伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
血塗との同居生活が始まってから数日後。
俺は呪術高専の寮で五条先生と顔を合わせた。
「五条先生、おはようございます」
「ああ、おはよ……ッ!? その身体、どうしたんだ!?」
俺の姿を見ると先生の表情が一瞬で強張る。
次の瞬間には距離を取って術式を発動できるよう身構えていた。
明らかに警戒されているな。
「数日前に呪胎九相図を取り込みました」
「……徹夜したみたいな感覚で言わないでよ」
完全に引いている。
まあ普通はそういう反応になるよな。
原作知識がある俺としては成功する可能性が高いと踏んでいた。
でも冷静に考えれば特級呪物を自分の身体へ取り込むなんて正気の沙汰じゃない。
失敗すれば死ぬ可能性だって十分にあった。
「呪術規定に則れば俺たちは処刑対象ですね。どうします?」
「別に殺しはしないけど、なんで取り込んだ」
「五条先生を超えて最強になる為です」
「その心意気は買うけど命を懸ける必要はないでしょ。浴の時もそうだけど無茶しすぎだよ」
「以後、気を付けます」
五条先生が本気で心配してくれていることくらい分かっているし、わざわざ不安にさせたいわけでもない。
とはいえ大切な人を守る為なら多少のリスクは背負うべきだと思っている。
何もかも安全な道を選んだせいで誰かを失うことだけは避けたい。
「とりあえず今から上層部に掛け合ってくるね。恵を処刑しないようにさ。百鬼夜行で大活躍したから大丈夫だとは思うけど」
「ありがとうございます」
《ありがとなぁ》
俺に続いて血塗も感謝の言葉を告げる。
五条先生が庇ってくれるのなら後は何となるだろう。
少なくとも、いきなり処刑されるような最悪の展開は避けられた。
「ところで呪胎九相図を取り込んだんだね」
「それが何か?」
「禪院家の相伝術式を持って、加茂家が製作した呪胎九相図を取り込み、五条家の庇護下にある呪術師って属性過多すぎでしょ」
「確かにヤバいですね」
《そうなのかぁ?》
俺は純粋に強さを求めただけなのだが、気づけば御三家の要素を詰め込んだ煮凝りみたいな存在になってしまった。
「話は変わるけど1週間後は予定を空けといてね」
「何をやるんです?」
「秘密☆」
それだけ言い残すと五条先生は笑いながら去っていった。
あの様子を見る限り何かを企んでいるのだろう。
……たぶん碌でもないことだ。
そして1週間後。
「というわけで、伏黒恵くん入学おめでとー!」
「しゃけしゃけ!」
「中学の頃から高専にいたから、あんま実感ねぇけどな」
「おめでとさん」
ここは呪術高専にある教室の1つ。
壁には『入学おめでとう♡』と書かれた手作りの横断幕が飾られている。
連結された机の上には所狭しとスナック菓子が並んでいた。
そして五条先生の声と共に2年と3年の先輩たちが一斉にクラッカーを鳴らす。
今日は俺の入学記念パーティだ。
五条先生が企画したにしては普通すぎるイベントで困惑している。
「本当はもう1人、入学する予定なんだけどね。ちょっと事情があって手続きが遅れてるんだ。近いうちに改めて歓迎会をするつもりだから、その時はよろしく」
確か釘崎は祖母と揉めたせいで入学の話が難航しているんだったか。
可愛い孫娘を呪術高専へ送り出すことに反対する気持ちは分からなくもない。
そもそも呪術師の一族は基本的に子女を高専へ入学させたがらない。
術式が血筋によって継承される以上、その術式に合った戦い方を最も理解しているのは、実際に術式を相伝してきた一族だからだ。
つまり外部の教育機関へ送り出さなくても身内だけで十分な教育を施せるわけだ。
しかも呪術師は慢性的な人手不足。
貴重な術師を放流するくらいなら地元で働かせた方が有意義だろう。
特に地方の術師からすれば都会にある呪術高専へ送り出すメリットは薄い。
なぜなら都会には地方とは比較にならないほど多くの人間が集まっている。
それだけ人々の負の感情も複雑になり、そこから生まれる呪いも狡猾で危険になる。
「恵、もう1人は女子だよ。もしかしたら恋に発展しちゃうかもね」
「かもしれませんね」
「めんどくさがんないでよ」
俺は津美紀一筋だから他の女などに浮つくつもりはない。
それに釘崎と恋人になったら死ぬほど大変そう。
「ところで伏黒くん、ちょっと顔が青白くない? 無理しちゃダメだよ」
すると乙骨先輩が心配そうに声を掛けてきた。
血塗を取り込んだ影響で俺の肌は少しだけ青白くなっている。
とはいえ常人の範疇には収まっているので許容範囲内だろう。
「ちょっとイメチェンしてイエベからブルベになっただけなんで大丈夫です」
《大丈夫だぞぉ》
「……今のなに?」
「腹話術です」
《腹話術だぞぉ》
「そ、そうなんだ」
そう言って乙骨先輩は血塗の発言に困惑しながらも納得してくれた。
別に隠す必要はないんだけど反応が面白くて少しネタに走ってしまった。
「お前も食べるか?」
《わぁい》
俺は机の上にあったポテトチップスを摘まんで掌に生えた血塗の口へ差し出す。
呪物が生やした口に物を入れた場合、どこへ消えるんだろうな。
というか飲んだり食べたり出来るのか?
《うめっ、うめっ、うめっ!》
「おかわりもいいぞ」
「明らかにおかしいよね!」
「腹話術です」
《腹話術だぞぉ》
乙骨先輩が訝しげに俺の掌を見つめる。
……流石に色々と無理があるか。
「盛り上がっているところで注目! これが僕からの入学祝いのプレゼントでーす!」
五条先生が手を叩きながら声を張る。
プレゼントまであるなんて豪華だな。
「1つ目はこれ! 僕とお揃いのサングラス!」
そう言って手渡されたのは、オフの時に五条先生が掛けている丸型のサングラスだった。
呪霊の中には見られていると感じるだけで襲ってくる奴もいる。
なので目を覆う物を身に着ける呪術師は意外と多い。
せっかくのプレゼントだし試してみるか。
というわけで俺はサングラスを掛けた。
「似合ってないな。胡散臭い中国のマフィアみたいだ」
「めんたいこ!」
パンダ先輩が容赦なく言葉のナイフを突き刺し、狗巻先輩はスマホを取り出して何枚も写真を撮り始める。
……そこまで酷いか?
鏡がないので自分では確認できないが、周囲の反応を見る限り似合っていないらしい。
「やっぱり僕くらいのイケメンじゃないと似合わないよね」
「自分で言ってて恥ずかしくないんですか?」
「えー、だって事実だし」
コイツこれで28歳なんだよな。
「というか完全にレンズが真っ黒じゃないですか。何も見えませんよ」
「いつか役立つと思ってね」
「先生以外に需要はありませんって」
俺はサングラスを外して机の上へ置いた。
案の定、碌でもないプレゼントだったな。
後でインテリアとして飾っておこう。
「そして2つ目。こっちは真面目なやつね」
五条先生が取り出したのは鍔に白いファーが付いた片刃の剣だった。
なんというか犬夜叉の鉄砕牙みたいだ。
……いや、待てよ。
この呪具は!?
「これは釈魂刀だよ」
やはりそうか。
「恵の父親が所有してた呪具でね。特定の条件を満たした時に本来の効果を発揮するんだ。まあ普通の術師が使ったところで頑丈な刀くらいのものだけど」
「……ありがとうございます!」
「気に入ってくれたようだね」
「ええ、最高の入学祝いですよ」
釈魂刀。
あらゆる存在の硬度を無視し魂を切り裂く呪具だ。
ただし効果を十二分に発揮するには無生物の魂すら観測する眼が必要になる。
それを持っていたのが天与の暴君、伏黒甚爾だった。
残念ながら俺は無生物の魂を観測できない。
しかし呪胎九相図を取り込み受肉体となったことで事情は少し変わった。
虎杖と同じように魂の輪郭を無意識に知覚できるようになっている。
効果を十二分に発揮するのは無理でも半分程度なら使えるかもしれない。
それを見越して五条先生が用意したのだろう。
実父が使っていた呪具を入学祝いに選ぶとは食えない人だ。
手の中に収まった刀を見つめる。
親が振るった武器を今度は子供が握るとは妙な巡り合わせだ。
まあ使えるものは何でも使わせてもらおう。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
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