伏黒恵に転生したから魔虚羅をブン殴る 作:鈍い
「今から恵くんには面接を受けてもらうよ」
「呪術師になる為のですか?」
「生半可な覚悟で呪いと戦わせるわけにはいかないからね」
運命的な出会いから数日後。
俺は五条さんに連れられて呪術高専までやって来た。
それにしても面接か。
まだ小学生なのに随分と難しいことをさせるな。
……いや、小学生だからこそ厳しくしているのか。
「不合格になったらどうなるんです?」
「やる前から失敗する時の心配をするようじゃ大成できないよ」
「それはそうなんですが」
不合格になれば当分の間は呪術師として活動できなくなるはずだ。
幼い頃から実戦経験を積めば、その分だけ成長する機会も増える。
ここで足止めを食らうわけにはいかない。
何が何でも面接を突破しなければ。
そんなことを考えていると五条さんが扉の前で立ち止まった。
「五条でーす。伏黒恵くんを連れてきました!」
そう言って五条さんは返事を待つことなく扉を開ける。
中に入ると最初に目に入ったのは大量の人形だった。
部屋のあちこちに、熊やら犬やら猫やら、よく分からない生き物やらが並んでいる。
そして中心にいるのは黒いグラサンを掛けた強面のオッサン。
呪術高専の学長、夜蛾正道だ。
「遅いぞ、悟。6分遅刻だ」
「どーせ人形作ってんだからいいでしょ」
「だからといって遅刻していい理由にはならん。……で、その子が?」
「伏黒恵です。よろしくお願いします」
夜蛾学長から視線を向けられたので軽く頭を下げる。
五条さんもそうだが本物の呪術師は纏う雰囲気が違うな。
今の段階で戦えば余裕で瞬殺されるだろう。
「何しに来た?」
「強くなるためです!」
「その先に何を求める?」
「この世界は理不尽に溢れています。だから誰にも負けない実力が欲しい。ぶっちゃけ人助けとかは微塵も考えていません」
俺が転生したことで運命の歯車は大きく狂ったはずだ。
この先、原作よりも悲惨な結末を迎える可能性だって十分あり得る。
だから最低でも天井組に匹敵する程の強さが欲しい。
仮に宿儺が完全復活したとしても、五条さんが消耗させた後に戦えば倒せるはずだからな。
「呪術師に悔いのない死はない。強さを求めた末に死んだとして納得できるか?」
「出来ませんね。誰だって死にたくありませんし」
「……正直だな。だが他人を理由にしない点は気に入った。後は君の言うことが本音かどうかを確かめるだけだ」
すると夜蛾学長の隣にいるゴリラの人形……ではなく呪骸が動き始めた。
つまり戦って口先だけではないと証明しろと。
今のままでは子供の妄言に過ぎないから当然だな。
大事なのは何を言うかよりも誰が言ったかだ。
「玉犬!」
「「アオーン!」」
影絵を結んで玉犬たちを召喚する。
相手は1体だけ。
対する此方は1人と2匹。
数の暴力でボコボコにすれば余裕だ。
「俺に続け!」
「「ワフッ!」」
俺は玉犬たちと連携して戦った経験が無い。
なぜなら非術師相手の喧嘩だと過剰火力だからだ。
大怪我させれば少年院行きになってしまう。
というわけで俺が先陣を切る。
玉犬たちは隙を見て攻撃だ。
「オラァッ!」
相手は中身が綿の人形なので打撃の類は通用しない。
だから足払いを掛けて相手の体勢を崩す。
その隙に玉犬の牙で切り裂いてもらう。
「今だッ!」
「させるとでも?」
「「キャインッ!」」
「へ?」
突如として夜蛾学長が前に出てきた。
次の瞬間、その巨体から繰り出された蹴りが玉犬たちを吹き飛ばす。
……そりゃあ簡単には合格を出さないよな。
「呪骸だけが相手だと誰が言った?」
「マジっすか」
慌てて玉犬たちへ視線を向ける。
2匹とも倒れてはいるが破壊されたわけではない。
流石に手加減はしてくれたようだ。
「よそ見してる暇はないぞ?」
そう言われた直後、夜蛾学長の隣にいたゴリラの人形が襲い掛かってきた。
回避する時間はないので受けるしかない。
なので咄嗟に呪力を全身に巡らせて両腕を交差する。
「ぐっ!」
拳が叩き込まれたが純粋に重いだけじゃない。
攻撃を受け止めた両腕から細かな振動が身体の奥まで伝わってくる。
確かに呪力で防御したはずなのに、それでも衝撃を殺し切れない。
「……今のは!」
夜蛾学長が作ったゴリラの呪骸。
そして振動を利用した防御不可の攻撃。
これはパンダの
製作者なんだから同じ技を別の呪骸に組み込めても不思議じゃない。
「降参するか?」
「しませんよッ!」
こうなったら切り札を使うしかないな。
影に手を入れると指先に硬い感触が触れたので、そのまま引き抜いた。
手に握られているのは1本のサバイバルナイフ。
これは呪具ですらない単なる刃物だ。
十種影法術は影を媒介とする術式。
式神を呼び出すだけではなく、自身の影に物体を収納して持ち運んだり、他者の影に侵入したりすることも出来る。
ちなみにコイツは高校生の不良から鹵獲したものだ。
流石に小学生が普通に買える代物じゃない。
喧嘩の際に相手が持っていたので慰謝料として頂いた。
「ナイフ禁止なんて言われてないでしょう?」
「確かに言った覚えはないな」
夜蛾学長がニヤリと笑う。
許可が出たなら遠慮する必要は無い。
呪骸に打撃が効かないなら斬撃だ。
「しかし武器が増えただけでは勝てないぞ」
「分かってますよ!」
その言葉を合図にゴリラの呪骸が動いた。
こちらへ向かってくると思った瞬間、その拳が俺たちのいる地面へ振り下ろされる。
「なっ!?」
拳が地面に炸裂すると足元が大きく揺れる。
つまり
とはいえ足腰を呪力で強化すれば問題は無い。
「これはどうする?」
夜蛾学長が踏み込んできた。
このままでは避けきれない。
「戻れッ!」
俺は敢えて玉犬たちを影へ戻した。
続けて肩を捻り夜蛾学長の拳を躱す。
そのまま呪骸との距離を詰めて懐へ潜り込む。
最後にナイフに呪力を籠めて振り抜く。
これにより呪骸の腕が宙を舞った。
「敢えて式神を顕現させないという縛りで身体能力を強化しました」
「……ほう」
説明しながらナイフを構え直す。
これは以前から考えていた縛りだ。
もちろん永遠に式神を顕現できないわけじゃない。
必要になれば縛りを破って再び顕現させる。
他者との契約によって成立する縛りとは違う。
自分自身に課す縛りは破っても得た利益を失うだけだ。
それなら活用しない理由はない。
「……合格だ」
「ありがとうございます!」
なんとか面接を突破できたな。
これで呪術師として戦えるようになった。
「しかし君はまだ小学生だ。悟の監督下でのみ任務を認める」
「五条さん……いえ、五条先生。よろしくお願いします!」
改めて俺は五条先生に頭を下げる。
俺と津美紀の生活費まで援助してくれるんだからマジで恩人だ。
「このGTGに任せてよ」
「GTGって何ですか?」
「グレート・ティーチャー・ゴジョ―の略だよ。GTOってドラマ観てない?」
「そもそも存在すら知りません」
「フッ、おこちゃまには少し早いドラマだったかな」
「悟、放映当時*1に生まれていない子供にマウントを取るのは大人気ないぞ」
「そう……ですね」
夜蛾学長の苦言を受けて五条先生は悲しい顔をして引き下がった。
どうやらジェネレーションギャップは無下限呪術でも防げないらしい。
※新たに課した縛り
・不顕現
式神を顕現しない代わりに自らの身体能力を強化する。
調伏した式神が多ければ多いほど効果が強くなる。