伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
「アオーンッ!」
「ジュアアッ!」
2体の式神たちが雄叫びを上げる。
顎吐は大蛇、虎葬、円鹿の能力を継承した鵺だ。
尻尾には大蛇の猛毒とピット器官。
肉体は虎葬の強靭なフィジカル。
円鹿の反転術式による再生能力。
更に鵺本来の電撃まで併せ持つ。
まさしく魔虚羅に次ぐ強さを持つ式神だろう。
今まで顕現できなかったのは単純に呪力の消費が重すぎたからだ。
だが呪胎九相図を取り込んだことで俺の呪力量は大幅に増加している。
そのおかげで、こうして顎吐を顕現させることが可能になった。
「貴様、式神使いだったのか」
「むしろ式神使いが本業ですよ。さっきの分裂は式神を顕現させずに能力を引き出しただけです」
「……中々に器用だな。それに良い術式でもある」
「呪いの王に褒められるなんて光栄ですね」
「クックックッ」
宿儺が愉快そうに笑う。
もしかして褒められ返されたのが嬉しかったのだろうか?
だとしたら割と可愛いな。
「血塗、呪詞を詠唱するぞ!」
《あいあいさー!》
"
俺たちが呪詞を重ねることで式神へと流れ込む呪力が増していく。
1人で詠唱した場合、出力は通常の120%。
対する俺たちは2人だ。
120%の効果が重なることで出力は144%にまで膨れ上がる。
「受肉体と協力するとは面白い。褒美として本物の呪術というものを教えてやろう」
宿儺が閻魔天の印を結ぶ。
次の瞬間、空間が歪み宿儺の背後に様々な獣の頭蓋骨を象った御堂が姿を現した。
これこそが生得術式の最終段階にして呪術戦における極致。
領域内では術式による攻撃が必中となる。
呪いの王たる宿儺が使うのは結界によって空間を分断せず生得領域を具現化する神業。
閉じない領域だ。
通常の領域は結界によって空間を閉じる必要がある。
だが宿儺の領域は敢えて結界を閉じない。
逃げ道を残すという縛りによって効果範囲を大きく広げている。
これにより領域同士の押し合いになった場合、相手の領域を外側から攻撃できる。
そして領域は外からの攻撃に弱い。
つまり通常の領域を相手にするなら押し合いにおいて圧倒的な優位性を誇る。
「上等だ!」
俺は落花の情を発動して必中の斬撃を呪力で弾き飛ばした。
現在の宿儺は指2本分だからか領域の出力はそこまで高くない。
分裂しない縛りで呪力が底上げされた今なら余裕を持って耐えられる。
「触れたものを自動で弾く呪力操作のプログラムか。……それほどの強さを持ちながら領域展開を使えんとは失望したぞ」
「将来的に使えるようになるから期待しとけ!」
「その前に貴様は死ぬがな」
俺は本来の伏黒よりも圧倒的に強いが領域展開だけは使えない。
呪力操作や式神の扱いには自信がある。
しかし結界術の技量が足りていないのだ。
一応、彌虚葛籠や簡易領域は使えるんだけどな。
やはり原作のように窮地に追い込まれないと身に付かないのだろうか。
「異形の式神は反転術式、犬の式神は貴様と同じように防ぐか」
玉犬は最古参の式神だ。
長い付き合いによって蓄積された経験値も相応に多い。
しかも十種影法術は禪院家に伝わる相伝術式。
実質、御三家なので落花の情が使える。
それに芸を仕込むものだからな。
呪力操作を教えるのは思ったよりも簡単だった。
技の玉犬、力の顎吐である。
「総攻撃だ!」
「わんわんおっ!」
「ジュアッ!」
2体の式神が同時に飛び掛かる。
玉犬・渾が正面から鋭い爪を振るい顎吐が横合いから雷を纏った拳を放つ。
宿儺は身を捻って顎吐の拳を躱して玉犬の爪を腕で受け止めた。
「チッ!」
宿儺の拳が玉犬を殴り飛ばす。
しかし、その隙に顎吐が距離を詰めた。
尻尾が唸り宿儺の腕へ毒牙が迫る。
「小賢しいっ!」
宿儺が斬撃を放つことで顎吐の身体が切り裂かれる。
しかし円鹿の再生能力によって傷口は瞬く間に塞がった。
アイツを倒すには点や線ではなく面で消し飛ばす必要がある。
「ジュアアッ!」
雷を纏った拳が炸裂し宿儺が後退した。
そこへ玉犬が飛び込み鋭い爪を振り下ろす。
当たり前だが俺も遠くから見ているだけではない。
影の中から釈魂刀を取り出して斬り掛かる。
それに対して宿儺は回避せず防御を選択した。
俺と玉犬は必中の斬撃を防ぐ為に落花の情を維持している。
その影響で呪力出力は確実に低下していた。
ならば式神たちよりも非力な俺の攻撃程度なら受け切れる。
そう判断したのだろう。
「残念でしたね」
釈魂刀が宿儺の腕へ触れた。
この呪具は硬度を無視して魂を斬る。
天与の暴君と違って完全に能力を引き出せてはいない。
それでも十分すぎる切れ味だ。
「なにッ!?」
宿儺の腕が宙を舞う。
虎杖には反転術式を習得してもらいたいからな。
積極的に相手を欠損させるつもりだ。
「畳み掛けろッ!」
その言葉と同時に玉犬の爪と顎吐の拳が炸裂する。
流石の宿儺でも大ダメージは避けられないだろう。
「卑怯ですが呪具を使わせてもらいました。なにせ縛りで言及されてませんからね」
「良い、良いぞ。魅せてみろ!」
腕を斬られたというのに怒っている様子は微塵も無い。
むしろ今まで以上に楽しそうだ。
おそらく俺が宿儺の器になれることを察したのだろう。
とりあえず目的は達成した。
これで渋谷事変でのターゲットは俺に移るだろう。
「もっと遊ぼうぜ!」
「いいだろう!」
その後、10分に渡って激闘を繰り広げる。
終始こちらが優勢だったが宿儺は最後まで倒れることはなかった。
勝てはしないが、負けもしない。
流石は呪いの王といったところか。
これで指2本分だというのだから恐ろしい。
おかげで虎杖も原作以上に強くなったはずだ。
もちろん俺も戦いを通じて更に強くなっている。
「いやぁ、中々に見応えのある勝負だったね」
五条先生が楽しそうに言う。
現在は勝負も終わり休憩タイムだ。
……なのだが。
先輩たちと釘崎は全員無言でフリーズしている。
まあ気持ちは分からなくもない。
「はい、あーん」
俺は虎杖の頬へポテチを差し出す。
すると宿儺が口を生やして食べ始めた。
「これがジャガイモの菓子とやらか。油っこく塩気も多いが……悪くないな」
「次はコーラとかどうです? 甘くてシュワシュワしてる新感覚の飲み物ですよ」
「面白い。俺を楽しませてみろ!」
《恵ぃ、宿儺だけズルいぞぉ!》
「血塗は後でな」
「呪いの王と仲良くなってやがる……」
「おかか……」
パンダ先輩と狗巻先輩が更にドン引きする。
これじゃあ虎杖が宿儺を対話可能な存在だと勘違いしてしまいそうだな。
まあ時間が経てば奴の本性に気づくだろうさ。
「どうせ死刑になるなら美味い物を沢山食べさせた方が良いかなって」
「気に入った。殺すのは最後にしてやろう」
「あれは嘘だ、とか言わないでくださいね」
宿儺は俺の身体を乗っ取ろうとしている。
だから今の言葉も割と本気なのだろう。
「後は歴史とか知りたくありませんか?」
「歴史……だと?」
「受肉してから世界がどうなったのか知りたいでしょう? どうせ虎杖の平安時代以降の歴史知識なんて鎌倉幕府、元寇、室町幕府、応仁の乱、信長秀吉家康、明治維新、太平洋戦争くらいだろうし」
「ゲンコー? オウニンノラン?」
「マジかオマエ」
思わず虎杖の顔を見る。
そこまで知らないのか。
これは偏見だけど教科書に載ってる偉人の写真に落書きしてたタイプだな。
「いいだろう。教えることを許す」
「とりあえず源氏と平氏から説明しますね」
こうして俺は呪いの王に日本史や世界史について教える。
そんなこんなで2度目の入学記念パーティは楽しく終わった。
※新たに課した縛り
・呪詞
詠唱を続けることで式神の性能を強化する。
主人公の場合は血塗が代わりに詠唱してくれる。
もちろん2重で詠唱することもできる。
※呪詞の意味について
・
十種影法術の元ネタである十種神宝から。
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十種神宝を授かった饒速日命から。
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饒速日命が天津神なことから。