伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る   作:鈍い

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百鬼夜行①

 任務を終えて呪術高専へ戻ってくると見慣れた顔が並んでいた。

 乙骨先輩、真希先輩、狗巻先輩、パンダ先輩。

 どうやら彼らも任務を終えて戻ってきたらしい。

 

「先輩方、お疲れ様です!」

 

「恵か。焼きそばパン買ってこい」

 

「既に用意してあります!」

 

 そう言って俺は影から人数分の焼きそばパンを取り出した。

 ちなみに影の中に外気は存在しないので入れた物の温度は変化しない。

 つまり常に出来立てホヤホヤで提供できる。

 

「無駄に準備が良くてキメェな」

 

「しゃけ」

 

「恐縮です!」

 

「褒めてねぇよ」

 

 焼きそばパンを配り終えると俺も1つ手に取って齧る。

 そんな感じで他愛もないやり取りをしていると少しだけ肩の力が抜ける。

 しかし乙骨先輩だけは何か引っ掛かるものがあるらしい。

 

「どーした、憂太」

 

「えーっと、なんか嫌な感じが……」

 

「気のせいだ」

 

「気のせいだな」

 

「おかか」

 

「えぇ、ちょっと皆ぁ」

 

 同級生たちから一斉に否定され、乙骨先輩が困ったような声を上げた。

 ……言われてみれば少しだけ妙な感じがするな。

 

「だって憂太の呪力感知、超ザルじゃん」

 

「まあ里香みたいなのが常に横にいりゃ鈍くもなるわな」

 

「ツナ」

 

「いえ、今回ばかりは乙骨先輩の勘は当たってますよ」

 

 俺は返事をしながら空を見上げた。

 雲の隙間からペリカンのような見た目の呪霊が降下してくる。

 その背に袈裟を纏った男が乗っていた。

 ……まさか奴と鉢合わせるとはな。

 

「なんだアレ?」

 

 どうやら乙骨先輩たちも異変に気づいたらしい。

 全員が空を見上げて降りてくる呪霊と男へ視線を向ける。

 

「何者だ。侵入者は憂太さんが許さんぞ」

 

「こんぶ!」

 

「憂太さんに殴られる前に、さっさと帰んな!」

 

「えぇ!?」

 

「乙骨先輩に逆らったら捻じりミンチにされるぞ!」

 

「伏黒くんまで……というか捻じりミンチって何?」

 

 そんなやり取りをしている間に袈裟の男が動く。

 次の瞬間には、俺たちとの距離が一気に縮まってた。

 

 ……なんちゅう速さだよ。

 目で追うのがやっとだったぞ。

 これが特級呪術師か。

 

「初めまして、乙骨くん。私は夏油傑」

 

「えっ、あっ、はじめまして」

 

「君は今の世界に疑問はないかい?」

 

 すると夏油は穏やかな口調で語り始めた。

 非術師は呪力を扱えない。

 それどころか彼らが無意識に生み出す呪いによって呪術師が命を懸けて戦うことになる。

 ならば非術師を皆殺しにすればいい。

 つまり呪術師だけの世界を作る。

 彼の思想を要約すればそういうものだった。

 

 そして最後に仲間にならないかと勧誘する。

 しかし乙骨先輩はそれを拒絶した。

 なぜなら真希先輩を侮辱されたからだ。

 

「君はどうだい……伏黒恵くん」

 

 夏油が俺へ向ける表情には見覚えがある。

 五条先生が俺と始めて出会った時の顔だ。

 おそらく実父である伏黒甚爾を思い出したのだろう。

 

「確かに一般社会の秩序を守る為に呪術師が暗躍する社会は不健全ですね」

 

「……へぇ」

 

「それに技術の発展と共に呪いの隠匿も難しくなっています。いつかは今の呪術秩序も破綻するでしょう」

 

 呪術師の存在を一般人から隠し続けるという現在の仕組みは永遠に続くものではない。

 インターネットや監視カメラ、科学技術の発達を考えると限界は近いはずだ。

 

 日本全国に呪霊が湧くことが判明した状態で今の呪術秩序が破綻すれば、日本という国そのものが滅びかねない。

 なので原作のように「呪霊が大量発生するのは東京だけ」と発表された後に秩序が破綻するべきだと思っている。

 要するに渋谷事変で五条先生は封印されて死滅回遊が開催されて欲しい。

 

「ですが能動的に何かを変えたいとは思ってませんね。大切な人さえ守れれば後のことは興味ありませんし」

 

 大切な人の中には津美紀が含まれているので夏油の計画には端から賛同できない。

 皆殺しではなく術師による非術師の支配なら納得できたんだけどなぁ。

 

「というか五条先生がいる時点で不可能じゃないですか。あの人は貴方を倒した俺の実父を倒した呪術師なんですよ」

 

「それは……実に残念だ」

 

 夏油は僅かに目を細めた。

 なんか含みのある言い方だな。

 

「お集まりの皆々様! 耳の穴かっぽじって良ーく聞いて頂こう!」

 

 先ほどまでの穏やかな雰囲気が一変する。

 夏油は舞台の上に立つ役者のように声を張り上げた。

 

「来たる12月24日。我々は日没と同時に百鬼夜行を行う! 場所は呪いの坩堝、東京新宿。呪術の聖地、京都。各地に千の呪いを放つ! 下す命令は塵殺だ! 地獄絵図を描きたくなければ死力を尽くして止めに来い! 思う存分、呪い合おうじゃないか!」

 

 こうして演説を終えた夏油たちはペリカンのような呪霊へ飛び乗り、その場を去っていった。

 直後、呪術高専では緊急対策会議が開かれる。

 そして対応方針の説明が終わると五条先生が俺に視線を向けた。

 

「というわけで恵は京都へ出向ね」

 

「一応、理由を聞いてもいいですか?」

 

 京都に向かうのは悪くない。

 向こうには向こうで果たすべき使命があるからな。

 とはいえ夏油やミゲルとも戦ってみたい。

 特にミゲルは気になる。

 

 五条先生を相手に時間を稼いだ実力は本物だ。

 今の俺がどこまで通用するのか確かめてみたい。

 

「呪術高専で反転術式をアウトプットできる術師は2人しかいないんだよね」

 

「家入さんと、円鹿を調伏した俺ですか」

 

 円鹿は反転術式で他者の治療を行える式神だ。

 これが数ある十種影法術の式神の1つに過ぎないのだから恐ろしい。

 禪院家が相伝の術式として扱うのも頷ける性能である。

 なお現在は五条家の庇護下にある模様。

 

「東京と京都、それぞれにヒーラーが1人ずついた方がいいでしょ?」

 

「確かに似たような駒がいても持て余すだけですからね。それで俺が選ばれた理由は何ですか?」

 

「家入も戦えなくはないけど恵ほどじゃない。京都へ向かう途中に襲われたら厄介だからね」

 

 おそらく夏油一派は決戦の日までは動かないだろう。

 しかし便乗する他組織の呪詛師が現れない保証はない。

 

「というわけで京都は任せたよ。後は秤たちのフォローも頼んだ。術式の関係で保守派と揉めると思うからさ」

 

「分かりました」

 

 こうして俺は百鬼夜行を前に京都へ向かうことになった。

 ……夏油の目的が乙骨先輩なことは黙っておくか。

 下手に伝えて原作の流れが変われば折本里香の解呪まで狂ってしまう。

 未来を知っているからと何でも口にすればいいというものでもない。




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