し向けられても不思議ではないだろう。
しかも実父の伏黒甚爾を知っているかのような口ぶりだ。
明らかにカタギではない。
「出て来い!」
「「アオーンッ!」」
急いで影絵を結んで玉犬たちを顕現させる。
ちなみに現時点で使える式神は初期配布の彼らだけだ。
なお調伏の儀を行うつもりは無い。
なぜなら失敗すれば死ぬかもしれないからだ。
安全が担保されていない状況で命を懸ける気は無い。
それに良いアイデアを思い付いている。
「凄いね。もう式神を使いこなしてるんだ」
振り返ると黒いサングラスを掛けた白髪の男がいた。
……遂に現れたか。
どうやら呪詛師ではないらしい。
「貴方は誰ですか?」
「僕の名前は五条悟。君が伏黒恵くんで間違いないよね?」
「そうですが何か?」
俺が頷くと五条悟は今までの経緯を話す。
どうやら原作通り俺は禪院家に売られて、伏黒甚爾は殺されたようだ。
転生したことにより因果が狂い、歴史が変わったとかは無さそうで何よりである。
「それで君はどうしたい? 禪院家に行きたい?」
「津美紀……俺の義姉はどうなるんです? そこに行けば幸せになれますか?」
「ない、100%ない。それは断言できる」
それは本当です?
津美紀は一般人なので呪術的な価値は全く無い。
だったら俺が逆らわないように人質として囲い、生活費だけ出して普通に暮らさせた方が遥かに効率的だ。
とはいえ禪院家はドブカスなので諸々の理屈を無視して下女として扱いそうでもある。
「それなら禪院家に出荷される気はありません」
「オッケー、後は任せなさい」
五条さんはニヤリと笑い俺の頭に手を置いた。
初対面の子供相手にボディタッチとか距離感バグってるな。
イケメンじゃなかったら許されないぞ。
「でも恵くんには多少無理してもらうかも。頑張ってね」
「戦いなら大歓迎ですよ。人間との喧嘩にも飽き飽きしてましたし」
「……近頃の子供は血気盛んだね。これなら実戦でも期待できそうだ」
最強になるには最強に師事するのが一番の近道だろう。
それに本来の流れを歪めてしまえば未来を予測するのが難しくなる。
原作知識こそが最大の武器なのだから手放すのは下策だ。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
次の話もワクワクしながら待ってもらえたら嬉しいです!